別名・関連疾患名
- 9p欠失症候群
- 9p-症候群(9p minus syndrome)
- 9pモノソミー(Monosomy 9p)
- 9番染色体短腕欠失症候群
- アルフィ症候群(Alfi syndrome / Alfi’s syndrome)
- ※1973年にこの症候群を初めて体系化したAlfi博士の名前にちなんだ別名です。
- 9番染色体短腕末端欠失症候群(Distal 9p deletion syndrome)
対象染色体領域
9番染色体 短腕(p)24から22領域
本疾患は、ヒトの9番染色体の短腕(pアーム)の先端部分(テロメア側)から、中間部分にかけての領域が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】
9p欠失症候群の症状は、欠失した範囲(サイズ)に含まれる遺伝子の種類によって異なります。特に以下の2つの領域が、症状形成において重要視されています。
1. 9p22-p23領域(症候群のクリティカルリージョン):
- この領域の欠失は、本症候群の顔貌の特徴である**「三角頭蓋(Trigonocephaly)」**や、特徴的な顔つき、発達遅滞、知的障害の主な原因領域と考えられています。
- 約4〜6Mb(メガベース)の範囲が共通して欠失していることが多く、ここに含まれる遺伝子(CER1やFREM1などが候補)の不足が、頭蓋骨の形成や脳の発達に影響を与えます。
2. 9p24領域(性決定に関わる領域):
- 染色体の最も端(末端)に近い領域です。
- ここには、性別の決定において決定的な役割を果たすDMRT1遺伝子などが含まれています。
- この領域まで欠失が及んでいる場合、染色体が「46,XY(男性型)」であっても、精巣がうまく作られず、外性器が女性型になったり、尿道下裂などの性分化疾患(DSD)を発症したりします。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていませんが、およそ出生50,000人に1人程度と推定されています。
これまでに世界で数百例以上の報告があり、染色体欠失症候群の中では比較的よく知られている疾患の一つです。
【性差について】
報告されている症例数では、女性の比率が高く見える傾向があります(女児2:男児1程度)。
しかし、これは「本来は男児(46,XY)」として生まれるはずの赤ちゃんが、性分化疾患によって「女児」のような外性器を持って生まれ、出生時に女性としてカウントされているケースが含まれているためと考えられています。実際には、男女(染色体上の性)の発生頻度に大きな差はないと推測されます。
臨床的特徴(症状)
9p deletion syndromeの症状は、**「特徴的な頭蓋顔面」「発達遅滞」「性分化疾患」**が3大特徴です。
症状の程度は欠失の範囲によって異なりますが、多くの患者さんで共通した特徴が見られます。
1. 頭蓋・顔貌の特徴(Craniofacial features)
最も診断の手がかりとなりやすい特徴です。
- 三角頭蓋(Trigonocephaly):
- 本症候群の最も代表的な特徴です。
- おでこの真ん中にある縫合線(前頭縫合)が、本来よりも早く閉じてしまうこと(頭蓋骨縫合早期癒合症)で、おでこの真ん中が峰のように尖り、上から見ると頭が三角形に見えます。
- こめかみ部分が凹んで見えることもあります。
- 顔貌:
- 眼: 眼間開離(目が離れている)、眼瞼裂斜上(ツリ目)、内眼角贅皮(目頭のひだ)、眼球突出気味。
- 鼻: 鼻根部が平坦で広い、鼻孔が前を向いている(Anteverted nares)、鼻が短い。
- 口: 人中(鼻の下)が長い、小顎症(あごが小さい)、口角が下がっている。
- 耳: 低位付着耳、後方回転、耳介の変形。
- 首: 短い首、翼状頸(首の皮膚が余っている)が見られることがあります。
2. 神経発達・認知機能
ほぼ全例で、中等度から重度の発達への影響が認められます。
- 精神運動発達遅滞(GDD):
- 首すわり、お座り、歩行などの運動発達が遅れます。
- 知的障害(ID):
- 軽度から重度まで幅がありますが、多くは中等度(IQ 40-50程度)です。
- 言葉の遅れが顕著な傾向があります。
- 筋緊張低下(Hypotonia):
- 乳幼児期に体が柔らかく、哺乳力が弱かったり、運動発達の遅れの一因となったりします。
- 成長とともに改善する傾向がありますが、不器用さが残ることがあります。
- てんかん:
- 一部の患者さんでけいれん発作を合併することがあります。
3. 性分化疾患(Disorders of Sex Development; DSD)
