19p13.13 microdeletion syndrome

Posted on 2026年 1月 20日

別名・関連疾患名

  • 19p13.13微細欠失症候群
  • 19p13.13欠失症候群
  • CACNA1A関連欠失症候群(CACNA1A-related deletion syndrome)
  • マラン症候群(Malan syndrome)※1
  • 巨大脳梁症候群(Mega-corpus-callosum syndrome)※2
  • 19p13.13モノソミー(Monosomy 19p13.13)

※疾患概念の整理:

19p13.13領域には、単独で疾患を引き起こす強力な遺伝子が複数並んでいます。

  1. CACNA1A: 欠失すると、運動失調やてんかん、知的障害を引き起こします。
  2. NFIX: 欠失すると、過成長や特徴的顔貌を示す「マラン症候群」となります。
  3. MAST1: 欠失・変異により「巨大脳梁症候群」となります。

「19p13.13微細欠失症候群」は、これらの遺伝子のうち1つ、あるいは複数がまとめて欠失することで起こる**「隣接遺伝子症候群」**です。そのため、欠失範囲によって症状の出方が大きく異なるのが特徴です。

対象染色体領域

19番染色体 短腕(p)13.13領域

本疾患は、ヒトの19番染色体の短腕(pアーム)にある「13.13」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と重要遺伝子】

19番染色体は遺伝子密度が非常に高いことで知られていますが、特にこの「13.13」領域は脳機能にとって決定的な役割を持つ遺伝子が密集しています。

  • CACNA1A (Calcium Voltage-Gated Channel Subunit Alpha1 A):
    • 神経機能の要。 脳の神経細胞が情報を伝えるために必要な「カルシウムイオンチャネル(P/Q型)」を作る遺伝子です。小脳に多く存在し、運動のコントロールに不可欠です。
  • NFIX (Nuclear Factor I X):
    • 成長と骨格の要。 転写因子であり、欠失すると過成長(高身長)、大頭症、特徴的な顔貌、知的障害を引き起こします(マラン症候群の原因)。
  • MAST1 (Microtubule Associated Serine/Threonine Kinase 1):
    • 脳構造の要。 神経細胞の骨組みを作り、脳梁(右脳と左脳をつなぐ橋)の形成に関わります。欠失すると脳梁が分厚くなる(巨大脳梁)などの構造異常が生じます。
  • DUSP23 / GIPC1:
    • これらの遺伝子も近傍にあり、代謝や細胞シグナルに関与している可能性があります。

欠失のサイズは患者さんによって異なり、CACNA1Aだけの欠失の人もいれば、NFIXまで含んだ大きな欠失の人もいます。これが症状の個人差を生む最大の要因です。

発生頻度

非常に稀(Rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

19p13.13領域の欠失は、一般的な染色体検査(Gバンド法)では検出が難しい微細なものが多いため、これまで見過ごされてきた歴史があります。

近年のマイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及により発見数が増えていますが、世界的な報告数は数百例規模と推定されます。

ただし、原因不明の「運動失調症」や「発達遅滞」、「てんかん」として治療されている患者さんの中に、未診断のまま含まれている可能性が高いと考えられています。

臨床的特徴(症状)

19p13.13 microdeletion syndromeの症状は、**「神経学的症状(運動・てんかん)」「身体的特徴(成長・顔貌)」「発達の問題」**の3つが柱となります。

特に、ふらつき(失調)やてんかんは、生活の質(QOL)に直結する重要な症状です。

1. 神経学的症状(CACNA1A欠失の影響が大)

本症候群において最も特徴的かつ医学的管理が必要な症状です。

  • 小脳性運動失調(Cerebellar Ataxia):
    • 体幹のバランスが悪く、歩行時にふらつく、転びやすいといった症状が見られます。
    • 乳幼児期には「お座りが安定しない」「歩き始めが遅い」として現れ、成長しても「運動が苦手」「よく物にぶつかる」といった状態が続くことがあります。
    • 発作性失調(Episodic Ataxia): ストレスや疲労、発熱などをきっかけに、急激にふらつきやめまいが悪化し、数時間〜数日続く発作を起こすことがあります。
  • 眼振(Nystagmus):
    • 目の玉が小刻みに揺れる症状です。視線を固定しようとすると悪化することがあります(注視眼振)。これも小脳機能の障害によるものです。
  • てんかん(Epilepsy):
    • 患者さんの約半数以上にけいれん発作が見られます。
    • 欠神発作(ボーッとする)、全般強直間代発作(全身のけいれん)、熱性けいれんなどタイプは様々です。
    • 難治性となる場合もありますが、多くは薬物療法でコントロール可能です。

