21q22.11-q22.12 microdeletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 21q22.11-q22.12微細欠失症候群
  • 21q22.11-q22.12欠失症候群(21q22.11-q22.12 deletion syndrome)
  • 部分モノソミー21q22(Partial monosomy 21q22)
  • 21q22欠失症候群(21q22 deletion syndrome)
  • 関連:RUNX1関連家族性血小板異常症(Familial Platelet Disorder with associated Myeloid Malignancy; FPD/AML)
    • ※欠失範囲にRUNX1遺伝子が含まれる場合、この疾患の特徴を併せ持ちます。
  • 関連:リング21番染色体症候群(Ring chromosome 21 syndrome)
    • ※リング染色体の形成に伴い、この領域が欠失することがあります。

対象染色体領域

21番染色体 長腕(q)22.11から22.12領域

本疾患は、ヒトの21番染色体の長腕(qアーム)にある「22.11」から「22.12」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と重要遺伝子】

21番染色体はヒトで最も小さな染色体の一つですが、ダウン症候群(21トリソミー)の原因となる遺伝子が集中していることで知られています。

本症候群はその逆で、特定の領域が「欠失」する疾患です。

欠失のサイズは患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々です。

この領域には、身体の発達や血液の産生に不可欠な遺伝子が含まれており、特に以下の遺伝子の欠失が症状形成に深く関与していると考えられています。

  • RUNX1 (Runt-Related Transcription Factor 1):
    • 21q22.12領域に位置する、本症候群において最も医学的注意を要する遺伝子です。
    • 造血幹細胞が血液細胞(特に血小板や白血球)に分化するために必須の「転写因子」を作ります。
    • この遺伝子が欠失して機能が半分になると、血小板がうまく作られず(血小板減少)、出血しやすくなったり、将来的な血液腫瘍(白血病など)のリスクが上昇したりする可能性があります。
  • DYRK1A (Dual Specificity Tyrosine Phosphorylation Regulated Kinase 1A):
    • 21q22.13領域に位置しますが、欠失が22.12から遠位に広がっている場合、この遺伝子も巻き込まれることがあります。
    • 脳の発達に極めて重要で、この遺伝子が欠失すると**「小頭症」「重度の知的障害」**の主因となります。
    • ※厳密な21q22.11-q22.12欠失では含まれないこともありますが、臨床的には隣接領域として考慮が必要です。
  • OLIG1 / OLIG2 (Oligodendrocyte Transcription Factor):
    • 21q22.11領域に位置します。
    • 脳の神経細胞やグリア細胞(オリゴデンドロサイト)の発達に関わり、運動機能や脳の構造形成に影響を与える可能性があります。
  • ITGB2 (Integrin Subunit Beta 2):
    • 白血球の機能に関わる遺伝子です。通常、片方の欠失(保因者状態)では免疫不全などの重篤な症状は出にくいとされています。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

21番染色体の部分欠失自体が非常に稀な現象であり、その中でも「22.11-22.12」という特定領域に限局した欠失の報告数は、世界でも数十例〜百例未満の規模にとどまります。

Orphanetなどのデータベースでは、100万人に1人未満(<1 / 1,000,000)と推定されています。

しかし、軽度の発達遅滞や血小板減少のみを呈する軽症例では、詳細な染色体検査(マイクロアレイ検査)が行われず、診断に至っていない「隠れた患者さん」が存在する可能性があります。

臨床的特徴(症状)

21q22.11-q22.12 microdeletion syndromeの症状は、**「成長障害」「精神発達遅滞」「特徴的な顔貌」に加え、RUNX1遺伝子の欠失に伴う「血小板減少症」**が重要な特徴です。

ダウン症候群(21番染色体の過剰)とは対照的な症状(高身長ではなく低身長、など)を示す部分もありますが、知的障害などは共通して見られます。

1. 血液学的特徴(RUNX1関連)

本症候群において、生命予後や健康管理上、最も注意が必要な特徴です。

  • 血小板減少症:
    • 軽度から中等度の血小板減少が見られることがあります。
    • 鼻血が出やすい、あざができやすい(易出血性)、血が止まりにくいといった症状で気づかれることがあります。
  • 血小板機能異常:
    • 血小板の数だけでなく、働き(止血能力)が低下している場合があり、手術や抜歯の際に注意が必要です。
  • 血液腫瘍のリスク:
    • RUNX1遺伝子のハプロ不全は、将来的に骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)を発症するリスクを上昇させることが知られています(家族性血小板異常症 FPD/AML と同様の病態)。
    • ただし、全ての患者さんが発症するわけではなく、生涯発症しない方もいます。

