Xq27.3-q28 duplication syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • Xq27.3-q28微小重複症候群(Xq27.3-q28 microduplication syndrome)
  • MECP2重複症候群(MECP2 duplication syndrome)
    • ※本領域の重複において、Xq28に位置するMECP2遺伝子の過剰が主症状を決定づけるため、臨床的にはこの名称で呼ばれることが非常に多いです。
  • Lubs型X連鎖知的障害症候群(Lubs X-linked intellectual disability syndrome)

対象染色体領域

X染色体 長腕(q)27.3領域から28領域にかけての微小重複

Xq27.3-q28重複症候群は、X染色体の長腕末端付近にある「q27.3」から「q28」という広範な、あるいはその一部の領域が通常よりも多く存在する(微小重複)ことで発症します。この領域は「遺伝子の宝庫」とも呼ばれ、脳や身体の発達に極めて重要な役割を果たす遺伝子が密集しています。

【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】

重複する範囲には個人差がありますが、以下の遺伝子が臨床症状の核を担っています。

  • MECP2遺伝子 (Xq28):
    • 役割: メチル化されたDNAに結合し、他の多くの遺伝子のスイッチをオン・オフする「マスターレギュレーター」です。
    • 影響: 脳の発達に不可欠ですが、少なすぎると「レット症候群」を、**多すぎると本症候群の中心的な病態(重度の知的障害、運動障害、感染症への脆弱性)**を引き起こします。
  • FMR1遺伝子 (Xq27.3):
    • 役割: シナプスの可塑性に関与するタンパク質をコードします。
    • 影響: この遺伝子の異常は「脆弱X症候群」の原因として有名ですが、重複(過剰)もまた知的障害や行動障害に寄与することが示唆されています。
  • SLC6A8遺伝子 (Xq28):
    • 役割: 脳内へクレアチンを運ぶ輸送体です。
    • 影響: 重複に含まれる場合、クレアチン代謝の不均衡を招き、神経症状を修飾する可能性があります。

発生頻度

男性において 約100,000人に1人

  • 希少性: 非常に希少な疾患ですが、男性の「X連鎖知的障害(XLID)」の原因としては全体の約1%を占めると推定されており、診断技術の向上により報告数が増えています。
  • 性差の影響: X連鎖(X-linked)の遺伝形式をとります。
    • 男性(XY): X染色体が1本しかないため、重複の影響が直接かつ重篤に現れます。ほぼ100%の確率で発症します。
    • 女性(XX): 2本のX染色体のうち1本が重複していても、通常は「X染色体の不活性化(ライオニゼーション)」により、重複した方のX染色体が眠らされるため、多くは無症状の保因者となります。ただし、不活性化が偏った場合には、軽度の知的障害や精神医学的症状を呈することがあります。

臨床的特徴(症状)

Xq27.3-q28重複症候群(特にMECP2重複を含む場合)の症状は、時間とともに変化し、多系統にわたる重篤な所見を呈します。

1. 神経発達と知能(男性症例の主症状)

  • 重度の知的障害: ほぼすべての男性患者に認められます。
  • 言語発達の欠如: ほとんどの症例で有意な言語(言葉)の獲得が困難です。
  • 運動発達遅滞: 首すわりやお座りが遅れ、歩行を獲得できるのは約半数ですが、それも成人期までに失われる(退行)ことがあります。
  • 筋緊張の異常: 乳児期は筋肉が柔らかい(低緊張)ですが、成長とともに手足が突っ張る「痙性(けいせい)」が強くなります。

2. 特徴的な顔貌

劇的な奇形ではありませんが、共通した微細な特徴があります。

  • 低い鼻根部と短い鼻
  • 眼間開離(両目の間隔が広い)
  • 耳の位置が低い(低位付着耳)
  • 口角が下がった大きな口
  • 中顔面の平坦化

3. 重篤な合併症(生命予後に直結)

  • 反復性呼吸器感染症: 患者の約75%に見られます。重度の肺炎を繰り返し、これが成人期における主要な死亡原因となります。免疫グロブリンの軽度低下が見られることもあります。
  • 難治性てんかん: 幼少期から学童期にかけて発症し、薬が効きにくい(難治性)傾向があります。
  • 胃食道逆流症(GERD)と嚥下障害: 食べ物の飲み込みが上手くいかず、誤嚥性肺炎の原因となります。

4. 行動面の特徴

  • 自閉スペクトラム症(ASD)的特性: 視線を合わせにくい、独特の手の動き(ハンドステレオティピー:手揉み動作など)、社会的相互反応の困難さ。
  • 痛みに鈍感: 痛みに対して反応が鈍い(痛覚閾値が高い)ことが報告されています。

原因

Xq27.3-q28領域の微小重複(遺伝子量効果による過剰発現)

