9p13 microdeletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 9p13微細欠失症候群
  • 9p13欠失症候群(9p13 deletion syndrome)
  • 9p13モノソミー(Monosomy 9p13)
  • 9p近位欠失症候群(Proximal 9p deletion syndrome)
    • ※9番染色体短腕の「付け根(近位)」側の欠失であることを示す、医学的な分類名です。
  • 関連:9p13.3欠失、9p13.2欠失、9p13.1欠失
    • ※欠失範囲がサブバンドに限局する場合の名称です。
  • 鑑別疾患:9p欠失症候群(アルフィ症候群 / 9p24-p22 deletion)
    • 【重要】 最も混同されやすい疾患です。アルフィ症候群は「染色体の先端(末端)」の欠失であり、三角頭蓋などの身体的特徴が顕著です。本疾患(9p13欠失)は「中間部」の欠失であり、臨床像は異なります。

対象染色体領域

9番染色体 短腕(p)13領域

本疾患は、ヒトの9番染色体の短腕(pアーム)の、セントロメア(染色体のくびれ部分)に近い**「13」**と呼ばれるバンド領域(9p13.1〜9p13.3)において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と「近位欠失」の特徴】

9番染色体短腕の欠失は、欠失する場所によって症状が大きく異なります。

  • 末端欠失(9p24-p22): アルフィ症候群。三角頭蓋、性分化疾患が特徴。
  • 近位欠失(9p13):本疾患
    • 染色体の中間部分が抜ける「中間欠失(Interstitial deletion)」です。
    • この領域には、神経伝達や代謝に関わる重要な遺伝子が含まれていますが、末端欠失のような派手な身体奇形を引き起こす遺伝子は含まれていない傾向があります。

【含まれる重要な遺伝子(責任遺伝子)】

9p13領域(特に9p13.3)には遺伝子が高密度に存在しており、以下の遺伝子の欠失が症状に関与していると考えられています。

  • UNC13B (Unc-13 Homolog B): 9p13.3に位置。
    • 最重要の責任遺伝子の一つと考えられています。
    • 役割: 脳のシナプスにおいて、神経伝達物質の放出を調節するタンパク質を作ります。
    • 欠失の影響: この遺伝子の機能不全は、「自閉スペクトラム症(ASD)」や「知的障害」、**「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」**などの神経発達症のリスクと強く関連しています。
  • GALT (Galactose-1-Phosphate Uridylyltransferase): 9p13.3に位置。
    • 役割: ガラクトース(乳糖の成分)を分解する酵素を作ります。
    • 欠失の影響:
      • 通常、この遺伝子の欠損(両方だめになること)は「ガラクトース血症」を引き起こします。
      • 9p13欠失では片方だけ欠失(保因者状態)するため、通常は発症しません。しかし、もう片方の遺伝子に軽微な変異(Duarte変異など)がある場合、酵素活性が低下する可能性があります。
  • STOML2 / RNF38:
    • ミトコンドリア機能やタンパク質の制御に関わり、発達遅滞への関与が研究されています。
  • CNTNAP3 / CNTNAP3B:
    • 9p13.1付近に位置。自閉症関連遺伝子として知られるCNTNAPファミリーの一部であり、社会性発達に関与する可能性があります。

発生頻度

稀(Rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

9番染色体の末端欠失(アルフィ症候群)は比較的よく知られていますが(5万人に1人程度)、この「9p13近位欠失」は報告数が少なく、世界的な医学文献における詳細な症例報告数は数十例規模です。

しかし、これは「発生していない」のではなく、以下の理由による**「過少診断(Underdiagnosis)」**である可能性が高いです。

  1. 特徴が目立たない: 三角頭蓋のような明らかな奇形がないため、「少し発達がゆっくりな子」「個性的な顔立ちの子」として過ごされている可能性があります。
  2. 検査の壁: 一般的なGバンド染色体検査では見逃される微細な欠失であり、マイクロアレイ染色体検査(CMA)を行わないと診断できません。

性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。

臨床的特徴(症状)

9p13 microdeletion syndromeの症状は、身体的な奇形よりも、**「神経発達(知能・言葉・社会性)」**に重きが置かれます。

「顔つきが普通なので、なぜ発達が遅れているのか分からなかった」というケースも多いです。

1. 神経発達・認知機能(Neurodevelopmental features)

ほぼ全例で、軽度から中等度(時に重度)の発達への影響が認められます。

  • 知的障害(ID) / 全体的な発達遅滞(GDD):
    • 軽度〜中等度の知的障害を伴うことが多いです。
    • 運動発達(首すわり、歩行)よりも、知的な発達や言葉の遅れが目立つ傾向があります。
  • 言語発達遅滞:
    • 顕著な特徴です。
    • 始語(初めての言葉)が遅い、語彙が少ない、文章で話すのが苦手など。
    • 表出(話すこと)だけでなく、理解(聞くこと)もゆっくりな場合があります。
  • 学習障害(LD):
    • 知的障害が軽度の場合でも、読み書きや計算などに特異的な苦手さを持つことがあります。

