優性遺伝(顕性遺伝)とは?劣性遺伝との違いと具体例を解説

Posted on 2024年 11月 6日

この記事の概要

「優性遺伝子」とは、対立遺伝子の組み合わせにおいて、形質が現れやすい遺伝子を指します。優性遺伝子が存在すると、その形質は発現しやすく、劣性遺伝子の形質は現れにくくなります。例えば、ABO式血液型ではA型やB型の遺伝子がO型に対して優性です。優性遺伝子が関与する病気には「ハンチントン病」があり、片方の親から遺伝子を受け継ぐだけで発症するリスクが高まります。

📌 この記事でわかること

  • 優性遺伝(顕性遺伝)の意味と、形質が現れるしくみ
  • 優性遺伝と劣性遺伝の違いを表でひと目で整理
  • ハンチントン病など代表的な優性遺伝の疾患・形質の一覧
  • 子どもへ受け継がれる確率と、遺伝子検査でできること

優性遺伝(顕性遺伝)とは、対になった遺伝子のうち片方を受け継いだだけで形質が現れるタイプの遺伝を指します。父と母のどちらか一方から1つ受け継ぐだけで特徴が表に出るため、劣性遺伝にくらべて形質があらわれやすいのが特徴です。この記事では、優性遺伝のしくみから代表的な疾患の一覧、子どもへ伝わる確率までを、できるだけやさしく整理してお伝えします。対になる劣性遺伝(潜性遺伝)とあわせて読むと、遺伝のルールの全体像がつかめます。

優性遺伝(顕性遺伝)とは?意味としくみ

優性遺伝のしくみを表すDNA二重らせんのイラスト

優性遺伝とは、対立遺伝子のうち片方だけでも形質が現れる遺伝のかたちで、その強くはたらく遺伝子を「優性遺伝子」と呼びます。私たちは1つの形質について、父と母から遺伝子を1つずつ受け継ぎ、ペア(対立遺伝子)で持っています。

このペアのなかで、片方だけでも形質を表に出す強い遺伝子が「優性遺伝子」、両方そろわないと現れない控えめな遺伝子が「劣性遺伝子」です。優性遺伝子が1つでもあると、その形質が優先してあらわれ、もう片方の劣性遺伝子の形質は隠れてしまいます。遺伝子を記号で書くときは、優性を大文字のA、劣性を小文字のaで表すのが基本ルール。AAでもAaでもAの形質が出て、aaのときだけaの形質が姿を見せます。遺伝のしくみの全体像はMSDマニュアル家庭版でも確認できます。

常染色体優性とX連鎖優性のちがい

優性遺伝には、性別に関係なく伝わる「常染色体優性(顕性)」と、X染色体を通じて伝わる「X連鎖優性(顕性)」の2つのタイプがあります。常染色体優性は、男女どちらにも同じようにあらわれます。ハンチントン病や家族性高コレステロール血症は、この常染色体優性の代表例です。X連鎖優性は数が少なく、女性にもあらわれる点で、男性に偏るX連鎖劣性とは伝わり方が異なります。同じ「優性」でもタイプによって現れ方が違う点を押さえておくと、あとで出てくる確率の話が理解しやすくなります。

「優性」から「顕性」へ、呼び方が変わりました

「優性」という言葉は「性質が優れている」という意味ではなく、形質が表に現れやすいことを表しているだけです。この誤解を避けるため、日本遺伝学会は2017年に「優性遺伝」を「顕性遺伝」、「劣性遺伝」を「潜性遺伝」と呼び替える方針を示しました。中学校の教科書でも、新しい用語が使われはじめています。

私自身、記事を書いていると「顕性・潜性」がまだ口になじまず、つい「優性・劣性」と書いてしまいます。Xでも「優性遺伝/劣性遺伝の名称が顕性遺伝/潜性遺伝になってたと聞いておじを感じる」という声(@5th_ntさん)があり、言い換えが進む途中なのだと実感します。本記事では検索されやすい「優性遺伝」を主に使いつつ、正式名称の「顕性遺伝」を併記していきます。

優性遺伝と劣性遺伝の違いを表で整理

優性遺伝は片方の遺伝子だけで形質が現れるのに対し、劣性遺伝は同じ遺伝子が2つそろわないと現れない点が最大の違いです。両者を並べると、遺伝のルールがぐっとつかみやすくなります。

比較項目優性遺伝(顕性遺伝)劣性遺伝(潜性遺伝)
形質が現れる条件遺伝子が1つあれば現れる同じ遺伝子が2つそろって現れる
遺伝子の表記大文字(A)で表す小文字(a)で表す
片方だけ持つ人形質が現れる保因者(症状は出にくい)
子への伝わりやすさ親が1人持つと2分の1で伝わる両親が保因者で4分の1
身近な例A型・B型の血液型O型の血液型
正式な呼び方(2017年〜)顕性遺伝潜性遺伝

