9q22.3 deletion syndrome

Posted on 2026年 1月 21日

別名・関連疾患名

  • 9q22.3欠失症候群
  • 9q22.3微細欠失症候群(9q22.3 microdeletion syndrome)
  • 9q22.3モノソミー(Monosomy 9q22.3)
  • ゴーリン症候群(Gorlin syndrome) / 母斑基底細胞癌症候群(NBCCS)
    • 【重要】 本症候群の最も中核的な症状は、この領域に含まれるPTCH1遺伝子の欠失によって引き起こされるため、臨床的には「ゴーリン症候群」の診断基準を満たすことが多いです。ただし、単なる遺伝子変異ではなく「欠失」であるため、知的障害などを合併する重症型(隣接遺伝子症候群)として位置づけられます。
  • 9q22.32欠失症候群

対象染色体領域

9番染色体 長腕(q)22.3領域

本疾患は、ヒトの9番染色体の長腕(qアーム)の中間付近にある「22.3」と呼ばれるバンド領域(主に9q22.32を含む約352kb〜20.5Mbの範囲)において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】

9q22.3欠失症候群は、**「隣接遺伝子症候群(Contiguous gene syndrome)」**の典型例です。

つまり、一つの重要な遺伝子だけでなく、その周りの遺伝子もまとめて失われることで、複数の症状が組み合わさって現れます。

【含まれる重要な遺伝子(責任遺伝子)】

  • PTCH1 (Patched 1):
    • 最重要の責任遺伝子です。
    • 役割: 「ソニック・ヘッジホッグ(SHH)シグナル伝達経路」を制御する受容体です。この経路は、胎児期の体の形成や、細胞の増殖をコントロールするブレーキ役として働きます。
    • 欠失の影響: ブレーキが半分(ハプロ不全)になって効かなくなるため、細胞増殖が過剰になり、「基底細胞癌(皮膚がん)」や「顎骨嚢胞」、**「大頭症」**などのゴーリン症候群の症状を引き起こします。
  • FANCC (Fanconi Anemia Complementation Group C):
    • 役割: DNAの修復に関わる遺伝子です。
    • 欠失の影響: 通常は両方の遺伝子が欠損するとファンコニ貧血になりますが、片方の欠失でも発がんリスクや細胞の脆弱性に関与する可能性があります。
  • ROR2:
    • 役割: 骨格形成に関わる遺伝子です。
    • 欠失の影響: ロビノウ症候群(Robinow syndrome)様の特徴的な顔貌や骨格異常に関与している可能性があります。

発生頻度

稀(Rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

ゴーリン症候群(遺伝子変異型含む全体)の頻度は、出生约30,000人に1人と推定されていますが、そのうち「9q22.3微細欠失」が原因である割合は低いため、本症候群自体は非常に希少です。

性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。

臨床的特徴(症状)

9q22.3 deletion syndromeの症状は、**「ゴーリン症候群の症状(腫瘍・骨格異常)」に加えて、欠失特有の「知的障害・発達遅滞」や「過成長」**が見られることが特徴です。

症状は年齢とともに変化し、特に思春期以降に皮膚や顎の症状が顕著になります。

1. ゴーリン症候群と共通の症状(PTCH1欠失による)

これらは、PTCH1遺伝子変異単独の場合でも見られる症状ですが、本症候群でも中核となります。

  • 基底細胞癌(Basal Cell Carcinoma; BCC):
    • 皮膚がんの一種です。通常は高齢者に多いですが、本症候群では20代〜30代(早ければ小児期)から、顔や首などの日光が当たる場所に多発することがあります。
    • 色素斑(ほくろのようなもの)として現れることもあります。
  • 顎骨嚢胞(Keratocystic Odontogenic Tumor; KCOT):
    • 上あごや下あごの骨の中にできる袋状の病変(腫瘍)です。
    • 10代〜20代で発症することが多く、無症状のままレントゲンで発見されることもあれば、腫れや痛みで気づくこともあります。再発しやすいのが特徴です。
  • 大頭症(Macrocephaly):
    • 頭囲が大きく、おでこが突出している(Frontal bossing)ことがあります。
  • 大脳鎌の石灰化:
    • 脳の左右を分ける膜(大脳鎌)にカルシウムが沈着して白く写ります。CT検査で見つかる特徴的な所見で、健康上の害は通常ありませんが診断の重要な手がかりです。
  • 骨格異常:
    • 肋骨の癒合や分叉(二股に分かれる)、脊柱側弯症などが見られることがあります。
  • 手掌・足底の小窩(Pits):
    • 手のひらや足の裏に、小さな窪み(1〜2mm程度)がポツポツと見られることがあります。