2. 行動・精神面の特性(Behavioral phenotype)

ご家族や学校でのサポートにおいて、最も理解が必要な部分です。

  • 自閉スペクトラム症(ASD):
    • 9p13欠失患者さんの半数以上に見られる重要な特徴です。
    • 視線が合わない、こだわりが強い、対人コミュニケーションが苦手、感覚過敏(聴覚・触覚)など。
    • UNC13B遺伝子などのハプロ不全が関与していると考えられています。
  • 注意欠陥・多動性障害(ADHD):
    • 落ち着きのなさ、多動、衝動性、不注意。
  • その他:
    • 不安の強さ、かんしゃく、睡眠障害(寝付きが悪い、中途覚醒)などが報告されています。

3. 身体的特徴・顔貌(Craniofacial features)

「特異的顔貌」とされますが、9p末端欠失(アルフィ症候群)ほど特徴的ではありません。ご両親に似ている範囲内であることも多いです。

  • 顔貌:
    • 眼間開離(Hypertelorism): 目と目が離れている。
    • 眼瞼裂斜下(タレ目)、または斜上(ツリ目)。
    • 鼻根部が平坦。
    • 短い人中(鼻の下)、薄い上唇。
    • 耳の位置異常、耳介の変形(立ち耳など)。
    • 小頭症(Microcephaly)や大頭症(Macrocephaly)のどちらも見られることがあり、一定していません。
  • 成長:
    • 出生体重は正常なことが多いですが、幼児期以降に低身長(Short stature)となることがあります。
    • 逆に、過成長(高身長)の報告もあり、個人差が大きいです。

4. その他の合併症

重篤な内臓奇形は稀ですが、以下の合併症に注意が必要です。

  • 感覚器:
    • 難聴(伝音性または感音性)。
    • 斜視、屈折異常(遠視・乱視)。
  • 骨格:
    • 手足の指の微細な異常(短指症、第5指の湾曲など)。
    • 関節の過伸展(体が柔らかすぎる)。
  • 生殖器:
    • 男児における停留精巣や尿道下裂が見られることがありますが、9p末端欠失(性分化疾患)ほど重度ではありません。

原因

9番染色体短腕(9p13)における微細欠失が原因です。

1. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 9p13欠失症候群の多くは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • 親の年齢や妊娠中の環境が原因で起こるものではありません。
  • 家族性(Inherited):
    • 親が「均衡型転座」や「逆位」などの構造異常を持っている場合があります。
    • また、親自身も微細欠失を持っているが、症状が極めて軽く(学習障害程度)、診断されていないケース(不完全浸透)も稀にあります。

2. ハプロ不全(Haploinsufficiency)

  • UNC13Bなどの脳の発達に関わる遺伝子が、2本あるうちの1本欠けて量が半分になることで、神経回路(シナプス)の形成や機能調整がうまくいかず、ASDや知的障害としての症状が現れます。

3. ガラクトース血症のリスク(GALT遺伝子)

  • 9p13.3にはガラクトース血症の原因遺伝子GALTがあります。
  • 欠失により、患者さんは自動的に「保因者(キャリア)」になります。
  • 通常は保因者であれば発症しませんが、もし残っているもう片方の遺伝子に軽微な変異(Duarte変異など、一般人口にも数%存在する)があった場合、ガラクトース(乳製品)の代謝能力が低下する可能性があります。
  • ※念のため、診断時にガラクトース代謝の検査を行うことが推奨される場合があります。

診断方法

「発達遅滞」「自閉傾向」「軽度の顔貌特徴」があり、一般的な検査で原因が分からない場合に疑われます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 9p13領域の微細な欠失を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、UNC13Bなどの重要遺伝子が含まれているかを特定できます。
    • 末端欠失(アルフィ症候群)との鑑別も確実に行えます。
  • 両親の染色体検査:
    • 診断確定後、家族性(親の転座など)かどうかを確認するために両親の検査が推奨されます。次子再発リスクの評価に重要です。
  • 聴力・視力検査:
    • 発達の遅れの原因として、難聴や視力障害が隠れていないか確認します。

治療方法

欠失した遺伝子を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、それぞれの症状に対する対症療法と、発達を最大限に促す**療育(ハビリテーション)**が中心となります。

1. 発達・療育的支援(最優先)

