3q13.31 deletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 3q13.31欠失症候群
  • 3q13.31微細欠失症候群(3q13.31 microdeletion syndrome)
  • 3q13.31モノソミー(Monosomy 3q13.31)
  • 3q13欠失症候群(3q13 deletion syndrome)
    • ※より広範囲な欠失の一部として扱われることもありますが、現在は3q13.31に限局した特徴的な症候群として区別されます。

対象染色体領域

3番染色体 長腕(q)13.31領域

本疾患は、ヒトの3番染色体の長腕(qアーム)の付け根に近い「13.31」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】

3q13.31領域の欠失サイズは患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々です。

近年の研究により、この症候群の特徴的な症状(表現型)を引き起こすために共通して欠失している領域(Shortest Region of Overlap: SRO)が特定されています。

この「クリティカルリージョン(責任領域)」には、脳の発達や機能に重要な役割を果たすいくつかの遺伝子が含まれています。

【含まれる重要な遺伝子とその役割】

以下の遺伝子のハプロ不全(量が半分になること)が、症状形成に大きく関与していると考えられています。

  • DRD3 (Dopamine Receptor D3):
    • 行動・精神面の鍵となる遺伝子です。
    • 脳内の神経伝達物質であるドーパミンを受け取る受容体の一つです。
    • 感情の制御、動機づけ、運動機能、認知機能に関わっています。
    • この遺伝子の欠失は、本症候群で見られる**「多動(ADHD)」「自閉傾向」「睡眠障害」**などの行動特性に関連している可能性が高いと推測されています。
  • ZBTB20 (Zinc Finger And BTB Domain Containing 20):
    • 最も重要な責任遺伝子の一つと考えられています。
    • 脳の海馬や大脳皮質の発達、および身体の代謝や成長を制御する転写因子です。
    • 欠失の影響: 知的障害、発達遅滞、そして本症候群に特徴的な**「顔貌(短い人中、厚い唇)」「過成長(新生児期以降の体重増加)」**に関与していることが示唆されています。
    • ※参考: この遺伝子の点変異は「プリムローズ症候群(Primrose syndrome)」の原因となりますが、欠失(本疾患)とは症状が異なります。
  • LSAMP (Limbic System-Associated Membrane Protein):
    • 脳の大脳辺縁系(感情や記憶を司る部分)の形成に関わる遺伝子であり、情動調節や行動面への影響が考えられます。
  • GAP43 (Growth Associated Protein 43):
    • 神経細胞の成長や可塑性(学習能力)に関わる遺伝子です。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

2011年〜2012年頃に疾患概念が確立された比較的新しい症候群であり、世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例規模にとどまります。

しかし、これは「発生していない」のではなく、以下の理由による**「過少診断(Underdiagnosis)」**である可能性が高いです。

  1. 症状の特異性が低い: 重篤な身体奇形を伴わないことが多く、単なる「発達遅滞」や「自閉スペクトラム症」として診断されている可能性があります。
  2. 検査技術: 一般的なGバンド染色体検査では見逃されるほど微細な欠失である場合が多く、マイクロアレイ染色体検査(CMA)を行わないと発見できません。

臨床的特徴(症状)

3q13.31 deletion syndromeの症状は、「発達遅滞」「筋緊張低下」「特徴的な顔貌」、そして成長に伴って顕在化する**「行動・精神面の問題」**が特徴です。

重篤な内臓奇形の合併率は比較的低いとされています。

1. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で、中等度から重度の発達への影響が認められます。

  • 全般的発達遅滞(GDD):
    • 首すわり、お座り、はいはい、歩行などの運動発達のマイルストーンが遅れます。
    • 歩行開始は2歳〜3歳頃になることが多いですが、多くの患者さんは独歩を獲得します。
  • 重度の言語発達遅滞:
    • 最も顕著な症状の一つです。
    • 言葉の理解(受容言語)に比べて、言葉を話すこと(表出言語)が著しく遅れる傾向があります。
    • 数語の単語のみで会話が難しいケースや、発語がない(Non-verbal)ケースもあります。
  • 知的障害(ID):
    • 多くの場合、中等度〜重度の知的障害を伴います。

2. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)

