別名・関連疾患名
- 6p22微細欠失症候群
- 6p22欠失症候群(6p22 deletion syndrome)
- 6p22モノソミー(Monosomy 6p22)
- JARID2関連神経発達症(JARID2-related neurodevelopmental disorder)
- ※本症候群の主要な神経症状(知的障害や自閉傾向)は、この領域に含まれるJARID2遺伝子の欠失によって引き起こされることが多いため、原因遺伝子に基づいてこう呼ばれることがあります。
- 中間部6p欠失(Interstitial 6p deletion)
- ※6番染色体の端(末端)ではなく、途中(中間)が欠けていることを意味します。
対象染色体領域
6番染色体 短腕(p)22領域
本疾患は、ヒトの6番染色体の短腕(pアーム)の中間付近にある「22」と呼ばれるバンド領域(6p22.1〜6p22.3)において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】
6p22領域の欠失サイズは患者さんによって異なり、数百キロベース(kb)の小さなものから、数メガベース(Mb)に及ぶものまで様々です。
この領域の欠失がどのような症状を引き起こすかは、欠失範囲に含まれる「遺伝子の中身」によって決まります。特に、6p22.3領域に含まれる以下の遺伝子が、本症候群の特徴形成に深く関わっていると考えられています。
【含まれる重要な遺伝子(責任遺伝子)】
- JARID2 (Jumonji, AT-Rich Interactive Domain 2):
- 最重要の責任遺伝子と考えられています。
- この遺伝子は、胎児期の脳の発達において、他の遺伝子の発現を調節する「エピジェネティック・レギュレーター(クロマチン修飾因子)」としての役割を持っています。
- 欠失の影響: JARID2が不足すると、神経細胞の分化や回路形成が適切に行われず、**「知的障害」や「自閉スペクトラム症(ASD)」**の原因となります。また、心臓の形成にも関与しているため、先天性心疾患のリスクにもなります。
- DTNBP1 (Dysbindin):
- 脳内の神経伝達物質(グルタミン酸やドーパミン)の放出に関わる遺伝子です。
- 関連性: この遺伝子の変異は、統合失調症のリスク因子として研究されています。6p22欠失症候群の患者さんにおいても、認知機能や行動面への影響(学習障害など)に関与している可能性があります。
- ATXN1 (Ataxin 1):
- 脊髄小脳変性症1型(SCA1)の原因遺伝子として知られていますが、SCA1は「重複(リピート配列の伸長)」で起こる病気です。欠失(ハプロ不全)による影響は完全には解明されていませんが、神経機能に関与する可能性があります。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
世界的な医学文献における詳細な症例報告数は、現時点で数十例〜百例程度にとどまります。
しかし、これは「発生していない」のではなく、以下の理由による**「過少診断(Underdiagnosis)」**である可能性が高いです。
- 特徴が非特異的: 重篤な身体奇形を伴わない場合が多く、単なる「発達遅滞」や「自閉症」として診断されているケースの中に、本疾患が隠れている可能性があります。
- 検査の壁: 一般的なGバンド染色体検査では見逃される微細な欠失であり、マイクロアレイ染色体検査(CMA)や全エクソーム解析(WES)を行わないと診断できません。
性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。
臨床的特徴(症状)
6p22 microdeletion syndromeの症状は、**「知的障害・発達遅滞」と「自閉スペクトラム症(ASD)」**が中核となります。
身体的な特徴は比較的マイルドであることが多いですが、個人差があります。
1. 神経発達・認知機能
ほぼ全例で、軽度から重度の発達への影響が認められます。
- 知的障害(ID):
- 軽度から重度まで幅がありますが、多くは中等度です。
- 学習の遅れ、抽象的な概念の理解の難しさなどが見られます。
- 言語発達遅滞:
- 特に顕著な特徴です。
- 言葉が出始めるのが遅く(Speech delay)、文章での会話が苦手な場合があります。
- 理解力(受容言語)に比べて、話す力(表出言語)が弱い傾向があります。
- 運動発達遅滞:
- 首すわり、お座り、歩行開始などのマイルストーンが遅れます。
- 筋緊張低下(Hypotonia): 乳幼児期に体が柔らかく、運動発達の遅れの一因となります。
2. 行動・精神面の特性(Behavioral phenotype)
ご家族にとって、就学期以降の生活において重要なケアのポイントとなります。
- 自閉スペクトラム症(ASD):
- 患者さんの高い割合でASDの特性が見られます。
- 社会性: 視線が合いにくい、同年代の子との関わりが苦手、空気が読めないなど。
- こだわり: 特定の物事への強い興味、手順へのこだわり、変化への抵抗感。
- 感覚過敏: 音や触覚に対する過敏さが見られることがあります。
- その他の行動特性:
- 注意欠陥・多動性障害(ADHD)様の症状(落ち着きのなさ、不注意)。
- 不安の強さ、かんしゃく、攻撃的な行動が見られることもあります。
3. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)
「特異的」というほど目立つものではありませんが、いくつかの共通した特徴(Dysmorphism)が報告されています。
- 短い鼻、鼻孔が上を向いている。
- 深くくぼんだ目(Deep-set eyes)、眼瞼裂(目の横幅)が短い。
- 高いアーチ状の口蓋(口の天井が高い)。
- 大きな耳、耳介の変形。
- 小頭症(Microcephaly)または大頭症(Macrocephaly)のどちらも見られることがあり、一定していません。
4. その他の合併症
- 眼科:
- 斜視、屈折異常(遠視・近視・乱視)が高頻度で見られます。
- 心疾患:
- 心室中隔欠損症(VSD)や心房中隔欠損症(ASD)などの先天性心疾患を合併することがあります(約15〜20%程度)。
- 骨格:
- 手足の指が短い(短指症)、第5指の湾曲など。
- 腎・泌尿器:
- 腎臓の形態異常など(稀)。
原因
6番染色体短腕(6p22)における微細欠失が原因です。
1. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 6p22欠失症候群の大多数は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
- 親の年齢や妊娠中の環境が原因で起こるものではありません。
- この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(一般集団と同程度)です。
