別名・関連疾患名
- 17q11.2重複症候群
- NF1領域重複症候群(NF1 region duplication syndrome)
- 17q11.2微細重複症候群(17q11.2 microduplication syndrome)
- 部分的トリソミー17q11.2(Partial trisomy 17q11.2)
- グリンガルテン・クラッツ症候群(Gryngarten-Kratz syndrome)※稀な呼称
- 関連:神経線維腫症1型(NF1)※本疾患はNF1の「逆(Reciprocal)」の染色体異常です。
対象染色体領域
17番染色体 長腕(q)11.2領域
本疾患は、ヒトの17番染色体の長腕にある「11.2」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。
【ゲノム上の詳細と重要性】
この領域は、遺伝性疾患の中で最も頻度が高いものの一つである「神経線維腫症1型(NF1 / レックリングハウゼン病)」の原因遺伝子、NF1遺伝子が存在する場所です。
- 欠失(Deletion): この領域が欠失すると、「NF1微細欠失症候群」となり、重度のNF1症状(腫瘍、カフェ・オ・レ斑、過成長など)が現れます。
- 重複(Duplication): 本疾患はこの「逆」の状態です。同じ領域が増えることで、NF1とは対照的な、あるいは全く異なる症状が現れます。
【重複のタイプ】
欠失症候群と同様に、重複する範囲のサイズによっていくつかのタイプがありますが、最も一般的なのは約1.4メガベース(Mb)の重複です。
この範囲には、NF1遺伝子に加え、RNF135、SUZ12、OMGなど、約15個以上の遺伝子が含まれており、これらがまとめて過剰になる(トリプロセンシティ)ことで症状が形成されます。
発生頻度
稀(Rare)
神経線維腫症1型(NF1)やNF1微細欠失症候群に比べると、報告数は非常に少ないです。
正確な発生頻度は確立されていませんが、一般集団における頻度は数万人に1人、あるいはそれ以下と推測されています。
ただし、本疾患の症状(知的障害や発達遅滞)は他の疾患でもよく見られるものであり、かつNF1のように皮膚に目立つ特徴(あざや腫瘍)が出ないため、診断に至っていない(過少診断されている)可能性が高いと考えられています。
近年のマイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及により、原因不明の知的障害や自閉スペクトラム症の患者さんの中から発見されるケースが増加しています。
臨床的特徴(症状)
17q11.2重複症候群の臨床像は、「知的障害」「行動特性(ASD)」「特徴的な顔貌」の3つが主徴です。
重要な点として、同じ領域の異常でありながら、NF1(欠失/変異)で見られるような「神経線維腫(腫瘍)」や「カフェ・オ・レ斑(あざ)」は、通常見られないか、あっても稀であるということです。
1. 神経発達・認知機能
ほぼ全ての患者さんにおいて、発達への影響が認められます。
- 知的障害(ID):
- 軽度から中等度の知的障害を伴うことが多いです。
- IQスコアは幅広く分布しますが、平均すると軽度の低下(IQ 70前後)が見られる傾向があります。重度の知的障害は比較的稀です。
- 発達遅滞:
- 言葉の遅れ(Speech delay)が顕著で、受診のきっかけとなることが多いです。
- 運動発達(歩行開始など)の遅れも見られますが、成長とともに獲得されることが多いです。
- 学習障害(LD):
- 知的障害が軽度であっても、読み書きや計算などに特異的な困難さが見られる場合があります。
2. 行動・精神面の特性
ご家族が日常生活で最も直面する課題の一つです。
- 自閉スペクトラム症(ASD):
- 多くの患者さんにおいて、社会的コミュニケーションの困難さや、興味の限局、こだわりといったASDの特性が見られます。
- 注意欠陥・多動性障害(ADHD):
- 不注意、多動性、衝動性が見られることがあり、学齢期における学習や集団生活の妨げになることがあります。
- その他の行動:
- 不安障害、強迫的行動、攻撃的行動、睡眠障害などが報告されています。
3. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)
通常のNF1には特異的な顔つきはありませんが、重複症候群では共通した顔貌の特徴(Dysmorphism)が報告されています。ただし、これらは微細なものであり、成長とともに変化することもあります。
- 顔の形状: 面長(Long face)、逆三角形の顔立ち。
- 額: 前頭部が広く、突出している。
