17q23.1-q23.2 duplication syndrome

Posted on 2026年 1月 20日

別名・関連疾患名

  • 17q23.1-q23.2重複症候群
  • 17q23.1-q23.2微細重複症候群(17q23.1-q23.2 microduplication syndrome)
  • 部分的トリソミー17q23(Partial trisomy 17q23)
  • 17q23コピー数変異(重複)(17q23 copy number variant, duplication)
  • 関連:先天性内反足(Congenital Talipes Equinovarus; CTEV / Clubfoot)
  • 関連:家族性特発性内反足(Familial isolated clubfoot)

対象染色体領域

17番染色体 長腕(q)23.1から23.2領域

本疾患は、ヒトの17番染色体の長腕(qアーム)にある「23.1」から「23.2」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。

【ゲノム上の詳細と特徴】

この領域は、約2.2メガベース(Mb)のサイズを持つことが一般的です。

この場所は、遺伝学的にも非常に注目されている「ホットスポット」であり、全く同じ領域が欠失すると「小膝蓋骨症候群(17q23.1-q23.2欠失症候群)」になります。

本疾患(重複)は、その逆の現象(Reciprocal duplication)ですが、含まれる遺伝子が過剰になることで、欠失とは異なる独特の症状を引き起こします。

【重要な責任遺伝子:TBX4とTBX2】

この領域には約20個の遺伝子が含まれていますが、症状の形成には以下の2つの遺伝子の過剰(遺伝子量効果)が深く関わっています。

  • TBX4 (T-Box Transcription Factor 4):
    • 下肢の形成: 胎児期に「脚(下肢)」が作られる際の司令塔となる遺伝子です。
    • 重複の影響: この遺伝子が欠失すると「膝のお皿が小さくなる」のに対し、重複して過剰になると、足の骨や関節の形成バランスが崩れ、**「先天性内反足(Clubfoot)」**などの形態異常を引き起こすことが特定されています。
  • TBX2 (T-Box Transcription Factor 2):
    • 心臓の形成: 心臓の発生、特に中隔や弁の形成に関わる遺伝子です。

重複の影響: この遺伝子の過剰は、心房中隔欠損症などの先天性心疾患のリスクを高めると考えられています。

発生頻度

稀(Rare)

17q23.1-q23.2重複症候群の正確な発生頻度は確立されていません。

世界的な医学文献での報告数は数十例程度ですが、これは「症候群」として診断された数に過ぎません。

実際には、単なる「家族性の内反足」として治療されている患者さんの中に、この染色体重複を持っている方が一定数含まれていることが分かっています。

したがって、身体的な大奇形や重度の知的障害を伴わない軽症例を含めると、診断されていない潜在的な患者数は報告数よりも多いと考えられています。

臨床的特徴(症状)

17q23.1-q23.2 duplication syndromeの臨床像は、**「骨格異常(特に内反足)」「心疾患」「軽度の発達遅滞」**の3つが柱となります。

欠失症候群(小膝蓋骨症候群)と比べると、骨の症状の出方が異なり、また肺高血圧症のリスクについては現時点では明確な関連は指摘されていません。

1. 骨格・四肢の異常(内反足)

本症候群の最も象徴的かつ高頻度な特徴です。

  • 先天性内反足(Clubfoot / Talipes Equinovarus):
    • 足の裏が内側を向き、足先が下を向いた状態で硬くなっている変形です。
    • 片足のみの場合もあれば、両足に生じる場合もあります。
    • 一般的な内反足は多因子遺伝(遺伝+環境)ですが、本症候群の場合はTBX4遺伝子の重複という単一の要因が強く影響しています。
  • 股関節形成不全(Hip dysplasia):
    • 股関節の屋根(臼蓋)が浅く、脱臼しやすい状態が見られることがあります。
  • その他の骨格異常:
    • 手指の軽度の異常(第5指の湾曲など)が報告されていますが、欠失症候群で見られるような「膝蓋骨の欠損」は通常見られません。

