別名・関連疾患名
- 17p13.3重複症候群
- 17p13.3微細重複症候群(16p13.3 microduplication syndrome)
- 部分的トリソミー17p13.3(Partial trisomy 17p13.3)
- 17p13.3コピー数変異(重複)(17p13.3 copy number variant, duplication)
- 関連:YWHAE重複症候群(YWHAE duplication syndrome)
- 関連:LIS1 (PAFAH1B1) 重複症候群(LIS1 duplication syndrome)
対象染色体領域
17番染色体 短腕(p)13.3領域
本疾患は、ヒトの17番染色体の短腕(pアーム)の最も末端(テロメア側)に位置する「13.3」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。
【領域の遺伝学的詳細と重要性】
17p13.3領域は、遺伝子密度が高く、脳の発達に不可欠な遺伝子が含まれています。この領域の「欠失(deletion)」は、脳のシワが作られない「滑脳症(Lissencephaly)」を特徴とするミラー・ディーカー症候群(Miller-Dieker syndrome)を引き起こすことで有名です。
本疾患(重複症候群)は、その「逆(reciprocal)」の状態であり、欠失症候群とは異なる、しかし多様な神経発達症状を引き起こします。
【2つの重要な責任遺伝子】
17p13.3重複症候群の症状は、重複範囲に以下のどちら(あるいは両方)の遺伝子が含まれているかによって、クラス1とクラス2という全く異なるタイプに分類されることが最大の特徴です。
- YWHAE (Tyrosine 3-Monooxygenase/Tryptophan 5-Monooxygenase Activation Protein Epsilon):
- 神経細胞の移動や配置に関わる遺伝子です。
- この遺伝子の重複(過剰)は、「過成長(体が大きい)」や「自閉スペクトラム症(ASD)」の主な原因となります。
- PAFAH1B1 (LIS1):
- 脳の形成に最も重要な遺伝子の一つです。欠失すると滑脳症になります。
- 逆に重複(過剰)すると、「小頭症(頭が小さい)」や「成長障害(体が小さい)」、脳の微細な構造異常を引き起こします。
つまり、同じ「17p13.3重複」という診断名であっても、YWHAEが増えているのか、PAFAH1B1が増えているのかによって、症状(特に体格や頭の大きさ)が正反対になることがあるのです。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていませんが、ミラー・ディーカー症候群(欠失)に比べると報告数は少ない傾向にあります。
しかし、これは重複症候群の症状が欠失症候群ほど劇的(重度の脳奇形など)ではない場合が多く、診断に至っていない(過少診断されている)可能性が高いと考えられています。近年のマイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及により、原因不明の発達遅滞や自閉症を持つ患者さんの中から発見されるケースが増加しており、推計では数万人に1人程度の頻度ではないかとも考えられています。
臨床的特徴(症状)
前述の通り、重複する遺伝子の範囲によって症状が異なりますが、ここでは最も一般的な「複合的な症状」および「各タイプの違い」について解説します。
1. 共通する神経発達・精神症状
どのタイプの重複であっても、神経発達への影響はほぼ必発です。
- 発達遅滞(DD): 首すわり、お座り、歩行などの運動発達、および言葉の獲得に遅れが見られます。遅れの程度は軽度から重度まで幅広いです。
- 知的障害(ID): 多くの患者さんで軽度〜中等度の知的障害を伴います。
- 行動特性(特にYWHAE重複に関与):
- 自閉スペクトラム症(ASD): 社会的コミュニケーションの困難、視線を合わせない、反復行動などの特徴が高頻度で見られます。
- 注意欠陥・多動性障害(ADHD): 多動、衝動性、注意散漫が見られることがあります。
- その他、不安障害や攻撃的行動が見られる場合もあります。
2. 身体的特徴・成長(タイプによる違い)
ここが診断上の重要なポイントです。
- クラス1(YWHAEのみ重複、PAFAH1B1は正常):
- 過成長(Macrosomia): 身長や体重が平均よりも大きい傾向があります。
- 相対的な大頭症: 体格に合わせて頭囲も大きめになることがあります。
- 顔貌: 前頭部(おでこ)が広い、鼻根部が低い、眼間開離(目が離れている)などの特徴が見られます。
- クラス2(PAFAH1B1を含む重複):
- 成長障害: 身長・体重の伸びが悪く、小柄な体格になる傾向があります。
- 小頭症(Microcephaly): 頭囲が平均よりも小さくなります。
- 脳梁の低形成: 脳の左右をつなぐ「脳梁」が薄いなどの微細な脳形成異常が見られることがあります。
- 顔貌: 小さな顎、耳の位置が低いなどの特徴が見られます。
- クラス3(両方の遺伝子を含む大きな重複):
- 症状はミックスされますが、どちらかというとYWHAEの影響(過成長やASD傾向)よりも、PAFAH1B1の影響(小頭症や発達の遅れの重さ)が強く出る場合や、中間的な表現型になる場合があります。
3. その他の合併症
- 筋緊張低下(Hypotonia): 乳幼児期に体が柔らかく、運動発達の遅れにつながります。
- てんかん: 欠失症候群ほど高頻度ではありませんが、一部の患者さんで発作が見られます。
- 手足の異常: 手指の短縮や、第5指の湾曲などが見られることがあります。
内臓奇形: 先天性心疾患や腎臓の異常などが稀に合併することがありますが、必須の症状ではありません。
原因
17番染色体短腕(17p13.3)における遺伝子の重複(トリプロセンシティ)が原因です。
1. 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect)
「遺伝子は多ければ良い」というわけではありません。
- YWHAE遺伝子:
この遺伝子が作るタンパク質(14-3-3ε)は、神経細胞が脳内の正しい位置に移動するために必要です。これが過剰になると、神経細胞の移動が不適切になり、神経回路の形成不全(シナプス形成異常)を招き、自閉症などの原因になると考えられています。 - PAFAH1B1 (LIS1) 遺伝子:
LIS1タンパク質は、細胞骨格(微小管)の制御に関わっています。量が半分だと「滑脳症」になりますが、量が1.5倍(3コピー)になると、細胞の移動速度や分裂に微妙なブレーキがかかり、脳が小さくなったり(小頭症)、構造が乱れたりします。
2. 発生機序
