別名・関連疾患名
- 19p13.12微細欠失症候群
- 19p13.12欠失症候群
- マラン症候群(Malan syndrome)※
- ソトス症候群2型(Sotos syndrome 2)※歴史的な名称
- NFIX関連過成長症候群(NFIX-related overgrowth syndrome)
- 19p13.12モノソミー(Monosomy 19p13.12)
※疾患名と分類についての重要事項:
19p13.12領域には、**NFIX(Nuclear factor I X)という重要な遺伝子が含まれています。
近年の研究により、この領域の欠失によって引き起こされる症状の大部分は、NFIX遺伝子の機能喪失によるものであることが判明しました。
NFIX遺伝子そのものの点変異(遺伝子の文字化け)によって起こる疾患は「マラン症候群」**と呼ばれます。
19p13.12欠失症候群は、NFIX遺伝子を含む周辺のDNAがまとめて欠失している状態ですが、臨床的な症状がマラン症候群とほぼ同一であるため、現在では広義の「マラン症候群」の一部、あるいは同義として扱われることが多くなっています。本記事では、染色体欠失による特徴も含めて解説します。
対象染色体領域
19番染色体 短腕(p)13.12領域
本疾患は、ヒトの19番染色体の短腕(pアーム)にある「13.12」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【ゲノム上の詳細と責任遺伝子】
- 責任遺伝子(NFIX):
- この欠失領域内で、本症候群の症状(過成長、知的障害、特徴的顔貌)を引き起こす決定的な原因となっているのがNFIX遺伝子です。
- NFIX遺伝子は、転写因子(他の遺伝子の働きを調節するタンパク質)を作り、胎児期の脳の発達や骨格の形成において、細胞の増殖と分化のバランスをコントロールする重要な役割を担っています。
- 隣接遺伝子症候群としての側面:
- 点変異によるマラン症候群とは異なり、微細欠失症候群ではNFIX以外の周辺遺伝子も同時に失われます。
- 例えば、近傍の遺伝子が巻き込まれることで、純粋なマラン症候群には見られない症状(特定の免疫系の問題や代謝異常など)が合併する可能性がありますが、現在のところNFIX以外の遺伝子による明確な追加症状は完全には定義されておらず、NFIX欠失の影響が主体的であると考えられています。
発生頻度
非常に稀(Ultra-rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
マラン症候群(19p13.12欠失を含む)全体の報告数は、世界で数百例程度とされています。
ただし、臨床的特徴が「ソトス症候群(NSD1遺伝子異常)」と非常によく似ているため、かつては「ソトス症候群の検査をして陰性だった人(ソトス症候群様患者)」として診断がつかないまま過ごされていたケースが多くありました。
近年のマイクロアレイ染色体検査(CMA)や次世代シーケンサー(NGS)の普及により、診断される患者数は増加傾向にあり、過少診断(Underdiagnosis)されている可能性が高い疾患の一つです。
臨床的特徴(症状)
19p13.12 microdeletion syndromeの症状は、**「過成長(高身長)」「知的障害」「特徴的な顔貌」**の3つが中核的な特徴です。
これらの特徴は、ソトス症候群と共通点が多いですが、詳しく見ると異なる点も存在します。
1. 身体的成長(過成長:Overgrowth)
出生前または出生後からの身体の大きさが特徴です。
- 高身長:
- 胎児期から大きめであることもありますが、多くは出生後の乳幼児期〜小児期にかけて身長が伸び、成長曲線の+2SD(標準偏差)を超える高身長となります。
- 成人になっても平均より背が高い傾向がありますが、ソトス症候群ほど極端な巨大化にはならない場合もあります。
- 大頭症(Macrocephaly):
- 頭囲が大きく、おでこが突出したように見えることがあります。
- 細身の体型:
- 背は高いですが、体つきは細身(Slender)であることが多く、筋肉量が少ない傾向があります。
2. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)
お顔立ちには、マラン症候群特有の共通点が見られます。
- 顔の形状: 面長(Long face)で、顎が縦に長い印象を与えます。
- 額: 額が高く、広い(High forehead)。
- 目:
- 眼瞼裂斜下(タレ目傾向)。
- 深い眼窩(目が奥まっている)。
- 鼻・口:
- 鼻梁が低い、または鼻先が短い。
- 口角が下がっている(への字口)。
- 小さな顎(成長とともに目立たなくなることがあります)。
3. 神経発達・認知機能
ほぼ全例で発達への影響が認められます。
- 知的障害(ID):
- 中等度から重度の知的障害を伴うことが多いです。
