17q12 duplication syndrome

Posted on 2026年 1月 20日

別名・関連疾患名

  • 17q12重複症候群
  • 17q12微細重複症候群(17q12 microduplication syndrome)
  • 部分的トリソミー17q12(Partial trisomy 17q12)
  • 17q12コピー数変異(重複)(17q12 copy number variant, duplication)
  • 関連:17q12欠失症候群(17q12 deletion syndrome)※本疾患と対になる「欠失」の疾患

対象染色体領域

17番染色体 長腕(q)12領域

本疾患は、ヒトの17番染色体の長腕にある「12」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。

【ゲノム上の詳細と重要性】

17q12領域は、約1.4メガベース(Mb)の長さを持つ領域で、ここには約15個以上の遺伝子が含まれています。

この領域が「欠失(Deletion)」すると、腎嚢胞や若年発症糖尿病(MODY5)を引き起こす「17q12欠失症候群」となります。

一方、本疾患である「重複(Duplication)」は、同じ領域の遺伝子が増えすぎてしまう状態です。

【含まれる主要な遺伝子】

重複による症状形成には、以下の遺伝子の過剰(遺伝子量効果)が関与していると考えられています。

  • HNF1B (Hepatocyte Nuclear Factor 1-Beta):
    • 欠失すると腎臓病や糖尿病の原因になりますが、重複した場合の影響はまだ完全には解明されていません。しかし、脳や腎臓の発達における制御バランスを崩す一因と考えられています。
  • LHX1 (LIM Homeobox 1):
    • 脳の神経細胞の移動や配置、および生殖器の発達に関わる遺伝子です。
    • この遺伝子の過剰発現が、本症候群に見られる**「てんかん」「神経発達症(自閉スペクトラム症など)」、および「学習障害」**の主要な要因である可能性が研究されています。
  • ACACA / AATF:
    • 脂質代謝や細胞シグナルに関わる遺伝子で、重複範囲に含まれます。

発生頻度

稀(Rare)

正確な発生頻度は確立されていませんが、一般集団における頻度は数千人〜数万人に1人程度と推測されています。

いくつかの大規模な遺伝学的調査では、以下のようなデータが報告されています。

  • 一般集団(未診断の保因者含む)では、約1/10,000 〜 1/14,000程度という報告があります。
  • 発達遅滞や知的障害を持つ患者群の中では、約0.3%〜0.9%程度の頻度で見つかります。

【診断率に関する注意点】

17q12重複症候群は、身体的な大奇形(心臓病や見た目の特徴など)を伴わないことが多く、症状が「発達の遅れ」や「てんかん」のみである場合が多々あります。そのため、染色体検査(マイクロアレイ)が行われない限り診断がつかず、単なる「原因不明の発達障害」や「特発性てんかん」として扱われているケースが相当数あると考えられています(過少診断)。

臨床的特徴(症状)

17q12 duplication syndromeの症状は、非常に個人差が大きい(可変表現性)ことが特徴です。

重度の発達遅滞を持つ方もいれば、通常学級に通い社会生活を送っている方もおり、無症状のまま大人になり、子供の検査をきっかけに自分が重複を持っていることを知る親御さんもいます。

主な臨床的特徴は以下の通りです。

1. 神経発達・認知機能(中核的な特徴)

多くの診断された患者さんにおいて、何らかの発達への影響が見られます。

  • 発達遅滞(DD):
    • 乳幼児期の運動発達(歩き始めなど)や、言葉の獲得に遅れが見られることがあります。
    • 特に**言語発達の遅れ(Expressive language delay)**は顕著で、受診のきっかけになりやすい症状です。
  • 知的障害(ID):
    • 軽度から中等度の知的障害を伴うことが多いですが、境界域(Borderline)や平均的な知能(Normal IQ)を持つ方も少なくありません。
    • 知能指数に問題がなくても、学習障害(LD)のような特定の苦手さを持つ場合があります。
  • 運動機能:
    • 筋緊張低下(Hypotonia)が乳幼児期に見られることがあり、運動の不器用さにつながることがあります。