2. 先天性心疾患

約半数程度の患者さんに心疾患が認められます。これはTBX2遺伝子の過剰発現による影響と考えられています。

  • 心房中隔欠損症(ASD): 左右の心房の間の壁に穴が開いている疾患です。
  • 心室中隔欠損症(VSD): 心室の間の壁に穴が開いている疾患です。
  • その他: 動脈管開存症(PDA)などの報告があります。多くは手術やカテーテル治療で管理可能なものです。

3. 神経発達・認知機能

発達への影響は、個人差が非常に大きいのが特徴です。

  • 発達遅滞(DD):
    • 運動発達(歩行開始など)の遅れが見られることがありますが、これは内反足や股関節の問題による二次的な遅れである可能性も含まれます。
    • 言葉の遅れ(Speech delay)が見られることがあります。
  • 知的障害(ID):
    • 多くの患者さんは正常範囲の知能、あるいは軽度の学習障害程度です。
    • 中等度〜重度の知的障害を伴うケースは比較的稀であり、通常の学校生活や社会生活を送っている患者さんも多くいます。
  • 行動特性:
    • 注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持つ場合があるという報告がありますが、確立された特徴ではありません。

4. 身体的特徴・顔貌

  • 顔貌:
    • 特異的な顔貌(Dysmorphism)は目立たない(非特異的)ことが多いです。
    • 詳細な観察では、広い前頭部、眼間開離、薄い上唇、小さな顎などの特徴が報告されることがありますが、家族に似ている範囲内であることも多いです。
  • 聴覚:
    • 伝音性または感音性の難聴が合併することがあります。

原因

17番染色体長腕(17q23.1-q23.2)における約2.2Mbの微細重複が原因です。

1. 発生機序:NAHR(非アリル間同源組換え)

なぜこの場所で重複が起こるのでしょうか?

この領域のDNA構造には特徴があります。

17q23.1-q23.2領域の両端には、DNA配列が互いによく似た「反復配列(LCR: Low Copy Repeats)」が存在します。

精子や卵子が作られる減数分裂の際、この似た配列同士が誤ってペアを組み、染色体の組換え(情報の交換)が起こると、エラーが発生します。

  • 一方の染色体では領域が抜け落ちる → 欠失(小膝蓋骨症候群)
  • もう一方の染色体では領域が倍になる → 重複(17q23.1-q23.2重複症候群)

つまり、この重複症候群は、欠失症候群と「表裏一体」の関係にあります。

2. TBX4遺伝子の用量効果(Gene Dosage Effect)

遺伝子は「あればあるほど良い」わけではありません。特に「転写因子」と呼ばれる遺伝子群は、その量のバランスが重要です。

  • TBX4遺伝子:
    • 四肢(特に後ろ足)の発生を指令する遺伝子です。
    • これが過剰になる(3コピーになる)と、足を作るためのシグナルが強くなりすぎたり、タイミングがずれたりします。その結果、筋肉や腱、骨の成長バランスが崩れ、足が内側に引っ張られるような形(内反足)になると考えられています。
    • 実際に、動物実験(マウス)などでも、Tbx4の発現量が変わると肢の形成に異常が出ることが確認されています。

3. 遺伝形式

  • 常染色体顕性(優性)遺伝:
    • 親が重複を持っている場合、子に遺伝する確率は50%です。
  • De novo(新生突然変異):
    • 両親は正常で、子で初めて発生する場合もあります。
  • 家族性(不完全浸透・可変表現性):
    • 本疾患の重要な特徴として、**「親からの遺伝」**が比較的多く見られます。
    • 親自身も重複を持っているが、「子供の頃に内反足の手術をしただけで、今は健康」という場合や、「全く症状がない(不完全浸透)」場合があります。
    • 家族内で同じ重複を持っていても、症状の重さが異なる(親は軽症、子は心疾患あり、など)ことがあります。

診断方法

「内反足」と「心疾患」の合併、あるいは家族に同様の症状がある場合などに疑われます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 現在のゴールドスタンダードです。17q23.1-q23.2領域のコピー数が「3」になっていることを検出し、確定診断とします。
    • 従来のGバンド検査では、重複が微細な場合に見逃される可能性があります。
  • 出生前診断:
    • 胎児エコーで「内反足」や「心疾患」が見つかり、羊水検査(マイクロアレイ)を行って発見されるケースもあります。

