性格と遺伝子の意外な関係:協調性や外向性は遺伝で決まる?最新研究が示す「協調性」とのつながり

Posted on 2025年 4月 4日

この記事の概要

「性格は生まれつき?それとも育ち?」——そんな問いに、最新の遺伝子研究が新たな答えを提示しています。協調性や外向性、誠実性といった私たちの性格の一部は、実は特定の遺伝子によって左右されている可能性があるのです。今回ご紹介するのは、「ADH4」や「CHRM2」といった遺伝子と性格、さらにはアルコールや薬物などの依存症との関連を探る研究。性別や年齢によっても影響が変わるなど、複雑で奥深い遺伝と性格のつながりを、専門知識がなくても分かりやすく解説します。自分の性格や行動のルーツに、ちょっと科学的な目線を加えてみませんか?

背景|Background

パーソナリティ特性(性格傾向)は、思考、感情、行動の持続的なパターンを指し、中等度から高い遺伝性(heredity)を持つことが知られています。これらの特性は、アルコール・オピオイド・コカインなどの物質依存(substance dependence:SD)との関連において、内因型(endophenotype)、すなわち遺伝的要因と精神疾患との間を橋渡しする生物学的・行動的指標として注目されています。

中毒

パーソナリティの分類法として広く用いられているのがビッグ・ファイブ(Big Five)または五因子モデル(Five-Factor Model:FFM)です。このモデルでは、以下の5つの主要次元が定義されています:協調性(agreeableness)、誠実性(conscientiousness)、外向性(extraversion)、神経症傾向(neuroticism)、および開放性(openness to experience)。これらの特性は、文化・年齢・性別を問わず安定して観察されており、生物学的基盤の存在が示唆されています。

やんでる

過去の遺伝学的研究では、セロトニン輸送体(SLC6A4)、ドーパミン受容体遺伝子(DRD4, DRD2)、脳由来神経栄養因子(BDNF)などの神経伝達に関与する遺伝子と、パーソナリティ特性の間に有意な関連が報告されています。興味深いことに、これらの遺伝子の一部は物質使用障害(substance use disorders)とも関係があるとされており、性格傾向と依存症の間に遺伝的共通基盤(shared genetic architecture)が存在する可能性が示唆されています。

Sodium-dependent serotonin transporter

本稿では、ADH4(alcohol dehydrogenase 4)およびCHRM2(muscarinic acetylcholine receptor M2)という2つの遺伝子のバリアントが、協調性、外向性、および誠実性といった特定の性格特性にどのように関与しているかを検討し、それらが物質依存の感受性にどのように寄与しているかを統合的に考察します。

関連遺伝子&SNP(Single Nucleotide Polymorphism; 一塩基多型)|Associated genes & SNPs

ADH4(alcohol dehydrogenase 4)

ADH4遺伝子は第4染色体長腕(4q23)に位置し、エタノール代謝に関与する酵素をコードしています。この酵素は、エタノールをアセトアルデヒドへ酸化する過程を担いますが、同時にノルアドレナリン(norepinephrine)の代謝過程に生じる内因性アルデヒド(endogenous aldehydes)である3,4-ジヒドロキシマンデルアルデヒドや4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデルアルデヒドの代謝にも重要な役割を果たします。

All-trans-retinol dehydrogenase [NAD(+)] ADH4

本研究では、以下の7つの一塩基多型(SNP)が分析されました。

  • SNP6(rs1800759):プロモーター領域(promoter region)に位置し、遺伝子発現の制御に関与。AアレルはCアレルと比較して転写活性が高く、酵素量の増加と関連。
rs1800759
  • SNP1(hcv2033010):3’非翻訳領域(3′-UTR)に存在し、RNAの安定性や翻訳後調節に影響を与える可能性。
  • SNP2(rs1042364):エクソン9(exon 9)内のコーディング領域に位置。
rs1042364

CHRM2(muscarinic acetylcholine receptor M2)

CHRM2は第7染色体長腕(7q31–35)に位置し、アセチルコリン(acetylcholine:ACh)を介する神経伝達に関わるM2型ムスカリン受容体をコードしています。この受容体はGタンパク質共役型受容体(G protein-coupled receptor:GPCR)であり、自己受容体(autoreceptor)として作用し、前シナプスでのアセチルコリンの放出を抑制します。その結果、アデニル酸シクラーゼ(adenyl cyclase)阻害経路などの細胞内シグナル伝達経路を制御し、気分・認知・報酬行動に影響を与えるとされています。

Muscarinic acetylcholine receptor M2

本研究で分析された6つのSNPは以下の通りです:

rs1824024
  • SNP3(rs1824024):イントロン3(intron 3)に位置。過去の研究では物質依存者におけるハーディー・ワインベルグ平衡(Hardy-Weinberg equilibrium)の逸脱が報告されており、疾患関連の指標とされている。
  • その他:rs978437、rs1455858、rs324640、rs324650、rs6962027。いずれもイントロン領域または3′-UTRに存在。

いずれの研究においても、ハプロタイプ(haplotype)およびディプロタイプ(diplotype)(親由来のハプロタイプの組み合わせ)を再構成し、単一マーカーでは捉えきれない遺伝的相互作用の検出が図られました。

haplotype

Allele vs genotype vs haplotype and more | idt. (n.d.). Integrated DNA Technologies. Retrieved 4 April 2025, from https://www.idtdna.com/pages/education/decoded/article/genotyping-terms-to-know

考察:この研究から何が分かったのか?|Discussion

2つの研究は、ADH4およびCHRM2の遺伝的変異がパーソナリティ特性と関連していること、そしてその特性が物質依存リスクと重なる遺伝的基盤を共有していることを明確に示しています。さらに、これらの関連は多くの場合、性別や年齢によって修飾されることが分かりました。