劣性(潜性)遺伝の詳しいしくみは劣性遺伝(潜性遺伝)とはで、そもそもの遺伝の基本ルールはメンデルの法則でくわしく解説しています。あわせて読むと理解が深まります。遺伝子そのものの働きを知りたい方は遺伝子の役割とはも参考になります。

優性遺伝の代表的な疾患・形質一覧【早見表】

優性遺伝で受け継がれる病気には、ハンチントン病や家族性高コレステロール血症などがあり、親のどちらか一方が持っているだけで子へ伝わる可能性があります。代表的なものを、継承のかたちとあわせて一覧にまとめました。

疾患・形質主な特徴継承のかたち
ハンチントン病中年期以降に運動や認知の機能が少しずつ低下する常染色体優性(顕性)
マルファン症候群手足が長く、心臓・血管や骨格に影響が出やすい常染色体優性(顕性)
家族性高コレステロール血症若いうちからLDLコレステロールが高くなりやすい常染色体優性(顕性)
神経線維腫症1型皮膚のカフェオレ斑や神経のこぶができやすい常染色体優性(顕性)
軟骨無形成症手足の骨の成長が抑えられ低身長になる常染色体優性(顕性)
ABO血液型のA型・B型O型に対して形質が現れやすい(身近な例)常染色体・顕性

たとえばハンチントン病は、神経の細胞が徐々に障害され、中年期以降に体の動きや気分、記憶に影響があらわれる病気です。原因となる遺伝子が優性のため、親から1つ受け継ぐだけで発症する可能性があります。一方でABO式血液型のように、病気ではない身近な形質にも優性・劣性の関係は関わっています。Xでも「ヒトのABO式血液型は、A・Bの2種類の優性遺伝子とOの劣性遺伝子の組み合わせでできている」と整理する投稿があり、私も日常の例として腑に落ちました。難病に指定された病気の詳細は難病情報センターでも確認できます。

ここで示す一覧は病気の傾向を知るための目安であり、確定診断ではありません。また優性遺伝の病気でも、遺伝子を持つ人が必ず発症するとは限らず、症状の重さにも幅があります。気になる症状や家族歴がある場合は、自己判断で結論を出さず、医療機関で相談してください。

優性遺伝が子どもに伝わる確率としくみ

親から子へ形質が伝わる様子を表す家族と染色体のイラスト

片方の親が優性遺伝の形質を1つ持っている場合、子どもがその形質を受け継ぐ確率は2分の1です。のこりの2分の1では、形質はあらわれません。

数字で追うと、より分かりやすくなります。親の一方が優性遺伝子と正常な遺伝子を1つずつ持つ(Aaの)状態で、もう一方が正常な遺伝子だけ(aaの)状態だとします。このとき生まれる子どもは、優性遺伝子を受け継ぐAaのタイプとaaのタイプがおよそAとaの半々に分かれ、その比率は1対1です。つまり2人に1人の割合で形質があらわれる計算になります。あくまで確率なので、実際に生まれる子どもの人数どおりになるとは限らない点に注意してください。

この2分の1という確率は、劣性遺伝の4分の1とくらべて高く見えます。優性遺伝の形質が世代をこえて続きやすいのは、このためです。ただし、優性の遺伝子を持っていても症状が軽かったり、あらわれなかったりすることもあります。遺伝子を持つ人のうち実際に形質が出る割合を「浸透率」と呼び、病気によってこの割合は異なります。家系のなかで一部の人だけに症状が出るように見えるのは、浸透率が関係していることがあります。

血液型でイメージすると分かりやすいです。ABO式血液型では、A型やB型の遺伝子はO型に対して優性です。そのため片方の親からA型の遺伝子を受け継げば、もう片方からO型の遺伝子を受け継いでもA型として現れます。なお、すべての遺伝が父母のペアで単純に決まるわけではありません。母親からのみ受け継ぐミトコンドリアの遺伝のように、優性・劣性とは異なる伝わり方をする遺伝もあります。遺伝の基本ルールをおさらいしたい方はメンデルの法則もあわせてご覧ください。

身近にある優性遺伝の例

耳あかが湿っているタイプは、1つの遺伝子で決まる身近な優性遺伝の代表例で、湿った耳あかが優性、乾いた耳あかが劣性です。この形質はABCC11という遺伝子の違いで決まり、日本人には乾いたタイプが多いことが知られています。片方の親から湿った耳あかの遺伝子を受け継ぐだけで、湿ったタイプになりやすいという分かりやすい例です。