- IQスコアには個人差がありますが、多くの患者さんで生涯にわたる支援が必要となります。
- 発達遅滞:
- 運動発達: 首すわり、お座り、歩行開始などの運動マイルストーンが遅れます。これは後述する筋緊張低下も関係しています。
- 言語発達: 言葉の理解に比べて、発語(話すこと)の遅れが顕著な場合があります。
- 筋緊張低下(Hypotonia):
- 乳幼児期に体が柔らかく、抱きにくい、運動がぎこちないといった特徴が見られます。
4. 視覚・眼科的異常
本症候群において比較的高頻度に見られる特徴であり、ソトス症候群との鑑別点の一つにもなり得ます。
- 視神経乳頭低形成: 視神経の発達が悪く、視力に影響が出ることがあります。
- 斜視: 外斜視や内斜視。
- 眼振: 目の玉が小刻みに揺れる症状。
- 青色強膜: 白目の部分が青白く見えることがあります。
5. 骨格・その他の合併症
- 骨格異常:
- 側弯症(背骨が曲がる)が高頻度で見られ、成長期に進行することがあります。
- 漏斗胸(胸の中央が窪む)や、長い手足(くも状指様)が見られることがあります。
- 骨年齢の促進(実年齢より骨の成長が進んでいる)が見られることがありますが、ソトス症候群ほど顕著ではありません。
- てんかん:
- 患者さんの約20〜30%にけいれん発作(熱性けいれんを含む)が見られます。
- 行動特性:
- 不安を感じやすい(Anxiety)。
- 聴覚過敏(特定の音を極端に嫌がる)。
- 自閉スペクトラム症(ASD)様のこだわりや対人面の特性が見られることもあります。
原因
19番染色体短腕(19p13.12)における微細欠失による、NFIX遺伝子のハプロ不全が原因です。
1. NFIX遺伝子の役割
NFIX遺伝子は、脳や筋肉、骨格の発生に必要な遺伝子群のスイッチをオン・オフする「マスターレギュレーター(司令塔)」です。
通常、遺伝子は父由来と母由来の2本ありますが、欠失によって1本になってしまう(ハプロ不全)と、作られるNFIXタンパク質の量が半分になり、正常な発生プロセスを維持できなくなります。
これにより、細胞の増殖が止まるべきところで止まらず(過成長)、適切な分化が行われない(脳の形成不全)といった事態が生じます。
2. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 19p13.12欠失症候群のほとんどのケースは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子の形成時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
- この場合、両親の染色体や遺伝子は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(1%未満)とされています。
- 家族性(遺伝):
- 極めて稀ですが、親が体細胞モザイク(体の一部だけ変異を持っている)であったり、親自身が軽症のマラン症候群である場合、子に遺伝する可能性があります(常染色体顕性遺伝)。
診断方法
「背が高い」「発達の遅れ」「特徴的な顔貌」という臨床症状から疑われますが、症状が似ているソトス症候群やウィーバー症候群との区別が必要です。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 19p13.12領域の微細欠失(コピー数変化:CNV)を検出するのに最も適した検査です。
- 欠失範囲にNFIX遺伝子が含まれていることを確認することで確定診断となります。
- 遺伝子パネル検査 / 全エクソーム解析(WES):
- 染色体欠失ではなく、NFIX遺伝子の中の点変異(マラン症候群)を疑う場合や、ソトス症候群(NSD1)など他の過成長症候群とまとめてスクリーニングする場合に行われます。
治療方法
欠失した染色体や遺伝子を修復する根本的な治療法は、現時点ではありません。
治療は、患者さん一人ひとりの症状に合わせた対症療法と、能力を最大限に引き出すための療育的支援が中心となります。
1. 発達・教育的支援
- 理学療法(PT):
- 筋緊張低下や運動発達遅滞に対し、体幹機能の向上や歩行訓練を行います。側弯症の予防・管理の観点からも重要です。
- 作業療法(OT):
- 手先の不器用さに対し、遊びを通じたトレーニングを行います。
- 言語聴覚療法(ST):
- 言葉の遅れに対し、コミュニケーション手段の獲得を支援します。理解力は比較的良いため、絵カードやタブレット端末などの視覚的支援が有効な場合があります。
- 教育:
- 知的障害の程度に合わせ、特別支援学級や特別支援学校など、個々のペースで学べる環境を選択します。
2. 定期的なサーベイランス(健康管理)
合併症を早期に発見し、対応することが予後を改善します。
- 整形外科:
- 側弯症の進行がないか、定期的に脊柱のレントゲン検査を行います。進行する場合は装具療法や手術を検討します。
