別名・関連疾患名
- Xq22.3微小欠失症候群(Xq22.3 microdeletion syndrome)
- アルポート症候群・びまん性平滑筋腫症症候群(Alport syndrome with diffuse leiomyomatosis; AS-DL)
- COL4A5/COL4A6隣接遺伝子欠失症候群
- Xq22.3末端欠失症候群
対象染色体領域
X染色体 長腕(q)22.3領域のテロメア側(末端側)の微小欠失
本症候群は、X染色体の長腕にある「22.3」というバンド領域において、特定のDNA配列が失われる(微小欠失)ことで発症します。この領域は染色体の末端(テロメア)に近く、構造的に不安定な側面を持つため、欠失が生じやすいポイントの一つとされています。
【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】
この領域には、人体の基底膜を構成する「タイプIVコラーゲン」に関連する2つの重要な遺伝子が、互いに向き合う形(頭対頭:head-to-head)で配置されています。
- COL4A5遺伝子:
- 役割: 腎臓の糸球体、耳(内耳)、眼の基底膜を構成するタイプIVコラーゲンα5鎖をコードします。
- 影響: この遺伝子の欠失により、重篤な「アルポート症候群」が引き起こされます。
- COL4A6遺伝子:
- 役割: タイプIVコラーゲンα6鎖をコードします。
- 影響: COL4A5と同時に、COL4A6の特定の範囲(プロモーターおよびエキソン1, 2)が欠失することで、「びまん性平滑筋腫症(DL)」が合併します。
- 周辺遺伝子の欠失:
欠失の範囲がさらに広がると、知的障害や発達遅滞に関与する他の遺伝子が巻き込まれることがあります。
発生頻度
極めて稀(Ultra-rare)
- 正確な頻度: 全世界でも報告例は数百例程度に留まる非常に希少な疾患です。
- アルポート症候群との比率: 通常のX連鎖型アルポート症候群(COL4A5単独の変異)の患者のうち、本症候群(平滑筋腫症を合併する欠失型)を呈するのは約2〜5%程度と推定されています。
- 性差の影響: X連鎖(X-linked)の遺伝形式をとります。
- 男性(XY): X染色体が1本しかないため、欠失の影響が直接現れ、重症化しやすい傾向があります。
- 女性(XX): 2本のX染色体のうち1本が正常であれば、症状は軽度から中等度(保因者としての血尿など)に留まることが多いですが、平滑筋腫症については女性でも顕著な症状が現れることが一般的です。
臨床的特徴(症状)
Xq22.3テロメア欠失症候群は、腎臓、聴覚、眼、そして全身の平滑筋組織という多系統にわたる特徴的な症状を呈します。
1. アルポート症候群としての症状(腎・耳・眼)
- 進行性腎不全: 幼少期からの血尿(肉眼的・顕微鏡的)で始まり、蛋白尿、高血圧を経て、多くは青年期までに末期腎不全へと進行します。
- 感音難聴: 高音域から始まる難聴で、学童期以降に顕著になります。これは内耳の基底板の構造異常によります。
- 眼の異常: 前円錐水晶体(水晶体が円錐状に突出する)や網膜の斑点状変色が見られます。
2. びまん性平滑筋腫症(DL)の症状
本症候群を特徴づける最も重要な臨床像です。「平滑筋」という、自分の意思では動かせない筋肉(内臓の筋肉)が良性腫瘍として増殖します。
- 食道平滑筋腫症: 食道の壁が厚くなり、飲み込みにくさ(嚥下困難)、嘔吐、胸の痛み、逆流症状を引き起こします。
- 気管・気管支平滑筋腫症: 呼吸器の通り道に腫瘍ができることで、咳、喘鳴(ゼーゼーする音)、呼吸困難を来します。
- 女性器の平滑筋腫: 外陰部(大陰唇)や子宮に巨大な良性腫瘍ができることがあります。
- 発症時期: 多くの場合、10代までにこれらの平滑筋症状が顕在化します。
3. 発達および知能面
- 知的障害: 通常のアルポート症候群では知的障害は見られませんが、Xq22.3テロメア欠失症候群において欠失範囲がより広範囲に及ぶ場合、軽度から中等度の知的障害や学習障害を伴うことがあります。
- 発達遅滞: 幼少期の言葉の遅れや運動の不器用さが観察される場合があります。
原因
Xq22.3領域(COL4A5およびCOL4A6)の微小欠失(隣接遺伝子欠失)
本症候群は、染色体上の設計図が物理的に失われることで発症します。
- COL4A5とCOL4A6の同時欠失:
前述の通り、この2つの遺伝子は背中合わせに配置されており、その境界領域を含む微小欠失が起こることで、腎不全(COL4A5)と平滑筋腫症(COL4A6)が同時に引き起こされます。 - 新生突然変異(De novo deletion):
多くの場合、両親の染色体構成は正常であり、精子や卵子の形成過程で偶然に微小欠失が生じます。 - 不規則な組み換え:
Xq22.3領域には反復配列が多く存在するため、細胞分裂時の「組み換えエラー」が起きやすいゲノム構造になっていることが根本的な原因です。
診断方法
腎症状と平滑筋腫症の組み合わせから臨床的に疑われ、遺伝子検査で確定します。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