2. 行動・精神面の特性

  • 自閉スペクトラム症(ASD):
    • 社会的コミュニケーションの難しさや、こだわり、反復行動などのASD特性を持つ頻度が高いです。
  • その他の行動特性:
    • 注意欠陥・多動性障害(ADHD)、不安障害、衝動性、強迫的行動、攻撃的行動などが報告されています。
    • 感情のコントロールが苦手で、かんしゃくを起こしやすい(易刺激性)場合もあります。

3. 神経学的症状(てんかん)

  • てんかん(Epilepsy):
    • 本疾患の重要な特徴の一つです。患者さんの約20〜30%(報告によってはそれ以上)にてんかん発作が見られます。
    • 発症時期は乳幼児期から小児期が多く、発作タイプは欠神発作や全般強直間代発作など様々です。多くは抗てんかん薬でコントロール可能ですが、難治性となる場合もあります。

4. 身体的特徴・顔貌

「17q12欠失症候群」のような糖尿病や重篤な腎臓病は、重複症候群では稀です。

  • 顔貌:
    • 特異的な顔貌(Dysmorphism)は目立たないことが多いですが、よく観察すると「平坦な眉毛」「深い眼窩(目が奥まっている)」「眼間開離(目が離れている)」「低い鼻根」などの微細な特徴が見られることがあります。
  • 腎臓:
    • 欠失症候群では必発に近い腎嚢胞ですが、重複症候群では腎奇形の合併率は低いです。しかし、稀に腎臓の形態異常が見られることがあります。
  • 視覚異常:
    • 斜視、弱視、皮質視覚障害(CVI)などが報告されています。
  • その他:
    • 食道閉鎖や嚥下障害、低身長、関節の過伸展などが稀に見られます。

原因

17番染色体長腕(17q12)における約1.4Mbの微細重複が原因です。

1. 発生機序:NAHR(非アリル間同源組換え)

この領域での重複が発生するメカニズムは、対になる疾患「17q12欠失症候群」と全く同じです。

17q12領域の両端には、DNA配列が互いによく似た「反復配列(LCR)」が存在します。

精子や卵子が作られる減数分裂の際、この似た配列同士が誤ってペアを組み、染色体の組換え(情報の交換)が起こると、以下のような結果が生じます。

  • 片方の染色体:領域が抜け落ちる → 欠失(17q12欠失症候群:糖尿病・腎嚢胞)
  • もう片方の染色体:領域が倍になる → 重複(17q12重複症候群:発達遅滞・てんかん)

2. 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect)

  • LHX1の過剰:
    • LHX1遺伝子は脳の形成に関わる重要な遺伝子です。これが過剰になることで、脳の神経ネットワークの微細な形成異常が生じ、てんかんやASD、学習障害のリスクが高まると考えられています。
  • HNF1Bの過剰:
    • 欠失の場合は糖尿病になりますが、重複(過剰)の場合は通常、糖尿病にはなりません。しかし、腎臓の発達などにおいて微妙な影響を与える可能性は否定できません。

3. 遺伝形式

  • 常染色体顕性(優性)遺伝: 親が重複を持っている場合、子に遺伝する確率は50%です。
  • De novo(新生突然変異): 多くの症例は、両親からの遺伝ではなく、突然変異で発生します。
  • 家族性(不完全浸透):
    • 本疾患の最大の特徴の一つは、**「不完全浸透(Incomplete Penetrance)」**です。
    • 親が同じ重複を持っていても、全く無症状(あるいは軽微な学習困難程度)で社会生活を送っているケースが非常に多く見られます。
    • 「親は無症状だが、子は発達遅滞がある」という現象が起こるため、診断時には両親の検査も含めた慎重な解釈が必要です。

診断方法

身体的な特徴が少ないため、臨床症状(見た目)だけで診断することは困難です。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 現在のゴールドスタンダードです。17q12領域のコピー数が「3」になっていることを確認し、確定診断とします。
  • てんかんパネル検査など:
    • 原因不明のてんかんや発達障害として遺伝子パネル検査を受けた際に、偶発的にこのCNV(コピー数変異)が見つかることがあります。

