2q31.1 microdeletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 2q31.1微細欠失症候群
  • 2q31.1欠失症候群(2q31.1 deletion syndrome)
  • 2q31.1モノソミー(Monosomy 2q31.1)
  • HOXD遺伝子群欠失症候群(HOXD cluster deletion syndrome)
    • ※本症候群の主要な症状が、この領域にあるHOXD遺伝子群の欠失によって引き起こされるため、このように呼ばれることがあります。
  • 裂手裂足症(Split hand/foot malformation; SHFM)を伴う症候群
  • 関連:2q31.1重複症候群(2q31.1 duplication syndrome)
    • ※同じ領域が「重複」する疾患です。こちらも手足の異常(多指症など)を伴いますが、欠失とは対照的な特徴を示します。

対象染色体領域

2番染色体 長腕(q)31.1領域

本疾患は、ヒトの2番染色体の長腕(qアーム)の中間付近にある「31.1」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と最重要遺伝子:HOXDクラスター】

2q31.1領域の欠失は、遺伝学・発生生物学の観点から非常に重要視されています。

この領域には、動物の体の形(ボディプラン)、特に手足の形を決めるための「司令塔」となる**「HOX(ホボックス)遺伝子群」**が含まれているからです。

  • HOXD gene cluster (HOXD1 〜 HOXD13):
    • 本症候群の症状形成における「主役」です。
    • HOX遺伝子は、胎児期に「腕をどこから生やすか」「指を何本にするか」「関節をどこで作るか」という精密な指令を出します。
    • 特にHOXD13などの遺伝子は、手足の先端(指)の形成に不可欠です。
    • ハプロ不全の影響: 通常2コピーある設計図が1コピー(欠失)になることで、指を作る指令が不十分になります。その結果、「指の欠損」「裂手・裂足(指が少なくV字型になる)」、**「単指症(指が1本しかない)」**といった、重複症候群(指が増える)とは逆の、非常に重篤な形態異常を引き起こすことがあります。
  • DLX1 / DLX2 (Distal-Less Homeobox 1/2):
    • HOXDクラスターの近傍に位置する遺伝子です。
    • 脳(特に前脳)のニューロンの発達や、顔面の骨格形成に関与しています。
    • 手足の異常だけでなく、本症候群に見られる**「知的障害」「特徴的な顔貌」**の原因遺伝子であると考えられています。
  • CHRNA1 (Cholinergic Receptor Nicotinic Alpha 1 Subunit):
    • 神経筋接合部(神経から筋肉へ命令を伝える場所)に関わる遺伝子です。
    • この遺伝子の欠失が、一部の患者さんに見られる「翼状片(皮膚のつっぱり)」や「筋緊張低下」に関与している可能性があります。
  • MMP11 / MMP26 (Matrix Metallopeptidase):
    • 結合組織の代謝に関わる遺伝子で、身体の構造的な特徴に影響を与える可能性があります。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

世界的な医学文献における詳細な症例報告数は、現時点で数十例程度にとどまります。

しかし、出生時に明らかな手足の異常(裂手など)を伴うため、比較的診断されやすい疾患ではありますが、染色体検査が行われずに「原因不明の先天性四肢障害」として整形外科的治療のみを受けているケースも存在すると考えられます。

男女差はなく、性別に関係なく発生します。

臨床的特徴(症状)

2q31.1 microdeletion syndromeの最大の特徴は、**「四肢(手足)の重篤な形態異常」です。

これに加えて、「小頭症」や「精神発達遅滞」**を伴うのが典型的です。

手足の特徴は非常にバリエーションが豊かで、左右で全く異なる形になることもあります。

1. 四肢の形態異常(Limb Malformations)

本症候群の診断の決定的な手がかりとなります。HOXD遺伝子群の欠失範囲や、隣接遺伝子の巻き込み具合によって重症度が異なります。

  • 裂手・裂足(Split hand/foot malformation; SHFM):
    • 手や足の中央の指(中指など)が形成されず、深い切れ込みが入ってV字型(ロブスターの爪のような形)になる状態です。医学的には「SHFM5」に関連する表現型とされますが、欠失の場合はより複雑な形をとることが多いです。
  • 指の欠損(Oligodactyly / Ectrodactyly):
    • 指の本数が5本より少ない状態です。
    • 親指と小指だけがある、あるいは3本だけあるなど、様々なパターンがあります。
  • 単指症(Monodactyly):
    • 極めて重篤な例では、指が1本(多くは小指や親指に相当するもの)しか形成されないことがあります。
  • 短指症(Brachydactyly):
    • 指が全体的に短い、あるいは特定の指の骨が短い状態です。
  • 合指症(Syndactyly):
    • 隣り合う指同士が皮膚や骨でくっついている状態です。
  • その他の骨格異常:
    • 手首(手根骨)や足首(足根骨)の癒合。
    • 橈骨(腕の骨)や脛骨(すねの骨)の形成不全。