治療方法

過剰な染色体領域を取り除くような根本的な遺伝子治療法はありません。

治療は、内反足や心疾患に対する**標準的な治療(対症療法)**が中心となります。早期発見・早期治療により、予後は良好であることが多いです。

1. 整形外科的治療(内反足)

早期からの介入が非常に重要です。

  • ポンセティ法(Ponseti method):
    • 世界標準となっている治療法です。生後まもなくから、矯正ギプスを1週間ごとに巻き直し、徐々に足の形を矯正していきます。
    • 多くのケースで、アキレス腱を少し切る小手術(皮下切腱術)を併用します。
    • その後、再発を防ぐために装具(デニスブラウン装具など)を数年間(通常4〜5歳頃まで)装着します。
  • 外科的手術:
    • ギプス矯正で改善が不十分な場合や、変形が強い場合は、骨や腱の手術を行うことがあります。

2. 循環器管理

  • 心疾患の治療:
    • 心房中隔欠損症などの心疾患がある場合、定期的な心エコー検査で経過観察を行います。
    • 穴が大きく自然閉鎖しない場合や、心不全症状がある場合は、カテーテル治療や手術を行います。

3. 発達・教育的支援

  • 発達評価と療育:
    • 発達の遅れがある場合、理学療法(PT)や作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を行います。
    • 特に内反足の治療中は歩行開始が遅れることがあるため、足の状態に合わせた運動発達支援が大切です。
  • 学習支援:
    • 知的発達は正常範囲のことが多いですが、学習面での苦手さ(LD傾向など)がある場合は、学校での個別支援や配慮を求めます。

4. 遺伝カウンセリング

  • 親自身が「昔、内反足だった」という場合、親も同じ重複を持っている可能性があります。
  • 次子の再発リスクや、将来の見通しについて、正確な情報を得るために臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと相談することが推奨されます。

まとめ

17q23.1-q23.2 duplication syndromeは、17番染色体の一部が増えることで、主に「足の形(内反足)」や「心臓」に影響が出る体質です。

「染色体異常」と聞くと不安になるかもしれませんが、この疾患は知的障害を伴わない、あるいは軽度であることも多く、適切な治療を受ければ通常の社会生活を送っている方がたくさんいます。

特に内反足に関しては、ポンセティ法などの確立された治療法があり、早期からケアを始めることで、スポーツができるレベルまで回復することも十分に可能です。

症状には個人差があり、ご家族の中で受け継がれている場合もあります。

整形外科や循環器科での身体的なケアと、必要に応じた発達サポートを組み合わせることで、お子さんの健やかな成長を支えていくことができます。

参考文献

  • Alvarado, D.M., et al. (2010). Familial isolated clubfoot is associated with recurrent chromosome 17q23.1q23.2 microduplications containing TBX4. American Journal of Human Genetics.
    • (※家族性特発性内反足の患者において、17q23.1-q23.2重複が高頻度で見つかることを発見し、TBX4遺伝子の重複が内反足の主要なリスク因子であることを証明した画期的な論文。)
  • Ballif, B.C., et al. (2010). 17q23.1q23.2 microdeletion syndrome: a newly recognized contiguous gene deletion syndrome involving TBX2 and TBX4. (References reciprocal duplication).
    • (※欠失症候群の報告の中で、相反する重複症候群についても言及し、TBX2/TBX4の用量効果について考察した重要文献。)
  • Lolin, K., et al. (2013). 17q23.1-q23.2 duplication syndrome: Three new patients and review of the literature.
    • (※重複症候群の新たな症例を報告し、内反足、心疾患、軽度発達遅滞といった臨床特徴をまとめたレビュー。)
  • Patel, N., et al. (2012). Recurrent 17q23.1q23.2 microduplications that include TBX4 are associated with pulmonary hypertension.
    • (※一部の重複症候群患者において肺高血圧症の報告があることについての研究。ただし欠失ほど強い相関ではない。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: TBX4 (Triplosensitivity score: 3 – Sufficient evidence), TBX2.
    • (※TBX4遺伝子が重複(3コピー)になることで内反足などの病原性を持つことを裏付ける専門データベース評価。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 17q23 microduplications (2018).
    • (患者家族向けのガイドライン。)

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