17q11.2 deletion syndrome

Posted on 2026年 1月 20日

別名・関連疾患名

  • NF1微細欠失症候群(NF1 microdeletion syndrome)
  • 神経線維腫症1型微細欠失症候群
  • 17q11.2微細欠失(17q11.2 microdeletion)
  • 17q11.2モノソミー(Monosomy 17q11.2)
  • 関連:神経線維腫症1型(Neurofibromatosis type 1; NF1 / レックリングハウゼン病)

※重要な位置づけ:

一般的に「神経線維腫症1型(NF1)」は、NF1遺伝子の点変異(文字のミス)によって起こります。

しかし、本疾患「17q11.2 deletion syndrome」は、NF1遺伝子を含む周辺のDNAがごっそりと欠失している(抜け落ちている)状態です。そのため、通常のNF1の症状に加えて、他の遺伝子が失われることによる追加の症状(知的障害の重症化や独特の顔貌など)が現れる「隣接遺伝子症候群」として扱われます。

予後管理(特に悪性腫瘍のリスク)が通常のNF1とは異なるため、区別して診断・管理することが医学的に強く推奨されています。

対象染色体領域

17番染色体 長腕(q)11.2領域

本疾患は、ヒトの17番染色体の長腕にある「11.2」と呼ばれるバンド領域において、大規模な欠失が生じることで発生します。

【ゲノム上の詳細と欠失タイプ】

この領域には、NF1の原因遺伝子であるNF1遺伝子だけでなく、その周辺に多数の遺伝子が存在しています。欠失のサイズによって主に以下のタイプに分類されますが、臨床的に最も多く(約95%)、かつ症状がはっきりしているのは「タイプ1欠失」です。

  • タイプ1欠失(Typical 1.4 Mb deletion):
    • 約1.4メガベース(Mb)の欠失です。
    • NF1遺伝子に加え、OMGRNF135SUZ12COPRSUADCなど、約15個以上のタンパク質コード遺伝子が一緒に失われます。
    • 本記事では主にこのタイプ1欠失の症状について解説します。
  • タイプ2欠失(1.2 Mb deletion):
    • タイプ1よりも少し範囲が狭い欠失です。
  • その他の非定型欠失:
    • 患者さんによって欠失範囲が異なります。

【重要な責任遺伝子】

  • NF1 (Neurofibromin 1): がん抑制遺伝子であり、欠失により神経線維腫やカフェ・オ・レ斑などの典型的なNF1症状を引き起こします。
  • RNF135 (Ring Finger Protein 135): この遺伝子の欠失が、本症候群特有の「過成長(体が大きい)」「特徴的な顔貌」に関与していると考えられています。

SUZ12: ポリコーム抑制複合体の一部であり、この欠失が悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)のリスク上昇に関与している可能性が研究されています。

発生頻度

NF1患者全体の約5〜10%

神経線維腫症1型(NF1)自体は、約3,000人に1人という比較的頻度の高い遺伝性疾患です。

そのNF1患者さん全体の中で、遺伝子変異のタイプを詳しく調べた場合、約5〜10%がこの「17q11.2欠失(微細欠失)」であると報告されています。

したがって、全人口から見ると約30,000人〜60,000人に1人程度の希少疾患となります。

通常の染色体検査(Gバンド法)では見逃されることもありましたが、近年のマイクロアレイ染色体検査(CMA)や、NF1遺伝学的検査(MLPA法など)の普及により、正確に診断されるケースが増えています。

臨床的特徴(症状)

17q11.2 deletion syndromeの症状は、「典型的なNF1の症状」に加えて、「欠失症候群特有の重篤な症状」が上乗せされるのが特徴です。

通常のNF1患者さんに比べて、発症が早く、症状が重く、合併症が多い傾向があります。

1. 典型的なNF1症状(皮膚・神経)

これらは通常のNF1と同様に見られますが、出現時期が早い傾向があります。

  • カフェ・オ・レ斑: 生後まもなくから見られる、ミルクコーヒー色のあざ。6個以上あることが診断基準の一つです。
  • 雀卵斑様色素斑(Freckling): 脇の下や鼠径部(足の付け根)にできるソバカスのような色素沈着。
  • 神経線維腫: 皮膚の表面や皮下にできる良性の腫瘍。本症候群では、思春期前から多数発生するなど、負担が大きい傾向があります。
  • Lisch結節: 虹彩(目の茶色い部分)にできる小さな結節(視力には影響しません)。

2. 欠失症候群特有の特徴(通常のNF1との違い)

