Cri du chat syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • 猫鳴き症候群(ねこなきしょうこうぐん / Cat cry syndrome)
    • ※乳児期の特徴的な泣き声に由来する最も一般的な別名です。
  • 5p欠失症候群(5p deletion syndrome)
    • ※医学的に最も正確な、染色体の状態を表す名称です。
  • 5p-症候群(5p minus syndrome)
  • ルジューン症候群(Lejeune’s syndrome)
    • ※発見者であるフランスの遺伝学者ジェローム・ルジューン(Jérôme Lejeune)博士にちなんだ名称です。
  • 5番染色体短腕欠失症候群

対象染色体領域

5番染色体 短腕(p)15.2-15.3領域

本疾患は、ヒトの5番染色体の短腕(pアーム)の末端部分が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】

5番染色体の短腕(5p)がどのくらい欠けているか(欠失サイズ)は、患者さんによって異なります。しかし、本症候群の特徴的な症状を引き起こすために共通して欠失している重要な領域(クリティカルリージョン)が特定されています。

  • 5p15.3領域(猫鳴き症状の原因):
    • 喉頭の発達に関わる遺伝子が含まれていると考えられており、この部分の欠失が特徴的な「猫のような泣き声」を引き起こします。
  • 5p15.2領域(身体・知的発達の原因):
    • この領域には、CTNND2 (Delta-catenin)SEMA5A (Semaphorin 5A)TERT などの重要な遺伝子が含まれています。
    • 特にCTNND2遺伝子は、脳の神経細胞の移動や結合に関わっており、この遺伝子の欠失が「重度の知的障害」の主要な要因であると考えられています。
    • 欠失範囲が広いほど、症状が重くなる傾向があります(隣接遺伝子症候群)。

発生頻度

稀だが、染色体欠失症候群の中では比較的頻度が高い

  • 頻度: 出生15,000人 〜 50,000人に1人と推定されています。
  • 性差: 女性の方が男性よりもやや多く報告されています(女児:男児 = 約 4:3)。
  • 全人種に見られ、特定の地域や民族による偏りはありません。

臨床的特徴(症状)

Cri du chat syndromeの症状は、年齢によって変化します。

乳児期には「泣き声」や「顔貌」が特徴的ですが、成長とともに「運動・知的発達」のサポートが中心的な課題となります。

1. 新生児期・乳児期の特徴

  • 猫のような泣き声(Cat-like cry):
    • 最大の特徴であり、診断のきっかけとなります。
    • 子猫が鳴くような、甲高く(高調)、弱々しい、単調な泣き声です。
    • 原因: 喉頭(のどぼとけ)の形成不全(軟弱化、狭小化)と、神経学的な要因による声帯の動きの問題が原因です。
    • 経過: 生後数週間〜数ヶ月で最も顕著ですが、喉頭の成長とともに徐々に目立たなくなり、多くの場合は2歳頃までに消失します(ただし、声の高さや話し方の特徴として残ることもあります)。
  • 低出生体重・成長障害:
    • 胎内発育不全により、小さく生まれることが多いです(SGA)。出生後も体重が増えにくく、哺乳力が弱い(吸う力が弱い)ことがよくあります。
  • 筋緊張低下(Hypotonia):
    • 全身の筋肉の張りが弱く、抱っこするとふにゃふにゃした感じ(フロッピーインファント)がします。
  • 小頭症(Microcephaly):
    • 頭囲が小さく、成長とともにその傾向が明らかになります。
  • 特徴的な顔貌:
    • 満月様顔貌(ムーンフェイス:顔が丸い)。
    • 眼間開離(目が離れている)。
    • 内眼角贅皮(目頭のひだ)。
    • 鼻根部が広く平坦。
    • 小顎症(あごが小さい)。
    • 耳の位置が低い、耳介の変形。

2. 幼児期〜学童期の特徴

  • 顔貌の変化:
    • 乳児期の丸顔から、成長とともに面長(細長い顔)へと変化します。
    • 歯並びの問題(不正咬合)が見られることがあります。
  • 運動発達遅滞:
    • 首すわり、お座り、歩行などの運動マイルストーンが遅れます。
    • 多くの子供は2〜6歳頃に独歩を獲得しますが、サポートが必要な場合もあります。
    • 筋緊張は、乳児期の低下から、徐々に亢進(体が硬くなる)へ変化することがあります。
  • 知的障害(ID):
    • 重度〜最重度の知的障害を伴うことが多いですが、欠失範囲によっては中等度の場合もあり、個人差があります。
  • 言語発達:
    • 言葉の遅れ(Speech delay)が顕著です。
    • 受容言語(理解) > 表出言語(発話): 話すことよりも、こちらの言っていることを理解する能力の方が高い傾向があります。
    • 数語の単語や短い文章を話せるようになる子もいれば、ジェスチャーやサインを主なコミュニケーション手段とする子もいます。

