7q11.23 duplication (distal) syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 7q11.23遠位重複症候群
  • 7q11.23遠位微細重複症候群(Distal 7q11.23 microduplication syndrome)
  • ウィリアムズ・ビューレン症候群領域遠位重複(Distal Williams-Beuren syndrome region duplication)
  • 関連:7q11.23 deletion (distal) syndrome
    • ※本疾患と同じ領域が「欠失」する、対(つい)となる疾患です。欠失型はてんかんや自閉症が特徴的ですが、重複型(本疾患)はまた異なる特徴を持ちます。
  • 関連:7q11.23重複症候群(7q11.23 duplication syndrome / Somerville-Van der Aa syndrome)
    • ここが最大の注意点です。 通常単に「7q11.23重複」と言った場合、ウィリアムズ症候群の領域(エラスチン遺伝子を含む)の重複を指します。本疾患はそれよりも「遠位(端側)」の重複であり、エラスチン遺伝子を含まないため、心疾患のリスクなどが異なります。

対象染色体領域

7番染色体 長腕(q)11.23領域(遠位領域)

本疾患は、ヒトの7番染色体の長腕(qアーム)の付け根に近い「11.23」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。

【ゲノム上の詳細と「隣人」との違い】

7q11.23領域は、遺伝学的に非常に複雑な構造をしています。ここには、DNA配列がそっくりなブロック(LCR:Low Copy Repeats)がいくつも並んでおり、細胞分裂の際に「読み間違い(ミスコピー)」が起きやすいホットスポットです。

本疾患を理解するためには、「古典的重複」との違いを知ることが不可欠です。

  • 古典的7q11.23重複(Classic duplication):
    • ウィリアムズ症候群の原因領域(ELN遺伝子を含む)が重複しています。
    • 言葉の遅れ(特に表出)、不安障害、大動脈拡張などが特徴です。
  • 本疾患(Distal duplication):
    • 古典的領域よりも、さらに染色体の端(テロメア)側に位置する領域が重複しています。
    • 特徴: ウィリアムズ症候群の原因となるELN(エラスチン)遺伝子は含まれません
    • 代わりに、この領域に含まれるYWHAGHIP1といった遺伝子が3コピー(1.5倍)になることで、独自の神経発達症状が現れます。

【含まれる重要な遺伝子(責任遺伝子)】

本疾患の症状形成には、以下の遺伝子の過剰発現(トリプロセンシティ)が関わっていると考えられています。

  • YWHAG (14-3-3 gamma):
    • 脳の神経細胞の移動や配置に関わるタンパク質を作ります。
    • この遺伝子の欠失はてんかんの原因となりますが、重複した場合の影響については、軽度の発達遅滞や行動特性への関与が示唆されています。
  • HIP1 (Huntingtin Interacting Protein 1):
    • 神経機能や細胞内の物質輸送に関わります。
  • その他: POM121, NSUN5, TRIM50, FKBP6などが含まれます。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

隣接する「古典的7q11.23重複症候群」は出生7,500〜13,000人に1人と推定されていますが、本疾患(遠位重複)の報告数はそれよりもはるかに少ないです。

世界的な医学文献における報告数も限られていますが、これは疾患が存在しないのではなく、以下の理由による**「過少診断(Underdiagnosis)」**である可能性が高いです。

  1. 症状がマイルド: 重篤な身体奇形を伴わないことが多く、軽度の発達遅滞や「個性の範囲」として診断がつかないまま過ごしている可能性があります。
  2. 検査の壁: 一般的なGバンド染色体検査では見逃される微細な重複であり、マイクロアレイ染色体検査(CMA)を行わないと発見できません。
    性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。

臨床的特徴(症状)

7q11.23 duplication (distal) syndromeの症状は、**「発達遅滞」「軽微な身体的特徴」「行動面の特性」**が中心です。

劇的な症状ではなく、日常生活の中での「苦手さ」や「育てにくさ」として現れることが多いのが特徴です。

1. 神経発達・認知機能

ほぼ全例で、何らかの発達への影響が認められますが、その程度は個人差が大きいです。

  • 知的障害(ID) / 発達遅滞(DD):
    • 軽度から中等度の知的障害を伴うことが多いですが、境界域や正常知能(学習障害のみ)のケースも報告されています。
    • 抽象的な概念の理解や、複雑な指示の処理に時間を要することがあります。
  • 言語発達:
    • 言葉の遅れ(Speech delay)が見られることがあります。
    • 古典的重複症候群では「特異な発話(遅れるが流暢)」が見られることがありますが、遠位重複では一般的な言語発達遅滞のパターンをとることが多いです。
  • 運動発達:
    • 粗大運動(歩行など)や微細運動(手先)の発達がややゆっくりな場合があります。

