別名・関連疾患名
- 9p24.3欠失症候群
- 9p24.3微細欠失症候群(9p24.3 microdeletion syndrome)
- 9p24.3モノソミー(Monosomy 9p24.3)
- 9p末端欠失症候群(Distal 9p deletion syndrome)
- 関連:46,XY性分化疾患(46,XY Disorders of Sex Development; 46,XY DSD)
- ※本症候群の主要な症状である性分化異常は、この領域に含まれるDMRT1遺伝子の欠失によって引き起こされるため、臨床的にはDSDの一型として扱われることが多いです。
- 関連:9p欠失症候群(9p deletion syndrome / Alfi syndrome)
- ※9p24.3欠失は、より広範囲な「9p欠失症候群」の一部として分類されることがありますが、9p24.3単独の欠失では、9p欠失症候群の典型的な顔貌(三角頭蓋など)が軽度である場合があり、区別して考えることが重要です。
対象染色体領域
9番染色体 短腕(p)24.3領域
本疾患は、ヒトの9番染色体の短腕(pアーム)の最も端(テロメア側)に位置する「24.3」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】
9p24.3領域は、染色体の一番端っこに位置する非常に重要な領域です。
ここには、胎児期に「精巣(睾丸)」を作るための指令を出すマスター遺伝子が含まれています。この領域の欠失は、身体的な奇形よりも、**「性の発達」と「脳の発達」**に大きな影響を与えます。
【含まれる重要な遺伝子(責任遺伝子)】
- DMRT1 (Doublesex and Mab-3 Related Transcription Factor 1):
- 最重要の責任遺伝子です。
- 役割: 胎児の未分化な性腺を「精巣」へと分化させ、維持するための決定的なスイッチ(転写因子)です。また、女性化(卵巣形成)を抑制する働きもあります。
- 欠失の影響:
- 染色体が**46,XY(男性型)**の場合:この遺伝子が半分(ハプロ不全)になると、精巣を作る指令が弱すぎて実行されず、性腺が精巣にならずに卵巣のような組織(形成不全性腺)になったり、外性器が女性型になったりします(XY性転換)。
- 染色体が**46,XX(女性型)**の場合:通常、性発達への影響は少ないですが、卵巣機能不全のリスクなどが考慮されます。
- DOCK8 (Dedicator Of Cytokinesis 8):
- 役割: 免疫細胞の構造や機能に関わる遺伝子です。
- 欠失の影響: 免疫機能の低下やアレルギー体質、あるいは知的障害に関与する可能性があります(通常は両方の遺伝子が欠損する常染色体潜性遺伝で重篤な免疫不全となりますが、欠失によるハプロ不全の影響も研究されています)。
- KANK1:
- 神経発達に関与し、脳性麻痺や発達遅滞に関連する可能性があります。
発生頻度
稀(Rare)
正確な発生頻度は確立されていません。
広義の「9p欠失症候群」全体としては、出生50,000人に1人程度と推定されていますが、9p24.3という特定の領域に限局した微細欠失の報告数はそれよりも少なくなります。
しかし、この疾患は**「性別」によって発見されやすさが大きく異なります。**
- 46,XY(男性染色体)の場合: 外性器の異常(性分化疾患)を伴うことが多いため、出生時や思春期に発見されやすい傾向があります。
- 46,XX(女性染色体)の場合: 性器の形状は正常であることが多く、単なる「発達遅滞」として扱われ、染色体検査に至らない(過少診断)可能性があります。
臨床的特徴(症状)
9p24.3 deletion syndromeの症状は、**「性分化疾患(特にXY児)」と「発達遅滞」**が2大特徴です。
9p22領域を含む大きな欠失(アルフィ症候群)で見られるような「三角頭蓋(おでこが尖る)」などの顔貌特徴は、9p24.3単独欠失では軽度、あるいは見られないこともあります。
1. 性分化疾患(Disorders of Sex Development; DSD)
本症候群の最も医学的対応を要する特徴です。
特に染色体が**46,XY(生物学的な男性)**の患者さんにおいて顕著に現れます。
- 完全型性転換(Complete XY sex reversal):
- 染色体はXYですが、外性器は完全に女性型です。
- 出生時は「女児」として判定され、思春期になっても月経が来ない(原発性無月経)ことで発見される場合があります。
- 不全型(部分型)性転換:
- 外性器が男性的でも女性的でもない(曖昧な外性器)、あるいは尿道下裂(おしっこの出口がずれている)、小陰茎などを呈します。
- 性腺形成不全(Gonadal dysgenesis):
- 精巣が正しく形成されず、索状性腺(線維化した組織)となることがあります。
