22q11.2 deletion syndrome (distal, D-E/F)

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 22q11.2遠位欠失症候群(22q11.2 distal deletion syndrome)
  • 22q11.2遠位微細欠失(Distal 22q11.2 microdeletion)
  • 関連:22q11.2欠失症候群(22q11.2 deletion syndrome / DiGeorge syndrome / VCFS)
    • ※本疾患は、一般的に知られる「22q11.2欠失症候群(近位欠失)」とは欠失範囲が異なる、独立した臨床単位です。混同を避けるため、医学的には「遠位(Distal)」と明記して区別されます。

対象染色体領域

22番染色体 長腕(q)11.2領域(遠位領域:LCR22-DからLCR22-E、またはLCR22-Fまで)

本疾患は、ヒトの22番染色体の長腕(qアーム)にある「11.2」と呼ばれるバンド領域の中で、**「遠位(Distal)」**と呼ばれる特定の区間において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と「LCR(Low Copy Repeats)」】

22q11.2領域の構造を理解することが、この疾患の本質を知る鍵となります。

この領域には、DNAの配列が互いによく似た「LCR(Low Copy Repeats)」と呼ばれるブロックが、A、B、C、D、E、F…と順に並んでいます。

  • 典型的な22q11.2欠失症候群(近位):
    • 大多数(約90%)の患者さんは、LCR-AからLCR-D(約3Mb)、あるいはLCR-AからLCR-B(約1.5Mb)の範囲が欠失しています。これがいわゆるディジョージ症候群やVCFSと呼ばれるものです。
  • 本疾患(遠位):
    • 典型的な欠失領域よりも「外側(テロメア側)」にある、LCR-DからLCR-E、あるいはLCR-DからLCR-Fといった領域が欠失します。
    • この場所は、典型的な欠失領域とは重ならない(あるいは一部しか重ならない)ため、含まれる遺伝子も異なり、その結果として現れる症状も異なります。

【含まれる重要な遺伝子】

D-E/F領域には、数十個の遺伝子が含まれていますが、特に以下の遺伝子が症状形成に関与していると考えられています。

  • MAPK1 (Mitogen-Activated Protein Kinase 1):
    • 最重要の責任遺伝子候補です。
    • 細胞の増殖や分化、生存に関わるシグナル伝達(ERK/MAPK経路)の中心的な役割を担っています。
    • この遺伝子の欠失は、「胎盤の形成不全(早産・低出生体重の原因)」「小頭症」「心疾患」、**「神経発達」**に深く関与していることが、マウスモデルなどの研究で示されています。
  • YPEL1 (Yippee Like 1):
    • 顔面の形成などに関わるとされる遺伝子で、特徴的な顔貌の一部に関連している可能性があります。

発生頻度

稀(Rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

典型的な22q11.2欠失症候群(近位)が約3,000〜6,000人に1人と比較的頻度が高いのに対し、遠位欠失(Distal)の報告数はそれよりもはるかに少ないです。

しかし、これは実際の発生数が少ないだけでなく、以下の理由による**「過少診断(Underdiagnosis)」**の影響が大きいと考えられます。

  1. 症状の特異性が低い: 典型的なディジョージ症候群のような重篤な心疾患や免疫不全を伴わないケースが多く、単なる「未熟児で生まれた子」「少し発達がゆっくりな子」として見過ごされている可能性があります。
  2. 検査の普及: マイクロアレイ染色体検査(CMA)が行われないと診断できない微細な欠失であるため、近年の検査技術の普及に伴い、ようやく発見されるようになった新しい疾患カテゴリーです。

臨床的特徴(症状)

22q11.2 deletion syndrome (distal) の症状は、典型的な22q11.2欠失症候群(近位)と一部共通しますが、**「周産期の問題(早産)」**など、このタイプ特有の傾向も明らかになってきています。

「不完全浸透(症状が出ないこともある)」や「可変表現性(症状の個人差が大きい)」が見られるのも特徴です。

1. 周産期・成長の問題(Perinatal & Growth)

本疾患において最も特徴的かつ頻度の高い症状です。

  • 早産(Prematurity):
    • 予定日よりも早く生まれることが多く、早産児としてNICU(新生児集中治療室)での管理が必要になるケースが多いです。
  • 子宮内発育遅延(IUGR) / 低出生体重:
    • 在胎週数に比べて体が小さく生まれる(SGA児)傾向があります。
    • これは、MAPK1遺伝子の不足により、胎盤が十分に育たないことが原因の一つと推測されています。
  • 出生後の成長:
    • 出生後も身長や体重の伸びが緩やかで、小柄(低身長・低体重)であることが多いです。

2. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で、軽度から中等度の発達への影響が認められます。

  • 発達遅滞(DD):
    • 言葉が出始めるのが遅い、運動発達(歩行など)がゆっくりである、といった特徴が見られます。
    • 特に**「言語発達の遅れ」**は顕著で、発音が不明瞭であったり、文章で話すのが苦手だったりすることがあります。
  • 知的障害(ID):
    • 多くの患者さんは軽度〜中等度の知的障害、あるいは境界域知能(Borderline intellectual functioning)を示します。
    • 学習障害(LD)を伴うこともあり、学校生活でのサポートが必要になることがあります。
  • 行動特性:
    • 不安の強さ、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)様の特徴、気分の変動などが見られることがあります。

3. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)

典型的な22q11.2欠失症候群(近位)と似ている部分もありますが、より軽微であったり、少し異なる特徴を持っていたりします。

  • 耳の異常(耳介の変形、副耳、耳前瘻孔など)。
  • 鼻の特徴(鼻根部が平坦、鼻先が滑らか)。
  • 小さな口、薄い上唇。
  • 深い眼窩(目が奥まっている)、アーチ状の眉毛。
  • 小頭症(頭が小さい)が見られることがあります。

4. 先天性心疾患(Cardiac defects)

  • 典型的な22q11.2欠失症候群(近位)では約80%に心疾患が見られますが、遠位欠失(D-E/F)ではその頻度は**低い(約20〜40%程度)**とされています。
  • 見られる心疾患のタイプとしては、心室中隔欠損症(VSD)心房中隔欠損症(ASD)、肺動脈弁狭窄症などが報告されています。
  • ファロー四徴症や総動脈幹症といった重篤な「円錐動脈幹異常」は、近位欠失に比べると少ない傾向にありますが、合併することもあります。

5. その他の合併症

  • 骨格: 手足の指の異常(多指症など)、脊椎の異常。
  • 腎・泌尿器: 腎奇形、水腎症など。
  • 口蓋裂: 粘膜下口蓋裂や口蓋咽頭機能不全(鼻声)が見られることがありますが、近位欠失ほど高頻度ではありません。
  • 低カルシウム血症・免疫不全: 近位欠失の主要な特徴(TBX1遺伝子関連)ですが、遠位欠失では通常TBX1遺伝子が残存しているため、これらの症状はであるか、見られないことが多いです。

原因

22番染色体長腕遠位(22q11.2 D-E または D-F領域)における微細欠失が原因です。

1. 発生機序:NAHR(非アリル間同源組換え)

なぜ「近位」や「遠位」といった決まった場所が欠失するのでしょうか?

22q11.2領域には、DNA配列が互いによく似た「LCR(Low Copy Repeats)」と呼ばれるブロック(LCR22-A, B, C, D, E, F…)が存在しています。

精子や卵子が作られる減数分裂の際、このLCR同士が「似ているために場所を間違えてくっついてしまう(ミスマッチ)」ことが起こりやすい構造になっています。

  • 近位欠失: LCR-AとLCR-Dの間でミスマッチが起きると、典型的なディジョージ症候群になります。
  • 遠位欠失(本疾患): LCR-DとLCR-E、あるいはLCR-DとLCR-Fの間でミスマッチが起きると、この領域が抜け落ちてしまい、本疾患が発生します。

2. 遺伝子型と表現型

  • MAPK1遺伝子のハプロ不全:
    • MAPK1遺伝子は胎盤の正常な機能や、胎児の成長、神経系の発達に不可欠です。この遺伝子が半分になることで、早産や低出生体重、小頭症、発達遅滞などのリスクが高まると考えられています。
  • TBX1遺伝子の残存:
    • 典型的なディジョージ症候群の重篤な症状(胸腺欠損、重度心疾患、低カルシウム血症)の原因であるTBX1遺伝子は、LCR-A〜Bの間にあります。
    • 本疾患(遠位欠失)ではTBX1遺伝子は通常無傷で残っているため、免疫不全や低カルシウム血症が起こりにくいという臨床的な違いが生じます。

3. 遺伝形式

  • De novo(新生突然変異):
    • 多くの症例は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶然生じた突然変異です。
  • 家族性(遺伝):
    • 親が同じ欠失を持っているケースも報告されています。
    • 親は非常に軽症(学習障害のみ、あるいは低身長のみなど)で診断されていないことが多く、子が診断されて初めて親も検査を受け、判明することがあります。この場合、子へ遺伝する確率は50%です。

診断方法

「早産・低出生体重」の既往があり、「発達遅滞」や「軽度の特徴的顔貌」がある場合に疑われますが、症状が非特異的であるため、臨床症状だけで診断することは困難です。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 22q11.2領域のコピー数変化を網羅的に調べ、欠失が「近位(典型)」なのか「遠位(本疾患)」なのかを正確に区別できます。
    • 従来のFISH法(ディジョージ症候群用の検査)では、通常LCR-A〜B領域(TBX1など)をターゲットにしているため、遠位欠失は見逃される(正常と判定される)可能性があります。CMAが必須です。
  • 両親の検査:
    • 診断がついた後、遺伝カウンセリングを経て、両親の検査を行うことがあります。家族性か突然変異かを知ることは、次子のリスク評価に重要です。

