別名・関連疾患名
- 19q13.11微細欠失症候群
- 19q13.11欠失症候群(19q13.11 deletion syndrome)
- 19q13.11モノソミー(Monosomy 19q13.11)
- UBA2関連欠失症候群(UBA2-related deletion syndrome)
- 関連:先天性頭皮欠損(Aplasia cutis congenita; ACC)
- 関連:外胚葉形成不全(Ectodermal dysplasia)
- 関連:19番染色体長腕部分欠失(Partial deletion of chromosome 19q)
※疾患の概念について:
19q13.11領域の欠失は、歴史的には単なる「19番染色体欠失」の一部として扱われてきましたが、近年の解析により、この狭い領域に含まれるUBA2遺伝子などの欠失が、特徴的な症状(頭の皮膚がない、髪が薄い、体が小さいなど)を引き起こす独立した臨床単位であることが確立されました。本記事では、この最新の定義に基づいて解説します。
対象染色体領域
19番染色体 長腕(q)13.11領域
本疾患は、ヒトの19番染色体の長腕にある「13.11」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【ゲノム上の詳細と重要遺伝子】
19番染色体は遺伝子密度が非常に高い染色体です。この19q13.11領域には複数の遺伝子が含まれていますが、本症候群の症状形成において決定的な役割を果たしているのは、以下の遺伝子であると考えられています。
- UBA2 (Ubiquitin Like Modifier Activating Enzyme 2):
- 最重要の責任遺伝子です。
- UBA2タンパク質は、「SUMO化(スモ化)」と呼ばれるタンパク質の修飾プロセスに関わる酵素です。これは、細胞分裂やDNA修復、遺伝子発現の制御など、細胞の基本的な活動に不可欠なシステムです。
- UBA2遺伝子が欠失して機能が半分になると、特に皮膚、毛髪、脳、骨格の成長に必要なシグナルがうまく伝わらなくなり、本症候群の特徴的な症状(外胚葉形成不全や小頭症)が引き起こされます。
- WTIP (Wilms Tumor 1 Interacting Protein):
- 腎臓や泌尿生殖器の発生に関わると考えられている遺伝子です。
- この遺伝子の欠失は、男性患者に見られる「尿道下裂」などの性器形成異常に関与している可能性が示唆されています。
欠失のサイズは患者さんによって異なり(典型的には数百kb〜数Mb)、欠失範囲に含まれる遺伝子の数によって症状の重症度が変わる可能性があります(隣接遺伝子症候群)。
発生頻度
非常に稀(Ultra-rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
19q13.11微細欠失症候群として医学文献に詳細に報告されている症例は、世界でも数十例程度にとどまります。
しかし、これは「稀だから」という理由だけでなく、以下の理由による「過少診断(Underdiagnosis)」の影響が大きいと考えられます。
- 診断の難しさ: 一般的な染色体検査(Gバンド法)では、この領域の微細な欠失は見逃されることが多く、マイクロアレイ検査(CMA)を行わないと診断できません。
- 症状の多様性: 症状が軽度(軽度の低身長のみなど)の場合、遺伝子検査まで至らずに過ごしている方が一定数存在すると推測されます。
臨床的特徴(症状)
19q13.11 microdeletion syndromeの症状は、**「成長障害」「外胚葉(皮膚・髪)の異常」「神経発達の遅れ」**の3つが中核的な特徴です。
特に、出生時に「頭のてっぺんの皮膚がない(先天性頭皮欠損)」という症状が見られる場合、この疾患を強く疑うきっかけとなります。
1. 成長・骨格異常(Growth & Skeletal)
出生前から出生後にかけて、全体的に小柄な傾向があります。
- 子宮内発育不全(IUGR): 妊娠中から胎児の体重が増えにくく、小さく生まれる(SGA)ことが多いです。
- 低身長(Short stature): 出生後も身長・体重の伸びが緩やかで、成長曲線の下限を下回ることがあります。
- 手足の特徴:
- 手足が小さい(Small hands and feet)。
- 指が短い(短指症)、または細長い。
- 第5指(小指)の短縮や湾曲。
- 合指症(指の間が膜でつながっている)や、親指の形成不全が見られることもあります。
2. 外胚葉形成不全・皮膚症状(Ectodermal features)
UBA2遺伝子の機能不全により、皮膚や髪の毛の形成に特徴が現れます。
- 先天性頭皮欠損(Aplasia cutis congenita; ACC):
- 出生時に、頭頂部の一部の皮膚が欠損しており、潰瘍や傷のようになっている状態です。本症候群の**約30〜50%**に見られる重要な徴候です。
- 多くの場合は自然に治癒して瘢痕(傷跡)になります。