2. 欠失症候群に特有・顕著な症状(隣接遺伝子の影響)

単なるゴーリン症候群(点変異)ではあまり見られない、あるいは軽度であることが多い症状が、欠失症候群では顕著になります。

  • 知的障害(ID) / 発達遅滞(DD):
    • 最も重要な鑑別点です。
    • 通常のゴーリン症候群の患者さんは知能正常であることが多いですが、9q22.3欠失症候群では、多くの患者さんに軽度〜重度の知的障害や運動発達の遅れが見られます。
    • 言葉が出るのが遅い、歩き始めが遅いなどの特徴があります。
  • 過成長(Overgrowth):
    • 胎児期や乳幼児期に、身長や体重が平均よりも大きくなる(過成長)傾向があります。
    • 特に身長が高くなることが多く、ソトス症候群などの過成長症候群と間違われることがあります。
  • 特徴的な顔貌:
    • ゴーリン症候群の特徴(広い額、離れた目)に加え、**三角頭蓋(おでこが尖る)**や、平坦な顔立ち、小顎症などがよりはっきりと現れることがあります。
  • 水頭症:
    • 脳室が拡大し、シャント手術が必要になることがあります。

3. その他の合併症

  • 心疾患: 心室中隔欠損症などの先天性心疾患が報告されています。
  • 眼科: 斜視、小眼球症、コロボーマ(稀)。
  • 泌尿生殖器: 停留精巣、腎奇形など。

原因

9番染色体長腕(9q22.3)における微細欠失が原因です。

1. 発生機序

  • De novo(新生突然変異):
    • 9q22.3欠失症候群の多くは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。
    • 親の年齢や妊娠中の環境が原因で起こるものではありません。
  • 家族性(Inherited):
    • 親が「均衡型転座」などの構造異常を持っている場合や、親自身も9q22.3欠失を持っている(症状が軽く診断されていない)場合に遺伝することがあります。
    • PTCH1遺伝子は常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとるため、親が患者である場合、子に遺伝する確率は50%です。

2. ハプロ不全と「2ヒット説」

  • ハプロ不全: 生まれつきPTCH1遺伝子が1本しかないため、ブレーキ役としての機能が最初から弱く、過成長や奇形が生じます。
  • 2ヒット説(がんの発症): 生まれつき1本しかない遺伝子に、紫外線や放射線などのダメージでもう1本の遺伝子も傷ついてしまう(2回目のヒット)と、その細胞でブレーキが完全に壊れ、がん(基底細胞癌など)が発生します。
  • これが、本症候群の患者さんが若くして多発性のがんを発症しやすい理由です。

診断方法

「大頭症」「特徴的な顔貌」「発達遅滞」に加え、家族歴や画像所見から疑われます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 本症候群の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**の検査です。
    • 9q22.3領域の欠失を検出し、その正確なサイズ(bp単位)と、PTCH1遺伝子が含まれているかを特定できます。
    • 単なるゴーリン症候群(点変異)なのか、欠失症候群なのかを区別するために必須です。
  • 診断基準(ゴーリン症候群として):
    • 以下の大基準・小基準の組み合わせで臨床的に診断されます。
    • 大基準: 若年性の基底細胞癌、顎骨嚢胞、手足の小窩、大脳鎌の石灰化、肋骨異常、第1度近親者の罹患。
    • 小基準: 大頭症、口唇口蓋裂、骨格異常など。
  • 画像検査:
    • 頭部CT: 大脳鎌の石灰化を確認します。
    • パノラマレントゲン(歯科): 顎骨嚢胞の有無を確認します。
    • 脊椎・肋骨レントゲン: 骨格異常を確認します。

治療方法

欠失した染色体を修復する治療法はありません。

治療は、発生する腫瘍や合併症に対する早期発見・早期治療(サーベイランス)と、発達を促す療育が中心となります。

1. 腫瘍・嚢胞の管理(サーベイランス)

生涯にわたる定期的なチェックが最も重要です。

  • 皮膚科:
    • 紫外線対策(遮光): 日焼け止め、帽子、長袖などで紫外線を避けることが、基底細胞癌の予防に極めて重要です。
    • 定期的に全身の皮膚をチェックし、怪しいほくろやデキモノがあれば早期に切除します。
    • 放射線治療の回避: 放射線は「2回目のヒット」を誘発し、新たな腫瘍を作る原因になるため、検査(CTなど)や治療での放射線被曝は可能な限り避ける(MRIやエコーで代用する)ことが原則です。
  • 歯科・口腔外科:
    • 10歳頃から定期的にパノラマレントゲンを撮り、顎骨嚢胞がないかチェックします。
    • 嚢胞が見つかった場合、摘出術を行いますが、再発しやすいため長期的なフォローが必要です。
  • 小児がん(髄芽腫など):
    • 乳幼児期に脳腫瘍(髄芽腫)のリスクがわずかに高いため、定期的な診察やMRI検査を行うことがあります。

