4q21 deletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 4q21微細欠失症候群
  • 4q21欠失症候群(4q21 deletion syndrome)
  • 4q21モノソミー(Monosomy 4q21)
  • 4q21.22微細欠失症候群
    • ※欠失の中心領域をより詳細に示した名称です。
  • Bonnet-De Vries症候群(Bonnet-De Vries syndrome)
    • ※本症候群を独立した疾患単位として定義したBonnet博士らにちなんでこう呼ばれることがありますが、まだ一般的ではありません。

対象染色体領域

4番染色体 長腕(q)21領域

本疾患は、ヒトの4番染色体の長腕(qアーム)の中間付近にある「21」と呼ばれるバンド領域(特に4q21.21から4q21.23付近)において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】

4q欠失症候群全体の中でも、この「4q21領域」の欠失は、他の領域(末端欠失など)とは明らかに異なる、非常に特徴的な症状の組み合わせ(著しい低身長と発語欠如)を示すことから、2010年に独立した症候群として提唱されました。

欠失サイズは患者さんによって数百キロベース(kb)から数メガベース(Mb)まで様々ですが、症状を引き起こすための最小重複領域(SRO)には、以下の重要な遺伝子が含まれています。

【含まれる重要な遺伝子(責任遺伝子)】

特に以下の2つの遺伝子の機能喪失(ハプロ不全)が、本症候群の中核的な症状を形成していると考えられています。

  • PRKG2 (Protein Kinase, cGMP-Dependent, Type II):
    • 「著しい成長障害(低身長)」の主因とされる遺伝子です。
    • この遺伝子は、脳や軟骨細胞で発現しており、骨が伸びるためのシグナル伝達に不可欠な役割を果たしています。
    • マウスの実験でも、この遺伝子を欠損させると「小人症(Dwarfism)」になることが確認されており、患者さんに見られる重度の低身長は、この遺伝子の不足による骨成長不全が直接的な原因である可能性が高いです。
  • RASGEF1B (RasGEF Domain Family Member 1B):
    • 「重度の知的障害・発語欠如」の主因とされる遺伝子です。
    • 脳の神経細胞におけるシグナル伝達に関わり、特に神経細胞の形を変えたり、つながりを強化したりする(可塑性)過程で重要です。
    • この遺伝子が不足することで、脳のネットワーク形成がうまくいかず、重篤な神経発達障害につながると推測されています。
  • HNRNPD / HNRPDL:
    • これらも発達遅滞や筋緊張低下に関与している可能性があります。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare) / 新興疾患

正確な発生頻度は確立されていません。

2010年以降に疾患概念が確立されたばかりの「新興ゲノム疾患(Emerging genomic disorder)」であり、世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例程度です。

しかし、これは疾患が存在しないのではなく、以下の理由による**「過少診断」**である可能性が高いです。

  1. 検査技術: 一般的なGバンド染色体検査では見逃される微細な欠失であり、マイクロアレイ染色体検査(CMA)が必須です。
  2. 症状の重複: 単なる「原因不明の重度低身長」や「知的障害」として診断されているケースの中に、本疾患が隠れている可能性があります。

臨床的特徴(症状)

4q21 microdeletion syndromeの臨床像は非常に均一で特徴的です。

**「著しい成長障害」「重度の知的障害」「発語の欠如」「特徴的な顔貌」の4つが診断の柱となります。特に、「ホルモン異常がないのに背が伸びない」**という点が、他の染色体異常との大きな鑑別点です。

1. 成長・体格(Marked Growth Restriction)

本症候群の最も際立った身体的特徴です。

  • 出生後の著しい成長障害:
    • 出生時は正常範囲、あるいは軽度の低体重(IUGR)程度であっても、生後数ヶ月から身長の伸びが悪くなります。
    • 多くの患者さんで、身長は平均よりかなり低く(-2SD〜-4SD以下)、**「重度の低身長」**となります。
    • 成長ホルモンの分泌検査を行っても「正常」であることが多く、ホルモン不足ではなく、骨そのものの反応性(PRKG2欠損による)の問題であることが示唆されています。
  • 小さな手足:
    • 体に比べて手足が小さく、指が短い(短指症)ことがあります。

2. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で重度の影響が見られます。

  • 重度の精神運動発達遅滞:
    • 首すわり、お座り、歩行などの運動発達マイルストーンが大幅に遅れます。
    • 歩行開始は2〜3歳以降、あるいは介助が必要な場合もあります。
  • 発語の欠如(Absent or severely delayed speech):
    • 極めて特徴的な症状です。
    • 多くの患者さんが、生涯を通じて有意味語(意味のある言葉)を話すことが難しい(Non-verbal)か、数語の単語のみにとどまります。
    • ただし、言葉での表現は難しくても、こちらの言っていることの理解や、表情・身振りでのコミュニケーションは可能な場合があり、内面的な感情は豊かです。
  • 筋緊張低下(Hypotonia):
    • 新生児期から乳児期にかけて体が柔らかく(フロッピーインファント)、哺乳困難を伴うことがあります。

3. 特徴的な顔貌(Distinctive Facial Features)

「おでこが広い」という特徴がよく報告されます。

  • 前頭部突出(Frontal bossing): おでこが前に張り出している。
  • 広い額(Broad forehead): おでこが広く見える。
  • 眼の特徴: 眼間開離(目が離れている)。
  • 鼻・口:
    • 短い鼻、鼻根部が低い。
    • 長い人中(鼻の下)、薄い上唇。
    • 小口症(口が小さい)、口角が下がっている。
    • 小顎症(あごが小さい)。
  • これらの特徴は、成長とともに変化することがあります。

4. その他の合併症

  • 骨格異常: 骨の成熟遅延(骨年齢が遅れる)、小さな手足。
  • 神経系: 一部の患者さんで脳の構造異常(脳梁低形成など)や、てんかん発作が見られることがあります。
  • 聴覚: 感音性難聴の合併報告があります。
  • 心疾患・腎疾患: 頻度は高くありませんが、心房中隔欠損症などの合併例も報告されています。

原因

4番染色体長腕(4q21)における微細欠失が原因です。

1. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 4q21微細欠失症候群のほぼ全例は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • 親の年齢や妊娠中の環境が原因で起こるものではありません。
    • この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(一般集団と同程度)です。

2. 遺伝子量効果(PRKG2のハプロ不全)

  • なぜ背が伸びないのか?
    • 通常、成長ホルモンが骨に作用すると、骨の細胞内で「cGMP」という物質が増え、それがPRKG2(キナーゼ)を活性化させ、骨を伸ばすスイッチを入れます。
    • 本症候群では、このスイッチ役であるPRKG2が半分しかないため、いくら成長ホルモンがあっても骨がうまく反応できず、成長がストップしてしまうと考えられています。

診断方法

「著しい低身長」と「発語の欠如」があり、ホルモン検査で異常がない場合に疑われます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 4q21領域の微細な欠失を検出し、その正確なサイズと、PRKG2RASGEF1Bが含まれているかを特定できます。
    • 欠失範囲にこれらの遺伝子が含まれていることが確認されれば、診断が確定します。
  • 脳MRI検査:
    • 発達遅滞の原因精査として行われ、脳梁の薄さや脳室拡大などが見つかることがありますが、特異的な所見ではありません。
  • 骨レントゲン・内分泌検査:
    • 低身長の原因を調べるために行われます。骨年齢の遅れが確認されますが、成長ホルモンの分泌は正常であることが多いのが特徴です。

治療方法

欠失した遺伝子を補う根本的な治療法はありません。

治療は、症状に応じた対症療法と、生活の質を高めるための療育・支援が中心となります。

1. 成長・栄養管理

  • 成長のモニタリング:
    • 一般的な成長曲線からは外れることが多いため、ご本人のペースに合わせた成長を確認します。
  • 成長ホルモン療法について:
    • 通常の低身長症には成長ホルモン(GH)治療が行われますが、本症候群の場合、原因が「骨の反応性の低下(PRKG2不足)」にあるため、GH治療の効果が限定的である(あまり効かない)可能性があります。
    • ただし、個人差があるため、小児内分泌専門医と相談の上、治療を試みるケースもあります。
  • 栄養管理:
    • 哺乳困難がある場合は、経管栄養や高カロリーミルクで栄養をサポートします。

