別名・関連疾患名
- 17q22欠失症候群
- 17q22微細欠失症候群(17q22 microdeletion syndrome)
- NOG関連17q22欠失症候群(NOG-related 17q22 deletion syndrome)
- 17q22モノソミー(Monosomy 17q22)
- 関連:近位指節間関節癒合症(Proximal symphalangism; SYM1)
- 関連:多発性骨癒合症症候群(Multiple synostoses syndrome 1; SYNS1)
※疾患の位置づけについて:
17q22領域には、骨や関節の形成に決定的な役割を果たすNOG遺伝子が含まれています。
この遺伝子の変異や欠失は、指の関節が癒合して曲がらなくなる「シンファランジズム(指節癒合症)」などの骨系統疾患を引き起こすことが知られています。
「17q22 deletion syndrome」は、このNOG遺伝子を含む染色体領域が欠失することで、骨・関節の症状に加え、欠失範囲によっては発達の遅れなどを併発する「隣接遺伝子症候群」として扱われます。
対象染色体領域
17番染色体 長腕(q)22領域
本疾患は、ヒトの17番染色体の長腕にある「22」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【ゲノム上の詳細と責任遺伝子】
欠失のサイズは患者さんによって異なります(数百kb〜数Mb)が、本症候群の最も特徴的な症状(骨・関節・聴覚)を引き起こすのは、以下の遺伝子の欠失です。
- NOG (Noggin):
- 最重要の責任遺伝子です。
- NOG遺伝子が作るタンパク質「ノギン(Noggin)」は、**BMP(骨形成因子)**というタンパク質の働きを適度に抑えるブレーキの役割をしています。
- 通常、胎児の手足が作られる際、関節になる部分は細胞が死滅して隙間(関節腔)ができますが、これにはBMPシグナルの適切な抑制が必要です。
- NOGが欠失してブレーキが効かなくなると、BMPが過剰に働き、本来関節になるべき場所も骨になってつながってしまいます(骨癒合)。
- これが、本症候群の特徴である「指の関節が曲がらない」「耳の骨が固まる(難聴)」という症状の直接的な原因です。
- その他の遺伝子:
欠失が広範囲に及ぶ場合、RNF43やTRIM25など、周辺の他の遺伝子も一緒に失われます。これが、単なるNOG遺伝子変異(骨の病気のみ)とは異なり、発達遅滞やその他の全身症状を合併する要因になっていると考えられています。
発生頻度
非常に稀(Very Rare)
17q22欠失症候群の正確な発生頻度は確立されていません。
世界的な医学文献における症例報告数も数十例規模であり、希少染色体異常の中でも稀な部類に入ります。
ただし、本疾患の主症状である「指の関節が曲がらない」「難聴」といった症状は、命に関わるものではないため、軽症の場合は「家系的な体質」として見過ごされ、遺伝学的診断に至っていないケース(過少診断)が一定数存在すると推測されます。
臨床的特徴(症状)
17q22 deletion syndromeの症状は、**「骨・関節の異常」「聴覚障害」「軽度の発達遅滞」**が3つの柱となります。
特に骨と耳の症状はNOG遺伝子の欠失に直結しており、非常に特徴的です。
1. 骨・関節の異常(Skeletal / Joint anomalies)
出生直後から認められる最も顕著な特徴です。痛みはありませんが、動きに制限が出ます。
- 近位指節間関節癒合症(Symphalangism):
- 手指や足指の「第2関節(PIP関節)」が癒合してしまい、曲げることができません。
- 見た目には、指の関節のシワ(皮線)が消失しており、指がツルッとした棒状に見えるのが特徴です。
- 親指以外の指、特に小指や薬指に多く見られますが、全ての指に及ぶこともあります。
- 手根骨・足根骨癒合症(Carpal/Tarsal coalition):
- 手首(手根骨)や足首(足根骨)にある小さな骨同士がくっついてしまいます。
- 足根骨癒合により、偏平足や足の痛み、歩行時の疲れやすさが生じることがあります。
- その他の骨格異常:
- 短い指(短指症)、親指の付け根が太い(幅広母指)、肘関節の可動域制限(肘が完全に伸びない・曲がらない)、脊柱の異常などが報告されています。
2. 聴覚障害(難聴)
本症候群におけるQOL(生活の質)に関わる重要な症状です。
- 伝音性難聴(Conductive hearing loss):
- 幼少期から難聴を認めることが多いです。
