別名・関連疾患名
- dup(14)q(32)(14番染色体長腕 q32 の重複) (希少疾患情報センター)
- Trisomy 14q32(14q32 部分トリソミー) (希少疾患情報センター)
- Predisposition to adult-onset myeloproliferative neoplasm due to 14q32 duplication(14q32 重複による成人発症型骨髄増殖性腫瘍素因) (NCBI)
本症候群は、14番染色体長腕 q32 にある遺伝物質が一部多く重複することによって生じる染色体異常症候群で、遺伝子コピー数の増加が発育や健康に影響を及ぼすものとして認識されています。 (NCBI)
対象染色体領域
第14番染色体 長腕(q)の q32 領域の一部が重複(duplication)することが本疾患の根本原因です。
- 一部報告では、terminal duplication(14q32.11–q32.33の末端重複) として観察される症例も存在し、これは q32 領域の末端まで含む比較的大きな重複です。 (PubMed)
- 重複領域には多数の遺伝子が含まれ、重複が起こる位置や長さの違いによって、臨床像や重症度が個体差を示すことがあります。 (MDPI)
- この領域重複は部分トリソミー的状態を作り、遺伝子の過剰発現が正常な発育機構を乱すと考えられています。 (ヒロクリニック)
発生頻度
14q32 duplication syndrome は 非常に稀な染色体異常疾患です。
- 疾患データベースでは、人口100万人あたりで非常に稀 (<1/1,000,000) の発生頻度とされています。 (MalaCards)
- 医療文献では、terminal 14q32 部分重複として公表された症例が非常に少数であることから、その発生頻度の正確な統計は公開されていませんが、世界的にも数十件〜数百件レベルの報告にとどまると考えられています。 (MDPI)
- 多くの症例が de novo(新生突然変異) として生じ、親からの遺伝というよりは染色体形成時の偶発的な構造異常に起因していると報告されています。 (PubMed)
臨床的特徴(症状)
14q32 duplication syndrome は長腕 q32 の一部重複にともなう複合的な症状群を呈します。重複の大きさや重複断片に含まれる遺伝子の種類により、発現する症状やその程度に幅がありますが、複数の症例報告と包括的レビューから、以下のような主要な臨床的特徴が確認されています:
1. 発育遅延・知的障害
- 発達遅延(developmental delay / DD)や知的障害(intellectual disability / ID)が症例の多くで観察されており、これらは本症候群の代表的な症状とされています。 (MDPI)
- 発達遅延は筋緊張低下(hypotonia)や運動協調性の遅れを伴うことが多く、幼少期から言語発達や粗大運動・巧緻運動の獲得が遅れる傾向があります。 (MDPI)
2. 低出生体重・成長遅延
- 報告された症例の多くには 低出生体重(low birth weight)や、幼児期・児童期の 成長遅延(growth retardation) が見られることが確認されています。 (MDPI)
- これは染色体重複が細胞増殖や発育に関与する遺伝子発現のバランスを変える結果であると考えられています。 (ヒロクリニック)
3. 顔貌異常(Dysmorphic features)
14q32 duplication の症例では、特徴的な顔貌異常が複数報告されています:
- 眼瞼下がり(downslanting palpebral fissures)
- 眼間距離拡大(hypertelorism, wide-spaced eyes)
- 広い/扁平な鼻梁(broad/flat nasal bridge)
- 小顎 / 顎発育不全(micrognathia)
- 低位耳(low-set ears)
- まつ毛・眉毛のまばらさ(sparse eyelashes/eyebrows)
これらは症例集積の分析でも95%以上の患者で見られる特徴の一部として報告されています。 (MDPI)
4. 神経発達・運動機能障害
- 筋緊張低下(hypotonia)だけでなく、運動協調障害や行動面での課題(例:注意欠如や自閉症スペクトラム的行動)が報告例で示されています。 (MDPI)
- 一部症例では てんかん の合併や 脳血管障害(例: cerebral infarction) の報告もあり、重複領域の影響が神経系全体に及ぶ可能性が示唆されています。 (ResearchGate)
5. 内臓奇形・その他の合併症
多くの報告では臓器奇形・合併症も組み合わさっており、以下が含まれることがあります:
- 先天性心疾患(congenital heart defects) – 程度はさまざまですが構造的心異常として観察例あり (MDPI)
