猫鳴き症候群(5p欠失症候群)とは?症状・原因・特徴と検査を解説

Posted on 2026年 1月 22日

📌 この記事でわかること

  • 猫鳴き症候群(5p欠失症候群)とはどんな病気か、名前の由来
  • 年齢とともに変化する主な症状・特徴
  • 原因となる5番染色体短腕の欠失と、遺伝・次子への再発リスクの考え方
  • 診断に使う検査(染色体検査・FISH法・マイクロアレイ染色体検査)
  • 療育・治療の進め方と、ご家族が利用できるサポート

猫鳴き症候群(ねこなきしょうこうぐん)は、5番染色体の短腕(5p)の一部が欠けることで生じる先天性の染色体疾患です。医学的には5p欠失症候群とも呼ばれます。赤ちゃんの時期に子猫のような高く弱々しい泣き声が聞かれることが名前の由来ですが、この泣き声は成長とともにやわらいでいきます。

「わが子の泣き声がほかの子と違う」「小さく生まれて体がやわらかい」。そうした様子に気づき、不安な気持ちで調べている方もいらっしゃるでしょう。

この記事では、猫鳴き症候群の症状・原因・特徴から、診断に使われる検査や療育の考え方までを、公的機関や医学文献をもとに整理しました。私たちが日々ご家族と向き合うなかで感じるのは、正しく知ることが不安をやわらげ、次の一歩につながるということです。落ち着いて読み進めていただければと思います。

猫鳴き症候群(5p欠失症候群)とは?別名と特徴

猫鳴き症候群は、5番染色体短腕の欠失によって、知的・身体的な発達にゆっくりとした影響があらわれる染色体疾患です。いくつかの呼び名があり、場面によって使い分けられています。

別名・呼称由来・意味
猫鳴き症候群 / Cat cry syndrome乳児期の甲高い泣き声に由来する、最も一般的な呼び名
5p欠失症候群 / 5p-(マイナス)症候群5番染色体短腕の欠失という染色体の状態を表す、最も正確な名称
ルジューン症候群1963年に世界で初めて報告したフランスのJ.ルジューン博士にちなむ名称
5番染色体短腕欠失症候群欠けている部位を日本語で表した名称

なお、同じように染色体の短腕が欠けて生じる疾患に、4番染色体短腕の欠失によるウォルフ・ヒルシュホルン症候群(4p欠失症候群)があります。名前は似ていませんが、染色体のなりたちという点では兄弟のような関係にある疾患です。

対象となる染色体領域(5番染色体短腕15.2〜15.3)

本疾患は、5番染色体の短腕(pアーム)の末端部分が欠失し、その領域の遺伝子が1本分になること(ハプロ不全)で生じます。

5番染色体短腕(5p)がどのくらい欠けているか(欠失サイズ)は、患者さんによって異なります。ただし、この症候群に特徴的な症状を引き起こす、共通して欠けている重要な領域(クリティカルリージョン)が特定されています。

  • 5p15.3領域(猫のような泣き声の原因):喉頭の発達に関わる領域と考えられており、ここが欠けることで特徴的な高い泣き声が生じます。
  • 5p15.2領域(身体・知的発達の原因):この領域には CTNND2(デルタ・カテニン)や SEMA5ATERT などの遺伝子が含まれます。とくに CTNND2 は脳の神経細胞の移動や結合に関わり、その欠失が重度の知的障害の主要因と考えられています。
  • 欠けている範囲が広いほど、症状が重くなる傾向があります(隣接遺伝子症候群)。

猫鳴き症候群の発生頻度

まれな疾患ですが、染色体の欠失で起こる症候群のなかでは比較的頻度が高いことで知られます。

  • 頻度:出生 15,000〜50,000人に1人と推定されています(文献により幅があります)。
  • 性差:女児のほうが男児よりやや多く報告されています(女児:男児=約4:3)。
  • 全人種にみられ、特定の地域や民族による偏りはありません。

猫鳴き症候群の主な症状・特徴【年齢別】

眠る赤ちゃんを大人の手が優しく包み込むイラスト

症状は年齢とともに変化します。乳児期は「泣き声」や「顔つき」が目立ちますが、成長すると「運動・知的発達」のサポートが中心的な課題になります。まず全体像を年齢別に整理します。