- これにより、男性ホルモン(テストステロン)が分泌されません。
- 腫瘍化リスク: 形成不全の性腺は、将来的に「性腺芽腫」などの腫瘍ができるリスクがあるため、予防的な摘出術が検討されることがあります。
2. 神経発達・認知機能
ほぼ全例で、軽度から中等度の発達への影響が認められます。
- 発達遅滞(DD) / 知的障害(ID):
- 多くの場合、軽度〜中等度の知的障害を伴います。
- 言葉の獲得が遅れる(Speech delay)傾向があります。
- 重度の知的障害を伴うことは、9p24.3単独欠失では比較的少ないですが、個人差があります。
- 行動特性:
- 自閉スペクトラム症(ASD)様の行動(こだわり、コミュニケーションの苦手さ)や、注意欠陥・多動性障害(ADHD)様の行動が見られることがあります。
- 強迫的な行動が見られることも報告されています。
3. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)
9p欠失症候群(アルフィ症候群)に共通する特徴が見られますが、比較的マイルドです。
- 眼: 眼間開離(目が離れている)、眼瞼裂斜上(ツリ目)。
- 鼻: 鼻根部が平坦、鼻孔が前を向いている。
- 口: 人中(鼻の下)が長い、小顎症。
- 頭部: 軽度の三角頭蓋(おでこの真ん中が少し尖る)が見られることがありますが、手術が必要なほど重度ではないことが多いです。
4. その他の合併症
- ヘルニア: 鼠径ヘルニア(脱腸)や臍ヘルニア(でべそ)。
- 筋緊張低下: 乳幼児期に体が柔らかく、運動発達がゆっくりです。
- 心疾患: 稀ですが、心室中隔欠損症などが報告されています。
- 骨格: 指が長い、関節の緩さなど。
原因
9番染色体短腕末端(9p24.3)における微細欠失が原因です。
1. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 多くのケースは、受精の過程で偶然生じた突然変異です。
- 家族性(親の転座由来):重要
- 染色体の末端(テロメア)付近の欠失は、親が**「均衡型転座」**を持っているケースが比較的多く見られます。
- 例えば、親の9番染色体の端っこが、別の染色体にくっついている場合です。親自身は遺伝子の量が変わらないので健康ですが、子に染色体が受け継がれる際に、9p24.3部分が欠失してしまうことがあります。
- この場合、次子への再発リスクが高くなるため、両親の染色体検査が重要です。
2. DMRT1のハプロ不全
- 性分化疾患の原因は、DMRT1遺伝子の量が半分になることです。
- 精巣を作るためには、強い「オスになれ」というシグナルが必要です。DMRT1が半分だとそのシグナルが弱すぎて、体はデフォルトの「女性型」へと発達しようとします。これがXY性転換のメカニズムです。
診断方法
「性分化異常」「発達遅滞」「特徴的な顔貌」の組み合わせから疑われます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
- 9p24.3領域の微細な欠失を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、DMRT1遺伝子が含まれているかを特定できます。
- これにより、他の性分化疾患(SRY遺伝子異常など)との鑑別が可能です。
- Gバンド染色体検査(核型分析):
- 欠失サイズが大きい場合、顕微鏡検査でも「9p-」として診断可能です。
- 同時に、染色体の性別(XYかXXか)を確認します。
- 内分泌学的検査・画像検査:
- 性ホルモン値(テストステロン、LH、FSHなど)を測定します。
- 腹部エコーやMRIで、内性器(子宮、卵巣、精巣)の有無と状態を確認します。
治療方法
欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。
治療は、**「性分化疾患への対応」と「発達支援」**の2つが柱となります。
1. 性分化疾患(DSD)への対応
専門チーム(小児内分泌科、泌尿器科、遺伝科、心理士)による包括的なケアが必要です。
- 性別の決定:
- 外性器の形状、染色体、ホルモン産生能力、将来の性機能、そしてご家族の意向を総合的に検討し、社会的な性別(養育上の性)を慎重に決定します。
- 9p24.3欠失の46,XY児の場合、外性器が女性型であれば、女性として育てることが選択される場合もありますし、男性として形成手術を行う場合もあります。正解はなく、その子にとっての最善を考えます。
- ホルモン補充療法:
- 思春期になっても性ホルモンが出ない場合、決定した性別に合わせてホルモン(エストロゲンまたはテストステロン)を補充し、二次性徴を誘導します。
- これにより、身体的な成熟と骨粗鬆症の予防を図ります。
- 性腺摘出術:
- 形成不全の性腺(精巣)が腹腔内に残っている場合、将来的な腫瘍化(ガン化)のリスクがあるため、時期を見て予防的に摘出することが推奨されることが多いです。
2. 発達・療育的支援
- 早期療育:
- 診断後、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
- 教育:
- 知的障害の程度に合わせて、特別支援学校や支援学級などの教育環境を選択します。
- コミュニケーション能力の向上を目指した支援が重要です。
3. 心理的ケア
- 告知とアイデンティティ:
- 成長に伴い、自分の性別や体の特徴について悩む時期が来ます。
- 年齢に応じた適切な説明(告知)と、心理的なサポートを継続的に行うことが非常に重要です。
4. 遺伝カウンセリング
- 情報の整理:
- 非常に繊細な問題を含む疾患です。ご家族の不安を受け止め、医学的な事実と将来の見通しを整理します。
- 家族への支援:
- 親の染色体検査(転座の確認)を行い、次子リスクについて相談に乗ります。
まとめ
9p24.3 deletion syndromeは、9番染色体の一番端っこが微細に欠失することで起こる疾患です。
この病気の大きな特徴は、赤ちゃんの「性別の発達」に影響を与えることです。
特に、染色体は男の子(XY)であっても、おまたの形が女の子に近かったり、判別しにくかったりすることがあります。また、言葉や運動の発達がゆっくりなことも特徴です。
ご家族にとって、生まれたばかりの赤ちゃんの「性別」について医師から説明を受けることは、大変な衝撃と戸惑いがあることと思います。
しかし、これは「DMRT1」という、体を男の子にするためのスイッチが入らなかったために起きた、自然な体の変化の一つです。
現在では、専門の医療チームが、ホルモンの治療や手術、そして心のケアまで、お子さんが自分らしく生きていくための長期的なサポート体制を整えています。
性別のことだけでなく、発達についても、療育を受けることでできることは着実に増えていきます。
知的な遅れは軽度なことも多く、学校に通い、社会生活を送っている患者さんもたくさんいます。
大切なのは、焦って決めることではなく、専門医とじっくり相談しながら、お子さんにとって一番幸せな道を選んでいくことです。
小児内分泌科医、泌尿器科医、心理士、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんの個性と未来を、長く、温かく支えていきましょう。
参考文献
- Muroya, K., et al. (2000). Sex-determining gene(s) on distal 9p: clinical and molecular studies in six cases.
- (※9p末端欠失を持つ患者の解析から、DMRT1遺伝子が46,XY性分化異常(性転換)の原因遺伝子であることを特定した、この分野における最も重要な原著論文。)
- Raymond, C.S., et al. (1999). DMRT1, a gene related to MAB-3 of C. elegans, is expressed in the male gonad of vertebrates.
- (※DMRT1遺伝子の機能と、脊椎動物のオス化(精巣形成)における役割を解明した基礎研究。)
- Quinonez, S.C., et al. (2013). 9p24.3 deletion and 46,XY gonadal dysgenesis: review of the literature and refinement of the critical region.
- (※9p24.3欠失と性腺形成不全の関連について過去の文献をレビューし、クリティカルリージョンを精緻化した研究。臨床的特徴のまとめとして有用。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 9p deletions (2019).
- (※患者家族向けに、性分化疾患への理解、発達の目安、療育のアドバイスなどを平易にまとめた包括的なガイドブック。)
- Ledig, S., et al. (2012). Partial deletion of DMRT1 causes 46,XY ovotesticular disorder of sexual development.
- (※DMRT1の部分的な欠失でも性発達障害が起こることを示し、ハプロ不全のメカニズムを補強した論文。)
- GeneReviews®: Disorders of Sex Development. (For general management).
- (※DSD(性分化疾患)全体の診断・管理・心理的ケアに関するガイドライン。9p欠失によるDSDの管理もこの原則に基づく。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