本症候群は、脳の正常な機能に必要な「MECP2」などの遺伝子が過剰に存在し、タンパク質が作りすぎられることによって発症します。

  1. 母親からの継承 (約90%):
    多くの場合、無症状の母親(保因者)から、重複したX染色体が息子へ受け継がれます。母親が保因者である場合、息子が発症する確率は50%です。
  2. 新生突然変異 (De novo duplication):
    両親の染色体は正常であり、精子や卵子の形成時に偶然に微小重複が生じるケース。
  3. タンパク質の過剰発現:
    MECP2タンパク質が過剰になると、脳内の神経細胞のシナプス機能が抑制され、情報伝達が正常に行われなくなります。

診断方法

臨床的な特徴(重度の発達遅滞、肺炎の繰り返し)から疑い、確定診断にはゲノム解析が不可欠です。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    確定診断のゴールドスタンダードです。Xq27.3-q28領域の重複の範囲(サイズ)と、含まれる遺伝子を精密に特定します。
  • MLPA法:
    MECP2遺伝子のコピー数を迅速かつ正確に測定するのに適しており、初期診断で多用されます。
  • FISH法:
    重複があることを視覚的に確認します。特に母親が保因者であるかを確認する際に有用です。
  • 臨床評価:
    • 頭部MRI: 脳梁の菲薄化(薄くなること)や白質の異常を確認します。
    • 脳波検査: てんかんの有無を調べます。
    • 嚥下造影検査: 誤嚥のリスクを評価します。

治療方法

根本的に「重複した遺伝子を減らす」治療法は現在研究段階です。治療は、合併症から命を守り、QOL(生活の質)を高めるための**「集学的な対症療法」**が中心となります。

1. 呼吸器管理と感染症予防

  • 肺炎の予防: 最も重要です。誤嚥を防ぐための食事形態の工夫、定期的な排痰ケア(呼吸リハビリテーション)、予防的な抗生物質の投与が検討されます。
  • 免疫の補強: 免疫グロブリン値が低い場合は、補充療法が行われることがあります。

2. 栄養管理と摂食支援

  • 嚥下訓練: 言語療法士(ST)による評価。
  • 経管栄養の検討: 誤嚥のリスクが非常に高い場合や、栄養状態が改善しない場合は、胃瘻(いろう)の造設が早期に検討されます。

3. てんかんと筋緊張のコントロール

  • 抗てんかん薬: 専門医による多剤併用を含む薬剤調整。
  • リハビリテーション: 理学療法(PT)や装具の使用により、足や手の変形(拘縮)を防ぎます。

4. 最新の研究動向

  • アンチセンス核酸(ASO)療法: 過剰なMECP2の働きを抑える治療法が動物モデルで成功しており、将来的なヒトへの臨床応用が非常に期待されています。

予後

  • 生存期間: 呼吸器感染症の管理が予後を大きく左右します。かつては25歳前後での死亡が多いとされていましたが、現代の集学的なケアにより、30代、40代を迎える症例も増えています。
  • 生活の質: 常に介助が必要となりますが、視線入力装置などのICT機器を用いたコミュニケーションの可能性が模索されています。

まとめ

Xq27.3-q28 duplication syndrome(Xq27.3-q28重複症候群)は、X染色体の端っこにある「MECP2」という、脳の成長に欠かせない大切な設計図(遺伝子)が、通常より多く存在する(微小重複)ことで起こる病気です。

この設計図は、少なすぎても多すぎてもいけない非常に繊細なもので、多すぎると脳の信号がうまく伝わらなくなり、重い発達の遅れや、肺炎を繰り返しやすくなるといった症状が現れます。

お母様がこの体質を持っていても症状が出ないことが多いため、息子さんの診断をきっかけに家族のことがわかるケースも少なくありません。

根本的な治療法はまだ研究中ですが、肺炎を防ぐための工夫や、てんかんの治療、そして栄養のサポートを一つひとつ丁寧に行うことで、お子様が安心して過ごせる時間を守ることができます。専門医のチームと共に、お子様の小さな変化に寄り添いながら、支えていきましょう。

参考文献元

  • Lubs, H. A., et al. (1999). A new X-linked mental retardation syndrome with characteristic facies, small testes, and severe mental retardation.
    • (本症候群を臨床的に定義した最初期の重要論文。)
  • Van Esch, H., et al. (2005). Duplication of MECP2 in extended families is associated with severe mental retardation and recurrent pyogenic infections.
    • (MECP2の重複が重度の知的障害と感染症の原因であることを証明した画期的な研究。)
  • GeneReviews® [Internet]: MECP2 Duplication Syndrome. (NCBI).
    • (最新の診断基準、管理ガイドライン、遺伝カウンセリングに関する世界的標準データベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Xq27.3-q28 duplications: A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、家族向けの実践的かつ温かいガイド資料。)
  • Ramocki, M. B., et al. (2009). The MECP2 duplication syndrome.
    • (臨床的特徴と予後、治療戦略をまとめた包括的レビュー。)
  • Meins, M., et al. (2005). Submicroscopic duplication in Xq28 causes increased MECP2 expression and a recognizable neurodevelopmental phenotype.
    • 微小重複による遺伝子過剰発現のメカニズムを解説した文献。)

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