2. 発達・療育的支援

  • コミュニケーション支援(最重要):
    • 発語が困難な場合が多いため、言葉での会話にこだわらず、**AAC(補助代替コミュニケーション)**を早期から導入します。
    • 絵カード(PECS)、ジェスチャー、サイン、タブレット端末(VOCA)などを使うことで、「伝えたい」という意思を実現し、フラストレーションを軽減します。
    • 理解力は保たれていることがあるため、豊かなインプット(話しかけ、読み聞かせ)を続けることが大切です。
  • 理学療法(PT)・作業療法(OT):
    • 筋緊張低下に対し、身体の動かし方を練習し、運動発達を促します。
    • 手先の不器用さに対し、遊びを通じたトレーニングを行います。

3. 健康管理

  • 定期検診:
    • てんかんや難聴が隠れていないか、定期的にチェックします。
    • 歯科検診を行い、歯並びや虫歯のケアを行います。

4. 遺伝カウンセリング

  • まだ新しい疾患概念であり、情報が少ないため、ご家族は将来への不安を感じやすいです。
  • 臨床遺伝専門医から、最新の知見に基づいた説明を受け、長期的な見通しを共有することが重要です。
  • 「親からの遺伝ではない(突然変異)」ということを確認し、心理的な負担を軽減します。

まとめ

4q21 microdeletion syndromeは、4番染色体の一部が欠けることで起こる、非常に希少な疾患です。

この病気の大きな特徴は、ご両親が小柄でなくても、お子さんの身長の伸びがとてもゆっくりになること(低身長)、そして「言葉を話すこと」がとても難しいことです。

ご家族にとって、「背が伸びない」「おしゃべりしない」というのは、大きな心配事だと思います。

成長ホルモンの検査をしても「異常なし」と言われ、原因がわからずに悩まれてきたかもしれません。しかし、遺伝子検査によって原因が「PRKG2などの遺伝子不足」だと分かったことは、大きな一歩です。

今の医学では、欠けた遺伝子を戻すことはできませんし、成長ホルモン治療も効きにくいかもしれません。

でも、だからといって「何もできない」わけではありません。

この病気のお子さんは、言葉は話せなくても、目や表情、身振りでたくさんのことを伝えてくれます。絵カードやタブレットを使えば、もっとスムーズに気持ちを伝え合えるようになります。

「話せないから分からない」のではなく、「分かっているけれど声に出すのが難しいだけ」なのかもしれません。

お子さんの内面にある豊かな感情に寄り添い、その子に合った方法でコミュニケーションを育んでいくことが、一番の治療になります。

医師、セラピスト、そして同じ悩みを持つ家族会などとつながり、焦らず、その子らしい成長を見守っていきましょう。

参考文献

  • Bonnet, C., et al. (2010). Microdeletion at chromosome 4q21 defines a new emerging syndrome with marked growth restriction, mental retardation and absent or severely delayed speech. Journal of Medical Genetics.
    • (※4q21微細欠失症候群を新たな疾患単位として初めて定義し、PRKG2とRASGEF1Bが主要な責任遺伝子であることを提唱した、本疾患における最も重要な原著論文。)
  • Dukes-Rimsky, L., et al. (2011). Microdeletion at 4q21.3 is associated with intellectual disability, dysmorphic facies, hypotonia, and short stature.
    • (※4q21領域のさらに詳細な欠失例を報告し、低身長や筋緊張低下といった臨床特徴と遺伝子型の関連(Genotype-Phenotype Correlation)を検証した研究。)
  • Bhoj, E.J., et al. (2013). Expanding the spectrum of microdeletion 4q21 syndrome: a partial phenotype with incomplete deletion of the minimal critical region and a new association with cleft palate and Pierre Robin sequence.
    • (※4q21欠失のバリエーションとして、口蓋裂やピエール・ロバン連鎖を合併する例を報告し、臨床像の広がりを示した文献。)
  • Hu, H., et al. (2012). Ras signaling mechanisms underlying impaired gluconeogenesis in the mouse model for 4q21 microdeletion syndrome.
    • (※PRKG2やRASGEF1Bの機能をマウスモデルで解析し、成長障害や代謝異常のメカニズムに迫った基礎研究。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 4q deletions (between 4q21 and 4q22) (2020).
    • (※患者家族向けに、成長の目安、コミュニケーション支援(AAC)、日常生活のアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: PRKG2, RASGEF1B.
    • (※各遺伝子のハプロ不全(欠失)が成長障害や神経発達障害を引き起こすことの科学的根拠評価。)

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