2. 行動・精神面の特性(Behavioral phenotype)

ご家族や学校の先生が気付きやすいポイントです。

  • 注意欠陥・多動性障害(ADHD):
    • 不注意、多動、衝動性が見られることがあります。
  • 自閉スペクトラム症(ASD):
    • こだわり、社会的なコミュニケーションの苦手さ、感覚過敏などが見られることがあります。
  • 不安障害:
    • 不安が強い、新しい環境になじみにくいといった特性が見られることがあります。
  • その他の行動:
    • 攻撃的な行動や、かんしゃくが見られることもありますが、環境調整によって改善することが多いです。

3. 身体的特徴・顔貌

「この病気特有」と言えるほど目立つ顔貌はありませんが、いくつかの微細な特徴(Dysmorphism)が報告されています。

  • 顔貌:
    • 広い額、平坦な鼻根部、耳の位置の異常などが報告されていますが、非常に軽微であり、ご両親に似ている範囲内であることも多いです。
  • 頭部:
    • 小頭症(Microcephaly)や大頭症(Macrocephaly)のどちらも見られることがあり、一定していません。
  • その他:
    • 古典的重複症候群で見られるような大動脈拡張などの心疾患リスクは、本疾患では低い(ELN遺伝子が含まれないため)と考えられていますが、念のための確認は必要です。

4. 神経学的特徴

  • 筋緊張低下(Hypotonia):
    • 乳幼児期に体が柔らかいことがあります。
  • てんかん:
    • 対となる「遠位欠失症候群」ではてんかんが高頻度(約40-50%)に見られますが、本疾患(重複)におけるてんかんの発症率はそれほど高くない(あるいは不明確)とされています。しかし、リスクがゼロではないため注意は必要です。

原因

7番染色体長腕(7q11.23)の遠位領域における微細重複が原因です。

1. 発生機序:NAHR(非アリル間同源組換え)

この領域には、DNAの配列がそっくりなブロック(LCR)が並んでおり、細胞分裂の際に「並び間違い」が起きやすい構造になっています。

  • 古典的重複: ブロックBとB’の間での重複。
  • 本疾患(Distal duplication): ブロックCとDの間など、より外側(遠位)のブロック間での重複。
    これは、親の妊娠中の行動や環境、薬の服用などが原因で起こるものではありません。

2. 遺伝形式と不完全浸透

  • De novo(新生突然変異):
    • 多くは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶然生じた突然変異です。
  • 家族性(Inherited):重要
    • 親からの遺伝であるケースが比較的多く報告されています。
    • 親自身も同じ重複を持っていて、「少し勉強が苦手だった」「内気な性格だった」程度で、診断されずに社会生活を送っている場合(不完全浸透や軽症例)があります。
    • 親が保因者の場合、子に遺伝する確率は50%(常染色体顕性遺伝)です。

3. 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect)

  • YWHAGなどの遺伝子が1.5倍(3コピー)になることで、脳の発達バランスが微妙に変化し、発達特性として現れると考えられています。
  • 重複(過剰)は欠失(不足)に比べて、一般的に症状がマイルドである傾向があります。

診断方法

「発達の遅れ」や「行動の問題」があり、一般的な検査で原因が分からない場合に、詳細な遺伝学的検査を行って初めて判明します。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 7q11.23領域の重複を検出し、その**正確な位置(座標)**を特定できます。
    • これにより、「ウィリアムズ症候群の領域(ELN)は正常だが、その隣の遠位領域が重複している」ということが判明し、確定診断に至ります。
  • FISH法:
    • 通常のウィリアムズ症候群用のFISH検査(エラスチンを見る検査)では、本疾患は**「正常(異常なし)」**と判定されてしまいます。ここが診断の難しさです。
  • 両親の解析:
    • 診断確定後、家族性かどうかを確認するために両親の検査が推奨されます。
    • 親も同じ重複を持っていた場合、その重複の病原性は比較的低い(良性寄り)か、あるいは環境要因によって症状の出方が変わるタイプであると判断材料になります。