ここが診断と管理において最も重要なポイントです。

  • 重度の知的障害・学習障害:
    • 通常のNF1では知能は正常〜軽度の学習障害であることが多いですが、欠失症候群では中等度〜重度の知的障害を伴う頻度が高いです。
    • IQスコアが通常のNF1患者群よりも平均して低い傾向にあります。
  • 特徴的な顔貌(Dysmorphic features):
    • 通常のNF1には特異的な顔貌はありませんが、欠失症候群では共通した顔つきが見られることがあります。
    • 粗な顔立ち(Coarse face)
    • 広い前頭部(おでこが広い)
    • 眼間開離(目が離れている)
    • 下眼瞼の肉厚感、眼瞼下垂
    • 小さな顎
  • 過成長(Overgrowth):
    • 通常のNF1患者さんは「低身長」の傾向がありますが、欠失症候群の患者さんは身長が高い(高身長)、あるいは手足が大きい(Large hands and feet)という特徴が見られることがあります。これはRNF135遺伝子の欠失に関連していると考えられています。
  • 心血管系異常:
    • 先天性心疾患(肺動脈弁狭窄症など)の合併頻度が、通常のNF1よりも高いと報告されています。

3. 重篤な腫瘍リスク(MPNST)

生命予後に関わる最も重要な特徴です。

  • 悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST):
    • 神経にできる悪性腫瘍(肉腫の一種)です。
    • 通常のNF1患者さんにおけるMPNSTの生涯発症リスクは約8〜13%とされていますが、17q11.2欠失症候群の患者さんでは、そのリスクが約16〜26%(研究によってはそれ以上)と、有意に高い(約2倍以上のリスク)ことが分かっています。
    • また、発症年齢も若い傾向があります。
  • 神経線維腫の負担: 脊髄の神経根などにできる内部の神経線維腫(plexiform neurofibroma:蔓状神経線維腫)の体積が大きく、数も多い傾向があります。

4. その他の合併症

  • 骨格異常: 脊柱側弯症(背骨の曲がり)、骨の形成異常、結合組織の異常(関節の過伸展)などが見られることがあります。

てんかん: けいれん発作のリスクが通常のNF1よりも高い可能性があります。

原因

17番染色体長腕(17q11.2)における約1.4Mbの大規模欠失が原因です。

1. 発生機序:NAHR(非アリル間同源組換え)

なぜこの領域ばかりが「ごっそり」抜けてしまうのでしょうか?

NF1遺伝子の両側には、「REP要素(NF1-REPs)」と呼ばれる、DNA配列が互いによく似た「反復配列」が存在します。

精子や卵子が作られる減数分裂の際、この似た配列同士が誤って結びつき、その間の領域(NF1遺伝子を含む区間)が抜け落ちてしまうエラー(NAHR)が起こりやすい構造になっています。

これが、世界中の患者さんで共通して「同じ大きさ(1.4Mb)」の欠失が見られる理由です。

2. 隣接遺伝子症候群(Contiguous gene syndrome)

通常のNF1はNF1遺伝子だけの機能不全ですが、本症候群では隣にある遺伝子も巻き添えで失われます。

  • NF1欠失: がん抑制機能の低下(腫瘍リスク)。
  • RNF135欠失: 過成長や顔貌の形成異常。
  • SUZ12欠失: クロマチン構造の制御不全による、MPNST発症リスクの増大(エピジェネティックな要因)。
    これらが複合的に作用することで、重篤な症状が形成されます。

3. 遺伝形式

  • De novo(新生突然変異): 17q11.2欠失症候群の大多数(約80%以上)は、両親からの遺伝ではなく、突然変異で発生します。この場合、次子への再発リスクは低いです。
  • 家族性(遺伝): 稀ですが、親が同じ欠失を持っている場合もあります。
    • 親が保因者の場合、子に遺伝する確率は50%(常染色体顕性遺伝)です。
    • 通常のNF1(点変異)の親から、欠失型の子が生まれることは基本的にはありません(変異のタイプが異なるため)。

診断方法

「症状が重いNF1」を見た場合、この欠失症候群を疑います。

  • FISH法:
    • NF1領域をターゲットとしたプローブを用い、欠失の有無を確認します。簡便で確実な方法です。
  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 欠失の正確なサイズ(タイプ1かタイプ2かなど)を特定できます。
  • MLPA法:
    • NF1遺伝子のコピー数を解析する手法で、欠失の検出に優れています。通常の遺伝子シーケンス(配列解読)では、片方の遺伝子が残っているため「正常」と判定されてしまうことがあり、欠失専用の検査が必要です。