2. 成長・骨格

  • 子宮内発育遅延(IUGR):
    • 妊娠中から胎児の推定体重が小さく、出生時も低体重(SGA児)であることが多いです。
  • 低身長:
    • 出生後も身長の伸びが緩やかで、-2SDを下回る低身長となることがあります。
  • 骨格異常:
    • 手足が小さい、関節が硬い(拘縮)、あるいは逆に関節が柔らかすぎる(過伸展)などの特徴が見られることがあります。
    • 脊柱側弯症や、胸郭の変形(漏斗胸など)の報告もあります。

3. 神経発達・精神医学的特徴

ほぼ全例で発達への影響が認められますが、重症度は欠失範囲によって幅広いです。

  • 知的障害(ID):
    • 軽度から中等度、症例によっては重度の知的障害を伴います。
    • 欠失がDYRK1A遺伝子まで及んでいない場合、重篤な知的障害は回避される傾向にありますが、個人差があります。
  • 言語発達遅滞:
    • 特に**「言葉の遅れ」**が顕著で、重度の言語障害(Severe language impairment)を呈することがあります。
    • 表出(話すこと)が苦手でも、理解力は比較的保たれている場合があります。
  • 行動特性:
    • 自閉スペクトラム症(ASD)様の特徴(こだわり、対人関係の苦手さ)、多動、不安、常同行動(体を揺らすなど)、自傷行為が見られることがあります。

4. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)

ダウン症候群とは異なる、本症候群特有の顔つき(Dysmorphism)が報告されています。

  • 小頭症: 頭囲が小さい傾向があります(特にDYRK1A欠失を含む場合)。
  • 眼: 眼瞼裂斜下(タレ目)、アーモンド型の目、眼間開離(目が離れている)。
  • 耳: 耳の位置が低い(低位付着耳)、耳介の変形、大きな耳。
  • 鼻: 鼻根部が広く平坦、鼻先が上を向いている。
  • 口: 薄い上唇、口角が下がっている(への字口)、小顎症(あごが小さい)。
  • その他: 平坦な後頭部(絶壁)、広いおでこ。

5. その他の合併症

  • 脳構造異常:
    • 脳梁欠損症(左右の脳をつなぐ橋がない)、脳梁低形成、脳室拡大などがMRI検査で見つかることがあります。
  • 筋緊張低下:
    • 乳幼児期の体の柔らかさ(フロッピーインファント)や、哺乳不良の原因となります。
  • 心疾患:
    • 心房中隔欠損症などの先天性心疾患が稀に合併します。
  • 免疫系:
    • 感染症にかかりやすい(易感染性)場合があります。

原因

21番染色体長腕(21q22.11-q22.12)における微細欠失が原因です。

1. 遺伝子ハプロ不全のメカニズム

通常、ヒトの細胞には2本の21番染色体がありますが、そのうちの1本の一部が失われることで、該当する遺伝子が1コピー(半分)になります。

  • RUNX1の不足: 血液細胞が成熟するための指令が弱まり、血小板の産生不良や、白血病化を防ぐ監視機能の低下につながります。
  • その他の遺伝子: 神経発達や骨格形成に必要な遺伝子群が半分になることで、脳や体の成長に遅れや歪みが生じます。

2. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 本症候群の多くは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時)で偶然生じた突然変異です。
    • 誰のせいでもなく、予防できるものではありません。
    • この場合、次子への再発リスクは非常に低い(一般集団と同程度)です。
  • 親の染色体転座:
    • 稀に、親が「均衡型転座」の保因者である場合や、親自身がモザイク(体の一部だけ欠失を持っている)である場合があります。
    • 21番染色体は「リング染色体(環状染色体)」を形成しやすく、リング染色体が作られる過程で両端が欠失し、本症候群を発症することもあります。

診断方法

臨床症状だけでは診断が難しく、染色体検査によって確定診断されます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**です。
    • 一般的なGバンド検査では見逃されるような微細な欠失も検出でき、欠失の正確な範囲(bp単位)と、RUNX1などの重要遺伝子が含まれているかを特定できます。
  • 血液検査:
    • 原因不明の血小板減少症がある場合、診断の手がかりになります。
  • 骨髄検査:
    • 血球減少が著しい場合や、白血病が疑われる場合に行われます。

治療方法

欠失した染色体を修復する治療法はありません。

治療は、症状に応じた対症療法、発達を促す療育、そして血液疾患リスクに対する**サーベイランス(定期的監視)**が中心となります。

1. 血液・腫瘍学的管理(最重要)

