別名・関連疾患名
- 2p15-p16.1重複症候群
- 2p15-p16.1微細重複症候群(2p15-p16.1 microduplication syndrome)
- 2p15-p16.1トリソミー(Trisomy 2p15-p16.1)
- 2p15-p16.1コピー数変異(重複)(2p15-p16.1 copy number variant, duplication)
- 関連:2p15-p16.1欠失症候群(2p15-p16.1 deletion syndrome)
- ※本疾患と同じ領域が欠失する、対(つい)となる疾患です。
対象染色体領域
2番染色体 短腕(p)15から16.1領域
本疾患は、ヒトの2番染色体の短腕(pアーム)にある「15」から「16.1」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。
【ゲノム上の詳細と「鏡像効果(Mirror Effect)」】
この領域の「欠失」は、小頭症や知的障害を伴う「2p15-p16.1欠失症候群」として知られています。
本疾患はその逆の「重複」であり、欠失症候群と対照的な症状を示すことがあります。
重複のサイズは患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々です。
この領域にはいくつかの遺伝子が含まれていますが、特に以下の遺伝子の過剰(トリプロセンシティ)が、症状形成に関与していると考えられています。
- BCL11A (B-Cell CLL/Lymphoma 11A):
- 最重要の責任遺伝子です。
- 脳の神経発達や、免疫細胞(B細胞)の分化、赤血球のヘモグロビン変換(胎児型から成人型へ)に関わる重要な転写因子です。
- 欠失の場合: 「小頭症」や「重度の知的障害」になります。
- 重複の場合(本疾患): 逆に**「大頭症(頭が大きい)」**や「軽度の発達遅滞」を引き起こす傾向があり、遺伝子の量が多すぎても少なすぎても脳の発達に影響を与えることが示唆されています。
- REL (REL Proto-Oncogene, NF-KB Subunit):
- 細胞の成長や生存に関わるシグナル伝達(NF-κB経路)の成分です。
- リンパ腫(血液のがん)などでこの遺伝子の増幅が見られることがありますが、先天的な重複(生まれつき全身の細胞で多い状態)が、どのような成長への影響を与えるかは研究段階です。
- USP34 / XPO1:
- これらの遺伝子も重複領域に含まれることが多く、神経機能や骨格形成に複合的な影響を与えている可能性があります。
発生頻度
極めて稀(Ultra-rare)、かつ不明
正確な発生頻度は確立されていません。
「2p15-p16.1欠失症候群」自体の報告数が世界で数十例程度と少ないですが、「重複症候群」の報告はさらに少ないです。
しかし、これは「発生していない」のではなく、以下の理由による**「過少診断(Underdiagnosis)」**である可能性が非常に高いです。
- 症状が軽度・非特異的:
- 欠失症候群のような特徴的な顔貌や重度の障害を伴わないことが多く、単なる「発達の遅れ」や「自閉症」として診断されているケースの中に、この重複が隠れている可能性があります。
- 不完全浸透(Incomplete Penetrance):
- 重複を持っていても症状が出ない(無症状)の人が存在するため、検査を受けずに生活している「潜在的な保因者」がいると考えられます。
- 検査の普及:
- マイクロアレイ染色体検査(CMA)が行われないと診断できない微細な重複であり、近年の検査技術の普及によってようやく発見され始めた新しい概念です。
臨床的特徴(症状)
2p15-p16.1 duplication syndromeの症状は、**「神経発達症(発達障害)」が主体ですが、身体的な奇形は目立たないか、軽微であることが多いです。
また、「不完全浸透」と「可変表現性(個人差が大きい)」**が大きな特徴です。
1. 神経発達・認知機能
最も一般的な症状は、発達面への影響です。
- 発達遅滞(DD):
- 言葉の遅れ(Speech delay)や、運動発達の遅れが見られることがありますが、欠失症候群に比べると軽度であることが多いです。
- 知的障害(ID):
- 軽度から中等度の知的障害が見られることがありますが、境界域知能や**正常知能(Normal IQ)**であることも珍しくありません。
- 学習障害(LD)として、特定の学習分野に苦手さを持つ場合もあります。
- 行動特性:
- 自閉スペクトラム症(ASD): 社会性の苦手さやこだわりなど。
- 注意欠陥・多動性障害(ADHD): 不注意や多動など。
- 不安障害や情緒的な問題が見られることもあります。