2. 身体的特徴・成長(NFIX欠失の影響が大)

欠失範囲にNFIX遺伝子が含まれる場合、以下の「マラン症候群」様の症状が現れます。

  • 過成長(Overgrowth):
    • 身長が平均よりも高く、すらっとした細身の体型(Marfanoid habitus:マルファン様体型)になる傾向があります。
    • 成長曲線の上限を超える高身長を示すこともあります。
  • 大頭症(Macrocephaly):
    • 頭囲が大きい、おでこが突出しているといった特徴が見られます。
  • 特徴的な顔貌:
    • 面長(Long face)
    • 広い前頭部
    • 眼瞼裂斜下(タレ目)
    • 深い眼窩(目が奥まっている)
    • 小さな顎
  • 骨格異常:
    • 側弯症(背骨が曲がる)や、漏斗胸(胸が凹む)、長い指(くも状指)などが見られることがあります。

3. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で発達への影響が認められます。

  • 知的障害(ID):
    • 中等度から重度の知的障害を伴うことが多いです。
    • CACNA1A単独の欠失でも知的障害は見られますが、NFIXMAST1も欠失している場合、より重度になる傾向があります。
  • 言語発達の遅れ:
    • 言葉の理解に比べて、発語(話すこと)の遅れが顕著な場合があり、構音障害(発音がはっきりしない)を伴うこともあります。
  • 筋緊張低下(Hypotonia):
    • 全身の筋肉の張りが弱く、体が柔らかい状態です。運動発達の遅れの一因となります。

4. 脳の構造異常(MAST1等の影響)

  • 巨大脳梁(Mega-corpus-callosum):
    • MRI検査で、脳梁(右脳と左脳をつなぐ神経束)が通常よりも分厚くなっている所見が見られることがあります。これはMAST1遺伝子欠失に特徴的です。逆に、脳梁が薄い(低形成)場合もあります。
  • 小脳萎縮:
    • 成長とともに、小脳の容積が小さくなる(萎縮)所見が見られることがあります(CACNA1A関連)。

5. その他の合併症

  • 眼科: 斜視、視力低下(皮質視覚障害など)。
  • 消化器: 摂食障害、胃食道逆流、便秘。
  • 精神・行動: 自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)、不安障害などの行動特性が見られることがあります。

原因

19番染色体短腕(19p13.13)における微細欠失が原因です。

1. 遺伝子ハプロ不全のメカニズム

「ハプロ不全」とは、対になっている遺伝子の片方が失われ、タンパク質の量が半分になることで機能不全が起こる状態です。

  • CACNA1Aのハプロ不全:
    • カルシウムイオンチャネルの量が不足します。神経細胞はカルシウムイオンの出入りを合図に信号を送っていますが、このチャネルが足りないと、神経の興奮と抑制のバランスが崩れます。
    • これにより、小脳の神経細胞がうまく働かずに「ふらつき」が生じたり、脳全体が過剰興奮して「てんかん」が起きたりします。
  • NFIXのハプロ不全:
    • 細胞の増殖や分化をコントロールするスイッチ役が不足します。これにより、骨や脳の細胞増殖の制御が効かなくなり、過成長や脳の発達異常が生じます。

2. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 19p13.13微細欠失症候群の大部分は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶発的に生じた突然変異です。
    • この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(1%未満)とされています。
  • 家族性(親の転座など):
    • 稀に、親が「均衡型転座」を持っていたり、親自身が軽度の症状(軽度の運動苦手さなど)を持つモザイク保因者であったりする場合があります。

診断方法

「ふらつき」「てんかん」「発達遅滞」に加え、「背が高い」「特徴的な顔貌」などの症状の組み合わせから疑われます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 19p13.13領域の微細欠失を検出するゴールドスタンダードです。
    • 欠失の範囲を正確に特定し、CACNA1ANFIXMAST1などのどの遺伝子が含まれているかを確認することで、症状の予測や管理方針の決定に役立ちます。
  • 頭部MRI検査:
    • 小脳の萎縮や、脳梁の形状(巨大脳梁など)を確認するために行われます。
  • 脳波検査:
    • てんかん発作の有無やタイプを診断するために必須です。