治療方法

重複した染色体を元に戻す治療法はありません。

治療は、お子さんの困りごとに合わせた療育的・教育的支援が中心となります。

1. 発達・学習支援

  • 発達評価:
    • 定期的に発達検査を行い、得意な部分と苦手な部分を把握します。
  • 療育(ST/OT):
    • 言葉の遅れがある場合は言語聴覚療法(ST)、手先の不器用さがある場合は作業療法(OT)を行います。
  • 学習支援:
    • 学校生活では、個別の教育支援計画(IEP)を作成し、学習障害(LD)の傾向がある場合は、読み書きの補助や、集中しやすい環境づくりを行います。
    • 多くの患者さんは、適切な支援があれば通常の学校生活に適応可能です。

2. 行動・心理面のサポート

  • 環境調整:
    • ADHDやASDの特性がある場合、叱責するのではなく、気が散らない工夫や、視覚的なスケジュール提示などで「成功体験」を積ませることが重要です。
  • SST(ソーシャルスキルトレーニング):
    • お友達との関わり方や、感情のコントロール方法を学びます。

3. 健康管理

  • 定期検診:
    • 特別な内臓の病気がなければ、頻繁な通院は不要です。
    • 念のため、診断時に心エコー検査などで心血管系の評価を行い、異常がないことを確認しておくと安心です。

4. 遺伝カウンセリング

  • 情報の整理:
    • インターネットで検索すると、より症状の重い「欠失症候群」や「古典的重複症候群」の情報と混同しがちです。「遠位重複」は比較的マイルドな予後であることを正しく理解し、過度な不安を取り除きます。
  • 家族への支援:
    • 親が保因者だった場合、「自分のせいで」と責めないよう、これは「体質」のようなものであることを説明します。次子リスクについても相談に乗ります。

まとめ

7q11.23 duplication (distal) syndromeは、7番染色体の一部がわずかに増えることで起こる、非常に希少な体質です。

この疾患は、有名なウィリアムズ症候群や、その逆の重複症候群とは「場所」が異なります。心臓の病気などの重い合併症は少なく、基本的には健康に過ごせることが多いのが特徴です。

お子さんの症状としては、言葉が少しゆっくりだったり、落ち着きがなかったり、勉強に苦手さがあったりと、「育てにくさ」として感じられることがあるかもしれません。

しかし、これらは「しつけ」の問題ではなく、生まれつきの遺伝子のバランスによるものです。

原因が分かったことは、お子さんを理解するための大きなヒントになります。

「なぜできないの?」と悩むのではなく、「この子はこういう特性を持っているんだ」と理解することで、具体的な対策(療育や環境調整)が見えてきます。

また、この重複は親御さんから受け継がれていることもあり、その場合は親御さんも同じように「少し苦手なこと」を持ちながらも、大人として立派に生活されているはずです。それは、お子さんの将来にとっても希望のあるモデルケースとなります。

発達のペースはゆっくりでも、その子なりのスピードで確実に成長していきます。

小児科医、心理士、学校の先生、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんの個性を肯定しながら、その成長を温かく支えていきましょう。

参考文献

  • Ramocki, M.B., et al. (2009). A new reciprocal duplication syndrome at 7q11.23 distal to the Williams-Beuren syndrome region.
    • (※7q11.23遠位重複症候群を新たな疾患単位として初めて報告した症例研究。遠位欠失症候群との対比や、古典的重複との違いについて詳述した重要文献。)
  • Parisi, L., et al. (2018). 7q11.23 distal deletion syndrome: Description of a new case and review of the literature.
    • (※対となる遠位欠失症候群の論文だが、遠位領域のゲノム構造(LCRの配置)や重複症候群との関連についても解説されており、領域の理解に役立つ。)
  • Berg, J.S., et al. (2007). Speech delay and autism spectrum disorders are frequently associated with duplication of the 7q11.23 Williams-Beuren syndrome region.
    • (※7q11.23領域の重複が言語遅滞やASDと関連することを示した研究。古典的重複が主だが、遠位重複の理解にも通じる神経発達への影響を考察。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 7q11.23 duplications (2018).
    • (※患者家族向けに、古典的重複と遠位重複の違い、発達の特徴、療育のアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。)
  • Zarate, Y.A., et al. (2014). Natural history and developmental progression of 7q11.23 duplication syndrome.
    • (※7q11.23重複症候群(主に古典的)の自然歴に関する研究だが、重複による遺伝子量効果がもたらす発達特性(ADHD、不安など)についての知見が含まれる。)

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