2. 身体的特徴・顔貌(Craniofacial features)
欠失症候群のような「箱型の頭」といった強い特徴はありませんが、いくつかの傾向が報告されています。
- 頭囲の異常(鏡像効果):
- 欠失症候群では「小頭症(Microcephaly)」が特徴ですが、重複症候群では**「大頭症(Macrocephaly)」**あるいは正常範囲内での大きめの頭囲が見られる傾向があります。
- これはBCL11A遺伝子の量が、脳の容量制御に関わっていることを示唆しています。
- 顔貌:
- 特異的な顔貌(Dysmorphism)は乏しいことが多いですが、眼間開離(目が離れている)、平坦な鼻根部、広い前額部などが報告されることがあります。これらは家族に似ている範囲内であることも多いです。
3. 骨格・成長
- 成長:
- 欠失症候群では低身長や成長障害が見られますが、重複症候群では正常な成長、あるいは**過成長(高身長)**が見られることがあります。
- その他:
- 手足の指の軽微な異常(指が長いなど)や、関節の過伸展(体が柔らかい)が見られることがあります。
4. その他の合併症(頻度は低い)
- 腎・泌尿器系の異常や、心疾患などの内臓奇形の合併は比較的稀です。
- 免疫系:BCL11AやRELは免疫細胞に関わる遺伝子ですが、現時点で重篤な免疫不全の報告は一般的ではありません。
原因
2番染色体短腕(2p15-p16.1)における微細重複が原因です。
1. 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect)
遺伝子は「多ければ良い」わけではありません。通常2コピーでバランスが取れているものが3コピーになると、タンパク質が過剰に作られます(トリプロセンシティ)。
- BCL11Aの過剰:
- 脳の神経細胞の分化や移動のタイミングが変化し、神経回路の形成に微細な影響を与えると考えられています。
- しかし、欠失(足りない)場合に比べて、重複(多い)場合の方が、細胞や生体にとっての許容範囲が広い(ダメージが少ない)傾向があります。これが、重複症候群の方が症状が軽かったり、無症状だったりする理由の一つです。
2. 遺伝形式と不完全浸透
- 家族性(Inherited)の可能性が高い:
- 欠失症候群の多くは「突然変異(De novo)」で発生しますが、重複症候群は**「親からの遺伝」**であるケースが比較的多いです。
- 親が重複を持っていても、症状が軽微(または無症状)であるため、診断されずに過ごしており、子どもの検査で初めて判明するというパターンです。
- 常染色体顕性(優性)遺伝:
- 親が重複を持っている場合、性別に関わらず50%の確率で子に遺伝します。
- ただし、遺伝しても同じ症状が出るとは限らず、症状の重さは予測できません(可変表現性)。
診断方法
臨床症状だけでは特徴がつかめないため、診断は困難です。発達遅滞や自閉症の検査過程で、遺伝学的検査が行われて発見されます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 2p15-p16.1領域のコピー数増加を検出し、その正確なサイズと、BCL11Aなどの重要遺伝子が含まれているかを特定できます。
- この検査により、欠失(Deletion)なのか重複(Duplication)なのかが明確になります。
- 両親の解析(Parental Testing):
- お子さんに重複が見つかった場合、両親の検査を行うことが強く推奨されます。
- 解釈の重要性: もし健康な親も同じ重複を持っていた場合、その重複の病原性は低い(良性、または発症しにくい)可能性が高まります。これは、ご家族の不安を軽減し、将来の見通しを立てる上で非常に重要な情報です。
- 逆に、親が持っておらず突然変異であった場合は、その重複がお子さんの症状の原因である可能性が高くなります。
治療方法
過剰な染色体領域を取り除くような根本的な治療法はありません。
治療は、症状に応じた対症療法と、発達・生活面への療育的支援が中心となります。
1. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 言葉の遅れや運動のぎこちなさがある場合、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を活用します。
- 個別の教育支援:
- 知的障害がなくても、ADHDや学習障害の傾向がある場合は、学校での環境調整や個別の学習支援(通級指導など)を行います。
- お子さんの得意なこと(視覚優位など)を見つけ、伸ばしていくアプローチが有効です。
2. 行動・精神面のケア
- 環境調整:
- 自閉スペクトラム症の特性がある場合、見通しの立つ環境作りや、感覚過敏への配慮を行います。