2. 神経発達・認知機能

手足の治療と並行して、発達のサポートが必要です。

  • 知的障害(ID) / 発達遅滞(DD):
    • 軽度から重度まで幅がありますが、多くは中等度の知的障害を伴います。
    • DLX1/2遺伝子が欠失に含まれる場合、知的障害がより重くなる傾向があります。
    • 一方で、欠失がHOXDクラスターのみに限局している稀なケースでは、知能が正常範囲(Normal IQ)であることも報告されています。
  • 言語発達遅滞:
    • 言葉の理解や表出が遅れる傾向があります。
  • 筋緊張低下(Hypotonia):
    • 乳幼児期に体が柔らかく、運動発達(首すわり、お座り、歩行)が遅れます。
    • 足の形態異常がある場合、歩行開始はさらに遅くなる傾向があります(2歳〜3歳以降など)。

3. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)

「特異的」というほど目立つものではありませんが、いくつかの共通した特徴が報告されています。

  • 小頭症(Microcephaly):
    • 頭囲が小さく、小顔の印象を与えることがあります。
  • 耳の特徴:
    • 耳の位置が低い(低位付着耳)、耳介の変形、小耳症。
  • 目の特徴:
    • 眼間開離(目が離れている)、眼瞼裂狭小(目が細い)。
  • 口の特徴:
    • 薄い上唇、小顎症(あごが小さい)、高口蓋。
    • 口唇裂・口蓋裂の合併も報告されています。

4. 成長・その他の身体特徴

  • 著しい低身長(Short stature):
    • 出生前の胎児発育不全(IUGR)に加え、出生後も身長の伸びが悪く、-2SDを下回る低身長となることが多いです。
  • 皮膚・軟部組織:
    • 翼状片(Pterygium):首や脇、膝の裏などに、皮膚のつっぱり(水かきのような膜)が見られることがあります。
  • 生殖器:
    • 停留精巣(男児)、小陰茎、尿道下裂など。

5. その他の合併症

内臓奇形の合併率は比較的低いですが、以下の報告があります。

  • 眼科: 斜視、眼振、白内障、網膜色素変性症(稀)。
  • 心疾患: 心室中隔欠損症、心房中隔欠損症など。
  • 腎疾患: 水腎症、腎低形成。

原因

2番染色体長腕(2q31.1)における微細欠失が原因です。

1. HOX遺伝子のハプロ不全(設計図の不足)

この疾患の本質は、身体の形を作るための重要な指令書(HOX遺伝子)が半分欠けてしまうことにあります。

  • HOXD遺伝子群は、手足の発生において、「細胞を増やす」「軟骨を作る」「指を分ける」といった一連のプロセスを時間的・空間的に制御しています。
  • この遺伝子が不足すると、指を作るための細胞が十分に増えなかったり、軟骨が正しく形成されなかったりするため、指の欠損や変形が生じます。
  • 特にHOXD13の欠失は、指の形成不全に直結します。

2. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 2q31.1微細欠失症候群の大多数は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • 親の年齢や生活習慣が原因で起こるものではありません。
    • この場合、次子への再発リスクは非常に低い(一般集団と同程度)です。
  • 家族性(稀):
    • 非常に稀ですが、親が均衡型転座を持っている場合や、親自身が軽微な症状(軽度の指の異常など)を持つモザイク例など、遺伝性のケースもあり得ます。

診断方法

「手足の異常(特に指の欠損)」と「小頭症・発達遅滞」の組み合わせから疑われます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 2q31.1領域の微細な欠失を検出し、その正確なサイズと、HOXD遺伝子群やDLX遺伝子が含まれているかを特定できます。
    • 欠失範囲を知ることは、知的障害の程度を予測する上でも役立ちます(DLXが含まれているかどうかなど)。
  • レントゲン検査(X-ray):
    • 手足の骨の構造を詳細に評価します。
    • 指の数だけでなく、中手骨や手根骨の癒合、骨の長さなどを確認し、整形外科的な治療計画を立てるために必須です。
  • 頭部MRI検査:
    • 小頭症や発達遅滞の原因精査として、脳の構造(脳梁欠損などがないか)を確認します。

治療方法

欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、手足の機能を最大限に引き出すための外科的治療(形成外科・整形外科)と、全身の発達を支える療育が中心となります。

1. 手足の治療(形成外科・整形外科)

