2q23.1 microdeletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 2q23.1微細欠失症候群
  • 2q23.1欠失症候群(2q23.1 deletion syndrome)
  • MBD5関連神経発達症(MBD5-associated neurodevelopmental disorder; MAND)
    • ※本症候群の本質はMBD5遺伝子の機能喪失であるため、近年はこの名称で統合して扱われることが増えています。
  • 偽性アンジェルマン症候群(Pseudo-Angelman syndrome-2)
    • ※症状がアンジェルマン症候群に酷似しているため、歴史的にこう呼ばれることがあります。
  • 2q23.1モノソミー

対象染色体領域

2番染色体 長腕(q)23.1領域

本疾患は、ヒトの2番染色体の長腕(qアーム)にある「23.1」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が微細に欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と最重要遺伝子:MBD5】

2q23.1領域の欠失サイズは患者さんによって異なり、200キロベース(kb)程度の小さなものから、数メガベース(Mb)に及ぶ大きなものまで様々です。

しかし、この症候群を発症するかどうかを決める決定的な要因(クリティカルリージョン)は、この領域に含まれるMBD5 (Methyl-CpG-binding domain protein 5) 遺伝子が含まれているかどうかにあります。

  • MBD5遺伝子の役割(エピジェネティクスの制御):
    • MBD5は、DNAのメチル化という目印を読み取り、他の遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする「クロマチンリモデリング因子」の一種を作ります。
    • 特に、脳の神経細胞の発達シナプスの形成神経伝達の調整において、オーケストラの指揮者のような重要な役割を担っています。
    • この遺伝子が半分(ハプロ不全)になることで、脳の発達プログラムに広範な影響が及び、知的障害やてんかんなどの症状が引き起こされます。
    • MBD5遺伝子の発現量が変化すると、RAI1遺伝子(スミス・マギニス症候群の原因)やUBE3A遺伝子(アンジェルマン症候群の原因)の下流経路にも影響を与えることが示唆されており、これが症状の類似性につながっています。

発生頻度

稀(Rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

マイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及以前は診断が難しかったため、正確な統計データが不足していますが、これまでに世界で数百例の報告があります。

希少疾患の中では比較的認知度が上がってきており、推定頻度は数万人に1人〜10万人に1人程度ではないかと考えられています。

自閉スペクトラム症(ASD)や知的障害を持つ患者さんの集団スクリーニングでは、約0.5%未満の頻度で見つかるとの報告もあり、未診断の患者さんが一定数存在すると推測されます。

臨床的特徴(症状)

2q23.1 microdeletion syndromeの症状は、**「重度の知的障害」「言語発達の著しい遅れ」「てんかん」「睡眠障害」「特徴的な行動」が中核的な特徴です。

特に、「アンジェルマン症候群」や「スミス・マギニス症候群」**と症状が重なる部分(オーバーラップ)が多いのが特徴です。

1. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で、中等度から重度の発達への影響が認められます。

  • 知的障害(ID):
    • 多くの場合、中等度〜重度の知的障害を伴います。
  • 重度の言語発達遅滞:
    • 最も顕著な特徴の一つです。
    • 言葉の理解(受容言語)は比較的良好な場合がありますが、言葉を話す(表出言語)ことが非常に苦手です。
    • 生涯を通じて発語がない(Non-verbal)、あるいは数語の単語のみであるケースが多く、ジェスチャーや絵カードなどを用いたコミュニケーションが中心となります。
  • 運動発達遅滞:
    • ひとり座りや歩行開始が遅れます。
    • 歩行はやや不安定で、ぎこちない(失調性歩行)場合がありますが、多くの患者さんは独歩を獲得します。

2. 神経学的特徴(てんかん)

ご家族にとって最も管理が大変な症状の一つです。

  • てんかん(Seizures):
    • 患者さんの**約70〜90%**という高頻度でてんかん発作が見られます。
    • 発症時期: 乳児期から小児期早期(平均2〜3歳頃)に発症することが多いです。
    • 発作タイプ: 全般強直間代発作(大発作)、欠神発作、脱力発作など様々です。
    • 睡眠時持続性棘徐波(CSWS / ESES): 睡眠中に脳波異常が持続するタイプが見られることがあり、これが認知機能の退行や学習の妨げになることがあります。
    • 難治性(薬が効きにくい)の場合もありますが、成長とともに落ち着くケースもあります。