「なんとなく似ている」という共通した雰囲気(Gestalt)があります。成長とともに特徴がはっきりしてくる傾向があります。

  • 短い人中(Short philtrum): 鼻の下が短い。
  • 厚く突出した唇(Prominent lips): 特に下唇が厚く、ふっくらとしています。上唇が山型(Cupid’s bow)になっていることもあります。
  • 眼の特徴:
    • 眼間開離(目が離れている)。
    • 深くくぼんだ目(Deep-set eyes)。
    • 眼瞼裂狭小(目が細い)。
  • その他:
    • 高い前頭部、高口蓋(口の中の天井が高い)。

3. 行動・精神面の特性(Behavioral phenotype)

ご家族にとって、就学期以降の生活管理において最も重要な課題となる部分です。

  • 注意欠陥・多動性障害(ADHD):
    • 落ち着きのなさ、不注意、衝動性が高頻度で見られます。
  • 自閉スペクトラム症(ASD):
    • 社会的コミュニケーションの難しさ、こだわり、常同行動など。
  • その他の行動:
    • 不安の強さ、攻撃的な行動(かんしゃく)、自傷行為が見られることがあります。
    • DRD3遺伝子などの欠失による脳内ホルモンバランスの影響が推測されています。
  • 睡眠障害:
    • 入眠困難や中途覚醒など、睡眠リズムの問題を抱えることがあります。

4. 身体的特徴・成長

  • 筋緊張低下(Hypotonia):
    • 乳幼児期に体が柔らかく(フロッピーインファント)、哺乳困難や運動発達遅滞の原因となります。
  • 成長パターン(過成長):
    • 一部の患者さんでは、出生時は正常または小さめでも、幼児期以降に身長の伸びが良く、体重が増えやすい(過成長・肥満傾向)ことが報告されています。これはZBTB20遺伝子の影響の可能性があります。
  • 骨格:
    • 脊柱側弯症、関節の過伸展(体が柔らかい)、小さな手足など。
  • 生殖器(男児):
    • 停留精巣(タマが降りてこない)、小陰茎、尿道下裂などが高頻度で見られます。

5. その他の合併症

内臓奇形の合併は必須ではありませんが、以下のような報告があります。

  • 眼科: 斜視、遠視、近視。
  • 聴覚: 滲出性中耳炎による難聴など。
  • 腎・泌尿器: 腎臓の構造異常(稀)。

原因

3番染色体長腕(3q13.31)における微細欠失が原因です。

1. ハプロ不全のメカニズム

染色体の一部が欠けることで、そこに含まれる遺伝子が1セット(片親分)しかなくなり、作られるタンパク質の量が半分になってしまう状態(ハプロ不全)です。

  • ZBTB20が不足することで脳の構築や代謝に影響が出ます。
  • DRD3が不足することで、情動や行動のコントロールが難しくなります。
    これらが複合的に作用して、本症候群の症状を引き起こします。

2. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 3q13.31欠失症候群の大多数は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • 親の年齢や妊娠中の生活習慣が原因で起こるものではありません。
    • この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(一般集団と同程度〜1%未満)です。
  • NAHR(非アリル間同源組換え):
    • この染色体領域には、DNA配列が似ているブロック(分節重複)が存在しないか、あるいは少ないため、特定の場所で切れやすいというよりは、患者さんごとに欠失する範囲が異なることが多いです。

診断方法

臨床症状だけでは診断が難しく、発達遅滞の原因精査として遺伝学的検査が行われて発見されます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 3q13.31領域の微細な欠失を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、DRD3ZBTB20などの重要遺伝子が含まれているかを特定できます。
    • 従来のGバンド検査では、欠失が小さすぎる場合に見逃されることが多いため、CMAが必須です。
  • 両親の染色体検査(FISH法 / CMA):
    • お子さんの診断確定後、それが「突然変異」なのか「親の均衡型転座由来」なのかを確認するために行われます。これは次子のリスク評価に重要です。

治療方法

欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、生活能力を向上させるための**療育(ハビリテーション)**が中心となります。

1. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 筋緊張低下や発達遅滞に対し、理学療法(PT)、作業療法(OT)を早期から開始し、粗大運動(歩行など)や微細運動(手先)の発達を促します。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 最重要課題の一つです。
    • 言葉の遅れが顕著なため、発語の訓練だけでなく、サイン、絵カード(PECS)、タブレット端末などの**AAC(補助代替コミュニケーション)**を導入し、「伝える手段」を確保します。これにより、コミュニケーション不全による行動上の問題(かんしゃく)を減らすことができます。