- 骨格異常・関節形態異常 (MDPI)
- 免疫系や血液系の異常として、骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms) の素因や成人期の血液疾患のリスク増加が関連疾患として報告されています。 (NCBI)
このような多彩な症状は、重複断片に含まれる複数の遺伝子の過剰発現(gene dosage effect) が、発育・代謝・器官形成など多領域で影響するためと考えられています。
原因
14q32 duplication syndrome の原因は、14番染色体長腕 q32 領域の一部が重複することです。
この重複は通常、片方の染色体 14 の q32 領域を 3 コピー(通常は 2 コピー)へ増やす形で生じ、結果として遺伝子の過剰発現が生じます。
- 重複は多くが de novo(新生突然変異) であり、通常は両親から直接受け継がれるのではなく、受精後の細胞分裂時の不均衡に起因すると見られています。 (PubMed)
- この重複に含まれる遺伝子には発達・成長・神経機能・血液形成に関連するものがあり、遺伝子過剰発現が個々の臓器やシステムでの機能異常を引き起こすと考えられます。 (MDPI)
- 特定の遺伝子(例:BCL11B、CCNK、YY1、DYNC1H1、PACS2 など)が候補として議論され、これらは神経発達や免疫系・細胞周期制御などさまざまな生物学的過程に関与していると示唆されています。 (ResearchGate)
重複の大きさや含有遺伝子の違いにより、症状パターンや重症度は個々の患者で大きく異なる場合があります。
治療方法(支持療法・管理)
14q32 duplication syndrome に対する“染色体異常自体を元に戻す根本治療”は確立していません。 治療は主に症状ごとの管理と支持療法(symptomatic & supportive care)となります。
臨床管理は以下のような多職種アプローチが基本です:
発達支援・療育
- 早期の発達評価と 個別療育プログラム の策定
- 理学療法(運動発達、筋緊張フォロー)
- 作業療法(感覚統合、日常生活訓練)
- 言語療法(言語・コミュニケーション支援)
神経・行動支援
- 行動療法(情緒・社会スキル支援)
- 自閉症スペクトラム的行動や注意面の対応
- 必要時に 精神科/心理士との連携
医療的介入
- てんかん や 脳血管障害リスク への対応(必要に応じ抗てんかん薬、神経科評価)
- 先天性心疾患 への循環器評価・治療
- 成長・内分泌・栄養管理
血液疾患・がんリスク管理
本症候群では成人発症型の骨髄増殖性腫瘍(例:本態性血小板血症、慢性骨髄単球性白血病、急性骨髄性白血病)等のリスクが関連付けられているという報告があり、血液学的フォローが重要と考えられています。 (NCBI)
- 定期的血液検査、骨髄評価
- 血液疾患専門医との連携
定期フォローと総合ケア
- 発達・成長の定期的評価
- 多科(小児科、神経科、心臓外科、血液内科、内分泌科など)による継続フォロー
- 生活支援(学校・家庭での支援計画)
- 遺伝カウンセリング:欠失の性質・再発リスク・妊娠中の検査選択肢についての解説
まとめ
14q32 duplication syndrome は、第14番染色体の長腕 q32 領域の部分的な重複によって生じる極めて稀な染色体異常症候群です。
その症状は発達遅延、知的障害、低出生体重、成長遅延、筋緊張低下、顔貌異常、先天性心疾患、神経・行動問題、さらには成人発症型の血液疾患リスクなど幅広く、重複領域の長さと含有遺伝子によって多様な表現型を示します。
原因は 14q32 領域の重複による遺伝子過剰発現であり、治療は根本治療がないため症状ごとの支持療法、多職種支援、定期フォローが中心です。
長期的なフォローと遺伝カウンセリングが重要であり、ライフステージごとに適切な医療・教育支援を組み合わせることが患者の生活の質を高めます。
参考文献元
- MedGen / NCBI: 14q32 duplication syndrome — 疾患定義と関連疾患との概念整理。 (NCBI)
- NCBI PubMed (Han & Park 2021) “A Recurrent De Novo Terminal Duplication of 14q32” — 端部重複の症例と臨床像の詳細。 (PubMed)
- GARD / NIH Rare Diseases Info: 14q32 duplication syndrome — 疾患概要、発生メカニズム。 (希少疾患情報センター)
- Malacards: 14q32 duplication syndrome — 症状・疾患概説。 (MalaCards)
- ResearchGate / clinical phenotype summary — 発達・成長・顔貌異常など多領域特徴。 (ResearchGate)


