別名・関連疾患名
- 4q欠失症候群
- 4q-症候群(4q minus syndrome)
- 4番染色体長腕欠失症候群
- 部分的4qモノソミー(Partial monosomy 4q)
- 4q31欠失症候群 / 4q32欠失症候群 / 4q33欠失症候群 等
- ※欠失している具体的なバンド名で呼ばれることもあります。
- 関連:ピエール・ロバン連鎖(Pierre Robin sequence)
- ※本症候群の約半数以上の患者さんに合併する、小顎・舌根沈下・口蓋裂の一連の症状群です。
- 関連:4q21微細欠失症候群
- ※4qの中間部(21領域)の欠失は、独特の顔貌や重度の発達遅滞など、末端欠失とは少し異なる特徴を持つため、区別して議論されることがあります。
対象染色体領域
4番染色体 長腕(q)領域
本疾患は、ヒトの4番染色体の長腕(qアーム)の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じる染色体異常症候群の総称です。
欠失する場所や大きさは患者さんによって異なりますが、大きく分けて以下の2つのタイプに分類して考えることが、症状を理解する上で重要です。
1. 中間欠失(Interstitial deletion):
- 染色体の途中(例えば4q11から4q31の間など)が抜けているタイプです。
- 特に4q21領域の欠失は、独特の顔貌(広い額、短い鼻)、重度の発達遅滞、著しい成長障害を特徴とする独立した症候群として扱われることがあります。また、4q12領域にはKIT遺伝子が含まれており、ここが欠失すると「まだら症(Piebaldism:前髪の白髪や皮膚の白斑)」を合併します。
2. 末端欠失(Terminal / Distal deletion):
- 本稿で主に解説するタイプです。
- 4番染色体の長腕の後半部分(4q31から末端の4q35にかけて)が含まれる欠失です。
- この領域(特に4q33付近)には、心臓や四肢、口蓋の形成に重要な遺伝子群が含まれており、4q欠失症候群として報告される症例の多くがこのタイプに該当します。
【含まれる重要な遺伝子(責任遺伝子)】
- HAND2: 4q33-q34に位置。心臓の発生、四肢(特に親指や小指)の形成、下顎の発達に不可欠な遺伝子です。この遺伝子の欠失が、本症候群の主要な症状(心疾患、小顎症、四肢異常)の直接的な原因と考えられています。
- BMPR1B: 骨格形成に関わる遺伝子で、指の異常などに関与します。
- SORBS2: 知的発達や心機能に関与する可能性があります。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
世界的な医学文献における報告数は、全タイプ合わせても数百例程度です。
出生100,000人に1人程度の頻度と推測されていますが、症状が軽微な場合や、逆に重篤で流産に至る場合などもあり、正確な実数は不明です。
染色体構造異常の中では比較的知られた疾患の一つですが、希少疾患に分類されます。
性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。
臨床的特徴(症状)
4q deletion syndrome(特に遠位欠失)の症状は、**「ピエール・ロバン連鎖(小顎・口蓋裂)」「先天性心疾患」「四肢の異常」「発達遅滞」**が4大特徴です。
ただし、欠失範囲によって症状の個人差が非常に大きいのが特徴です。
1. 頭蓋顔面・口腔の特徴(Craniofacial features)
最も特徴的であり、出生直後のケアが必要となる部分です。
- ピエール・ロバン連鎖(Pierre Robin sequence):
- 患者さんの約70〜90%(特に4q32-q33欠失を含む場合)に見られます。
- 小顎症(Micrognathia): あごが極端に小さい。
- 舌根沈下(Glossoptosis): あごが小さいために舌が喉の奥に落ち込み、気道を塞いで呼吸困難を起こすことがあります。
- 口蓋裂(Cleft palate): 舌が邪魔をして口の天井(口蓋)が閉じず、割れている状態です。
- 特徴的な顔貌:
- 短い鼻、平坦な鼻根部。
- 眉毛が薄い、あるいは一部欠損している。
- 眼間開離(目が離れている)。
- 耳の位置が低い(低位付着耳)、耳介の変形。
- 小頭症(Microcephaly)が見られることもあります。
2. 四肢・骨格の異常
手足の特徴は診断の重要な手がかりになります。
- 指の異常:
- 第5指の異常: 小指が内側に曲がっている(弯指)、あるいは小指の関節が一つ足りない、爪が小さいなどの特徴が高頻度で見られます。
- 親指の異常: 親指の位置がおかしい、あるいは親指の関節が多い(三指節母指)などの特徴が見られることがあります。
- 手首・足首の異常: 手首の骨の癒合や、内反足(足が内側を向いている)が見られることがあります。
