別名・関連疾患名
- Xq22.2微小欠失症候群(Xq22.2 microdeletion syndrome)
- PLP1関連欠失症候群
- ペリツェウス・メルツバッハ病(Pelizaeus-Merzbacher Disease; PMD)欠失型
- Xq22隣接遺伝子欠失症候群
対象染色体領域
X染色体 長腕(q)22.2領域の微小欠失
Xq22.2欠失症候群は、X染色体の長腕にある「22.2」というバンド領域において、特定のDNA配列が失われる(微小欠失)ことで発症します。この領域には、神経系の正常な機能維持に不可欠な「PLP1」遺伝子が含まれており、その周辺領域の欠失範囲に応じて症状が複雑化します。
【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】
この領域で最も重要な「責任遺伝子」は以下の通りです。
- PLP1遺伝子 (Proteolipid Protein 1):
- 役割:中枢神経系(脳や脊髄)において、神経細胞の突起を包む「髄鞘(ミエリン)」の主要な構成タンパク質を作ります。
- 影響:欠失によりミエリンが十分に形成されない「低髄鞘化」が起こり、神経伝達が著しく阻害されます。
- RAB40AL遺伝子:
- 役割:細胞内のタンパク質輸送に関与すると考えられています。
- 影響:PLP1と共に欠失することで、発達遅滞や特定の形態異常に寄与する可能性が示唆されています。
- PHF6遺伝子(隣接領域):
- 欠失がXq22.2からXq26方面へ広がる場合、ボレソン・フォルスマン・レーマン症候群(BFLS)の責任遺伝子であるPHF6が含まれることがあり、知的障害や特徴的な顔貌がより顕著になります。
発生頻度
男性において 約200,000人 〜 500,000人に1人
- 正確な頻度: 極めて稀な疾患であり、正確な統計を出すことは困難ですが、ペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)全体の約2%未満がこの「欠失型」であるとされています。
- 性差の影響: X連鎖(X-linked)の遺伝形式をとるため、男性(XY)では1本しかないX染色体のXq22.2領域が欠失することで重篤な神経症状が現れます。女性(XX)は通常、無症状の保因者となりますが、X染色体の不活性化の偏りにより、成人期以降に軽度の歩行障害(痙性麻痺)を呈することがあります。
臨床的特徴(症状)
Xq22.2欠失症候群は、主に神経系の発達不全(白質変性症)に関連する症状を呈します。単なる遺伝子重複型PMDよりも、欠失型は特有の臨床像を持つことが知られています。
1. 神経学的症状(ミエリン形成不全)
- 眼振(がんしん): 乳児期早期(生後数ヶ月以内)から、目が細かく揺れる「眼振」が現れます。これは本症候群の初期の重要なサインです。
- 筋緊張低下から痙性へ: 乳児期には体が柔らかい(低緊張)状態ですが、成長とともに手足が突っ張り、筋肉が硬くなる「痙性(けいせい)」に転じます。
- 不随意運動(アテトーゼ): 自分の意志とは無関係に体が動いてしまう動作が見られることがあります。
- 運動発達遅滞: 首すわりやお座りが大幅に遅れ、自力歩行が困難なケースも多く見られます。
2. 知能および発達面
- 知的障害: 軽度から重度まで幅がありますが、言語の理解に比べて「話すこと(表出)」が困難になる傾向があります。
- 全般的な発達遅滞: 認知機能の発達がゆっくりであり、特別な支援を必要とします。
3. 特徴的な顔貌(欠失範囲が広い場合)
PLP1周辺の遺伝子を巻き込む「隣接遺伝子欠失」の場合、以下のような顔貌的特徴が報告されています。
- 高い額(前頭部の突出)
- 眼間開離(両目の間隔が広い)
- 耳の位置が低い(低位付着耳)
- 小さな顎(小顎症)
4. その他の身体的特徴
- 成長障害: 身長・体重の伸びが緩やかで、小柄な体格を呈することがあります。
- 喉鳴(こうめい): 喉の筋肉のコントロール不足により、呼吸時に「ゼーゼー」という音がすることがあります(喉頭軟弱症に似た症状)。
原因
Xq22.2領域の微小欠失(X連鎖隣接遺伝子欠失症候群)
本症候群は、X染色体上のPLP1遺伝子を含む領域が物理的に失われることで発症します。
- 新生突然変異(De novo deletion): 約70%
両親の染色体は正常であり、精子や卵子の形成過程で偶然に微小欠失が生じます。 - 母親からの継承: 約30%
無症状、あるいは軽症の母親(保因者)から受け継がれるケースです。この場合、家族歴として男性側に同様の症状(あるいは歩行の不自由な成人女性)が見られることがあります。 - ミエリン形成の停止:
PLP1タンパク質が完全に欠乏すると、神経細胞を保護するミエリン(絶縁体)が作られず、脳内の信号が漏れ出したり遅延したりすることで、全ての神経症状が引き起こされます。
診断方法
臨床的な神経症状(眼振、発達遅滞)から疑われ、確定にはゲノム解析が必要です。
- 頭部MRI検査:
