20q13.33 microdeletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 20q13.33微細欠失症候群
  • 20q13.33欠失症候群(20q13.33 deletion syndrome)
  • 20q13.33モノソミー(Monosomy 20q13.33)
  • 20番染色体長腕末端欠失症候群(20q subtelomeric deletion syndrome)
  • 関連:KCNQ2関連てんかん性脳症(KCNQ2-related developmental and epileptic encephalopathy)
  • 関連:良性家族性新生児てんかん(Benign Familial Neonatal Epilepsy; BFNE)
    • ※これらの疾患はKCNQ2遺伝子の「変異」で起こりますが、本症候群はその「欠失」であるため、症状に共通点があります。

対象染色体領域

20番染色体 長腕(q)13.33領域

本疾患は、ヒトの20番染色体の長腕(qアーム)の最も末端(テロメア側)に位置する「13.33」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と重要遺伝子】

20番染色体は比較的小さい染色体ですが、その「端っこ」である20q13.33領域は遺伝子密度が高く、脳の機能に不可欠な遺伝子が集中しています。

欠失のサイズは患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々です。

本症候群の症状、特にてんかんや発達遅滞の形成において、以下の遺伝子の欠失が決定的な役割を果たしていると考えられています。

  • KCNQ2 (Potassium Voltage-Gated Channel Subfamily Q Member 2):
    • 最重要の責任遺伝子です。
    • 脳の神経細胞にある「カリウムイオンチャネル(Kv7.2)」を作る遺伝子です。
    • このチャネルは、神経細胞が興奮した後、興奮を鎮めて「ブレーキ」をかける役割を担っています。
    • KCNQ2が欠失して量が半分になると、ブレーキが効きにくくなり、神経が過剰に興奮しやすくなります。これが**「てんかん発作」**の直接的な原因です。
  • CHRNA4 (Cholinergic Receptor Nicotinic Alpha 4 Subunit):
    • アセチルコリン受容体を作る遺伝子で、この遺伝子の異常は「常染色体優性夜間前頭葉てんかん(ADNFLE)」に関連することで知られています。
    • 本症候群ではKCNQ2と共に欠失することが多く、てんかんのリスクをさらに高めている可能性があります。
  • ARFGAP1 (ADP Ribosylation Factor GTPase Activating Protein 1):
    • 脳の発達(大脳皮質の形成)に関わる遺伝子であり、この遺伝子の欠失が**「知的障害」「自閉スペクトラム症」**などの発達面の問題に関与していると推測されています。

発生頻度

稀(Rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例程度ですが、これは「診断された数」に過ぎません。

20q13.33欠失は、一般的な染色体検査(Gバンド法)では見逃されるほど微細な場合が多く、近年のマイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及によって初めて発見されるようになった比較的新しい疾患単位です。

そのため、原因不明のてんかんや発達遅滞として治療を受けている患者さんの中に、未診断のまま含まれている可能性があり、潜在的な頻度は報告数よりも高いと考えられます。

臨床的特徴(症状)

20q13.33 microdeletion syndromeの症状は、**「てんかん」「神経発達遅滞」「行動特性」「軽度の身体的特徴」**が主な柱となります。

特に、乳幼児期の早期から発症するてんかんは、診断の重要なきっかけとなります。

1. てんかん(Epilepsy)

本症候群の患者さんの多くに見られる、最も医学的管理を要する症状です。

  • 発症時期:
    • 多くのケースで、新生児期〜乳児期早期(生後数日〜数ヶ月)という非常に早い時期に発症します。
  • 発作の特徴:
    • 全般強直間代発作(全身のけいれん)や、部分発作(体の一部がピクつく)、無呼吸発作など、タイプは様々です。
    • KCNQ2遺伝子の異常に関連したてんかんは、通常は成長とともに改善する傾向(良性)がありますが、欠失症候群の場合は、難治性となるケースや、発作が治まった後も発達への影響が残るケースなど、個人差が大きいです。
  • 治療反応性:
    • 重要な点として、ナトリウムチャネル阻害薬(カルバマゼピンなど)が奏効しやすいという特徴があります(後述)。

2. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で、軽度から重度の発達への影響が認められます。

  • 知的障害(ID):
    • 軽度から重度まで幅広いです。てんかんの発症時期やコントロール状況によっても予後が変わる可能性があります。
  • 言語発達の遅れ:
    • 言葉の理解(受容言語)に比べて、話すこと(表出言語)が遅れる傾向があります。
    • 重度の場合は、発語がなく、サインや絵カードでのコミュニケーションが必要となることもあります。
  • 運動発達遅滞:
    • 首すわり、お座り、歩行開始などのマイルストーンが遅れます。
  • 筋緊張低下(Hypotonia):
    • 乳幼児期に体が柔らかく、姿勢を保つのが苦手な状態が見られます。摂食障害(うまくおっぱいやミルクが飲めない)の原因にもなります。

3. 行動・精神面の特性

  • 自閉スペクトラム症(ASD):
    • 社会的コミュニケーションの苦手さ、視線が合いにくい、こだわりが強いといったASD特性を持つ頻度が高いです。
  • その他の特性:
    • 注意欠陥・多動性障害(ADHD)、不安の強さ、反復行動(常同行動:手をひらひらさせるなど)が見られることがあります。

4. 身体的特徴・顔貌(Craniofacial features)

「この病気特有」というほど強い特徴ではありませんが、いくつかの共通点(Dysmorphism)が報告されています。

  • 高い前頭部(おでこが広い)。
  • 眼間開離(目が離れている)。
  • 鼻根部が平坦、鼻先が上を向いている。
  • 耳の位置が低い、耳の形の変形。
  • 薄い上唇。
  • 手足の異常(指が細長い、第5指の湾曲など)。
  • 口蓋裂や口蓋高アーチ(上あごが高い)が見られることもあります。

5. その他の合併症

  • 骨格: 側弯症、関節の過伸展(体が柔らかすぎる)。
  • 眼科: 斜視、遠視、近視。
  • 成長: 成長障害(低身長)が見られることがありますが、逆に過成長(高身長)の報告もあり一定しません。

原因

20番染色体長腕末端(20q13.33)における微細欠失による、KCNQ2遺伝子等のハプロ不全が原因です。

1. イオンチャネルの機能不全(Channelopathy)

この疾患の本質は、染色体異常であると同時に「イオンチャネル病(チャネルオパチー)」としての側面を持っています。

  • ハプロ不全: 通常2本あるKCNQ2遺伝子が1本失われることで、作られるカリウムチャネルの量が不足します。
  • 神経の過剰興奮: カリウムチャネルは神経の興奮を鎮める役割があるため、これが不足すると、わずかな刺激で神経が興奮しっぱなしになり、てんかん発作の「閾値(しきい値)」が下がってしまいます。

2. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 20q13.33微細欠失症候群の多くは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶然生じた突然変異です。
    • この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(一般集団と同程度)とされています。
  • 家族性(親の転座など):
    • 親が「均衡型転座」の保因者である場合や、親自身が軽度の症状(または無症状に近い)を持っており、欠失が遺伝しているケースもあります。
    • 特に、染色体末端(サブテロメア)の欠失は、親の転座に由来する頻度が他の部位よりやや高いため、両親の検査が推奨されます。

診断方法

「新生児・乳児期発症のてんかん」と「発達遅滞」「軽度の顔貌異常」の組み合わせから疑われます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 20q13.33領域の微細な欠失を検出し、欠失の正確なサイズと、KCNQ2遺伝子が含まれているかどうかを特定できます。
    • 従来のGバンド検査では、末端の微細な欠失は見逃されることが多いため、CMAが必須です。
  • 遺伝子パネル検査 / 全エクソーム解析:
    • 染色体欠失ではなく、KCNQ2遺伝子そのものの点変異(文字化け)でも似たような症状(KCNQ2脳症)が出るため、てんかんパネル検査などでKCNQ2の異常が見つかり、詳しく調べたら遺伝子ごと欠失していた、という経緯で診断されることもあります。