治療方法・医学的管理

欠失した染色体を修復する治療法はありません。

基本的には通常のNF1の治療に準じますが、「より厳重なサーベイランス(監視)」が必要です。

1. 悪性腫瘍(MPNST)のサーベイランス

本症候群において最も優先度の高い管理項目です。

  • 定期的な画像検査: 全身MRI(Whole-body MRI)を用いて、体内の腫瘍の数や大きさ、性質の変化(悪性化の兆候)を定期的にモニタリングすることが推奨されます。
  • 症状のチェック: 「急に腫瘍が大きくなった」「持続する痛みがある」「神経症状(しびれや麻痺)が出た」などのサイン(Red flags)を見逃さないようにします。疑わしい場合はPET-CT検査や生検を行います。

2. 発達・教育的支援

  • 早期療育: 知的障害の程度が重い傾向があるため、早期から理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
  • 教育環境: 通常学級よりも、特別支援学級や特別支援学校など、手厚い支援が受けられる環境が適している場合が多いです。個々の発達段階に合わせた教育プランが必要です。

3. 皮膚・整容的治療

  • 神経線維腫: 痛みがある場合や、美容的に気になる場合、機能障害を起こしている場合は外科的切除を行います。
  • 薬物療法: 近年、切除不能な蔓状神経線維腫に対してMEK阻害薬(セルメチニブなど)が承認され、腫瘍を縮小させる効果が期待されています。欠失症候群の患者さんにも適用となる場合があります。

4. 骨格・循環器管理

  • 側弯症: 定期的なレントゲン検査を行い、進行度に応じて装具や手術を検討します。
  • 心疾患: 診断時に心エコー検査を行い、必要に応じて循環器科でフォローします。

5. 遺伝カウンセリング

  • 本症候群は、通常のNF1よりも予後が慎重(腫瘍リスクが高い)であるため、正確な診断と情報提供が不可欠です。
  • 次子の再発リスクや、将来の見通しについて、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと相談しながら、長期的なライフプランを立てていくことが大切です。

まとめ

17q11.2 deletion syndrome(NF1微細欠失症候群)は、神経線維腫症1型(NF1)の中でも、特定の遺伝子領域が大きく欠けているタイプを指します。

通常のNF1に比べて、発達のゆっくりさや、体の大きさ、そして将来的な腫瘍のリスクが高いという特徴があります。

「重症型」と聞くと不安が募るかと思いますが、重要なのは「普通のNF1とは違う管理が必要だ」と早期に知ることです。

欠失型であると分かれば、より注意深く全身MRI検査を行ったり、痛みなどのサインに敏感になったりすることで、合併症を早期に発見・治療できるチャンスが増えます。

MEK阻害薬のような新しいお薬も登場しており、医療は日々進歩しています。主治医と連携し、厳重な定期検診と適切な療育支援を受けることで、お子さんの健康と生活の質を守っていくことが可能です。

参考文献

  • Kehrer-Sawatzki, H., et al. (2017). The clinical heterogeneity of NF1 microdeletion syndrome: Genotype-phenotype correlations. In: Upadhyaya M, et al. editors. Neurofibromatosis Type 1.
    • (※NF1微細欠失症候群の遺伝子型と表現型の相関について詳細に解説した、この分野の第一人者による文献。)
  • Pasmant, E., et al. (2010). NF1 microdeletions in neurofibromatosis type 1: from genotype to phenotype. Human Mutation, 31(6), E1506-E1518.
    • (※多数の患者データを解析し、タイプ1欠失の特徴(過成長、MPNSTリスクなど)を定義づけた重要論文。)
  • De Raedt, T., et al. (2014). PRC2 loss amplifies Ras-driven transcription and confers sensitivity to BRD4-based therapies. Nature.
    • (※欠失領域に含まれるSUZ12遺伝子の喪失が、MPNSTの発症や悪性度に関与するメカニズム(エピジェネティックな変化)を解明した基礎研究。)
  • GeneReviews® [Internet]: Neurofibromatosis 1. Initial Posting: October 2, 1998; Last Update: June 6, 2019. Authors: Friedman JM.
    • (※NF1全体の包括的ガイドライン。微細欠失症候群(NF1 microdeletion phenotype)についても独立した項目で解説されています。)
  • Mautner, V.F., et al. (2010). Clinical characterisation of 29 neurofibromatosis type-1 patients with molecularly ascertained 1.4 Mb microdeletions. Journal of Medical Genetics.
    • (※1.4Mb欠失を持つ患者29名の臨床的特徴を詳細に報告し、顔貌の特徴やMPNSTリスクの高さを裏付けた臨床研究。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 17q11.2 microdeletions (NF1 microdeletion syndrome) (2020).
    • (患者家族向けのガイドライン。)

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