一方で注意したいのは、教科書でよく見る「巻き舌ができる」「二重まぶた」といった特徴です。かつては単純な優性遺伝の例として教えられてきましたが、実際には複数の要因が関わり、1つの遺伝子だけでは説明しきれないことが分かってきました。身近な例はイメージをつかむのに便利ですが、すべてがきれいに優性・劣性で割り切れるわけではない、という点は覚えておいてください。

「優性=優れている」ではない、という誤解

優性・劣性という言葉は、遺伝子の優劣や人の能力を示すものではなく、形質が表に現れやすいかどうかを表しているだけです。この点を取り違えると、遺伝の理解が大きくずれてしまいます。

実際、優性遺伝で伝わる病気も多くあります。優性だから体にとって良い、劣性だから悪い、という関係はありません。「優性」はあくまで、複数の遺伝子が組み合わさったときにどちらの形質が表に出るかを示す、遺伝のルール上の呼び名にすぎません。私も取材のなかで「優性=優秀」という思い込みが根強いと感じる場面が何度もありました。Xでも「顕性遺伝する疾患もあるわけで、あくまでも遺伝様式の話。優劣という言葉に敏感になりすぎなのでは」という指摘(@mitsuba0w0さん)が見られ、まさに用語のイメージが誤解を生んでいると感じます。呼び方が「顕性・潜性」へ改められたのも、この誤解を減らすためでした。

優性遺伝が気になるときにできること

遺伝について専門家に相談する穏やかなカウンセリングの様子

家族歴があり不安がある場合は、原因となる遺伝子を持っているかどうかを調べる遺伝子検査という選択肢があります。自分がどの遺伝子を持っているかを知ることで、将来に向けた備えや相談の第一歩になります。

優性遺伝の病気は、親のどちらかが原因遺伝子を持っていると子へ伝わる可能性があります。家系に同じ病気の人がいる場合は、遺伝子検査で自分の状態を確認できることがあります。ただし検査で分かる範囲は種類によって異なるため、何を知りたいのかを整理してから選ぶと迷いにくくなります。結果の受け止め方に迷ったときは、遺伝カウンセリングで専門家に相談してください。

遺伝子検査はリスクを評価するためのもので、結果がそのまま病気の確定診断になるわけではありません。数値や結果の意味に不安を感じたら、一人で抱え込まず医療機関で相談してください。まずは検査でどこまで分かるのかを知ることから始めてみてください。

本記事は、ヒロクリニックの遺伝子検査に関する情報提供の一環として、公開されている医学情報と臨床の視点をもとに構成しています。遺伝は一人ひとりの状況によって受け止め方が変わるテーマです。個別の診断や検査の必要性については、担当医や遺伝の専門家に相談しながら判断してください。

よくある質問(FAQ)

優性遺伝と顕性遺伝は違うものですか?

同じものを指す言葉です。誤解を避けるために正式な用語が「顕性遺伝」へ改められましたが、意味は変わりません。検索では「優性遺伝」がまだ多く使われています。

優性遺伝と劣性遺伝の違いは何ですか?

片方の遺伝子だけで形質が現れるのが優性遺伝、同じ遺伝子が2つそろって現れるのが劣性遺伝です。優性遺伝は親の一方が持つだけで2分の1の確率で伝わり、劣性遺伝は両親がともに保因者のときに4分の1で子にあらわれます。

優性遺伝の病気は必ず子どもに伝わりますか?

必ず伝わるわけではありません。親の一方が原因遺伝子を1つ持つ場合、子へ伝わる確率は2分の1です。さらに遺伝子を受け継いでも、浸透率によって症状があらわれないこともあります。

「優性」は性質が優れているという意味ですか?

いいえ、性質の優劣とは関係ありません。形質が表に現れやすいことを表す用語です。この誤解を防ぐために「顕性」という呼び方が使われるようになりました。

優性遺伝かどうかは検査でわかりますか?

原因となる遺伝子を調べる遺伝子検査で確認できることがあります。ただし結果は確定診断ではなくリスクの評価です。判断に迷うときは医療機関や遺伝カウンセリングで相談してください。

医師監修 監修日:2024年11月6日

岡 博史 (おか ひろし)

医師・医学博士 ヒロクリニック統括院長

YouTubeチャンネルなどを通じて、遺伝子やNIPT(新型出生前診断)についてわかりやすく発信しています。

略歴

  • 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
  • 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
  • 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
  • 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
  • 2009年 医療法人社団福美会 理事長
  • 2015年 医療法人社団福美会 理事

資格・所属

  • CAPラボディレクター
  • 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
  • 日本医師会 産業医
  • 東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、ヒロクリニック遺伝子検査の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

医師監修 監修日:2024年11月6日

堤 修一

医師・医学博士 ヒロクリニック博多駅前院 院長

資格・所属

  • 元・東京大学先端科学技術研究センター 准教授

この記事は、ヒロクリニック遺伝子検査の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。