治療方法

欠失した遺伝子を補う根本的な治療法は、現時点ではありません。

治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、機能を維持・向上させるための療育的支援が中心となります。

1. 神経学的治療(てんかん・運動失調)

  • てんかん治療:
    • 発作型に応じた抗てんかん薬(バルプロ酸、レベチラセタムなど)を使用します。
    • CACNA1A関連のてんかんには、特定の薬剤(アセタゾラミドなど)が有効な場合があるため、専門医による調整が必要です。
  • 運動失調への対応:
    • アセタゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)が、発作性失調やふらつきを軽減する効果がある場合があります。
    • 転倒予防のための環境調整(手すりの設置、ヘッドギアの使用など)も重要です。

2. 発達・療育的支援

  • 理学療法(PT):
    • 体幹バランスの強化や、ふらつきがあっても安全に歩行するための訓練を行います。筋緊張低下へのアプローチも重要です。
  • 作業療法(OT):
    • 手先の微細運動の訓練や、日常生活動作(食事・着替え)の自立支援を行います。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 言葉の遅れや構音障害に対し、コミュニケーション指導を行います。視覚支援(絵カード)なども活用します。
  • 教育:
    • 知的障害の程度や身体的なふらつきのリスクに合わせ、特別支援学級や特別支援学校など、安全で学びやすい環境を選択します。

3. 健康管理(サーベイランス)

  • 側弯症チェック:
    • NFIX欠失を含む場合、側弯症のリスクが高いため、定期的な脊柱のチェックを行います。
  • 眼科検診:
    • 眼振や視力低下の評価を定期的に行います。
  • 感染症対策:
    • てんかんや失調発作は、発熱によって誘発されやすいため、感染症の予防と早期治療が大切です。

4. 遺伝カウンセリング

  • 本疾患は「隣接遺伝子症候群」であり、症状の個人差が大きいため、診断結果(どの遺伝子が欠失しているか)に基づいた正確な情報の提供が必要です。
  • 次子の再発リスクや、将来の見通しについて、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと相談することが推奨されます。

まとめ

19p13.13 microdeletion syndromeは、19番染色体の一部が欠けることで、脳や体の発達に関わる重要な遺伝子(CACNA1A, NFIXなど)が不足して起こる疾患です。

「よく転ぶ」「ふらつく」といった運動の特徴や、てんかん発作、そして背が高くなりやすいといった身体的な特徴が組み合わさって現れます。

ご家族にとっては、様々な症状に対応しなければならず、不安を感じることも多いかと思います。

しかし、それぞれの症状には対応策があります。てんかんやふらつきはお薬で改善できる可能性がありますし、発達の遅れに対しては療育が大きな力になります。

また、この疾患を持つお子さんは、言葉での表現が苦手でも、豊かな感情を持っています。

医療チームと連携して、発作のコントロールや転倒予防を行いながら、お子さんの「できること」を一つずつ増やしていくサポートを続けていきましょう。

参考文献

  • Luo, S., et al. (2017). 19p13.13 microdeletion syndrome: clinical and molecular characterization of newly identified patients.
    • (※CACNA1Aを含む19p13.13欠失患者の臨床的特徴を詳細に報告し、運動失調や知的障害との関連を解析した論文。)
  • GeneReviews® [Internet]: CACNA1A-Related Disorders. Initial Posting: November 15, 2019. Authors: Indelicato E, et al.
    • (※CACNA1A遺伝子異常による疾患群(運動失調、てんかんなど)の包括的なガイドライン。欠失例についても言及あり。)
  • Priolo, M., et al. (2012). Further delineation of Malan syndrome. Human Mutation.
    • (※NFIX欠失を含むマラン症候群の臨床像(過成長、顔貌など)を定義づけた重要文献。)
  • Ben Salem, J., et al. (2014). Mega-corpus-callosum syndrome caused by a contiguous deletion of MAST1 and NFIX.
    • (※MAST1遺伝子の欠失が巨大脳梁の原因であることを示唆し、19p13.13欠失症候群の構造異常について考察した研究。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: CACNA1A (Haploinsufficiency score: 3 – Sufficient evidence), NFIX (Haploinsufficiency score: 3).
    • (※各遺伝子のハプロ不全(欠失)が疾患を引き起こすことの科学的根拠評価。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 19p13.13 deletions (2020).
    • (患者家族向けのガイドライン。)

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