確定診断のゴールドスタンダードです。Xq22.3領域の欠失範囲を正確に特定し、どの遺伝子が巻き込まれているかを明らかにします。 - MLPA法:
COL4A5およびCOL4A6遺伝子のエキソン単位での欠失を迅速に検出するのに適しています。 - 腎生検:
腎臓の組織を電子顕微鏡で観察し、糸球体基底膜の断裂や層状化(アルポート症候群特有の所見)を確認します。 - 画像診断(CT/MRI/内視鏡):
食道や気管、生殖器における平滑筋腫の広がりと大きさを評価します。
治療方法
根本的な「遺伝子を戻す」治療法は存在しません。各診療科が連携する**「包括的・多職種チーム医療」**が不可欠です。
1. 腎不全への対策
- 薬物療法: ACE阻害薬やARB(血圧を下げる薬)を使用して、蛋白尿を減らし、腎不全への進行を遅らせます。
- 腎代替療法: 末期腎不全に至った場合は、血液透析、腹膜透析、あるいは腎移植が検討されます。
2. 平滑筋腫症への外科的介入
- 食道手術: 嚥下困難が重度の場合は、食道切除術や筋層切開術が行われます。
- 呼吸器管理: 気管の狭窄がある場合、ステント留置や外科的切除が必要になることがあります。
- 婦人科手術: 巨大な平滑筋腫による苦痛がある場合、切除術が行われます。
3. 感覚器・発達のサポート
- 難聴への対応: 定期的な聴力検査と、必要に応じた補聴器の装用。
- 眼科的管理: 水晶体の異常に対する定期チェックと矯正。
- 療育・教育支援: 知的障害がある場合は、個別の支援計画に基づいた療育(言語療法や作業療法)を行います。
予後
- 生存期間: 食道や気管の平滑筋腫による呼吸器合併症や、腎不全の管理状態に左右されます。早期診断と適切な外科的介入により、予後は大幅に改善されます。
- 生活の質(QOL): 若年期からの腎不全や手術の繰り返しがQOLに影響するため、心理的サポートや社会資源(難病指定の活用など)の利用が重要です。
まとめ
Xq22.3 telomeric deletion syndrome(Xq22.3テロメア欠失症候群)は、X染色体の端っこにある「腎臓の健康を守る設計図」と「筋肉の成長を調節する設計図」が、まとめて失われてしまう(微小欠失)病気です。
主な特徴は、幼少期からの腎臓の悩み(尿に血が混じるなど)に加えて、食道や呼吸器の筋肉がコブのように厚くなってしまう(平滑筋腫症)ことです。これにより、食べ物が飲み込みにくくなったり、呼吸が苦しくなったりすることがあります。
この病気は非常に珍しいため、腎臓の先生だけでなく、消化器や呼吸器、耳鼻科の先生などがチームを組んで診察することが大切です。
根本的な治療法はまだありませんが、お薬で腎臓を守り、必要に応じて手術を行うことで、お子様が成長していく過程をしっかりと支えることができます。専門医と手を携え、一つひとつの症状に丁寧に向き合っていきましょう。
参考文献元
- Antignac, C., et al. (1992). A native Alport syndrome-associated deletion of the 5′ ends of the COL4A5 and COL4A6 genes.
- (COL4A5とCOL4A6の欠失が本症候群の原因であることを解明した重要論文。)
- Zhou, J., et al. (1993). Deletion of the paired alpha 5 and alpha 6 type IV collagen genes in Alport syndrome associated with diffuse leiomyomatosis.
- (アルポート症候群とびまん性平滑筋腫症の合併メカニズムを定義した文献。)
- Heidet, L., et al. (1995). Alport syndrome with diffuse leiomyomatosis: COL4A5-COL4A6 gene deletions and mutation update.
- (遺伝子欠失の範囲と臨床症状の相関に関する初期の研究集積。)
- GeneReviews® [Internet]: Alport Syndrome and DL. (NCBI).
- (最新の診断基準、管理ガイドライン、遺伝カウンセリングに関する世界的標準データベース。)
- Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Xq22.3 microdeletions: A guide for families.
- (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けの実践的かつ温かいガイド資料。)
- Gross, O., et al. (2012). Treatment of Alport syndrome: beyond ACE inhibition.
- (アルポート症候群の治療戦略に関する最新の知見。)
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