時期主にみられる特徴
新生児期〜乳児期子猫のような高い泣き声、低出生体重、哺乳力の弱さ、筋緊張低下、小頭症、特徴的な顔つき
幼児期〜学童期丸顔から面長への変化、運動発達の遅れ、知的障害、言葉の遅れ(理解が発話より先行)
全年齢を通じて人懐っこく笑顔が多い性格、音楽を好む傾向、多動や睡眠の課題があらわれることも

新生児期・乳児期の特徴

  • 猫のような泣き声(Cat-like cry):最大の特徴であり、診断のきっかけになります。子猫が鳴くような、甲高く弱々しい単調な泣き声です。喉頭(のどぼとけ)の形成不全や、神経学的な要因による声帯の動きの問題が背景にあります。生後数週間〜数か月がもっとも目立ち、多くは2歳頃までにやわらいでいきます。
  • 低出生体重・成長のゆっくりさ:胎内での発育がゆっくりで、小さく生まれることが多くみられます。生まれた後も体重が増えにくく、吸う力が弱いことがあります。
  • 筋緊張低下(フロッピーインファント):全身の筋肉の張りが弱く、抱っこするとやわらかい感じがします。
  • 小頭症:頭囲が小さめで、成長とともにその傾向がはっきりしてきます。
  • 特徴的な顔つき:丸顔(満月様顔貌)、目の間が広い、目頭のひだ(内眼角贅皮)、鼻の付け根が広く平坦、あごが小さい、耳の位置が低いなどがみられます。

幼児期〜学童期の特徴

  • 顔つきの変化:乳児期の丸顔から、成長とともに面長へと変わっていきます。歯並びの問題(不正咬合)がみられることもあります。
  • 運動発達のゆっくりさ:首すわり・お座り・歩行などの節目が遅れます。多くのお子さんは2〜6歳頃に自分の足で歩けるようになります。筋緊張は、乳児期の低下から、徐々に体が硬くなる方向へ変わることもあります。
  • 知的障害:重度〜最重度をともなうことが多いものの、欠けている範囲によっては中等度のこともあり、個人差が大きい部分です。
  • 言葉の発達:言葉の遅れが目立ちます。話すことよりも、こちらの言うことを理解する力のほうが高い傾向です。数語や短い文を話せる子もいれば、身ぶりや絵カードを主なコミュニケーション手段にする子もいます。

行動・性格面の特性

明るく人懐っこい性格のお子さんが多いと報告されています。笑顔が多く、音楽を好む傾向もみられます。一方で、次のような行動面の課題があらわれることもあります。

  • 多動や衝動性(ADHDに似た様子)。
  • 頭を叩く・手を噛むなどの自傷行為、同じ動きをくり返す常同行動。
  • 特定の音を嫌がる感覚過敏や、寝つきの悪さ・夜間の目覚めといった睡眠の課題。

ともないやすい身体的な合併症

  • 心疾患:心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、動脈管開存症(PDA)など(約30%)。
  • 筋骨格系:側弯症(背骨の曲がり)、扁平足、鼠径ヘルニア。
  • その他:腎臓の形の異常、くり返す中耳炎や呼吸器の感染、便秘、飲み込みにくさ(嚥下障害)など。

猫鳴き症候群の原因と遺伝・再発リスク

染色体を表す抽象的な二重らせんリボンのイラスト

原因は5番染色体短腕(5p)の部分的な欠失です。なぜ欠失が起こったのかによってタイプが分かれ、これが次のお子さんへの再発リスクを左右します。まずタイプ別に整理します。

タイプ割合の目安次子への再発リスク
De novo(新生突然変異)約85〜90%非常に低い(一般集団とほぼ同じ)
不均衡型転座約10〜15%親が転座保因者なら高くなる。遺伝カウンセリングが必要
モザイク型まれ状態により個別評価が必要

1. De novo(新生突然変異):約85〜90%

もっとも多いタイプです。ご両親の染色体は正常で、精子や卵子がつくられるときや受精直後に、偶然5番染色体の端がちぎれて失われたものです。親の年齢や環境要因とは関係なく起こり、次のお子さんへの再発リスクは一般集団とほとんど変わりません。