- 家族性(稀):
- 親が均衡型転座(染色体の場所が入れ替わっている)保因者である場合、不均衡な欠失として遺伝することがあります。
2. 遺伝子量効果(JARID2のハプロ不全)
- JARID2遺伝子は、脳の発達段階において「どの遺伝子をいつ働かせるか」を指揮する重要な役割を担っています。
- この遺伝子が片方欠けて量が半分になる(ハプロ不全)と、指揮系統が乱れ、神経細胞が正しく成熟できなくなります。これが、知的障害や自閉症の根本的な原因と考えられています。
- また、JARID2は統合失調症のリスク遺伝子との関連も示唆されており、将来的なメンタルヘルスにも留意が必要です。
診断方法
「発達遅滞」「自閉傾向」「特徴的な顔貌」があり、一般的な検査で原因が分からない場合に疑われます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 6p22領域の微細な欠失を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、JARID2遺伝子などが含まれているかを特定できます。
- 従来のGバンド検査(顕微鏡検査)では、欠失が小さすぎる場合に見逃されることが多いため、CMAが必須です。
- 全エクソーム解析(WES) / 遺伝子パネル検査:
- 染色体欠失ではなく、JARID2遺伝子の中の点変異でも似た症状が出るため、CMAで異常がなかった場合にこれらの検査で診断されることがあります。
治療方法
欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。
治療は、症状に応じた対症療法と、生活能力を向上させるための**療育(ハビリテーション)**が中心となります。
1. 発達・療育的支援(最重要)
- 早期療育:
- 診断後、早期から理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
- 言語聴覚療法(ST):
- 言葉の遅れが顕著なため、個々の理解度に合わせたコミュニケーション指導を行います。
- 絵カード(PECS)やサインなどの**AAC(補助代替コミュニケーション)**を活用し、「伝えたい」という意欲を引き出します。
- SST(ソーシャルスキルトレーニング):
- ASD特性に対し、対人関係のスキルや、集団生活でのルールを具体的に学びます。
- 見通しの立つ環境作り(構造化)も有効です。
- 教育:
- 知的障害の程度や行動特性に合わせ、特別支援学校や支援学級など、適切な教育環境を選択します。
2. 合併症の管理
- 眼科:
- 斜視や屈折異常に対し、眼鏡装用やアイパッチなどの治療を行い、視覚発達を促します。
- 循環器:
- 心疾患がある場合、定期的な経過観察や、必要に応じた手術を行います。
- てんかん:
- まれに発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。
3. 家族支援と遺伝カウンセリング
- 情報の整理:
- 希少疾患であり、日本語の情報が少ないため、ご家族は不安を感じやすいです。
- 臨床遺伝専門医から、疾患の特性や長期的な見通しについて説明を受けます。
- 次子再発リスク:
- 親の染色体検査を行い、家族性でないことが確認できれば、次子のリスクは低いことを伝え、心理的な負担を軽減します。
まとめ
6p22 microdeletion syndromeは、6番染色体の一部が微細に欠失することで起こる希少な疾患です。
この疾患のお子さんは、言葉を話し始めるのがゆっくりだったり、同年代のお友達との関わりが少し苦手だったりする特徴(自閉スペクトラム症など)を持っています。
また、お顔立ちに少し特徴があったり、目が斜視になりやすかったりすることもあります。
ご家族にとって、「発達の遅れ」や「自閉症」という診断は、将来への大きな不安材料になるかもしれません。
しかし、この疾患の原因(JARID2遺伝子など)が分かったことで、お子さんの「苦手さ」の理由が明確になりました。これは、「しつけの問題」や「育て方のせい」ではなく、生まれつきの脳の特性によるものです。
理由が分かれば、対策が立てられます。
視覚的な支援を行ったり、言葉の教室に通ったりすることで、お子さんはその子なりのペースで着実に成長していきます。
心臓の病気などを合併することもありますが、多くの場合は医療的な管理でコントロール可能です。
「できないこと」ではなく、「得意なこと」や「好きなこと」に目を向け、療育スタッフや学校の先生とチームを組んで、お子さんの個性豊かな成長を温かく支えていきましょう。
参考文献
- Masurel-Paulet, A., et al. (2011). A new microdeletion syndrome at 6p22.3 associated with developmental delay and distinct facial features.
- (※6p22.3領域の欠失を持つ患者の詳細な臨床症状を報告し、新たな微細欠失症候群として提唱した論文。JARID2遺伝子の重要性について言及。)
- Vissers, L.E., et al. (2010). Rare de novo microcopy number variations in a cohort of patients with intellectual disability.
- (※知的障害患者のコホート解析において、JARID2を含む6p22欠失を同定し、その病原性を証明した研究。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 6p deletions (2019).
- (※患者家族向けに、6p欠失全般(中間欠失含む)の特徴、発達の目安、療育のアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。)
- Celestino-Soper, P.B., et al. (2012). Haploinsufficiency of JARID2 causes a spectrum of neurodevelopmental phenotypes.
- (※JARID2遺伝子の欠失や変異が、知的障害やASDを含む幅広い神経発達障害の原因となることを示した重要文献。)
- Pedrosa, E., et al. (2010). Development of patient-specific neurons in schizophrenia using induced pluripotent stem cells.
- (※6p22.1領域(DTNBP1など)と精神疾患リスクの関連についての基礎研究。)
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