- 成長:
- 子宮内発育遅延(IUGR): 出生体重が小さいことが多いです。
- 出生後の成長障害: 全体的に小柄で、低身長となる傾向があります。
3. 心血管系の異常(Congenital Heart Defects)
- 患者さんの**約50%**に先天性心疾患が見られます。
- これはHAND2遺伝子の欠失が大きく関わっています。
- 主な疾患: ファロー四徴症(ToF)、心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、肺動脈弁狭窄症など。
- 複雑な心奇形を伴う場合もあり、早期の循環器管理が必要です。
4. 神経発達・認知機能
- 知的障害(ID) / 発達遅滞(DD):
- 軽度から重度まで幅がありますが、多くは中等度〜重度の知的障害を伴います。
- 言語発達遅滞: 特に言葉の遅れが顕著です。口蓋裂や難聴がある場合、さらに発語が遅れる要因となります。
- 運動発達遅滞: 筋緊張低下(Hypotonia)があり、首すわりや歩行開始が遅れます。
- 行動特性:
- 穏やかな性格のお子さんが多い一方、一部で多動、自閉スペクトラム症(ASD)傾向、不安の強さなどが見られることがあります。
5. その他の合併症
- 呼吸器:
- ピエール・ロバン連鎖による上気道閉塞に加え、気管軟化症などを合併し、呼吸管理が必要になることがあります。
- 消化器:
- 胃食道逆流症(GERD)や、哺乳困難。
- 腎・泌尿器:
- 水腎症、停留精巣(男児)、尿道下裂など。
原因
4番染色体長腕(4q)における欠失が原因です。
1. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 4q欠失症候群の大多数は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
- この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(1%未満)とされています。
- 家族性(親の転座):
- 親が「均衡型転座(染色体の場所が入れ替わっている)」や「逆位」などの構造異常を持っている場合があります。
- この場合、親は健康ですが、子に不均衡な欠失が生じるリスクが高まります。
- 4q欠失の場合、染色体の末端に近い欠失(Subtelomeric deletion)が親の転座に由来するケースも散見されます。
2. ハプロ不全と責任領域
- 研究により、4q33バンド付近の欠失が、この症候群の特徴(心疾患、小顎、指の異常)の中核をなすことが分かっています。
- 特にHAND2遺伝子が片方なくなること(ハプロ不全)による影響が大きいとされています。
- 逆に、さらに末端の4q34-q35のみの欠失では、これらの特徴的な症状が出にくい(軽症である)ことも知られています。つまり、「どこが欠けているか」が予後を大きく左右します。
診断方法
「小顎・口蓋裂」「心疾患」「小指の異常」の組み合わせから疑われます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 4q領域の欠失を検出し、その正確な範囲(bp単位)と、HAND2遺伝子などが含まれているかを特定できます。
- 欠失範囲を知ることは、予後(心疾患のリスクや発達の見通し)を予測する上で極めて重要です。
- Gバンド染色体検査(核型分析):
- 欠失サイズが大きい場合(数Mb以上)、顕微鏡によるこの検査でも診断可能です。
- 重要: お子さんの診断がついた場合、両親の染色体検査が推奨されます。家族性転座の有無を確認するためです。
- 画像検査(エコー・CT/MRI):
- 心臓の奇形、腎臓の構造、脳の構造、気道の状態(顎の小ささによる閉塞具合)を評価します。
治療方法
欠失した染色体を修復する治療法はありません。
治療は、生命に関わる合併症(呼吸・心臓)の急性期管理と、発達を支える長期的療育の2本柱で行われます。
1. 呼吸・栄養管理(新生児期〜乳児期)
ピエール・ロバン連鎖がある場合、ここが最優先課題です。
- 体位管理: 腹臥位(うつ伏せ寝)にすることで、舌が前に落ち、気道を確保します(側臥位の場合もあり)。
- 経鼻エアウェイ: 鼻からチューブを入れて気道を確保します。
- 手術療法: 呼吸障害が重度の場合、舌唇癒着術や、下顎延長術(骨延長)を行うことがあります。
- 栄養: 口蓋裂や呼吸障害により哺乳が難しいため、専用の乳首の使用や、経管栄養(鼻チューブ)で栄養を確保し、体重増加を目指します。
2. 外科的治療
- 口蓋裂手術: 1歳〜1歳半頃に、口蓋を閉鎖する手術を行います。その後、言語療法につなげます。
- 心臓手術: 心疾患がある場合、循環器専門医の判断により、適切な時期に根治手術を行います。