2. 不均衡型転座:約10〜15%

家族性(遺伝性)の可能性があるタイプです。ご両親のどちらかが「均衡型転座」(染色体の一部が入れ替わっているものの量は正常で、ご本人は健康)を持っていることがあります。染色体が受け継がれる際にバランスが崩れ、5番染色体の不足(欠失)が生じます。親が転座保因者の場合、次のお子さんにも症状が出るリスクが高くなるため、詳しい遺伝カウンセリングが必要です。

3. モザイク型:まれ

正常な細胞と、5p欠失を持つ細胞が体のなかに混在している状態です。症状は比較的軽くなる傾向がみられます。

猫鳴き症候群の診断方法

特徴的な泣き声と診察所見から疑い、遺伝学的検査で確定します。使われる検査は次のとおりです。染色体の検査全般の位置づけは臨床現場で行われている遺伝子検査についてもあわせてご覧ください。

  • 染色体検査(Gバンド分染法):以前から行われている標準的な検査です。顕微鏡で5番染色体の短腕が短くなっていることを確認します。欠失が非常に小さい場合(微小欠失)は見逃されることがあります。
  • FISH法:5p15.2(クリティカルリージョン)に対する蛍光標識のプローブを用い、欠失の有無をピンポイントで確認します。Gバンドでわからない微小な欠失も検出できます。
  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):現在の診断で第一選択(ゴールドスタンダード)になりつつある検査です。ゲノム全体をスキャンし、欠失の正確なサイズや含まれる遺伝子を詳しく特定できます。ある程度の予後予測にも役立ちます。
  • 両親の染色体検査:お子さんの診断が確定した後、転座の有無を確認するために推奨されます。

先天性の疾患と検査の関係を広く知りたい方は、遺伝子検査で見る先天性疾患とその予防策も参考になります。

猫鳴き症候群の治療・療育とサポート

専門家が赤ちゃんを抱く保護者に寄り添い相談するイラスト

欠失した染色体を元に戻す根本的な治療法はありませんが、合併症への医療的ケアと、発達を最大限に促す療育(早期介入)によって、生活の質は大きく高まります。早期からのサポートがとても大切です。

1. 早期療育・リハビリテーション

  • 理学療法(PT):筋緊張低下に対して体幹を鍛え、お座りや歩行などの粗大運動の発達を促します。側弯症の予防や管理も行います。
  • 作業療法(OT):手先の細かな動きの訓練や、感覚過敏への対応(感覚統合療法)を行います。食具の使い方や着替えなど、日常生活動作の自立を支えます。
  • 言語聴覚療法(ST):言葉の遅れに対し、サイン言語・絵カード(PECS)・タブレットなどの補助代替コミュニケーション(AAC)を早期から取り入れます。飲み込みにくさに対する安全な食べ方の指導も行います。

2. 医療的ケア

  • 心疾患は、欠損の穴が大きい場合に手術を行います。
  • 鼠径ヘルニアや停留精巣、口蓋裂などがあれば、外科的な治療を行います。
  • 歯並びやむし歯の管理、中耳炎や難聴の定期的なチェックも大切です。

3. 教育・心理的サポート

特別支援学校や支援学級など、お子さんの特性に合った環境を選びます。個別の教育支援計画(IEP)にもとづき、音楽や社会性といった得意なことを伸ばしていきましょう。多動や自傷などの行動面には、応用行動分析(ABA)などの行動療法や環境調整で対応し、必要に応じて薬物療法も検討します。

4. 遺伝カウンセリング

「5番染色体が欠けている」という事実だけでなく、それが年齢ごとにどのような見通しにつながるのかをていねいに整理します。とくに親が転座保因者だった場合は、次のお子さんのリスク相談や、きょうだいへの説明、親御さん自身の心のケアが重要になります。ひとりで抱え込まず、専門家に相談してください。

猫鳴き症候群に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 猫鳴き症候群とはどんな病気ですか?

5番染色体の短腕(5p)の一部が欠けることで起こる先天性の染色体疾患です。5p欠失症候群とも呼ばれます。乳児期の子猫のような高い泣き声、低出生体重、筋緊張低下、発達のゆっくりさなどが特徴で、症状の程度には個人差があります。

Q2. 猫鳴き症候群の原因は何ですか?