- 眉・目: 眉毛が濃い、眉が外側で上がっている、眼間開離(目が離れている)、眼瞼裂斜下(タレ目)、睫毛が長い。
- 鼻: 鼻根部が太い、鼻先が目立つ。
- 口元: 人中(鼻の下)が短い、上唇が薄い。
- 歯の異常: 歯並びが悪い、欠損歯があるなどの歯科的問題が多く報告されています。
4. 身体的特徴・成長
NF1微細欠失症候群が「過成長(高身長)」を示すのに対し、重複症候群では以下のような傾向があります。
- 低身長(Short stature):
- 出生時の体格は正常範囲内であることが多いですが、出生後に成長率が低下し、低身長(-2SD以下)になる傾向があります。
- これは、RNF135遺伝子の過剰発現が成長抑制に働いている可能性が示唆されています(欠失すると過成長になるため)。
- 頭囲:
- 小頭症(Microcephaly)や大頭症(Macrocephaly)の両方の報告がありますが、正常範囲内であることが多いです。
- 骨格:
- 手指の異常(指が細長い、または短い)、関節の過伸展(体が柔らかい)などが見られることがあります。
5. その他の合併症
- てんかん: 一部の症例でけいれん発作が報告されています。
- 心疾患: 稀ですが、心中隔欠損症などの先天性心疾患を合併することがあります。
皮膚: NF1とは異なり、カフェ・オ・レ斑はあっても数個程度で、診断基準を満たすほど多発することは稀です。神経線維腫(腫瘍)の発生リスクは、一般集団と同程度と考えられています。
原因
17番染色体長腕(17q11.2)における約1.4Mbの微細重複が原因です。
1. 発生機序:NAHR(非アリル間同源組換え)
なぜこの領域で重複が起こるのでしょうか?
それは、NF1(欠失)が起こるメカニズムと全く同じです。
NF1遺伝子の周辺には、「NF1-REPs」と呼ばれる、DNA配列が互いによく似た「反復配列」が存在します。
精子や卵子が作られる減数分裂の際、この似た配列同士が誤ってペアを組み、染色体の組換え(情報の交換)が起こると、以下のような結果になります。
- 片方の染色体:領域が抜け落ちる → 欠失(NF1微細欠失症候群)
- もう片方の染色体:領域が倍になる → 重複(17q11.2重複症候群)
つまり、本疾患はNF1欠失症候群と「表裏一体」の関係にある疾患です。
2. 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect)
遺伝子は「あればあるほど良い」わけではありません。
- NF1遺伝子の過剰:
- NF1は細胞増殖を抑えるブレーキ(がん抑制遺伝子)です。欠失するとブレーキが効かずに腫瘍ができますが、重複してブレーキが増えすぎるとどうなるかは完全には解明されていません。しかし、脳の発達においては、タンパク質が過剰になることで神経回路の形成バランスが崩れ、知的障害やASDの原因になると考えられています。
- RNF135遺伝子の過剰:
- この遺伝子は細胞の成長制御に関わっており、欠失すると過成長になりますが、重複すると逆に成長が抑制され、低身長になる傾向があると考えられています。
3. 遺伝形式
- De novo(新生突然変異):
- 多くの症例は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶然生じた突然変異です。
- 家族性(遺伝):
- 比較的多く報告されているのが、親からの遺伝です。
- 親自身が同じ重複を持っているものの、症状が軽度(「少し勉強が苦手だった」「小柄である」程度)で、診断されずに社会生活を送っている場合があります。
- 親が保因者の場合、子に遺伝する確率は50%(常染色体顕性遺伝)です。
診断方法
通常の染色体検査(Gバンド法)では、重複が小さすぎて検出できないことが多いです。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- ゲノム上のコピー数変化(CNV)を検出する現在のゴールドスタンダードです。
- 17q11.2領域のコピー数が「3」になっていることを確認し、確定診断とします。
- FISH法:
- NF1領域をターゲットとしたプローブを用いることで、重複を確認できます。
- MLPA法:
NF1遺伝子のコピー数解析に特化した検査で、欠失だけでなく重複も検出可能です。
治療方法
過剰な染色体領域を取り除くような根本的な遺伝子治療法はありません。
治療は、お子さんの症状や特性に合わせた対症療法と療育的支援が中心となります。
NF1(欠失)のような腫瘍に対する厳重な監視は通常必要ありませんが、発達面でのサポートが重要です。
1. 発達・教育的支援(療育)
- 早期療育:
- 診断後、早期から療育(Early Intervention)を開始します。
- 言語聴覚療法(ST):
- 言葉の遅れが顕著な場合、言語訓練を行います。視覚的な支援(絵カードなど)が有効な場合があります。
- 作業療法(OT):
- 手先の不器用さや感覚過敏がある場合、遊びや作業を通じて適応力を高めます。
- SST(ソーシャルスキルトレーニング):
- ASD特性がある場合、集団生活でのルールや対人スキルを学びます。
2. 教育環境の調整
- 知的障害の程度やADHD特性に合わせ、通級指導教室、特別支援学級、特別支援学校など、個別に適した教育環境を選択します。
- 集中力が続かない場合は、座席の位置を工夫したり、課題を細分化したりするなどの配慮が学習を助けます。
3. 医学的管理
- 定期検診:
- 身体計測を行い、成長曲線を確認します。著しい低身長がある場合は内分泌科での評価を検討することもあります。
- 歯科検診:歯並びの問題が多いため、定期的なチェックと矯正治療の検討を行います。
- 神経学的管理:
- てんかん発作が疑われる場合は脳波検査を行い、治療します。
- 精神科的ケア:
- 不安やパニック、衝動性が強く、日常生活に支障が出る場合は、薬物療法を含めた精神科的アプローチを検討します。
4. 遺伝カウンセリング
- 本疾患は親からの遺伝である可能性があるため、両親の検査を行うかどうかについて相談します。
- 親が同じ重複を持っていた場合、親の症状(軽度であることなど)が、お子さんの将来を予測する上での参考情報になることがあります。
まとめ
17q11.2 duplication syndromeは、17番染色体の一部(NF1遺伝子を含む領域)が増えることで生じる先天性の体質です。
「神経線維腫症1型(NF1)」に関連する場所の異常ですが、腫瘍ができやすいNF1とは異なり、腫瘍の心配はほとんどありません。
その代わり、言葉の発達がゆっくりだったり、こだわりが強かったりといった「発達の凸凹」が見られることが特徴です。また、少し小柄で、愛らしい特徴的なお顔立ちをしていることもあります。
この体質を持つお子さんは、得意なことと苦手なことの差が大きいかもしれませんが、早期からその子の特性を理解し、適切な療育や教育環境を整えることで、着実に成長していきます。
ご家族は、腫瘍への過度な心配をする必要はありませんが、発達の特性に寄り添い、長い目で成長を見守っていくサポートが大切です。
参考文献
- Gryngarten, D., et al. (2020). 17q11.2 Microduplication Syndrome: Clinical and Molecular Characterization of 13 Patients. Frontiers in Genetics.
- (※13名の患者データを詳細に解析し、知的障害、ASD、特徴的顔貌などの臨床像をまとめた、比較的新しく包括的な研究。)
- Kehrer-Sawatzki, H., et al. (2008). Genotype-phenotype correlation in patients with 17q11.2 microduplication.
- (※遺伝子型と表現型の相関について考察した基礎的な文献。)
- Salgado, C.M., et al. (2018). 17q11.2 microduplication syndrome: A new case and review of the literature.
- (※症例報告と過去の文献レビュー。)
- Engman, M.L., et al. (2014). The 17q11.2 microduplication syndrome: A distinct clinical entity.
- (※本疾患がNF1とは異なる独自の臨床単位であることを定義づけた論文。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: NF1 (Triplosensitivity score: 1 – Little evidence for dosage pathogenicity by itself), RNF135.
- (※NF1遺伝子単独の重複よりも、領域全体の重複による複合的な影響が示唆されている評価。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 17q11.2 microduplications (2019).
- (患者家族向けのガイドライン。)
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