9p24領域(DMRT1遺伝子など)を含む欠失がある場合に、特に**「染色体が46,XY(男性)」**の患者さんで顕著に現れます。
- XY性転換(XY sex reversal):
- 染色体は男性(XY)ですが、外性器が女性型(外見上は女児)となることがあります。
- 完全に女性型の外性器を持つ場合から、性別判定が難しい(曖昧な)外性器を持つ場合まで様々です。
- 外性器の異常:
- 尿道下裂: おしっこの出口が本来の位置よりも下(根元側)にある。
- 停留精巣: タマ(精巣)が陰嚢に降りてきていない。
- 小陰茎: ペニスが小さい。
- 陰嚢の発達不全など。
- 46,XX(女性)の場合:
- 性発達は通常正常であることが多いですが、思春期早発や月経不順が見られることもあります。
4. その他の合併症
- 心疾患: 心室中隔欠損症(VSD)、動脈管開存症(PDA)、肺動脈弁狭窄症(PS)など(約30〜50%)。
- ヘルニア: 鼠径ヘルニア(脱腸)、臍ヘルニア(でべそ)。
- 呼吸器: 中顔面低形成や後鼻孔狭窄により、呼吸が苦しくなることや、睡眠時無呼吸症候群を起こすことがあります。
- 消化器: 胃食道逆流症(GERD)、便秘。
- 骨格: 脊柱側弯症、関節の拘縮、長い指、手足の爪の特徴(丸く凸状の爪)など。
- 易感染性: 中耳炎や呼吸器感染症を繰り返しやすい傾向があります。
- 代謝: 稀ですが、高インスリン性低血糖症の報告があります。
原因
9番染色体短腕(9p)における欠失が原因です。
1. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 多くのケースは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶然生じた突然変異です。
- この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは低いです。
- 不均衡型転座(親由来):
- 親が**「均衡型転座」**(染色体の場所が入れ替わっているが、量は正常)を持っている場合があります。
- 親は健康ですが、精子や卵子が作られる際に染色体の過不足が生じ、子に「不均衡な欠失」として遺伝することがあります。
- 9p欠失症候群では、この転座由来のケースも比較的多く見られるため、両親の検査が重要となります。
2. ハプロ不全(Haploinsufficiency)
- 染色体が1本なくなることで、そこに含まれる遺伝子の量が半分になります。
- DMRT1遺伝子: 精巣を作るための司令塔となる遺伝子です。これが半分になると、精巣形成のスイッチが完全に入らず、卵巣のような組織になったり、男性ホルモンが出なかったりして、性分化疾患が生じます。
- その他の遺伝子の不足が、骨の癒合(三角頭蓋)や脳の発達遅滞を引き起こします。
診断方法
「三角頭蓋」「性器の異常」「発達遅滞」の組み合わせから疑われます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 9p領域の欠失を検出し、その正確な範囲(どこからどこまで欠けているか)と、DMRT1などの重要遺伝子が含まれているかを特定できます。
- Gバンド染色体検査(核型分析):
- 欠失サイズが大きい場合、顕微鏡検査でも「9p-」として診断可能です。
- 重要: 診断がついた場合、両親の染色体検査が強く推奨されます。親の転座の有無を確認するためです。
- 画像検査(CT / MRI / エコー):
- 頭部CT: 三角頭蓋(頭蓋骨縫合早期癒合症)の確定診断のために行います。
- 心エコー: 心疾患の有無を確認します。
- 腹部エコー: 停留精巣や腎臓、子宮・卵巣の有無などを確認します。
治療方法
欠失した染色体を修復する治療法はありません。
治療は、頭蓋骨や性器の形態に対する外科的治療と、発達を促す療育が中心となります。
1. 脳神経外科・形成外科的治療
三角頭蓋(頭蓋骨縫合早期癒合症)への対応は重要です。
- 頭蓋形成術:
- 脳の成長に必要なスペースを確保し、頭蓋内圧亢進(脳圧が上がること)を防ぐため、また整容面(見た目)を改善するために手術を行います。
- 通常、生後数ヶ月〜1歳頃に行われることが多いです。
- 脳圧が正常で軽度の変形であれば、経過観察となることもあります。専門医(小児脳神経外科医、頭蓋顎顔面外科医)による慎重な判断が必要です。
2. 泌尿器科・内分泌科的治療(性分化疾患)
- 性別決定のサポート:
- 外性器の形状、染色体、ホルモン値、内性器(子宮など)の有無を総合的に評価し、ご家族と相談しながら、社会的な性別(男の子として育てるか、女の子として育てるか)を慎重に決定します。
- 外科的手術:
- 尿道下裂や停留精巣、外性器の形成手術を行います。
- 将来的には、ホルモン補充療法が必要になる場合があります。
3. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 理学療法(PT):筋緊張低下に対し、運動発達を促します。
- 言語聴覚療法(ST):言葉の遅れや、哺乳・嚥下の問題に対応します。
- 作業療法(OT):手先の不器用さや日常生活動作の練習を行います。
- 教育:
- 特別支援学校や支援学級など、お子さんの発達段階に合わせた教育環境を選択します。
4. 全身管理
- 心疾患: 手術や投薬が必要になることがあります。
- その他: ヘルニアの手術、呼吸管理、中耳炎の治療などを行います。
5. 遺伝カウンセリング
- 情報の整理:
- 性分化疾患を伴う場合、ご家族の心理的負担は大きいため、丁寧な説明とサポートが必要です。
- 家族への支援:
- 親の染色体検査の結果に基づき、次子再発リスク(親が転座保因者ならリスクは高くなります)について説明を受けます。
まとめ
9p deletion syndrome(アルフィ症候群)は、9番染色体の先端部分が欠けることで起こる疾患です。
この疾患の赤ちゃんは、おでこがツンと尖った特徴的な頭の形(三角頭蓋)をして生まれてくることがあります。また、おまた(外性器)の形が、男の子か女の子か判別しにくい場合や、染色体の性別と見た目の性別が異なる場合があります。
これらは、赤ちゃんがお腹の中で体を作るときに必要な「設計図」の一部が不足していたために起こったものです。
ご家族にとって、「頭の手術」や「性別のこと」は、非常に大きな決断と不安を伴うテーマだと思います。
しかし、頭の形については、適切な時期に手術を行うことで、脳の発達を守り、きれいな形に治すことができます。性分化疾患についても、専門医チームが詳細な検査を行い、お子さんが将来自分らしく生きていけるよう、長期的なサポート体制が整えられています。
発達のペースはゆっくりですが、療育を通じて、その子なりの「できること」は確実に増えていきます。
笑顔が素敵で、人懐っこい性格のお子さんも多いと言われています。
脳神経外科医、泌尿器科医、内分泌科医、小児科医、そして療育スタッフとチームを組み、一つひとつの課題をクリアしながら、お子さんの健やかな成長を支えていきましょう。
参考文献
- Alfi, O., et al. (1973). Deletion of the short arm of chromosome 9 (9p-): a new deletion syndrome. Ann Genet.
- (※本症候群を「Alfi症候群」として初めて体系的に報告した歴史的な原著論文。)
- Huret, J.L., et al. (1988). Monosomy 9p: literature review and further delineation of the phenotype.
- (※80例以上の症例をレビューし、三角頭蓋や顔貌の特徴、性差の問題などを詳細に解析した重要文献。)
- Swinkels, M.E., et al. (2008). Clinical and cytogenetic characterization of 13 Dutch patients with deletion 9p syndrome: Delineation of the critical region for a consensus phenotype.
- (※9p22領域の欠失が三角頭蓋や顔貌の特徴の原因(クリティカルリージョン)であることを特定した研究。)
- Muroya, K., et al. (2000). Sex-determining gene(s) on distal 9p: clinical and molecular studies in six cases.
- (※9p末端欠失を持つ患者の解析から、DMRT1遺伝子が性分化異常(XY性転換)の原因であることを示した重要な研究。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 9p deletions (2019).
- (※患者家族向けに、三角頭蓋の手術、性分化疾患への理解、発達の目安、療育のアドバイスなどを平易にまとめた包括的なガイドブック。)
- GeneReviews® / OMIM (158170): Chromosome 9p deletion syndrome.
- (※疾患の定義、遺伝学的背景、臨床症状の統計データに関する医学的データベース。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