要因

ADH4に関する知見:

All-trans-retinol dehydrogenase [NAD(+)] ADH4
  • rs1800759(SNP6)は協調性との関連が確認されましたが、その効果は年齢と性別に依存:
    • 高齢男性では、Aアレルが協調性の高さと関連。
    • 若年女性では、Aアレルが協調性の低さと関連。 これは、転写活性の高いプロモーター多型が、性ホルモンや発達段階によって異なる行動表現型を引き起こす可能性を示唆します。
  • SNP1およびSNP2は、誠実性が高い個体に限って外向性との関連が認められ、遺伝子間相互作用あるいは性格特性同士の修飾効果の存在が示唆されます。

CHRM2に関する知見:

Muscarinic acetylcholine receptor M2
  • rs1824024(SNP3)は、性別によって協調性への影響方向が逆であることが判明:
  • ハプロタイプCTCGATは、物質依存症患者では協調性を上昇させ、対照群では逆に低下させる効果が観察されました。
  • ディプロタイプCTCAAA/CTCGTTは、誠実性の有意な低下と関連。
  • 男性:Aアレルで協調性が上昇
  • 女性:Aアレルで協調性が低下

これらの知見は、協調性や誠実性などの性格特性が中間表現型として機能しうることを支持し、遺伝子変異から精神疾患への連続的なパスウェイの一部を示しています。ADH4はノルアドレナリン代謝、CHRM2はコリン作動性神経伝達とドーパミン系のバランスに関わることから、両者とも行動特性と依存症傾向の両面に関与していることが示唆されます。

研究方法|Methods

白衣女性

ADH4の研究

  • 対象者数:SD群243名(欧州系アメリカ人175名、アフリカ系アメリカ人68名)、対照群296名(欧州系256名、アフリカ系40名)。
  • 性格評価:NEO Five-Factor Inventory(NEO-FFI)(60項目の自己記入式質問紙)を使用。
  • 遺伝子タイピング:ADH4の7つのSNPと、人種的背景の判定用に38個の非連鎖的AIMs(ancestry-informative markers)を用いて解析。
  • ハプロタイプ解析:PHASEソフトウェアを使用して再構成。
  • 統計解析:MANCOVA(多変量共分散分析)およびANCOVA(共分散分析)で、年齢・性別・診断・人種的構成を共変量として調整。

CHRM2の研究

  • 対象者数:SD群239名(欧州系173名、アフリカ系66名)、対照群275名(欧州系237名、アフリカ系38名)。
  • 遺伝子タイピング:CHRM2の6つのSNPと38のAIMsを使用。
  • 統計解析:MANCOVAに加え、Roy-Bargmann型ステップダウンANCOVAを用いて、各性格特性への影響を逐次的に評価。

両研究とも、ディプロタイプモデルを使用し、複数の遺伝的変異の相互効果を一括して評価しました。

研究結果|Results

ADH4の結果

若い女性若くない男性
  • 協調性
    • rs1800759(SNP6)のAアレルは、高齢男性で協調性の上昇、若年女性で協調性の低下と関連。
  • 外向性
    • SNP1およびSNP2は、誠実性の高い被験者において外向性と関連。
  • ディプロタイプ
    • TTACAAA/TCACTAGおよびTTACAAA/CCGATCGの組み合わせが性格特性と有意に関連。影響は性別・年齢・人種によって異なる。

CHRM2の結果

一旦チルしよう
  • 協調性
    • rs1824024(SNP3)のAアレルは、男性で協調性上昇、女性で低下(p = 0.002)。
    • CTCGATハプロタイプは、物質依存者で協調性上昇、健常対照で低下。
    • TCAAATハプロタイプはCTCGATとの相互作用によって協調性をさらに上昇(p = 0.004)。
  • 誠実性
    • ディプロタイプCTCAAA/CTCGTTは、誠実性の低下と有意に関連(p = 0.005)。
  • 群間差
    • 物質依存群は、協調性・外向性・誠実性・開放性が有意に低く、神経症傾向が有意に高かった(p < 10⁻³)。
    • 性別(男性で協調性低下)、人種(アフリカ系で協調性低・神経症傾向高)、年齢(高齢で協調性上昇、外向性と開放性低下)による影響も確認された。

結論|Conclusion

本研究は、ADH4およびCHRM2の遺伝的変異がパーソナリティ特性と関連し、その変異の一部が物質依存にも関与していることを明らかにしました。これにより、パーソナリティは遺伝的リスクと精神疾患をつなぐ中間表現型として機能しうることが裏付けられます。

子羊

主要な発見は以下の通りです:

  • ADH4のrs1800759(SNP6)は、機能的プロモーター多型であり、性別・年齢依存的に協調性と関連。
  • CHRM2のrs1824024(SNP3)は、性別によって異なる協調性への影響を示し、物質依存との関連も確認。
  • ハプロタイプ・ディプロタイプ解析は、単一SNPでは見えない複雑な遺伝的相互作用を明らかに。

今後は、より大規模かつ多様な人種背景を含むサンプルでの再現研究が必要であり、これらの遺伝的変異が神経伝達経路(ノルアドレナリン代謝・コリン作動性伝達)を通じて、性格と依存リスクの双方に関与する可能性を精緻化する必要があります。

ピース

キーワード|Keywords

ADH4, CHRM2, rs1800759, rs1824024, 協調性(agreeableness), 誠実性(conscientiousness), 外向性(extraversion), パーソナリティ特性(personality traits), 物質依存(substance dependence), ノルアドレナリン代謝(norepinephrine metabolism), コリン作動性シグナル伝達(cholinergic signaling)

pochi

引用文献|References