5番染色体短腕の部分的な欠失が原因です。約85〜90%は、精子や卵子がつくられるときに偶然起こる新生突然変異(De novo)で、親の年齢や生活習慣とは関係ありません。残りの約10〜15%は、親の染色体の転座が関係する不均衡型転座によるものです。

Q3. 猫鳴き症候群は遺伝しますか?次の子への影響は?

多くを占める新生突然変異のタイプでは、次のお子さんへの再発リスクは一般集団とほぼ変わりません。一方、親のどちらかが均衡型転座を持っている場合は、再発リスクが高くなります。どのタイプかは両親の染色体検査で確認でき、遺伝カウンセリングで見通しを整理できます。

Q4. 猫のような泣き声はいつまで続きますか?

生後数週間〜数か月がもっとも目立ちます。喉頭の成長とともに徐々にやわらぎ、多くの場合は2歳頃までに目立たなくなります。声の高さや話し方の特徴として残ることはあります。

Q5. 猫鳴き症候群の子どもの発達や将来はどうなりますか?

発達はゆっくりですが、多くのお子さんが歩けるようになり、言葉や身ぶりでコミュニケーションを取れるようになります。早期からの療育で持っている力を伸ばせますし、心臓などの合併症も現代の医療で管理できます。重い合併症がなければ、通常に近い寿命を全うできるケースも増えています。

まとめ

猫鳴き症候群(5p欠失症候群)は、5番染色体の一部が欠けることで起こる疾患です。名前は赤ちゃんの頃の高い泣き声に由来しますが、この泣き声は成長とともに消えていきます。

生まれたばかりの赤ちゃんが小さく、ミルクを飲む力が弱かったり、体がやわらかかったりすることは、ご家族にとってとても心配なことでしょう。それでも、このお子さんたちは、ゆっくりですが確実に成長していきます。

私たちが診療の現場でご家族と接して感じるのは、明るく人懐っこく、音楽や人との関わりを楽しむお子さんが多いということです。知的な発達の遅れや多動といった課題はありますが、早期から療育を始めることで、その子の可能性は大きく広がります。

身体的な合併症も、現代の医療で適切に管理・治療が可能です。染色体という設計図の一部が欠けても、その子らしさという彩りは失われません。小児科医・療法士・心理士・学校の先生、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、長く温かく成長を支えていきましょう。ほかの染色体疾患について知りたい方は、ターナー症候群の解説もあわせてご覧ください。

参考文献

  • Cerruti Mainardi P. Cri du Chat syndrome. Orphanet Journal of Rare Diseases. 2006.(クリ・デュ・チャット症候群の臨床的特徴・遺伝学的背景・管理指針を包括的にまとめたレビュー論文。全文はこちら
  • MedlinePlus Genetics. Cri-du-chat syndrome. U.S. National Library of Medicine.(原因・頻度・症状・遺伝形式を公的機関がまとめた解説。ページはこちら
  • National Organization for Rare Disorders (NORD). Cri du Chat Syndrome.(症状・原因・治療を患者団体がまとめた解説。ページはこちら
  • Lejeune J, et al. Trois cas de délétion partielle du bras court d’un chromosome 5. 1963.(世界で初めて本症候群を報告し、ヒトの染色体欠失症候群の概念を確立した歴史的な原著論文。)
  • GeneReviews® [Internet]. 5p Deletion (Cri du Chat Syndrome).(診断基準・管理指針・遺伝カウンセリング情報を網羅した、臨床で信頼されるデータベース。)
医師監修 監修日:2026年1月22日

岡 博史 (おか ひろし)

医師・医学博士 ヒロクリニック統括院長

YouTubeチャンネルなどを通じて、遺伝子やNIPT(新型出生前診断)についてわかりやすく発信しています。

略歴

  • 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
  • 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
  • 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
  • 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
  • 2009年 医療法人社団福美会 理事長
  • 2015年 医療法人社団福美会 理事

資格・所属

  • CAPラボディレクター
  • 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
  • 日本医師会 産業医
  • 東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、ヒロクリニック遺伝子検査の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

医師監修 監修日:2026年1月22日

堤 修一

医師・医学博士 ヒロクリニック博多駅前院 院長

資格・所属

  • 元・東京大学先端科学技術研究センター 准教授

この記事は、ヒロクリニック遺伝子検査の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。