治療方法

染色体の重複を治す根本的な治療法はありません。

治療は、お子さんの困りごとに合わせた対症療法と療育的支援が中心となります。

1. 神経発達・教育的支援(療育)

  • 早期介入:
    • 発達の遅れが気になった時点から、療育(Early Intervention)を開始します。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 言葉の遅れに対し、コミュニケーション指導を行います。視覚的な手がかりやAAC(補助代替コミュニケーション)の活用も検討します。
  • 作業療法(OT):
    • 不器用さや感覚過敏がある場合、生活動作の練習や感覚統合療法を行います。
  • 教育環境:
    • 知的障害の有無や程度、学習障害の特性に合わせ、通級指導教室や特別支援学級などの利用を検討します。
    • 視覚優位(見て理解するのが得意)な場合が多いため、学校生活では視覚的支援を取り入れるとスムーズな場合があります。

2. 医学的管理

  • てんかんの治療:
    • 発作がある場合、脳波検査に基づいて適切な抗てんかん薬を使用します。定期的な脳波フォローアップが必要です。
  • 精神科的ケア:
    • ASDに伴う行動問題や、不安、衝動性が強い場合は、環境調整や薬物療法を行います。
  • 定期検診:
    • 視力検査:斜視や視力障害の早期発見に努めます。
    • 腎臓:欠失症候群ほどリスクは高くありませんが、念のため診断時に腎臓超音波検査を行うことが推奨される場合があります。
    • 歯科:歯並びの問題などがあれば歯科矯正を検討します。

3. 遺伝カウンセリング

  • 本疾患は「親から遺伝している可能性」と「遺伝しても症状が出るとは限らない(不完全浸透)」という複雑な性質を持っています。
  • 親御さんが「自分のせいで」と罪悪感を感じないよう、また次子の再発リスクを正しく理解できるよう、専門家(臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー)によるカウンセリングが重要です。

まとめ

17q12 duplication syndromeは、17番染色体の一部が増えることで生じる先天性の体質です。

この重複を持つお子さんは、言葉がゆっくりだったり、てんかん発作を起こしやすかったりすることがありますが、一方で大きな身体の病気を持つことは少ないです。

症状の個人差が非常に大きく、重複を持っていても全く症状がない人もいれば、支援を必要とする人もいます。

診断を受けた後は、その子自身の「得意なこと」と「苦手なこと」を丁寧に見極め、早期から療育や教育的サポートを行うことが大切です。

ご家族だけで抱え込まず、医療、教育、福祉の専門家とチームを組み、お子さんの成長を長い目で見守っていくことが、豊かな生活につながります。

参考文献

  • Mefford, H.C., et al. (2007). Recurrent reciprocal genomic rearrangements of 17q12 are associated with renal disease, diabetes, and epilepsy. American Journal of Human Genetics.
    • (※17q12領域の欠失と重複を比較し、重複症候群においててんかんや知的障害が主要な特徴であることを報告した、本疾患の概念を確立した重要論文。)
  • Nagamani, S.C., et al. (2010). Clinical spectrum associated with recurrent genomic rearrangements in chromosome 17q12. European Journal of Human Genetics.
    • (※欠失と重複の臨床像を詳細に比較検討し、重複症候群の表現型の多様性について記述した研究。)
  • Hardies, K., et al. (2013). 17q12 recurrent deletions and duplications in patients with idiopathic epilepsies. Seizure.
    • (※特発性てんかん患者における17q12重複の頻度を調査し、てんかんとの強い関連を示した文献。)
  • Mitchell, E., et al. (2015). Recurrent duplications of 17q12 associated with variable phenotypes. American Journal of Medical Genetics.
    • (※重複症候群の臨床症状の多様性(可変表現性)と不完全浸透について詳しく報告した論文。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: LHX1 (Triplosensitivity score: 2 – Emerging evidence), HNF1B.
    • (※LHX1などの遺伝子が重複することによる影響度を評価したデータベース。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 17q12 microduplications (2018).
    • (患者家族向けのガイドライン。生活上のアドバイスや症状の詳細が網羅されています。)

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