極めて重要な検査です。 「低髄鞘化(Hypomyelination)」と呼ばれる、脳の白質(ミエリンがある部分)が成熟していない独特の画像所見を確認します。 - マイクロアレイ染色体検査(CMA):
確定診断のゴールドスタンダードです。Xq22.2領域のどの範囲が、PLP1以外にどの遺伝子を巻き込んで欠失しているかを精密に特定します。 - FISH法:
PLP1遺伝子領域を光らせるプローブを用いて、1本分が欠損していることを視覚的に確認します。 - 遺伝子シーケンシング:
欠失ではなくPLP1遺伝子内の「点変異」がないかを調べ、他のPMDサブタイプと鑑別します。
治療方法
現代の医学において、失われたミエリンを再生させる根本的な治療法は確立されていません。治療は、QOL(生活の質)を維持するための**「多職種連携による対症療法」**が中心となります。
1. リハビリテーション(早期介入)
- 理学療法(PT): 関節の拘縮を防ぎ、可能な限り運動機能を維持するためのストレッチや座位保持の訓練。
- 作業療法(OT): 手先の機能維持や、自助具を用いた日常生活の支援。
- 言語療法(ST): 嚥下(飲み込み)の訓練や、言葉以外のコミュニケーション手段(絵カード、視覚支援デバイス)の導入。
2. 症状に対する医学的管理
- 抗痙縮薬: 筋肉の突っぱりを和らげるためのお薬(バクロフェンなど)の内服。
- てんかん治療: けいれん発作を伴う場合は抗てんかん薬によるコントロール。
- 栄養管理: 嚥下障害がある場合、誤嚥性肺炎を予防するための食事形態の工夫や、必要に応じた経管栄養の検討。
3. 教育・社会的支援
- 知的・身体的状況に合わせた特別支援教育。
- 車椅子、装具、コミュニケーションツールなどの環境整備。
- 家族に対する遺伝カウンセリングとピアサポート(家族会)の紹介。
予後
- 生存期間: 欠失型のPMDは、遺伝子重複型に比べると進行が比較的緩やかであるという報告もありますが、肺炎や呼吸不全などの合併症管理が寿命を左右します。
- 生活の質: 運動機能の制約は大きいものの、コミュニケーション能力や理解力がある程度維持される症例も多いため、早期からの適切な支援がQOLを高めます。
まとめ
Xq22.2 deletion syndrome(Xq22.2欠失症候群)は、X染色体にある「PLP1」という、脳の神経を守るための大切な「カバー(ミエリン)」を作る設計図(遺伝子)が失われてしまう(微小欠失)病気です。
主な特徴として、赤ちゃんの頃から目が揺れる(眼振)、体が柔らかすぎる、あるいは成長とともに手足が突っ張るといった神経の症状が現れます。
診断には頭部MRIでの「ミエリンの未熟さ」の確認や、精密な遺伝子検査が欠かせません。
根本的な治療法はまだありませんが、早くからリハビリを始め、お子様のペースに合わせたコミュニケーション方法を見つけることで、豊かな毎日を過ごすことができます。小児神経科、リハビリテーション科、療育センターなどの専門家がチームとなり、お子様の歩幅に合わせた成長を、長く温かく支えていきましょう。
参考文献元
- Pelizaeus, F. (1885). Über eine eigenthümliche Form spastischer Lähmung mit Cerebralerscheinungen auf hereditärer Grundlage.
- (ペリツェウス博士による最初の症例報告。)
- Merzbacher, L. (1910). Eine eigenartige familiär-hereditäre Erkrankungsform.
- (メルツバッハ博士による病理学的検討。)
- Inoue, K. (2005). PLP1-related inherited dysmyelinating diseases: Pelizaeus-Merzbacher disease and spastic paraplegia type 2.
- (PLP1関連疾患の分子メカニズムと欠失型PMDの特徴を記述した重要論文。)
- GeneReviews® [Internet]: Pelizaeus-Merzbacher Disease. (NCBI).
- (PMDの診断・管理・遺伝カウンセリングに関する世界的標準データベース。)
- Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Xq22.2 microdeletions: A guide for families.
- (希少染色体異常支援団体による、家族向けの実践的かつ温かいガイド資料。)
- Cailloux, F., et al. (2000). Genotype-phenotype correlation in Pelizaeus-Merzbacher disease.
- (PLP1の重複、点変異、欠失のそれぞれの臨床像を比較分析した研究。)
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