3. 行動・精神面の特性

アンジェルマン症候群や自閉スペクトラム症と共通する特徴が見られます。

  • 自閉スペクトラム症(ASD):
    • 社会的コミュニケーションの障害や、常同行動が見られます。
  • 特徴的な行動(Behavioral Phenotype):
    • 幸せそうな気質(Happy demeanor): ニコニコと笑っていることが多く、人懐っこい性格。
    • 常同行動: 手をパチパチ叩く(Hand flapping)、常同的な手の動き。
    • 歯ぎしり(Bruxism): 非常に強く歯ぎしりをする傾向があります。
    • 睡眠障害: 入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒など、睡眠のリズムが崩れやすく、家族の負担となりやすいです。
    • その他、噛みつきや自傷行為、多動、注意散漫などが見られることがあります。

4. 身体的特徴・顔貌(Craniofacial features)

特徴的な顔つき(Dysmorphism)がありますが、成長とともに変化することもあり、専門医でないと判別は難しい場合があります。

  • 顔貌:
    • 濃い眉毛、アーチ状の眉。
    • 深くくぼんだ目(Deep-set eyes)。
    • 広い鼻根部、鼻中隔が下がっている。
    • 薄い上唇、口角が開いている(Open mouth appearance)。
  • 骨格・四肢:
    • 小指短縮症(Clinodactyly): 小指が短い、内側に曲がっている。
    • 短指症(Brachydactyly): 手足の指が全体的に短い。
    • 手足が小さい(Small hands and feet)。
  • 成長:
    • 小頭症(Microcephaly): 出生時は正常でも、成長とともに頭囲の伸びが緩やかになることがあります。
    • 低身長: 小柄な体格であることが多いです。
    • 肥満傾向: 幼児期以降、過食や代謝の変化により肥満になるリスクがあります(スミス・マギニス症候群との類似点)。

原因

2番染色体長腕(2q23.1)における微細欠失による、MBD5遺伝子のハプロ不全が原因です。

1. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 2q23.1微細欠失症候群の**大部分(95%以上)**は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • 親の年齢、生活習慣、妊娠中の環境などが原因で起こるものではありません。
    • この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(1%未満)とされています。
  • 家族性(極めて稀):
    • 非常に稀ですが、親が均衡型転座などの染色体構造異常を持っている場合があります。

2. MBD5遺伝子以外の要因

  • 欠失範囲が広い場合、MBD5以外の隣接する遺伝子(EPC2KIF5Cなど)も一緒に失われることがあります。これにより、症状の重症度やバリエーション(心疾患の有無など)に個人差が生まれると考えられています。

診断方法

臨床症状(てんかん、言葉の遅れ、幸せそうな様子)からアンジェルマン症候群が疑われますが、アンジェルマン症候群の検査が陰性だった場合に、詳細な検査で本疾患が判明することが多いです。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 2q23.1領域の微細な欠失を検出し、その範囲にMBD5遺伝子が含まれているかを正確に特定できます。
    • 従来のGバンド検査では見逃されることが多いため、CMAが必須です。
  • 遺伝子パネル検査 / 全エクソーム解析(WES):
    • 染色体の欠失ではなく、MBD5遺伝子の中の微細な点変異(文字化け)でも同じ症状(MAND)が出るため、CMAで異常がなかった場合にこれらの検査で診断されることがあります。
  • 脳波検査(EEG):
    • てんかんの診断、および睡眠時の脳波異常(ESESなど)を確認するために重要です。

治療方法

欠失した染色体や遺伝子を修復する根本的な治療法は、現時点ではありません。

治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、生活の質(QOL)を高めるための包括的な療育・支援が中心となります。

1. てんかんの管理(最優先課題)

  • 薬物療法:
    • 抗てんかん薬(バルプロ酸、ラモトリギン、レベチラセタムなど)を用いて発作をコントロールします。
    • 複数の薬剤が必要な難治性の場合もありますが、専門医による調整が必要です。
    • 睡眠中の脳波異常(ESES)がある場合は、認知機能の退行を防ぐために積極的な治療が検討されます。

2. 睡眠障害への対応

  • 生活リズムの調整: 日中の活動量を増やし、就寝環境を整えます。
  • 薬物療法: 改善しない場合、メラトニンやその他の睡眠導入剤の使用を医師と相談します。睡眠不足はてんかん発作の誘因にもなるため、家族の休息も含めて重要なケアです。