- 原因は、中耳にある音を伝える小さな骨(耳小骨:ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)のうち、**アブミ骨(Stapes)**が固着して動かなくなること(Stapes ankylosis)です。
- 耳小骨にも関節のような構造があり、NOG遺伝子の欠失によりこの部分も骨癒合してしまうため、音がうまく伝わらなくなります。
- 進行性である場合があり、早期発見が言語発達において重要です。
3. 神経発達・認知機能
骨だけの病気(NOG変異単独)とは異なり、染色体欠失症候群として以下の特徴が見られることがあります。
- 発達遅滞・知的障害:
- 多くの症例報告では、軽度から中等度の発達遅滞や知的障害が認められています。
- ただし、重度であることは稀であり、通常の学校生活を送っている患者さんもいます。
- 難聴がある場合、言葉の遅れが「知的な遅れ」によるものか「聞こえにくさ」によるものかの鑑別が重要です。
- 行動特性:
- 注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの行動特性が見られる場合がありますが、特異的な行動パターンは定まっていません。
4. 特徴的な顔貌
「この病気特有」というほど強い特徴ではありませんが、いくつかの共通点(Dysmorphism)が報告されています。
- 広い前頭部(おでこが広い)
- 眼間開離(目が離れている)
- 薄い上唇
- 耳の形の異常(低位付着耳など)
- 小さな顎(小顎症)
5. その他の合併症
- 眼科: 遠視、斜視などが報告されています。
- 腎・尿路系: 稀に腎臓の形態異常が合併することがあります。
心血管系: 報告は少ないですが、心疾患の合併例も存在します。
原因
17番染色体長腕(17q22)における微細欠失による、NOG遺伝子等のハプロ不全が原因です。
1. NOG遺伝子とBMPシグナル
なぜ「関節」と「耳」がおかしくなるのでしょうか?
- 関節の形成: 胎児の手足は最初、水かきのような塊ですが、プログラムされた細胞死(アポトーシス)によって指が分かれ、骨の間に関節腔ができます。このプロセスを精密に制御しているのが、骨を作るアクセル「BMP」と、ブレーキ「Noggin(NOG)」です。
- ブレーキの故障: 17q22欠失によりNogginが不足すると、BMPのブレーキが効かなくなります。すると、本来関節として隙間ができるはずの場所でも骨形成が進んでしまい、骨と骨がつながってしまいます(癒合)。
- 耳小骨: 耳の奥の小さな骨(アブミ骨など)も関節でつながって動いていますが、ここも同様に固まってしまうため、難聴が起こります。
2. 遺伝形式
- 常染色体顕性(優性)遺伝:
- 親から子へ50%の確率で遺伝します。
- 家族内発症が多い: 本疾患(または類似の骨系統疾患)は、親も同じ症状(指が曲がらない、難聴がある)を持っているケースがよく見られます。親が「NOG点変異」ではなく「17q22欠失」を持っていた場合、子供にも欠失が遺伝します。
- De novo(新生突然変異):
- 両親は健常で、子供で初めて発生する突然変異のケースもあります。
診断方法
「指の関節のシワがない」「指が曲がらない」という身体所見が診断の強いきっかけになります。
- X線検査(レントゲン):
- 手足のレントゲンで、指節間関節や手根骨・足根骨の癒合を確認します。関節の隙間がなくなり、骨が連続している像が見られます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 17q22領域の欠失を検出し、欠失範囲(サイズ)と含まれる遺伝子(NOGが含まれているか)を特定することで確定診断となります。
- 聴力検査:
- 伝音性難聴の有無を確認します。
治療方法
欠失した染色体を修復する根本治療法はありません。
治療は、骨・関節の症状に対する整形外科的対応、難聴に対する耳鼻科的対応、および発達支援の3本柱となります。
1. 整形外科的治療・管理
- 観察と保存療法:
- 手指の関節癒合(シンファランジズム)自体には痛みがないため、日常生活に大きな支障がなければ手術は行わず、道具の工夫(自助具の使用など)で対応します。
- 足の管理:
- 足根骨癒合により痛みがある場合や、著しい偏平足で歩行が困難な場合は、中敷き(アーチサポート)や特注靴を使用します。
- 重度の場合は、癒合部分を切除する手術や、逆に関節を固定する手術を検討することもありますが、慎重に判断されます。
2. 耳鼻咽喉科的治療(難聴対策)
- 補聴器:
- 伝音性難聴に対して、早期から補聴器を使用し、聴覚と言語の発達を促します。
- アブミ骨手術:
- 耳硬化症の手術と同様に、固着したアブミ骨の一部を取り除き、人工アブミ骨に置き換える手術(アブミ骨手術)が行われることがあります。これにより聴力が劇的に改善する可能性がありますが、適応は慎重に決定されます。
3. 発達・教育的支援
- 療育(ハビリテーション):
- 発達の遅れがある場合、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を行います。
- 特に手指の巧緻性(手先の器用さ)に制限がある場合、OTによる生活動作の工夫やトレーニングが有効です。
- 教育環境:
- 知的発達の程度や難聴の有無に合わせ、通常の学級での配慮(座席の前方確保、FM補聴システムの利用など)や、通級指導教室、特別支援学級などの利用を検討します。
4. 遺伝カウンセリング
- 本疾患は「骨の症状だけ」の場合もあれば「発達の遅れ」を伴う場合もあり、個人差があります。
- 次子の妊娠を考えている場合や、親自身にも似た症状がある場合、遺伝形式や再発リスクについて専門家と相談することが推奨されます。
まとめ
17q22 deletion syndromeは、17番染色体の一部(NOG遺伝子など)が欠失することで、骨と関節、そして耳の骨に特徴的な変化が現れる疾患です。
「指の関節が生まれつき固まっていて曲がらない」という症状は、一見不便そうに見えますが、痛みはなく、多くのお子さんは器用に手を使って日常生活に適応していきます。
一方で、外見からは分かりにくい「難聴」が隠れていることがあり、これが言葉の発達に影響を与える可能性があるため、早期の発見と対応(補聴器など)が非常に重要です。
また、発達のペースがゆっくりな場合もありますが、それぞれの特性に合わせた療育や教育的サポートを受けることで、着実に成長していきます。
整形外科や耳鼻科の定期的なフォローを受けながら、ご本人が持ち前の能力を発揮できるよう、環境を整えていくことが大切です。
参考文献
- Potti, T.A., et al. (2011). A novel 17q22 microdeletion associated with NOG-related symphalangism spectrum. American Journal of Medical Genetics Part A.
- (※17q22微細欠失とNOG関連シンファランジズム(指節癒合)スペクトラムとの関連を報告し、NOG遺伝子のハプロ不全が主原因であることを示した重要論文。)
- GeneReviews® [Internet]: NOG-Related-Symphalangism Spectrum Disorder. Initial Posting: February 16, 2006; Last Update: October 12, 2017. Authors: Potti TA, et al.
- (※NOG遺伝子異常による疾患群の包括的ガイドライン。17q22欠失についても言及されており、臨床マネジメント(特に難聴や外科的治療)に関する詳細な情報源。)
- Takahashi, Y., et al. (2013). 1.6 Mb microdeletion of 17q22 including NOG in a patient with proximal symphalangism, conductive hearing loss, and intellectual disability.
- (※17q22欠失患者(日本人の症例含む)の詳細な報告。NOG欠失による骨・聴覚症状に加え、周辺遺伝子の欠失による知的障害の合併について考察しています。)
- Su, P., et al. (2019). Identification of a 17q22 deletion in a father and son with symphalangism and intellectual disability.
- (※親子例の報告。家族性があることや、表現型の多様性についての文献。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: NOG (Haploinsufficiency score: 3 – Sufficient evidence).
- (※NOG遺伝子のハプロ不全(欠失)が疾患を引き起こすことの科学的根拠評価。)
- DECIPHER Database: Genomic coordinates and phenotype data for 17q22 deletions.
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