3. 行動・性格面の特性(Behavioral phenotype)

  • 性格:
    • 一般的に、人懐っこく、社交的で、笑顔が多い(Happy demeanor)お子さんが多いと言われています。
    • 音楽を好む傾向も報告されています。
  • 行動の問題:
    • 多動(ADHD様)、衝動性。
    • 自傷行為(頭を叩く、手を噛むなど)。
    • 常同行動(同じ動きを繰り返す)。
    • こだわり、感覚過敏(特定の音を嫌がるなど)。
    • 睡眠障害(寝付きが悪い、夜中に起きる)。

4. 身体的合併症

  • 心疾患: 心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、動脈管開存症(PDA)など(約30%)。
  • 筋骨格系: 側弯症(背骨が曲がる)、偏平足、鼠径ヘルニア。
  • その他: 腎奇形、くり返す中耳炎や呼吸器感染症、便秘、嚥下障害など。

原因

5番染色体短腕(5p)の部分欠失が原因です。

なぜ欠失が起こるのかによって、以下のタイプに分かれます。これは次子再発リスクに関わる重要な情報です。

1. De novo(新生突然変異):約85〜90%

  • 最も多いタイプです。
  • 両親の染色体は正常で、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然、5番染色体の端がちぎれて失われたものです。
  • 親の年齢や環境要因とは無関係に起こります。
  • 再発リスク: 非常に低いです(一般集団とほぼ変わりません)。

2. 不均衡型転座(Unbalanced Translocation):約10〜15%

  • 家族性(遺伝性)の可能性があるタイプです。
  • 片方の親が**「均衡型転座」**(染色体の一部が入れ替わっているが、量は正常なので健康)を持っている場合があります。
  • 親から染色体が受け継がれる際に、バランスが崩れて「5番染色体の不足(欠失)」が生じます。
  • 再発リスク: 親が転座保因者の場合、次子にも症状が出るリスクが高くなるため、詳細な遺伝カウンセリングが必要です。

3. モザイク型(Mosaicism):稀

  • 正常な細胞と、5p欠失を持つ細胞が体の中に混在している状態です。
  • 症状は軽くなる傾向があります。

診断方法

特徴的な「泣き声」と臨床所見から疑われ、遺伝学的検査で確定します。

  • 染色体検査(Gバンド分染法):
    • 以前から行われている標準的な検査です。顕微鏡で染色体を見て、5番染色体の短腕が短くなっていることを確認します。
    • ただし、欠失が非常に小さい場合(微小欠失)、この検査では見逃されることがあります。
  • FISH法:
    • 5p15.2(クリティカルリージョン)に対する特定のプローブ(蛍光標識)を用いて、欠失の有無をピンポイントで確認します。
    • Gバンドで分からない微小な欠失も検出可能です。
  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 現在の診断における**ゴールドスタンダード(第一選択)**となりつつあります。
    • ゲノム全体をスキャンし、欠失の正確なサイズ(どこからどこまで欠けているか)や、含まれる遺伝子を詳細に特定できます。
    • これにより、症状の重症度予測(予後予測)がある程度可能になります。
  • 両親の染色体検査:
    • 患児の診断確定後、転座の有無を確認するために両親の検査が推奨されます。

治療方法

欠失した染色体を修復する根本的な治療法はありません。

治療は、合併症に対する医療的ケアと、発達を最大限に促す**療育(早期介入)**が中心となります。

早期からの適切なサポートにより、生活の質(QOL)は大きく向上します。

1. 早期療育・リハビリテーション(重要)

  • 理学療法(PT):
    • 筋緊張低下に対し、体幹を鍛え、お座りや歩行などの粗大運動の発達を促します。
    • 側弯症の予防や管理も行います。
  • 作業療法(OT):
    • 手先の不器用さ(微小運動)への訓練や、感覚統合療法(感覚過敏への対応)を行います。
    • 食具の使い方や着替えなど、日常生活動作(ADL)の自立を支援します。
  • 言語聴覚療法(ST):
    • コミュニケーション支援: 言葉の遅れに対し、サイン言語、絵カード(PECS)、タブレット端末などのAAC(補助代替コミュニケーション)を早期から導入します。
    • 摂食指導: 哺乳障害や嚥下障害に対し、安全な食べ方や食事形態の指導を行います。