3. 発達・療育的支援

  • 言語聴覚療法(ST):
    • 言葉での表現が難しいため、**AAC(補助代替コミュニケーション)**の導入が極めて重要です。
    • 絵カード(PECS)、ジェスチャー、サイン、タブレット端末(VOCA)などを活用し、「伝えたいのに伝えられない」というフラストレーションを軽減します。これにより、噛みつきなどの行動障害が減ることがあります。
  • 理学療法(PT)・作業療法(OT):
    • 運動機能の向上や、手先の微細運動(スプーンを持つなど)の訓練を行います。
  • 行動療法:
    • パニックや自傷行為に対し、応用行動分析(ABA)などのアプローチを用いて、適切な行動への置き換えを図ります。

4. 教育・生活支援

  • 特別支援教育:
    • 知的障害の程度に合わせ、特別支援学校など、個別に適した教育環境を選択します。
  • 安全管理:
    • 多動や注意散漫、誤飲のリスクがあるため、生活環境の安全対策(鍵の設置など)を行います。
  • 食事・栄養:
    • 肥満傾向が出てきた場合は、早期から食事内容やカロリー管理を行い、適正体重を維持します。

5. 遺伝カウンセリング

  • 希少疾患であり、アンジェルマン症候群との区別など、医学的な情報が複雑です。
  • 臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーから、疾患の特性、将来の見通し(てんかんの予後など)、次子のリスクについて正確な説明を受けることが大切です。

まとめ

2q23.1 microdeletion syndromeは、2番染色体の一部、特にMBD5という遺伝子が欠失することで起こる希少な疾患です。

この遺伝子は脳の発達にとても重要な役割を持っているため、お子さんは言葉を話すのが苦手だったり、てんかん発作を起こしやすかったりします。また、夜なかなか眠れないといった特徴もあり、ご家族のご苦労は多いかもしれません。

ニコニコと愛想がよく、人懐っこい性格である一方、自分の気持ちをうまく伝えられないもどかしさから、かんしゃくを起こしてしまうこともあります。

診断された当初は、「てんかん」や「重度の遅れ」という言葉に不安を感じられると思います。

しかし、この疾患の原因が分かったことで、適切なてんかん薬を選んだり、睡眠のケアをしたりと、具体的な対策が立てられるようになりました。

特に大切なのは、言葉以外のコミュニケーション方法(サインや絵カードなど)を見つけてあげることです。「伝わった!」という喜びは、お子さんの自信と落ち着きにつながります。

てんかんや睡眠の問題は、成長とともに変化することもあります。

小児神経科医、療育スタッフ、そして同じ悩みを持つ家族会などとつながり、チームでお子さんの成長を支えていきましょう。

参考文献

  • Talkowski, M.E., et al. (2011). Assessment of 2q23.1 microdeletion syndrome implicates MBD5 as a single causal locus of intellectual disability, epilepsy, and autism spectrum disorder. American Journal of Human Genetics.
    • (※2q23.1欠失症候群の責任遺伝子がMBD5であることを決定づけ、臨床的特徴(てんかん、ASD、言語障害)を詳細に定義した記念碑的な論文。)
  • Mullegama, S.V., et al. (2014). Phenotypic and molecular convergence of 2q23.1 deletion syndrome with other neurodevelopmental syndromes.
    • (※本症候群とアンジェルマン症候群、スミス・マギニス症候群との臨床的・分子的類似性について比較検討した研究。診断の鑑別点について詳しい。)
  • Jaillard, S., et al. (2009). 2q23.1 microdeletion identified by array comparative genomic hybridization: an emerging phenotype with behavioural disorders?
    • (※マイクロアレイ検査によって同定された患者の行動特性(睡眠障害、多動、常同行動など)に焦点を当てた報告。)
  • Hodge, J.C., et al. (2014). Disruption of MBD5 contributes to a spectrum of psychopathology and neurodevelopmental abnormalities. Molecular Psychiatry.
    • (※MBD5遺伝子の異常が引き起こす広範な精神神経症状(MAND)について、大規模なコホート解析を行った重要文献。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 2q23.1 microdeletion syndrome (2019).
    • (※患者家族向けに、てんかんの管理、睡眠対策、コミュニケーション支援(AAC)の重要性などを平易にまとめたガイドブック。)
  • GeneReviews® [Internet]: MBD5 Haploinsufficiency. Initial Posting: September 22, 2016. Authors: Mullegama SV, Elsea SH.
    • (※診断基準、最新の管理指針、遺伝カウンセリング情報を網羅した、臨床現場で最も信頼されるデータベース。)

詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。