Xp11.3 deletion syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • Xp11.3微小欠失症候群(Xp11.3 microdeletion syndrome)
  • MAOA/MAOB欠失症候群
  • ブルンナー症候群(Brunner syndrome)の重症型・隣接遺伝子欠失型
  • ノーリー病(Norrie disease)を伴う知的障害症候群
  • NDP/MAO隣接遺伝子欠失症候群

対象染色体領域

X染色体 短腕(p)11.3領域の微小欠失

Xp11.3欠失症候群は、X染色体の短腕にある「11.3」というバンド領域が、何らかの原因で失われる(微小欠失)ことで発症します。この領域には、神経伝達物質の分解や網膜・血管の形成に関わる極めて重要な遺伝子が隣接しており、それらが一度に失われる「隣接遺伝子欠失症候群」としての性質を持ちます。

【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】

欠失の範囲には個人差がありますが、主に以下の遺伝子が症状の核心を担っています。

  • MAOAおよびMAOB遺伝子 (Monoamine Oxidase A & B):
    • 役割:脳内でドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質を分解する酵素を作ります。
    • 影響:これらが欠損すると、脳内の神経伝達物質が過剰に蓄積し、衝動性、攻撃的行動、睡眠障害、知的障害の主因となります(特にMAOAの欠損は「ブルンナー症候群」として知られます)。
  • NDP遺伝子 (Norrin Cystine Knot Growth Factor NDP):
    • 役割:網膜の血管形成や内耳の機能を維持するタンパク質「ノリン」をコードします。
    • 影響:この遺伝子の欠損はノーリー病を引き起こし、生まれつきの視覚障害(網膜の剥離や変性)や、将来的な聴覚障害の原因となります。
  • EFHC2遺伝子:
    • 役割:脳の発達過程における繊毛機能やカルシウムシグナルに関与。
    • 影響:社会性の欠如や、一部の認知機能障害に関連する可能性が指摘されています。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

  • 正確な頻度: 全世界でも報告例は非常に限られており、正確な出生頻度は算出されていません。数百万人に1人、あるいはそれ以下の頻度と推測される希少疾患です。
  • 性差の影響: X連鎖(X-linked)の遺伝形式をとるため、男性では1本しかないX染色体の11.3領域が欠損することで重篤な症状が現れます。女性はもう1本の正常なX染色体があるため、通常は無症状の保因者となりますが、X染色体の不活性化が偏った場合、軽度から中等度の知的障害を呈することがあります。

臨床的特徴(症状)

Xp11.3欠失症候群は、感覚器(目・耳)と精神・行動面の両方に顕著な特徴が現れます。

1. 視覚障害(ノーリー病の特徴)

  • 先天的な視力喪失: 多くの男性患者では、出生時または乳児期から網膜の剥離、増殖、変性が見られ、失明あるいは重度の視覚障害を呈します。
  • 白内障・眼球癆: 進行すると水晶体が濁ったり、眼球自体が小さく萎縮したりすることがあります。

2. 神経発達と知能

  • 知的障害(ID): 軽度から重度まで幅がありますが、中等度以上の知的障害を伴うことが一般的です。
  • 言語発達の遅れ: 視覚障害の影響も重なり、言葉の獲得や概念の理解に大幅な遅れが生じます。
  • 筋緊張の異常: 乳児期に筋緊張低下(低緊張)が見られることがあります。

3. 行動・精神的特徴(MAO欠損の影響)

MAO遺伝子群の欠失により、特異的な行動パターンが見られます。

  • 攻撃的・衝動的行動: 突然の怒り、物を壊す、自分や他人を傷つけるといった行動が、思春期以降に顕著になることがあります。
  • 睡眠障害: 昼夜逆転や短時間の睡眠など、睡眠リズムが著しく乱れることが報告されています。
  • 自閉スペクトラム症(ASD)的特性: 強いこだわりや、社会的な相互反応の困難さ。

4. その他の身体的特徴

  • 聴覚障害: 10代から成人期にかけて、進行性の感音難聴が現れることがあります。
  • 顔貌的特徴: 劇的な奇形は少ないですが、眼球陥凹(目が奥まっているように見える)、低い鼻根部、耳の位置の異常などが見られることがあります。
  • 微小頭症: 脳の容積がわずかに小さくなることがあります。

原因

Xp11.3領域の微小欠失(X連鎖遺伝形式)

本症候群は、X染色体上の重要な遺伝子群が物理的に失われることによって引き起こされます。

  1. 新生突然変異(De novo deletion):
    多くの場合、両親の染色体構成は正常であり、精子・卵子の形成過程、あるいは受精卵の初期段階で偶然に微小な欠失が生じます。
  2. 母親からの継承:
    無症状の母親(保因者)から、欠損したX染色体が息子へ受け継がれるケース。この場合、家系内に視覚障害や知的障害の男性がいることがあります。
  3. 神経伝達物質の代謝不全:
    MAOA/Bが欠損することで、脳内の「モノアミン(セロトニン等)」の分解が止まり、情緒や行動のコントロールが生物学的に困難になります。