2. 発達・療育的支援

  • 早期療育:
    • 診断後、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を開始します。
  • 教育:
    • 知的障害の程度に合わせて、特別支援学校や支援学級などの教育環境を選択します。
    • 視覚優位(見て覚えるのが得意)な場合が多いため、視覚的な支援を取り入れた学習が有効です。

3. その他

  • 水頭症: 脳圧亢進症状がある場合、シャント手術を行います。
  • 心疾患: 必要に応じて手術や投薬を行います。
  • 眼科: 斜視や視力の管理を行います。

4. 遺伝カウンセリング

  • 情報の整理:
    • 「がんができやすい」という情報はご家族に大きな不安を与えますが、「早期発見すれば治るがん(基底細胞癌)であること」「対策(遮光)があること」を伝え、前向きな管理計画を立てます。
  • 家族への支援:
    • 親の検査を行い、次子リスクや、親自身が未診断の患者であった場合の健康管理について相談に乗ります。

まとめ

9q22.3 deletion syndromeは、9番染色体の一部が欠失することで起こる疾患です。

この疾患は、医学的には「ゴーリン症候群」と呼ばれる体質と深く関連しており、皮膚がんができやすかったり、顎の骨に袋(嚢胞)ができやすかったりする特徴があります。

これに加えて、9q22.3欠失症候群のお子さんは、体が大きめ(過成長)で、言葉や運動の発達がゆっくりであるという特徴を併せ持っています。

「がん」という言葉を聞くと、ご家族は大変ショックを受けられるかもしれません。

しかし、この疾患でできやすい皮膚がん(基底細胞癌)は、転移することは稀で、早期に見つけて取れば治るものです。

最も大切なのは、**「徹底的な紫外線対策」と「定期検診」**です。

小さい頃から日焼け止めを塗り、帽子をかぶる習慣をつけることで、将来のリスクを減らすことができます。また、レントゲン検査などを不必要に受けないように気をつけることも大切です。

発達については、個人差が大きいですが、療育を受けることでゆっくりと着実に成長していきます。

人懐っこく、明るい性格のお子さんも多いです。

皮膚科、歯科口腔外科、小児科、そして療育スタッフとチームを組み、定期的なチェックを習慣にしながら、お子さんの健やかな成長を長く、温かく支えていきましょう。

参考文献

  • Muller, E., et al. (2012). 9q22.3 microdeletion encompassing the PTCH1 gene: Clinical and molecular characterization of two patients and update of the literature.
    • (※PTCH1を含む9q22.3微細欠失を持つ患者の症例報告と文献レビュー。典型的なゴーリン症候群の特徴に加え、知的障害や過成長といった欠失特有の症状について詳述。)
  • Redon, R., et al. (2005). Microdeletion 9q22.3 involving the PTCH1 gene causes a contiguous gene syndrome.
    • (※9q22.3欠失が単なるPTCH1変異とは異なる「隣接遺伝子症候群」であることを提唱し、発達遅滞などの付加的な症状の原因について遺伝学的に解析した重要論文。)
  • Kimonis, V.E., et al. (1997). Clinical manifestation in 105 persons with nevoid basal cell carcinoma syndrome.
    • (※ゴーリン症候群(NBCCS)の大規模な臨床調査。診断基準の確立や、各症状(基底細胞癌、顎骨嚢胞など)の頻度・発症年齢に関する基礎データ。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 9q deletions (2019).
    • (※患者家族向けに、紫外線対策の重要性、顎骨嚢胞のチェック、放射線検査への注意点、発達支援などを平易にまとめたガイドブック。)
  • GeneReviews® [Internet]: Nevoid Basal Cell Carcinoma Syndrome. Initial Posting: 2002; Last Update: 2018. Authors: Evans DG, et al.
    • (※本症候群の中核となるNBCCSの診断基準、最新のサーベイランス指針(皮膚、歯科、小児がん)、避けるべき薬剤・放射線に関する情報を網羅したデータベース。)
  • Midro, A.T., et al. (2004). Interstitial deletion 9q22.32-q33.2 associated with Gorlin-Goltz syndrome phenotype.
    • (※9q22.3を含む欠失とゴーリン症候群の表現型の関連を示した症例報告。)

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