- 整形外科: 手足の変形(内反足など)に対し、装具療法や手術を行います。
3. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 診断後、状態が落ち着き次第、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
- 言語聴覚療法(ST):
- 最重要課題の一つです。
- 口蓋裂による構音障害(発音のしにくさ)と、発達遅滞による言語獲得の遅れの両面からアプローチします。
- サインや絵カードなどのAAC(補助代替コミュニケーション)も積極的に活用し、「伝えたい」意欲を育てます。
- 教育:
- 特別支援学校や支援学級など、お子さんの発達段階や医療的ケアの有無に合わせた教育環境を選択します。
4. 遺伝カウンセリング
- 両親の染色体検査の結果に基づき、次子の再発リスクについて説明を受けます。
- 長期的な見通しや、利用できる福祉制度(小児慢性特定疾病、育成医療など)についての情報を整理し、家族の生活設計をサポートします。
まとめ
4q deletion syndromeは、4番染色体の一部が欠けることで起こる疾患です。
この疾患のお子さんは、生まれた時にあごが小さかったり、お口の天井が割れていたり(口蓋裂)、心臓の病気を持っていたりすることがあります。
特に赤ちゃんの頃は、呼吸やミルクを飲むのが苦手で、NICU(新生児集中治療室)での管理や手術が必要になることが多く、ご家族にとってはとても心配な時期が続くかもしれません。
しかし、医療の進歩により、呼吸や心臓の問題は手術などで乗り越えられることが増えています。あごも成長とともに大きくなり、呼吸の問題は改善していくことが多いです。
発達に関しては、ゆっくりとしたペースで進んでいきます。
言葉の遅れが見られることが多いですが、口蓋裂の治療と言語療法を受けることで、コミュニケーション能力は伸びていきます。手足の特徴(小指の形など)も、その子の個性の一部です。
この病気は、欠けている場所によって症状が一人ひとり違います。
「4q欠失」という名前だけで怖がらず、遺伝子検査の結果をもとに、その子自身の「得意なこと」と「苦手なこと(ケアが必要なこと)」を正しく知ることが大切です。
小児科医、形成外科医、循環器医、そして療育スタッフとチームを組み、お子さんの頑張りと成長を、長く、温かく支えていきましょう。
参考文献
- Strehle, E.M., et al. (2001). Phenotype-genotype correlation in patients with 4q deletion syndrome.
- (※4q欠失症候群の患者20例以上を解析し、欠失部位と臨床症状(心疾患、ピエール・ロバン連鎖など)の相関を詳細に検討した、本疾患の理解における基礎的な重要論文。)
- Russell, B., et al. (2012). Genome-wide analysis of 4q deletion syndrome: delineation of the phenotype and identification of a critical region.
- (※マイクロアレイ技術を用いて欠失範囲を精査し、4q33領域が心血管および四肢の異常に関するクリティカルリージョンであることを特定した研究。)
- Huang, X., et al. (2002). HAND2 is a critical gene for the 4q- syndrome heart and limb defects.
- (※4q欠失症候群の主要な症状である心疾患と四肢異常の原因として、HAND2遺伝子のハプロ不全が直接関与していることを分子レベルで証明した文献。)
- Keeling, S.L., et al. (2001). Proximal 4q deletion syndrome: case report and review of the literature.
- (※比較的稀な「近位欠失(4q12-q21など)」の臨床像をまとめ、遠位欠失との違いを明確にした論文。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 4q deletions (from 4q31) (2020).
- (※患者家族向けに、ピエール・ロバン連鎖のケア、発達の目安、摂食障害への対応などを平易にまとめた包括的なガイドブック。)
- GeneReviews® [Internet]: Pierre Robin Sequence. (For management strategies).
- (※4q欠失症候群の主要症状であるピエール・ロバン連鎖の管理、手術適応、予後についての参照元。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