診断方法

外見や症状(視覚障害+発達遅滞)から疑い、最新のゲノム解析によって確定します。

  1. マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    確定診断のゴールドスタンダードです。11.3領域の数万〜数百万塩基にわたる微小な欠失を確実に検出し、どの遺伝子が失われているかを特定します。
  2. 次世代シーケンサー(NGS):
    特に単一遺伝子(NDP遺伝子のみ等)の変異か、複数の遺伝子を巻き込む「欠失(隣接遺伝子欠失症候群)」かを判別するために、エクソーム解析が行われることがあります。
  3. 眼科的評価:
    眼底検査や画像診断(OCTなど)により、網膜の状態を確認します。
  4. 血液・生化学的検査:
    MAO活性の低下を確認するため、血小板内のMAO活性測定や、尿中の代謝産物(バニルマンデル酸など)の異常をチェックすることがあります。

治療方法

現代の医学において、失われた遺伝子を修復する根本的な治療法はありません。治療は、QOL(生活の質)を維持するための**「多職種連携による対症療法」**が中心となります。

1. 視覚・聴覚サポート

  • 早期の眼科的介入: 網膜剥離に対するレーザー治療や手術が行われますが、視力の維持が困難な場合、早期からの点字教育や視覚支援、盲学校での療育を開始します。
  • 聴力のモニタリング: 定期的な聴力検査を行い、必要に応じて補聴器や人工内耳を検討します。

2. 精神・行動面の管理(MAO欠損への対応)

  • 薬物療法: 衝動性や攻撃性、睡眠障害に対し、セロトニン受容体に作用する薬剤や、気分の安定を図る薬剤を専門医(精神科・神経科)の指導のもとで使用します。
  • 低チラミン食: MAO活性が低いため、特定の食品(チーズ、ワイン、チョコレートなど)に含まれる「チラミン」が分解できず、血圧上昇や頭痛を招くリスクがあるため、食事指導が必要な場合があります。

3. 発達支援・療育

  • 早期介入: 言語療法(ST)、作業療法(OT)、理学療法(PT)を通じて、身体機能とコミュニケーション能力を維持します。
  • 環境調整: 視覚障害があるため、音や触覚をフルに活用した学習環境を整えます。

予後

  • 生存期間: 重篤な内臓奇形は稀であるため、寿命そのものは一般の方と大きく変わらないと考えられています。
  • 自立度: 視覚障害と知的・行動的な課題を併せ持つため、生涯にわたる手厚い社会的サポートと介護が必要となることが一般的です。
  • 社会参加: 視覚障害者支援施設や、行動障害に対応した福祉サービスを通じて、穏やかな社会参加を目指します。

まとめ

Xp11.3 deletion syndrome(Xp11.3欠失症候群)は、女性の性染色体であるX染色体の一部が、ほんの少しだけ足りない(微小欠失)ことで起こる、非常に希少な病気です。

主な特徴として、生まれつき目が見えにくい、あるいは見えないこと(ノーリー病)、言葉や知能の発達がゆっくりであること、そして感情のコントロールが難しく、急に怒ったりパニックになったりしやすいといった点が挙げられます。これは、脳の神経伝達物質を掃除する機能や、目の網膜を作るための「設計図(遺伝子)」が一部失われてしまっているために起こります。

根本的な治療法はありませんが、早期から視覚のサポートや、感情を安定させるためのケア(お薬や接し方の工夫)を始めることで、お子様が安心して過ごせる環境を作ることができます。専門医や療育チーム、視覚支援の専門家と共に、お子様の素晴らしい感性を大切に育てていきましょう。

参考文献元

  • Brunner, H. G., et al. (1993). Abnormal behavior associated with a point mutation in the structural gene for monoamine oxidase A. Science.
    • (MAOAの欠損が特異的な行動障害を引き起こすことを解明したブルンナー症候群の基礎文献。)
  • Schuback, D. E., et al. (1996). Deletions of the monoamine oxidase genes in patients with Norrie disease. American Journal of Human Genetics.
    • (ノーリー病の患者においてMAO遺伝子群も同時に欠失している症例を報告した重要論文。)
  • Berger, W., et al. (1992). Isolated retinitis pigmentosa caused by mutations in the gene for Norrie disease.
    • (NDP遺伝子の役割と、その欠損が視覚障害を招くメカニズムについての研究。)
  • GeneReviews® [Internet]: Norrie Disease. (NCBI).
    • (NDP遺伝子関連疾患の診断、管理指針に関する世界的標準データベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Xp11.3 microdeletions: A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、家族向けの実践的かつ温かいガイド資料。)
  • Herrera, G. S., et al. (2015). Clinical and molecular characterization of a microdeletion at Xp11.3.
    • (Xp11.3の微小欠失例における詳細な臨床像の記述。)

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