- 毛髪の異常:
- 髪の毛が細く、まばら(Sparse hair)。
- 伸びるのが遅い、抜けやすい。
- 皮膚・爪:
- 皮膚が薄い、乾燥しやすい。
- 爪が小さい、薄い、形がいびつである。
- 乳首の低形成(Hypoplastic nipples)が見られることもあります。
3. 神経発達・認知機能
ほぼ全例で、中等度から重度の発達への影響が認められます。
- 小頭症(Microcephaly):
- 出生時、あるいは成長とともに頭囲が小さくなる傾向があります。これは脳の容量が小さいことを示唆しており、UBA2欠失の影響と考えられています。
- 知的障害(ID):
- 軽度から中等度、場合によっては重度の知的障害を伴います。
- 発達遅滞(DD):
- 言葉の遅れ(Speech delay)が顕著です。言葉が出るのが遅い、あるいは発音が不明瞭な場合があります。
- 運動発達(首すわり、歩行など)もゆっくりな傾向があります。
- 行動特性:
- 自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの行動特性、不安の強さ、攻撃的行動などが見られることがあります。
4. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)
成長とともに変化しますが、いくつかの共通した特徴(Dysmorphism)が報告されています。
- 長い顔(面長)または三角形の顔立ち。
- 広い額、または小頭症に伴う傾斜した額。
- 眼間開離(目が離れている)。
- 眼瞼裂斜下(タレ目)、眼瞼下垂。
- 短い鼻、平坦な鼻根部。
- 薄い唇、人中(鼻の下)が長い。
- 耳の位置が低い、耳の形の変形。
5. その他の合併症
- 泌尿生殖器:
- 男児では尿道下裂(尿の出口が正常な位置より下にある)や、停留精巣(タマが降りてこない)が高頻度で見られます(WTIP遺伝子欠失の影響の可能性)。
- 眼科: 斜視、遠視、近視など。
- 摂食: 乳児期の哺乳不良、体重増加不良(Failure to thrive)。
原因
19番染色体長腕(19q13.11)における微細欠失による、UBA2遺伝子等のハプロ不全が原因です。
1. UBA2のハプロ不全とSUMO化
この疾患のメカニズムを理解する上で重要なのが「SUMO化」です。
細胞の中では、タンパク質が正しく働くために様々な「目印」がつけられます。その一つがSUMO(Small Ubiquitin-like Modifier)タンパク質です。
UBA2遺伝子が作る酵素は、このSUMOを標的のタンパク質にくっつける最初のステップ(活性化)を担っています。
- 皮膚・髪への影響: SUMO化は、皮膚や毛根の細胞が増殖・分化するために必要なシグナル伝達に関わっています。これが不足すると、皮膚が作られなかったり(頭皮欠損)、髪が育たなかったりします。
- 脳への影響: 神経細胞のネットワーク形成や、シナプスの機能維持にもSUMO化が関わっているため、不足すると小頭症や知的障害につながります。
2. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 19q13.11微細欠失症候群の大多数は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶発的に生じた突然変異です。
- この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(1%未満)とされています。
- 家族性(親の転座など):
- 稀に、親が「均衡型転座」の保因者である場合や、親自身が軽度の症状(低身長のみなど)を持つモザイク保因者である場合があります。
診断方法
「頭皮欠損」「小頭症」「尿道下裂」などの身体的特徴と、発達の遅れから疑われます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 19q13.11領域の微細欠失を検出するための**第一選択(ゴールドスタンダード)**の検査です。
- 欠失範囲にUBA2遺伝子が含まれていることを確認することで、症状の原因が特定されます。
- 全エクソーム解析(WES):
- 染色体欠失ではなく、UBA2遺伝子そのものの点変異(遺伝子の文字化け)によっても同様の症状(UBA2関連障害)が起こるため、CMAで異常がなかった場合に行われることがあります。
治療方法
欠失した染色体や遺伝子を修復する根本的な治療法は、現時点では存在しません。
治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、成長・発達を支えるための包括的な支援が中心となります。
1. 外科的・皮膚科的治療
- 先天性頭皮欠損:
- 小さな欠損であれば、軟膏処置などで自然治癒を待ちます(保存的治療)。
- 欠損範囲が広い場合や、出血・感染のリスクがある場合は、形成外科による縫合手術や皮膚移植が行われることがあります。