  • 早期療育:
    • 診断後、早期から療育を開始することが予後を良くします。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • 言葉の遅れに対し、語彙を増やす訓練や、コミュニケーション意欲を高める遊びを取り入れます。
    • 発語が難しい場合、絵カードやサインなどのAAC(補助代替コミュニケーション)を活用します。
  • 作業療法(OT):
    • 感覚過敏(音や触覚)がある場合、感覚統合療法を行います。
    • 手先の不器用さに対し、微細運動の訓練を行います。
  • SST(ソーシャルスキルトレーニング):
    • 自閉スペクトラム症の特性に対し、集団生活のルールや対人関係のスキルを学びます。

2. 教育的支援

  • 就学支援:
    • 知的障害の程度やASD特性に合わせて、特別支援学校や支援学級などの教育環境を選択します。
    • 通常学級に通う場合でも、通級指導教室を利用したり、視覚的な支援(スケジュール表など)を取り入れたりする配慮が有効です。

3. 健康管理

  • 定期検診:
    • 身体発育(身長・体重)のモニタリング。
    • 聴力・視力の定期チェック。
  • 代謝チェック:
    • 念のため、ガラクトース血症のスクリーニング(新生児マススクリーニングでカバーされていますが、再確認することもあります)を行い、問題があれば乳製品の制限などを検討しますが、多くの場合は食事制限不要です。

4. 遺伝カウンセリング

  • 情報の整理:
    • 「9p欠失」と検索すると、症状の重い「アルフィ症候群(三角頭蓋)」の情報が出てきて不安になることがあります。「場所が違う(近位欠失である)」ことを正しく理解し、過度な不安を取り除きます。
  • 家族への支援:
    • 親が保因者だった場合の次子リスクや、きょうだいへの説明について相談に乗ります。

まとめ

9p13 microdeletion syndromeは、9番染色体の一部が微細に欠失することで起こる、希少な疾患です。

この疾患は、有名な「9p-症候群(アルフィ症候群)」とは異なる病気です。三角頭蓋のような目立つ身体的な特徴は少なく、一見すると「少し発達がゆっくりなお子さん」に見えることが多いです。

主な特徴は、言葉が出るのが遅かったり、こだわりが強かったり(自閉傾向)、特定の音や感触を嫌がったり(感覚過敏)することです。

ご家族にとって、「見た目は普通なのに、なぜ言葉が出ないの?」「なぜこんなに育てにくいの?」という悩みは、診断がつくまで長く続くかもしれません。

しかし、診断がついたことは、お子さんを理解するための大きな一歩です。

「わがまま」や「しつけの問題」ではなく、生まれつきの遺伝子の影響で、脳の情報処理の仕方が少しユニーク(個性的)になっていることが分かりました。

原因が分かれば、対策が立てられます。

言葉の練習をしたり、安心できる環境を整えたり、感覚過敏に配慮したりすることで、お子さんは生きやすくなり、持てる力を発揮できるようになります。

重篤な心臓病などの内臓合併症は少なく、身体的には健康に過ごせることが多いのも特徴です。

ゆっくりですが、確実に成長していきます。その子なりのペースを大切に、小児科医、療育スタッフ、心理士、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんの豊かな内面と成長を支えていきましょう。

参考文献

  • Fukushima, H., et al. (2017). Microdeletion of 9p13.3 associated with intellectual disability, autism spectrum disorder, and facial dysmorphism.
    • (※9p13.3欠失が知的障害やASDの原因となることを、UNC13B遺伝子のハプロ不全と関連付けて詳細に報告した、本疾患の理解において重要な論文。)
  • Raca, G., et al. (2004). A case of proximal 9p deletion associated with mild developmental delay and dysmorphic features.
    • (※近位9p欠失の臨床像(軽度発達遅滞と軽微な顔貌異常)を報告し、末端欠失(アルフィ症候群)との違いを明確にした文献。)
  • Willemsen, M.H., et al. (2006). Chromosome 9p deletion syndrome: A case report and review of the literature.
    • (※9p欠失症候群全体のレビューの中で、近位欠失の表現型について言及し、遺伝子型と表現型の相関を考察した研究。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 9p deletions (2019).
    • (※患者家族向けに、末端欠失と近位欠失の違い、発達の特徴、療育のアドバイスなどを平易にまとめた包括的なガイドブック。)
  • DECIPHER Database: 9p13.3 deletion.
    • (※染色体微細欠失・重複に関する国際的なデータベース。9p13領域の欠失を持つ患者の臨床症状(ID, ASD, 言語遅滞など)の統計データ。)
  • GeneReviews®: Galactosemia. (For GALT gene reference).
    • (※9p13.3に含まれるGALT遺伝子の欠損によるガラクトース血症についての情報。保因者診断の文脈で参照。)

詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。