RUNX1欠失が含まれる場合、生涯にわたる血液内科的なフォローアップが必要です。

  • 定期的な血液検査:
    • 半年〜1年に1回程度、血球数(血小板、白血球、赤血球)をチェックし、大きな変化がないか確認します。
  • 出血時の対応:
    • 血小板が少ない場合、激しいコンタクトスポーツを避けたり、手術や抜歯の際に事前の血小板輸血を検討したりするなどの対策が必要です。
  • 白血病の早期発見:
    • 万が一、白血病などを発症した場合でも、定期検査を受けていれば早期発見・早期治療が可能となり、予後が改善します。

2. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 発達の遅れに対し、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を早期から開始します。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 言語障害が顕著な傾向があるため、発語の練習だけでなく、サインや絵カードなどの代替コミュニケーション手段(AAC)の活用も検討し、意思伝達のフラストレーションを軽減します。
  • 教育:
    • 知的障害の程度に合わせ、特別支援学級や通級指導教室など、個別に適した教育環境を整えます。

3. 健康管理・合併症ケア

  • 成長モニタリング:
    • 身長・体重を定期的に計測し、栄養状態を評価します。哺乳不良がある場合は、栄養指導や経管栄養によるサポートを行います。
  • 感染症対策:
    • 免疫機能が弱い可能性があるため、ワクチン接種を適切に行い、感染予防に努めます。
  • その他:
    • 眼科(斜視など)、歯科(歯並び)、整形外科(側弯症など)の定期検診を行います。

4. 遺伝カウンセリング

  • 次子の妊娠を考えている場合など、両親の染色体検査を行うかどうかについて、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと相談します。
  • 特にRUNX1関連の遺伝性腫瘍リスクについては、ご家族自身の健康管理や、将来お子さんが成人した際の告知(病気の説明)など、長期的な視点でのサポートが必要です。

まとめ

21q22.11-q22.12 microdeletion syndromeは、21番染色体の一部が欠けることで起こる希少な疾患です。

「言葉がゆっくり」「体が小さい」といった特徴に加え、「血が止まりにくい(血小板が少ない)」という体質を併せ持つことがあります。

診断を受けたご家族は、「白血病のリスク」という言葉に大きな不安を感じられるかもしれません。しかし、これは「必ずなる」ということではなく、「体質としてリスクがある」ということです。

リスクを事前に知っているということは、最強の武器になります。定期的に血液検査を受けることで、お子さんの体を守ることができます。

また、発達の面では、言葉の遅れがあっても、お子さんは周囲のことをよく見て、理解しています。療育を通じてコミュニケーションの方法を見つけることで、その子らしい豊かな世界が広がっていきます。

血液内科医、小児科医、療育スタッフとチームを組み、正しい知識を持って、お子さんの健やかな成長を支えていきましょう。

参考文献

  • Roberson, E.D., et al. (2011). Copy number variation at 21q22.12 contributes to the phenotype of Down syndrome.
    • (※21q22領域の欠失・重複と表現型の関連を解析し、RUNX1やDYRK1A周辺の遺伝子量効果について考察した研究。)
  • Lindstrand, A., et al. (2010). Detailed molecular and clinical characterization of three patients with 21q deletions.
    • (※21q22.11-q22.12を含む欠失を持つ患者の詳細な臨床像(血小板減少、発達遅滞、顔貌など)と、RUNX1欠失の影響について報告した重要論文。)
  • Song, W.J., et al. (1999). Haploinsufficiency of CBFA2 (RUNX1) causes familial thrombocytopenia with propensity to develop acute myelogenous leukaemia. Nature Genetics.
    • (※RUNX1遺伝子のハプロ不全(欠失や変異)が、家族性血小板異常症および白血病リスクの原因であることを突き止めた記念碑的論文。)
  • Lyle, R., et al. (2009). Genotype-phenotype correlations in Down syndrome identified by array CGH in 30 cases of partial trisomy and partial monosomy 21.
    • (※21番染色体の部分トリソミーと部分モノソミー(欠失)を比較し、21q22領域の各遺伝子がどのような症状(低身長、知的障害など)に関与しているかをマッピングした研究。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 21q deletions (2018).
    • (※患者家族向けに、21番染色体長腕欠失の症状、RUNX1関連のリスク管理、生活上のアドバイスを包括的にまとめたガイドブック。)
  • Orphanet: 21q22.11q22.12 microdeletion syndrome.
    • (※疾患の定義、疫学、臨床的特徴に関するデータベース。)

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