- 尿道下裂・停留精巣:
- 泌尿器科にて、適切な時期(通常は1歳前後〜就学前)に手術を行います。
2. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 発達の遅れがある場合、早期から理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
- 言語療法:
- 言葉の遅れに対し、コミュニケーション能力を高める支援を行います。
- 栄養管理:
- 哺乳不良や体重増加不良がある場合、高カロリーミルクの使用や、食事形態の工夫、栄養指導を行います。
3. 健康管理(サーベイランス)
- 成長モニタリング:
- 定期的に身長・体重・頭囲を計測し、成長曲線を評価します。著しい低身長がある場合は内分泌科での精査(成長ホルモン分泌刺激試験など)を検討することがありますが、骨格自体の問題である場合はホルモン治療の効果は限定的かもしれません。
- 眼科・聴覚検診:
- 視力や聴力に問題がないか、定期的にチェックします。
4. 遺伝カウンセリング
- 本疾患は希少であり、情報が少ない中で不安を感じるご家族が多いです。
- 診断の意味、今後の見通し、次子の再発リスク(通常は低いが、親の検査を推奨する場合もある)について、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと相談し、正確な情報を得ることが大切です。
まとめ
19q13.11 microdeletion syndromeは、19番染色体の一部、特にUBA2という遺伝子が欠失することで起こる希少な疾患です。
「生まれつき頭の皮膚が一部ない」「髪の毛が薄い」「体が小さい」「言葉がゆっくり」といった特徴が組み合わさって現れます。
診断された当初は、聞き慣れない病名や様々な症状に戸惑われるかもしれませんが、この疾患の症状にはそれぞれ対応策があります。
頭皮の傷はきれいに治すことができますし、体の小ささや発達の遅れに対しても、医療と療育の両面からサポートする方法がたくさんあります。
また、髪の毛が薄いなどの外見的な特徴に対しても、成長に合わせたケアが可能です。
お子さんはそれぞれのペースで確実に成長していきます。医療チーム、療育スタッフ、そしてご家族が協力し合い、その子らしい豊かな成長を見守っていくことが何よりの支えとなります。
参考文献
- Mayer, A.K., et al. (2012). Haploinsufficiency of UBA2 causes aplasia cutis congenita and ectodermal dysplasia.
- (※19q13.11欠失症候群において、UBA2遺伝子の欠失が頭皮欠損や外胚葉形成不全の直接的な原因であることを突き止めた、本疾患の概念を確立した最重要論文。)
- Sukenik-Halevy, R., et al. (2018). 19q13.11 microdeletion syndrome: clinical and molecular characterization of two new patients and review of the literature. American Journal of Medical Genetics Part A.
- (※新たな症例報告とともに、過去の文献をレビューし、小頭症、低身長、尿道下裂(WTIP遺伝子の関与)などの臨床的特徴を詳細にまとめた文献。)
- Fannemel, M., et al. (2014). Haploinsufficiency of UBA2 in a patient with cutis aplasia, microcephaly, and dysmorphic features.
- (※UBA2ハプロ不全が引き起こす表現型(小頭症、顔貌異常など)についての詳細な症例報告。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 19q13 deletions (2020).
- (※患者家族向けに、19q13領域の欠失に関する情報を平易にまとめたガイドブック。19q13.11についての記述も含まれる。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: UBA2 (Haploinsufficiency score: 3 – Sufficient evidence).
- (※UBA2遺伝子のハプロ不全(欠失)が疾患を引き起こすことの科学的根拠レベルを評価したデータベース。)
- DECIPHER Database: Genomic coordinates and phenotype data for 19q13.11 deletions.
- (※世界中の患者データを集積したデータベース。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