- メンタルヘルス:
- 二次的な障害(不安や不登校など)を防ぐため、心理的なサポートや、必要に応じた医療機関との連携を行います。
3. 健康管理
- 定期検診:
- 特別な内臓の病気がなければ、頻繁な通院は不要なことが多いです。
- 乳幼児健診で頭囲の成長曲線を確認したり(大頭症の傾向)、視力・聴力のチェックを行ったりする程度で十分な場合がほとんどです。
4. 遺伝カウンセリング
- 最も重要なケアの一つです。
- 診断の受け止め: 希少な染色体異常と診断されると驚かれると思いますが、「重複」は「欠失」とは異なるものであり、一般的に予後は良好なケースが多いことを理解することが大切です。
- VOUS(臨床的意義不明な変異)としての側面: この重複が見つかっても、それが本当にお子さんの症状の全ての原因なのか、それとも単なる体質(良性変異)なのか、判断が難しい場合があります。専門家とよく話し合い、過度に病気扱いせず、お子さん自身を見る視点を持つことが重要です。
- 親が保因者だった場合の罪悪感の軽減や、次子のリスクについても相談します。
まとめ
2p15-p16.1 duplication syndromeは、2番染色体の一部が増えることで生じる体質です。
この疾患は、同じ場所が欠ける「欠失症候群」とは逆の現象であり、一般的に症状はよりマイルドです。
「頭が少し大きめ」「言葉がゆっくり」「こだわりがある」といった特徴が見られることがありますが、中には全く症状がなく、検査を受けるまで気づかない人もいます。
もし、お子さんに発達の遅れなどがあり、この重複が見つかったとしても、それが「重い病気」を意味するわけではありません。むしろ、「健康な親御さんも持っているかもしれない、個性の一つ」である可能性もあります。
特別な治療や手術が必要になることは稀です。
言葉の練習や、学習のサポートなど、その時のお子さんの「困り感」に合わせた療育を行えば、お子さんはその子なりのペースで着実に成長していきます。
インターネット上には情報が少なく、欠失症候群の重い症状と混同してしまうこともあるかもしれません。
遺伝の専門家と連携し、正しい情報を基に、お子さんの豊かな可能性を信じて成長を見守っていきましょう。
参考文献
- Bagheri, H., et al. (2016). Small 2p15-p16.1 deletions: A Report of two families and review of the literature.
- (※欠失症候群の論文だが、BCL11A遺伝子の機能や、領域内の遺伝子量効果(Dosage effect)について詳細に議論されており、重複症候群を理解する上でも基礎となる文献。)
- Peter, B., et al. (2014). The genetic architecture of speech and language disorders.
- (※言語障害を持つ集団におけるCNV(コピー数変異)解析において、BCL11Aを含む2p15-p16.1領域の異常が言語発達のリスク因子として挙げられている。)
- Deciphering Developmental Disorders Study: Genotype-phenotype data for 2p15-p16.1 duplications.
- (※世界的なデータベース(DECIPHER)において、この領域の重複を持つ患者の臨床データ(大頭症、発達遅滞、あるいは無症状など)が集積されている。)
- Basak, A., et al. (2015). BCL11A controls Fetal to Adult Hemoglobin Switching.
- (※BCL11A遺伝子の機能を解明した研究。この遺伝子の量的な変化が生体に与える影響について理解を深めるための基礎文献。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 2p15-p16.1 microdeletion syndrome (2018).
- (※欠失症候群のガイドブックだが、重複(Duplication)が見つかった場合の考え方や、家族性遺伝の可能性についても言及されている。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: BCL11A.
- (※BCL11A遺伝子のトリプロセンシティ(重複による病原性)に関する科学的評価。現時点では重複による重篤な病原性の証拠は「限定的(Little evidence)」または「評価中」とされることがあり、不完全浸透性が示唆されている。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


