Xq22.2 duplication syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • Xq22.2微小重複症候群(Xq22.2 microduplication syndrome)
  • PLP1重複症候群
  • ペリツェウス・メルツバッハ病(Pelizaeus-Merzbacher Disease; PMD)重複型
  • X連鎖性痙性対麻痺 2型(Spastic Paraplegia Type 2; SPG2)
    • ※PLP1遺伝子の変異や重複の程度により、PMDよりも軽症のSPG2として発症する場合があります。

対象染色体領域

X染色体 長腕(q)22.2領域の微小重複

Xq22.2重複症候群は、X染色体の長腕にある「22.2」というバンド領域において、特定のゲノム配列が通常よりも多く存在する(微小重複)ことで発症します。この領域における最大の焦点は、中枢神経系の正常な機能維持に不可欠な「PLP1」遺伝子です。

【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】

  • PLP1遺伝子 (Proteolipid Protein 1):
    • 役割: 脳や脊髄(中枢神経系)において、神経細胞の軸索を包み込み、電気信号の伝達を高速化させる絶縁体「髄鞘(ミエリン)」の主要な構成タンパク質をコードしています。
    • 病態: 通常、男性は1コピーのPLP1遺伝子を持ちますが、重複により2コピー(あるいはそれ以上)存在することで、PLP1タンパク質が過剰に産生されます。
    • 毒性メカニズム: 過剰なPLP1タンパク質は細胞内の小胞体に蓄積し、ミエリンを作る細胞(オリゴデンドロサイト)に対して毒性を示します。その結果、細胞が死滅し、脳全体のミエリンが著しく不足する「低髄鞘化(Hypomyelination)」が引き起こされます。
  • 隣接遺伝子の影響:
    重複の範囲が数百kbから数Mbに及ぶ場合、周囲の遺伝子も過剰になりますが、臨床症状の大部分はPLP1の重複によって説明されます。

発生頻度

男性において 約200,000人 〜 500,000人に1人

  • 希少性: 極めて稀な疾患ですが、ペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)の原因としては最も多く、PMD患者全体の約50%〜75%がこのXq22.2領域の重複(PLP1重複)によるものです。
  • 性差の影響: X連鎖(X-linked)の遺伝形式をとります。
    • 男性(XY): 1本しかないX染色体のXq22.2領域が重複するため、重篤な神経症状が現れます。
    • 女性(XX): 2本のX染色体のうち1本に重複があっても、もう1本が正常であれば、通常は無症状の「保因者」となります。しかし、加齢に伴い、あるいはX染色体の不活性化の偏りにより、成人期以降に軽度の歩行困難や痙性を呈することがあります。

臨床的特徴(症状)

Xq22.2重複症候群は、典型的なペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)の臨床像を呈します。症状は乳児期早期から現れ、進行性ではなく「発達の停滞」として観察されるのが特徴です。

1. 初期症状(乳児期)

  • 眼振(がんしん): 生後数週間から数ヶ月以内に、目が細かく揺れる「眼振」が現ります。これは本症候群の最も早期かつ重要なサインです。
  • 筋緊張低下: 初期には「体が柔らかすぎる(低緊張)」状態が目立ち、首すわりなどの運動発達が大幅に遅れます。
  • 喘鳴(ぜんめい): 喉の筋肉のコントロール不足により、呼吸時に「ゼーゼー」という音が聞こえることがあります。

2. 運動機能の障害

  • 痙性麻痺(けいせいまひ): 成長とともに、筋肉が硬く突っ張る「痙性」が強くなります。特に足(下肢)に強く現れ、はさみ状歩行や尖足(つま先立ち)の原因となります。
  • 不随意運動: 自分の意志とは無関係に手足が動くアテトーゼ様運動や、意図した動作時に震える「企図振戦」が見られます。
  • 運動発達の停滞: 多くの症例では、独歩(一人歩き)の獲得が困難であり、生涯を通じて車椅子を必要とすることが一般的です。

3. 知能および言語発達

  • 知的障害: 軽度から中等度の知的障害を伴います。
  • 認知と表出の解離: 言葉の「理解」は比較的良好である一方、発音に関わる筋肉の調節が難しいため、「話すこと(表出)」に強い困難を伴う(構音障害)のが特徴です。

4. その他の身体的特徴

  • 小頭症: 脳の容積が小さいため、頭囲が標準を下回ることがあります。
  • 視神経萎縮: 進行すると視力が低下することがあります。
  • 骨格変形: 強い痙性や姿勢の固定により、脊柱側弯症や股関節脱臼を来しやすくなります。

原因

Xq22.2領域の微小重複(遺伝子量効果による細胞毒性)

本症候群は、DNAのコピー数が1つ増えるという「わずかなバランスの崩れ」が、脳細胞に対して致命的な影響を与えることで発症します。

  1. 新生突然変異(De novo duplication):
    両親の染色体は正常であり、精子や卵子の形成時に偶然、微小重複が生じるケース。
  2. 母親からの継承:
    無症状の母親(保因者)から、重複したX染色体が息子へ受け継がれるケース。
  3. 非対立遺伝子間相同組換え(NAHR):
    Xq22.2領域の周辺には、似た配列が繰り返されている箇所があり、細胞分裂の際の組み換えミスで重複が起こりやすい構造になっています。