- De novo(新生突然変異): 多くの症例は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶然生じた突然変異です。
- 家族性(親の転座など):
- 稀に、親が「均衡型転座」の保因者である場合があります。
また、親自身が軽微な症状(あるいは無症状)の重複を持っており、それが子供に遺伝して症状が顕在化するケースも報告されています。特にYWHAE単独重複の場合、親の症状が軽くて気づかれていないことがあります。
診断方法
一般的な染色体検査(Gバンド法)では、重複が小さすぎて検出できないことがあります。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
微細なコピー数変化(CNV)を検出する最も確実な方法です。重複の範囲(サイズ)と、そこに含まれる遺伝子(YWHAEとPAFAH1B1のどちらが含まれているか)を特定することで、病型の分類や予後の予測が可能になります。 - 脳MRI検査:
特にPAFAH1B1が含まれる重複の場合、脳梁の菲薄化や、小脳の異常、皮質の微細な形成異常がないかを確認します。
治療方法
過剰な遺伝子を取り除くような根本的な治療法は現時点ではありません。
治療は、お子さんの持っている「育てにくさ」や「発達の遅れ」に対する療育的支援と対症療法が中心となります。
1. 発達・教育的支援(早期療育)
- 理学療法(PT):
筋緊張低下がある場合、体幹を鍛え、座る・歩くといった粗大運動の発達を促します。 - 作業療法(OT):
手先の不器用さがある場合、遊びを通じて微細運動を訓練します。また、感覚過敏(特定の音や感触を嫌がる)がある場合は、感覚統合療法を行い、生活しやすくします。 - 言語聴覚療法(ST):
言葉の遅れに対し、コミュニケーション指導を行います。視覚的な手がかり(絵カードなど)を使うことが有効な場合が多いです。 - SST(ソーシャルスキルトレーニング):
ASD特性がある場合、集団生活でのルールや対人関係のスキルを学ぶ支援を行います。
2. 行動・心理面のサポート
- 環境調整:
こだわりが強かったり、変化に弱かったりする場合、見通しの持ちやすい環境を作ります。 - 薬物療法:
多動や衝動性、睡眠障害、パニックなどが強く、日常生活や学習に支障が出る場合は、医師と相談の上で適切な薬物療法を検討します。
3. 合併症の管理
- てんかん: 発作がある場合は抗てんかん薬でコントロールします。
- 定期検診: 成長障害(または過成長)や小頭症の進行がないか、身体計測を定期的に行います。
4. 遺伝カウンセリング
- 重複のタイプ(クラス1か2か)によって、将来の見通しやきょうだいへの影響が異なる場合があります。
- 次子の妊娠を考えている場合、親の染色体検査を行うかどうかを含め、専門家(臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー)と相談する場を持つことが推奨されます。
まとめ
17p13.3 duplication syndromeは、17番染色体の末端が増えることで生じる疾患ですが、その症状は「どの遺伝子が増えているか」によって、体が大きくなったり小さくなったりと様々です。
共通しているのは、発達のペースがゆっくりであることや、自閉症などの特性を持ちやすいことです。
この疾患を持つお子さんは、言葉で伝えるのが苦手でも、独自の感性や豊かな感情を持っています。
「なぜこうなるの?」という原因が染色体にあると分かれば、その子の行動(こだわりや多動など)を「わがまま」ではなく「特性」として捉え直すことができます。
早期からその子の特性に合わせた療育(PT/OT/ST)や環境調整を行うことで、持っている能力を伸ばし、社会生活への適応力を高めていくことができます。
参考文献
- Bi, W., et al. (2009). 17p13.3 microduplications: a critical review of the genotype-phenotype correlations. American Journal of Medical Genetics Part A.
- (※17p13.3重複症候群を、含まれる遺伝子(YWHAEとPAFAH1B1)に基づいてクラス1・クラス2に分類し、それぞれの臨床的特徴を詳細に定義した、本疾患を理解する上で最も重要な基礎論文。)
- Bruno, D.L., et al. (2010). Further molecular and clinical delineation of co-locating 17p13.3 microdeletions and microduplications. Journal of Medical Genetics.
- (※欠失と重複の比較、およびYWHAE遺伝子の過剰が過成長や自閉症に関与することを示した研究。)
- Curry, C.J., et al. (2013). Duplication of the LIS1 (PAFAH1B1) gene: A newly recognized cause of microcephaly and mild brain malformation? American Journal of Medical Genetics.
- (※PAFAH1B1(LIS1)遺伝子単独の重複が小頭症や脳形成異常の原因となることを報告した文献。)
- Roos, L., et al. (2009). Complex chromosomal rearrangement of 17p13.3 involving a microduplication including YWHAE and a microdeletion including PAFAH1B1.
- (※複雑な再構成の症例報告を通じて、各遺伝子の用量効果(Dosage effect)を考察した研究。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: YWHAE (Triplosensitivity score: 3 – Sufficient evidence), PAFAH1B1 (Triplosensitivity score: 2/3).
- (各遺伝子が重複(3コピー)になることで病原性を持つことを裏付ける専門データベース評価。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 17p13.3 microduplications (2019).
- (患者家族向けの包括的なガイドライン。)
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