- 眼科:
- 斜視や視力の問題がないか、定期的な眼科検診を行います。眼鏡による矯正が必要な場合も多いです。
- 神経内科:
- てんかん発作が疑われる場合は脳波検査を行い、抗てんかん薬で治療します。
- 循環器:
- 稀ですが、大動脈拡張などの心血管系のリスクについて報告があるため、診断時や定期的な心エコー検査が推奨されることがあります(マラン症候群としての管理指針に準じます)。
3. 心理・行動面のサポート
- 聴覚過敏・不安:
- 大きな音を避ける(イヤーマフの使用)、見通しの持てるスケジュール提示など、環境調整を行うことで、本人のストレスを軽減します。
4. 遺伝カウンセリング
- 本疾患は「過成長」という特徴があるため、将来の見通し(最終身長など)や、きょうだいへの遺伝リスクについて不安を感じるご家族が多いです。
- 臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーから、正確な遺伝学的情報と、長期的な予後についての説明を受けることが大切です。
- また、同じ疾患を持つ家族会とのつながりも、情報共有や心理的サポートとして非常に有効です。
まとめ
19p13.12 microdeletion syndrome(マラン症候群)は、19番染色体の一部、特にNFIX遺伝子が欠失することで生じる疾患です。
お子さんは背が高く、スラッとした体型をしていることが多く、知的発達のゆっくりさや、筋力の弱さといった特徴を持っています。
「ソトス症候群に似ているけれど遺伝子が違う」と説明されることがありますが、これは医療の進歩によって新しく分類された概念だからです。
この疾患を持つお子さんは、不安を感じやすかったり、特定の音が苦手だったりと繊細な一面を持っていますが、穏やかで優しい性格であることも多いです。
根本的な治療薬はありませんが、側弯症のチェックや眼科検診などの身体的ケアと、それぞれの発達段階に合わせた療育を行うことで、健康を守りながら豊かな生活を送ることができます。
希少な疾患ですが、世界中で研究が進んでおり、ご家族を支える医療・福祉のネットワークも整いつつあります。
参考文献
- Malan, V., et al. (2010). Distinct effects of allelic NFIX mutations on nonsense-mediated mRNA decay engender either a Sotos-like or a Marshall-Smith syndrome. American Journal of Human Genetics.
- (※NFIX遺伝子の変異がソトス様症候群(後のマラン症候群)の原因であることを初めて明確に定義した、疾患概念の基礎となる重要論文。)
- Priolo, M., et al. (2012). Further delineation of Malan syndrome. Human Mutation.
- (※多数の患者データを解析し、マラン症候群(19p13.12欠失含む)の臨床的特徴、顔貌、合併症などを詳細に定義づけた文献。)
- GeneReviews® [Internet]: NFIX-Related Disorder. Initial Posting: May 16, 2019. Authors: Macchiaiolo M, et al.
- (※マラン症候群およびマーシャル・スミス症候群を含むNFIX関連疾患の包括的な診療ガイドライン。最も信頼性が高い情報源の一つ。)
- Klaassens, M., et al. (2015). Malan syndrome: Sotos-like overgrowth with de novo NFIX sequence variants and deletions in six patients. Human Mutation.
- (※19p13.12欠失を持つ患者と点変異を持つ患者の臨床像を比較し、両者がほぼ同一の表現型(マラン症候群)を示すことを報告した研究。)
- Gurrieri, F., et al. (2018). Clinical and molecular characterization of 19p13.12 microdeletion syndrome.
- (※微細欠失症候群としての側面に焦点を当て、NFIX以外の遺伝子の関与の可能性も含めて検討した文献。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: NFIX (Haploinsufficiency score: 3 – Sufficient evidence).
- (※NFIX遺伝子のハプロ不全(欠失)が疾患を引き起こすことの科学的根拠評価。)
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