2. 行動・精神面のケア

  • 環境調整:
    • ADHDや自閉傾向がある場合、刺激の少ない環境を作ったり、見通しの立つスケジュール提示を行ったりします。
  • 薬物療法:
    • 多動、衝動性、不安、睡眠障害などが強く、日常生活や学習に支障が出る場合は、医師の判断により適切な薬剤の使用が検討されます。DRD3遺伝子欠失の影響を考慮し、慎重に薬剤選択が行われます。

3. 健康管理・サーベイランス

  • 生殖器の管理(男児):
    • 停留精巣がある場合は、適切な時期に手術を行います。
  • 整形外科:
    • 側弯症の有無を定期的にチェックします。
  • 眼科・耳鼻科:
    • 視力や聴力の検査を定期的に行い、学習の妨げにならないようにケアします。
  • 体重管理:
    • 過成長や肥満傾向が見られる場合は、食事内容や運動習慣の指導を行います。

4. 遺伝カウンセリング

  • 希少疾患であり、情報の少なさからご家族は不安を感じやすいです。
  • 診断の意味、将来の見通し、次子への影響などについて、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーから正確な情報を得ることが、家族の精神的な安定につながります。

まとめ

3q13.31 deletion syndromeは、3番染色体の一部が微細に欠失することで起こる希少な疾患です。

この疾患のお子さんは、赤ちゃんの頃は体が柔らかく、成長のペースはゆっくりです。

お顔立ちには、「鼻の下が少し短く、唇がふっくらしている」といった愛らしい特徴があり、成長とともに個性がはっきりしてきます。

ご家族にとって一番の心配事は、「言葉がなかなか出ないこと」や「じっとしているのが苦手(多動)」なことかもしれません。

この疾患では、言葉を「話す」ことが特に苦手な傾向がありますが、心の中ではたくさんのことを感じ、理解しています。絵カードやジェスチャーを使えば、気持ちを伝え合うことができます。

また、活発すぎて目が離せない行動も、遺伝子の影響による脳の特性です。しつけの問題ではありません。環境を整えたり、必要に応じてお薬の助けを借りたりすることで、お子さんもご家族も落ち着いて過ごせるようになります。

この疾患は、2010年代になってから詳しく分かってきた新しい病気です。そのため、インターネット上の情報は少ないですが、世界中に同じ診断の仲間がいます。

重篤な内臓の病気を合併することは少ないため、適切な療育とサポートがあれば、その子らしく元気に成長していくことができます。

医師、セラピスト、学校の先生とチームを組み、お子さんの豊かな可能性を信じて、一歩ずつ歩んでいきましょう。

参考文献

  • Molin, A.M., et al. (2011). A novel microdeletion syndrome at 3q13.31 characterised by developmental delay, postnatal overgrowth, hypoplastic male genitals, and characteristic facial features. Journal of Medical Genetics.
    • (※3q13.31欠失症候群を初めて独立した疾患単位として提唱した記念碑的な論文。ZBTB20やDRD3の重要性を指摘し、過成長や顔貌の特徴を定義した。)
  • Shuvarikov, A., et al. (2013). Recurrent HERV-H-mediated 3q13.2-q13.31 deletions cause a syndrome of hypotonia and motor, language, and cognitive delays.
    • (※欠失のメカニズムと、筋緊張低下や言語遅滞といった臨床症状の相関を詳細に解析した文献。)
  • Kashevarova, A.A., et al. (2014). Compound phenotype in a girl with r(22), concomitant microdeletion 22q13.32-qter and mosaic microdeletion 3q13.31-q13.32.
    • (※症例報告の中で、3q13.31欠失領域の遺伝子(ZBTB20, LSAMP, GAP43)の機能について詳細な考察を行っている。)
  • Vulto-van Silfhout, A.T., et al. (2013). Detailed delineation of the specific 3q13.31 microdeletion syndrome.
    • (※複数の患者データを集積し、行動特性(ADHD、自閉症)や精神医学的な側面に焦点を当てて臨床像を洗練させた重要論文。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 3q13 deletions (2018).
    • (※患者家族向けに、発達の経過、行動面への対応、療育のアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: ZBTB20, DRD3.
    • (※各遺伝子のハプロ不全(欠失)が神経発達障害や行動異常を引き起こすことの科学的根拠評価。)

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