診断方法

臨床的な神経症状(眼振と発達の遅れ)に加えて、画像診断と遺伝子検査を組み合わせて確定します。

  1. 頭部MRI検査:
    極めて重要な検査です。 「低髄鞘化(Hypomyelination)」という、脳の白質(神経の通り道)が成熟していない独特の所見を確認します。正常な脳では白質がT2強調画像で黒く写りますが、重複症候群では白く写り続けます。
  2. FISH法:
    PLP1遺伝子領域を光らせるプローブを用いて、2つのシグナル(重複)を確認します。
  3. MLPA法:
    重複診断の第一選択です。PLP1遺伝子のコピー数を正確に定量できるため、重複の有無を迅速に判断できます。
  4. マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    重複がPLP1だけでなく、周囲のどの程度の範囲に及んでいるかを精密に特定します。

治療方法

根本的な遺伝子治療は現在のところ研究段階にあります。治療の主眼は、合併症の予防と残された機能の最大化を目指す**「包括的ケア」**です。

1. リハビリテーション(早期介入)

  • 理学療法(PT): 筋肉の突っぱり(痙性)を和らげ、関節が固まる(拘縮)のを防ぐためのストレッチやポジション設定。
  • 作業療法(OT): 手先の機能維持や、意思伝達を助けるための機器(スイッチ、タブレットなど)の活用訓練。
  • 言語療法(ST): 構音障害に対する訓練や、嚥下(飲み込み)の評価。

2. 内科的・外科的治療

  • 抗痙縮薬: 筋肉の緊張を和らげる薬剤(バクロフェンなど)の内服や、ボツリヌス療法。
  • てんかん治療: けいれんを伴う場合は、脳波に基づいた抗てんかん薬の処方。
  • 栄養管理: 飲み込みが難しい場合、食事の形態を工夫したり、誤嚥性肺炎を予防するためのサポート。
  • 整形外科的手術: 側弯症や股関節脱臼が進行した場合の矯正手術。

3. 最新の研究

  • アンチセンス核酸(ASO)療法: 過剰なPLP1の働きを抑える治療法が動物実験レベルで進んでおり、将来的な臨床応用が期待されています。
  • コレステロール療法: ミエリン形成を助けるために特定の脂質を補う研究も行われています。

予後

  • 生存期間: 呼吸器管理や栄養管理の向上により、多くの方が成人期を迎えています。ただし、肺炎などの呼吸器感染症が生命予後を左右するため、注意深いケアが必要です。
  • 自立度: 全介助から一部介助まで個人差はありますが、知的理解力は保たれる傾向があるため、適切なコミュニケーション手段(ICT機器など)を用いることで、豊かな意思疎通が可能です。

まとめ

Xq22.2 duplication syndrome(Xq22.2重複症候群)は、X染色体にある「PLP1」という、脳の神経を守るための大切な「絶縁カバー(ミエリン)」を作る設計図(遺伝子)が、通常より1つ多く存在する(微小重複)ことで起こる病気です。

この設計図が多すぎると、脳の中でタンパク質が渋滞を起こし、神経を保護するカバーがうまく作られなくなってしまいます。その結果、赤ちゃんの頃から目が揺れたり(眼振)、手足が突っ張ったり(痙性)、言葉の発達がゆっくりになったりします。

根本的な治療法はまだありませんが、早くからリハビリテーションを始め、目の揺れや筋肉の強張りを和らげるケアを継続することが、お子様の快適な生活に繋がります。また、おしゃべりが難しくても、タブレットなどの道具を使うことで、自分の気持ちを伝えることができます。専門医やリハビリの先生とチームを作り、お子様の「やりたい」という気持ちを大切に育んでいきましょう。

参考文献元

  • Inoue, K. (2005). PLP1-related inherited dysmyelinating diseases: Pelizaeus-Merzbacher disease and spastic paraplegia type 2. Gene.
    • (PLP1関連疾患の分子メカニズムと遺伝子重複の毒性を解明した重要論文。)
  • Wolf, N. I., et al. (2004). Hypomyelination in Pelizaeus-Merzbacher disease: MRI and MRS findings.
    • (MRI画像による低髄鞘化の診断基準を確立した研究。)
  • GeneReviews® [Internet]: Pelizaeus-Merzbacher Disease. (NCBI).
    • (最新の診断基準、管理ガイドライン、遺伝カウンセリングに関する世界的標準データベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Xq22.2 microduplications: A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、家族向けの実践的ガイド資料。)
  • Hobson, G. M., & Kamholz, J. (2012). Pelizaeus-Merzbacher disease, Pelizaeus-Merzbacher-like disease 1, and related hypomyelinating leukodystrophies.
    • (重複を含むPLP1異常の臨床的スペクトラムを網羅したレビュー。)
  • 日本小児神経学会: ペリツェウス・メルツバッハ病 診療ガイドライン.
    • (国内における標準的な診断・治療の指針。)

詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。