2. 医療的ケア

  • 心疾患: 欠損孔が大きい場合は手術を行います。
  • 外科的治療: 鼠径ヘルニアや停留精巣、口蓋裂などがあれば手術を行います。
  • 歯科: 歯並びや虫歯の管理を行います。
  • 耳鼻科: 中耳炎や難聴の定期チェックを行います。

3. 教育・心理的サポート

  • 教育環境:
    • 特別支援学校や支援学級など、お子さんの特性に合わせた環境を選択します。個別の教育支援計画(IEP)に基づき、得意なこと(音楽や社会性など)を伸ばします。
  • 行動面への対応:
    • 多動や自傷行為などの行動問題に対しては、応用行動分析(ABA)などの行動療法や、環境調整、必要に応じて薬物療法を検討します。

4. 遺伝カウンセリング

  • 情報の整理:
    • 「5番染色体が欠けている」という事実だけでなく、それが具体的にどのような見通しにつながるのか、年齢ごとの変化を説明します。
  • 家族支援:
    • 特に親が転座保因者であった場合、次子リスクについての相談や、きょうだいへの説明、親自身のケアが重要になります。

まとめ

Cri du chat syndrome(猫鳴き症候群)は、5番染色体の一部が欠けることで起こる疾患です。

この病気の名前は、赤ちゃんの頃の泣き声が「子猫のように高い声」であることに由来しますが、この特徴的な泣き声は成長とともに消えていきます。

ご家族にとって、生まれたばかりの赤ちゃんが小さく、ミルクを飲む力が弱かったり、体がふにゃふにゃしていたりすることは、とても心配なことでしょう。

しかし、この疾患のお子さんたちは、ゆっくりですが確実に成長していきます。

多くのお子さんは、歩けるようになり、言葉や身振りでコミュニケーションを取れるようになります。

性格は明るく、人懐っこく、音楽や人との関わりを楽しむことが大好きなお子さんが多いと言われています。

もちろん、知的な発達の遅れや、多動などの行動面での課題はありますが、早期から療育(リハビリ)を始めることで、その子が持っている可能性を大きく伸ばすことができます。

身体的な合併症(心臓など)についても、現代の医療で適切に管理・治療が可能です。寿命についても、重篤な合併症がなければ、通常の寿命を全うできるケースが増えています。

染色体という「設計図」の一部がなくても、その子らしさという「彩り」は失われません。

小児科医、療法士、心理士、学校の先生、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんの個性豊かな成長を、長く、温かく支えていきましょう。

参考文献

  • Lejeune, J., et al. (1963). Trois cas de délétion partielle du bras court d’un chromosome 5.
    • (※ジェローム・ルジューン博士らが、世界で初めてこの症候群を報告し、ヒトにおける染色体欠失症候群の概念を確立した歴史的な原著論文。)
  • Mainardi, P.C., et al. (2006). Cri du Chat syndrome. Orphanet Journal of Rare Diseases.
    • (※クリ・デュ・チャット症候群の臨床的特徴、遺伝学的背景、管理指針を包括的にまとめたレビュー論文。)
  • Zhang, X., et al. (2009). Deletion of the semaphorin 5A gene in a woman with Cri-du-chat syndrome and autism.
    • (※5p欠失領域に含まれるSEMA5A遺伝子などが、自閉症特性や脳発達にどのように関与しているかを解析した研究。)
  • Medina, M., et al. (2000). CTNND2, a gene deleted in Cri du Chat syndrome, is a neural-specific expression gene…
    • (※CTNND2(デルタ・カテニン)遺伝子が重度の知的障害の原因遺伝子であることを突き止めた重要な研究。)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): Cri du Chat syndrome (2018).
    • (※患者家族向けに、年齢ごとの特徴、行動面への対応、療育の実践的なアドバイスなどを平易にまとめたガイドブック。)
  • GeneReviews® [Internet]: 5p Deletion (Cri du Chat Syndrome).
    • (※診断基準、最新の管理指針、遺伝カウンセリング情報を網羅した、臨床現場で最も信頼されるデータベース。)

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