本症候群において、お子さんの自立度を高めるために最も重要な治療です。

  • 手術の目的:
    • 単に見た目を整えることよりも、**「機能の獲得」**を最優先します。
    • 手: 「物をつまむ(Pinch)」、「握る(Grasp)」ことができるように、指の分離や、移植による指の再建などを行います。
    • 足: 「安定して立つ」、「靴を履いて歩く」ことができるように、足の幅を調整したり、変形を矯正したりします。
  • 義肢・装具:
    • 指の欠損が重度の場合、義手や機能的な装具の使用を検討します。
    • 早期から装具に慣れることで、日常生活動作(ADL)がスムーズになります。

2. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 診断後、早期から理学療法(PT)、作業療法(OT)を開始します。
  • 作業療法(OT):
    • 自助具(Self-help devices)の活用:
      • 手の形に合わせてカスタマイズしたスプーン、鉛筆ホルダー、ボタン通しなどを作成し、自分でできることを増やします。
    • 巧緻動作訓練:
      • 残存している指や手掌を使って、物を操作する練習を行います。お子さんの適応能力は非常に高く、独特の方法で器用に道具を使いこなすようになることが多いです。
  • 理学療法(PT):
    • 歩行訓練や、体幹のバランス訓練を行います。

3. 教育・心理的サポート

  • 学校生活:
    • 手足の障害により、体育や図工、着替えなどに配慮が必要です。
    • 先生やクラスメートに対し、障害の特性を伝え、適切なサポート(着替えの手伝いや道具の工夫など)が得られる環境を整えます。
  • 心理ケア:
    • 成長とともに、他の子と違う自分の手足について悩む時期が来ます。
    • 「自分の手はかっこいい」「工夫すれば何でもできる」という自己肯定感を育む関わりや、同じ障害を持つ仲間との交流(ピアサポート)が心の支えになります。

4. 遺伝カウンセリング

  • 疾患の遺伝学的背景や、次子のリスクについて正確な情報を共有します。
  • 特に手足の異常は目に見える特徴であるため、親御さんがショックを受けたり、自分を責めたりしやすい傾向があります。心理的なサポートを含めたカウンセリングが重要です。

まとめ

2q31.1 microdeletion syndromeは、2番染色体の一部、特に手足の形を作るHOX遺伝子などが欠失することで起こる希少な疾患です。

この病気の赤ちゃんは、生まれつき指が少なかったり、手足の形がユニークだったりします。また、頭が小さめで、発達がゆっくりなことも特徴です。

ご家族は、出産直後にお子さんの手足を見て、大きな驚きと不安を感じられたことと思います。「将来、歩けるようになるのか」「手を使えるようになるのか」と心配は尽きないかもしれません。

しかし、現代の医療(形成外科や整形外科)とリハビリテーションの力は、お子さんの可能性を大きく広げてくれます。

手術で機能を改善したり、その子専用の道具(自助具)を使ったりすることで、食事も、勉強も、遊びも、驚くほど上手にできるようになります。子供たちの「適応する力」は、大人の想像をはるかに超えています。

知的な発達についても、ゆっくりではありますが、着実に成長していきます。

手足の形は、その子の個性的な「チャームポイント」でもあります。

機能的な課題は医療と工夫で乗り越え、お子さんが自分の身体を好きになり、自信を持って社会で輝けるよう、医療チームとご家族で温かく支えていきましょう。

参考文献

  • Goodman, F.R., et al. (2002). Novel HOXD13 mutations and the phenotypic spectrum of synpolydactyly.
    • (※HOXD遺伝子群の変異や欠失が引き起こす四肢奇形のスペクトラム(多指から欠損まで)について詳述した、発生遺伝学の基礎論文。)
  • Nixon, J., et al. (2010). 2q31.1 Microdeletion syndrome: Report of a new patient and review of the literature.
    • (※2q31.1欠失症候群の新たな症例報告。四肢異常(単指症など)に加え、小頭症や発達遅滞などの臨床的特徴を包括的にレビューしている。)
  • Morris, B., et al. (2012). 2q31.1 Microdeletion: Genotype-phenotype correlation and distinct clinical entity.
    • (※複数の患者データを解析し、HOXDクラスターだけでなくDLX1/2遺伝子の欠失が知的障害や顔貌の特徴に関与していることを突き止めた重要論文。)
  • Dlugosz-Szymczak, T., et al. (2011). A novel 2q31.1 duplication associated with split-hand/foot malformation type 5 and intellectual disability.
    • (※重複症候群の論文だが、欠失症候群(Deletion)との対比において、HOX遺伝子の量効果(Dosage effect)を理解するために重要な文献。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 2q31.1 microdeletion syndrome (2019).
    • (※患者家族向けに、手足の治療の選択肢、日常生活での工夫、学校生活での配慮などを平易にまとめたガイドブック。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: HOXD Cluster, DLX1/2.
    • (※各遺伝子のハプロ不全(欠失)が四肢奇形や神経発達障害を引き起こすことの科学的根拠評価。)

詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。