治療方法

欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。

しかし、原因遺伝子が特定されているため、**「プレシジョン・メディシン(精密医療)」**の考え方に基づいた治療戦略が有効な場合があります。

1. てんかんの薬物療法(重要)

  • ナトリウムチャネル阻害薬:
    • KCNQ2の機能低下によるてんかんに対しては、**カルバマゼピン(CBZ)フェニトイン(PHT)**といった「ナトリウムチャネル阻害薬」が特によく効くことが知られています。
    • これは、カリウムチャネル(ブレーキ)が足りない分、ナトリウムチャネル(アクセル)を抑えることで、神経の興奮バランスを整えるという理屈です。
    • 早期に適切な薬剤を選択することで、発作を速やかに抑制し、脳へのダメージを最小限に抑えられる可能性があります。

2. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 診断後、できるだけ早期から理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
  • 理学療法(PT):
    • 筋緊張低下がある場合、体幹を鍛え、粗大運動の発達を促します。
  • 作業療法(OT):
    • 手先の不器用さや感覚過敏に対し、遊びを通じたトレーニングを行います。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 言葉の遅れに対し、コミュニケーション指導を行います。視覚支援(絵カード)なども有効です。

3. 摂食・栄養管理

  • 乳児期に哺乳不良がある場合、経管栄養などのサポートが必要になることがあります。成長とともに改善することが多いです。

4. 遺伝カウンセリング

  • 次子の妊娠を考えている場合など、両親の染色体検査を行うかどうかについて、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと相談します。
  • 親の検査で正常であれば、次子への再発リスクは低いですが、親が転座保因者の場合はリスクが高くなります。

まとめ

20q13.33 microdeletion syndromeは、20番染色体の端っこが欠失することで、脳のブレーキ役である遺伝子(KCNQ2)などが不足してしまう疾患です。

生後まもなく「けいれん発作」が起きて見つかることが多いですが、この病気には「効きやすいお薬(カルバマゼピンなど)」があることが分かっています。

原因が分かることで、手探りではなく、根拠に基づいた治療を選ぶことができるのは、ご家族にとっても大きな希望となるはずです。

てんかん発作をコントロールした後は、お子さんの発達に合わせたサポート(療育)が中心になります。言葉はゆっくりかもしれませんが、豊かな感情や個性を持ったお子さんに育っていきます。

希少な疾患ですが、てんかん専門医や小児神経科医、療育スタッフとチームを組み、お子さんの健やかな成長を支えていきましょう。

参考文献

  • Kurahashi, H., et al. (2009). Microdeletions of 20q13.33 involving the KCNQ2 and CHRNA4 genes in patients with epilepsy and intellectual disability.
    • (※20q13.33微細欠失を持つ患者において、KCNQ2およびCHRNA4遺伝子の欠失がてんかんや知的障害の主原因であることを報告した重要論文。)
  • Traylor, R.N., et al. (2010). Genotype-phenotype correlations in 20q13.33 deletion syndrome.
    • (※多数の患者データを解析し、欠失範囲と臨床症状(てんかん、発達遅滞、顔貌など)の相関関係(Genotype-Phenotype Correlation)を詳細に検討した文献。)
  • Kroenke, C.D., et al. (2013). Arfgap1 is required for the normal development of the cerebral cortex.
    • (※ARFGAP1遺伝子が脳の発達に不可欠であることを示し、20q13.33欠失症候群における知的障害への関与を示唆した基礎研究。)
  • GeneReviews® [Internet]: KCNQ2-Related Disorders. Initial Posting: April 24, 2014; Last Update: April 23, 2020. Authors: Miceli F, et al.
    • (※KCNQ2遺伝子異常による疾患群の包括的ガイドライン。欠失例についても言及があり、ナトリウムチャネル阻害薬の有効性について詳述されている。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 20q deletions (2020).
    • (※患者家族向けに、20番染色体長腕欠失(q13.33領域含む)の症状や生活上のアドバイスをまとめたガイドブック。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: KCNQ2, CHRNA4.
    • (※各遺伝子のハプロ不全(欠失)が疾患を引き起こすことの科学的根拠評価。)

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