治療方法

欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、成長・発達を支えるための包括的な支援が中心となります。

1. 新生児期・乳児期の管理

  • 早産・低出生体重児ケア:
    • NICUでの呼吸・循環管理や栄養管理が行われます。退院後も発育フォローアップが必要です。
  • 心疾患の管理:
    • 心エコー検査で心疾患の有無を確認し、必要であれば手術や内服治療を行います。

2. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 発達の遅れに対し、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を早期から開始します。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 言語発達遅滞が顕著な場合が多いため、言葉の理解を促し、発語をサポートする訓練が重要です。
  • 教育:
    • 学習障害や知的障害の程度に合わせ、個別の教育支援計画(IEP)を作成し、通級指導教室や特別支援学級などの環境調整を行います。

3. 精神・心理的サポート

  • メンタルヘルス:
    • 不安障害や注意の問題などに対し、心理的なサポートや環境調整を行います。
    • 典型的な22q11.2欠失症候群で知られる「統合失調症リスク」について、遠位欠失でのリスクはまだ明確には確立されていませんが、思春期以降のメンタルヘルスには注意を払い、困りごとがあれば早期に専門医に相談できる体制を作っておくことが大切です。

4. 遺伝カウンセリング

  • 本疾患は「22q11.2欠失症候群」という大きな枠組みの中で語られることが多いため、情報の混同が起きやすいです。
  • 「免疫不全や低カルシウム血症のリスクは低い」といった、近位欠失との違いを正しく理解し、過度な不安を取り除くために、遺伝カウンセリングが有効です。

まとめ

22q11.2 deletion syndrome (distal, D-E/F) は、有名な「ディジョージ症候群(近位欠失)」とは兄弟のような関係にあるものの、少し異なる特徴を持つ希少な疾患です。

予定日より早く小さく生まれたり(早産・低出生体重)、言葉や運動の発達がゆっくりだったりすることが多いですが、ディジョージ症候群で見られるような重い免疫不全や低カルシウム血症といった合併症は少ない傾向にあります。

診断名に「22q11.2欠失」とついているため、インターネットで検索すると重篤な心臓病や免疫の病気ばかりが出てきて驚かれるかもしれませんが、この「遠位型」はまた別の見通しを持っています。

ご家族にとって、小さく生まれた赤ちゃんの成長は心配が尽きないものですが、医療的なケアが必要な時期を乗り越えれば、その子なりのペースで着実に成長していきます。

言葉の遅れや学習の苦手さに対しては、療育や教育的なサポートが大きな力になります。

医師や専門家と連携し、正しい情報を基に、お子さんの個性と成長を温かく見守っていきましょう。

参考文献

  • Mikhail, F.M., et al. (2014). Clinical and molecular characterization of 22q11.2 distal deletions. American Journal of Medical Genetics Part A.
    • (※22q11.2遠位欠失を持つ患者の詳細な臨床像(早産、低出生体重、顔貌、心疾患など)を、欠失タイプ別(Type I, II, IIIなど)に分類・解析した重要論文。)
  • Ben-Shachar, S., et al. (2008). 22q11.2 distal deletion: a recurrent genomic disorder distinct from DiGeorge syndrome and velocardiofacial syndrome. American Journal of Human Genetics.
    • (※本疾患が典型的なディジョージ症候群とは異なる独立した疾患単位であることを初めて明確に提唱し、臨床的特徴(早産や発育遅延など)を定義した記念碑的な論文。)
  • Newbern, J., et al. (2008). Mouse and human phenotypes indicate a critical conserved role for ERK2 signaling in neural crest development. Proceedings of the National Academy of Sciences.
    • (※MAPK1(ERK2)遺伝子が神経堤細胞の発達に不可欠であり、22q11.2遠位欠失症候群の主要な症状(顔貌、心疾患、神経発達)の原因遺伝子であることを基礎研究から示した文献。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 22q11.2 distal deletions (2018).
    • (※患者家族向けに、近位欠失との違い、遠位欠失特有の症状(早産リスクなど)、生活上のアドバイスを平易に解説したガイドブック。)
  • GeneReviews® [Internet]: 22q11.2 Deletion Syndrome. (Mention of distal deletions).
    • (※22q11.2欠失症候群の包括的レビューの中で、遠位欠失についての鑑別や特徴についても触れられている。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: MAPK1.
    • (※MAPK1遺伝子のハプロ不全が疾患を引き起こすことの科学的根拠評価。)

詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。