Down syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • 21トリソミー(Trisomy 21)
    • ※遺伝学的に最も正確な、21番染色体が3本ある状態を指す名称です。
  • 標準型21トリソミー
  • 転座型ダウン症候群
  • モザイク型ダウン症候群
  • 蒙古症(Mongolism)
    • ※歴史的に使用された呼称ですが、現在は差別的表現とされ、医学的にも適切ではないため、使用は厳禁されています。

対象染色体領域

21番染色体 全体(または特定領域)

通常、ヒトの細胞には2本の21番染色体がありますが、ダウン症候群ではこの21番染色体の全体、あるいはその一部が3本存在します。

  • DSCR (Down Syndrome Critical Region): 21番染色体長腕(qアーム)の22.1から22.3付近(21q22.1-q22.3)は、ダウン症候群に特有の身体的特徴や知的障害を引き起こす主要な遺伝子が集中している「クリティカルリージョン」と考えられています。
  • 遺伝子量効果: 21番染色体上の遺伝子が通常の1.5倍存在することで、タンパク質の産生バランスが崩れ、細胞や臓器の形成・機能に影響を及ぼします。

発生頻度

約600人 〜 800人に1人

  • 最も頻度の高い染色体異常: 全世界的に、全出生児の中で最も多い染色体異常症です。
  • 母体年齢との相関: 母親の出産年齢が上がるにつれて発生頻度が高まることが統計的に知られています。例えば、20歳代では約1,000〜1,500人に1人ですが、40歳代では約100人に1人、45歳以上では約30人に1人と上昇します。
  • 性差: 男女比はほぼ 1:1 です。

臨床的特徴(症状)

ダウン症候群の症状は多岐にわたり、身体的特徴、知的発達、および内臓の合併症が含まれます。個人差が非常に大きく、全ての症状が一人に現れるわけではありません。

1. 特徴的な身体的・顔貌的特徴

出生時に医師が疑うきっかけとなる、共通した身体的特徴があります。

  • 顔立ち:
    • 平坦な顔立ち、低い鼻根部。
    • 眼瞼裂斜上(つり上がった目)、内眼角贅皮(目頭のひだ)。
    • 耳の位置がやや低く、形が小さい。
    • 口が小さく、舌が突き出て見えることがある。
  • 四肢・体格:
    • 猿線(Simian crease): 手のひらを横切る一本の深い筋(約半数に見られます)。
    • サンダルギャップ: 足の親指と人差し指の間が広く開いている。
    • 手指が短く、小指の中関節が欠損して内側に曲がっている(第五指内湾)。
    • 筋緊張低下(Hypotonia)により、体が柔らかい。

2. 神経発達と知的機能

  • 知的障害: 軽度から中等度の知的障害を伴うことが一般的ですが、早期からの教育的介入により能力を大きく伸ばすことが可能です。
  • 発達の遅れ: 筋緊張低下の影響もあり、首すわり、お座り、歩行などの運動発達はゆっくりです。
  • 言語発達: 理解力に比べて、言葉を話す(表出)能力の獲得に時間がかかる傾向があります。

3. 主要な合併症(ライフステージを通じた管理)

  • 先天性心疾患(約50%): 心内膜床欠損症、心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、ファロー四徴症など。早期の手術が必要になる場合があります。
  • 消化器疾患(約5〜10%): 十二指腸閉鎖、環状膵、鎖肛、ヒルシュスプルング病。
  • 視覚・聴覚障害: 斜視、眼振、白内障、近視、および滲出性中耳炎による難聴。
  • 内分泌異常: 甲状腺機能低下症。
  • 環軸椎不安定性: 首の第一頚椎と第二頚椎の結合が不安定で、脊髄を圧迫するリスクがあります。
  • 血液疾患: 新生児一過性骨髄異常増殖症(TAM)や、将来的な白血病の発症リスクが一般より高めです。
  • 早期アルツハイマー型認知症: 40代以降、早期に認知機能の低下が見られることがあります。

原因

ダウン症候群は、21番染色体が過剰になるメカニズムによって以下の3つのタイプに分けられます。

1. 標準型21トリソミー(約95%)

  • 原因: 減数分裂(精子や卵子ができる過程)において、染色体がうまく分離しない「不分離現象」が原因です。
  • 特徴: ほとんどが偶然に起こるもので、両親の染色体は正常です。
  • 再発リスク: 次子への再発リスクは非常に低いです(約1%)。

2. 転座型(約3〜4%)

  • 原因: 21番染色体の一部が他の染色体(主に14番)にくっついてしまう現象です。
  • 特徴: 約半数は新生突然変異ですが、残りの半数は親が「均衡型転座保因者」である場合に受け継がれます。
  • 再発リスク: 親が保因者の場合、再発リスクは高くなるため、家族調査と遺伝カウンセリングが不可欠です。

3. モザイク型(約1〜2%)

  • 原因: 受精後の細胞分裂の段階で不分離が起こり、正常な細胞(染色体46本)と21トリソミーの細胞(47本)が混在する状態です。
  • 特徴: 正常細胞の割合が多い場合、症状が比較的軽度になることがあります。

診断方法

臨床的な特徴から疑い、確定的診断は細胞遺伝学的検査によって行われます。

  • 出生前診断:
    • 非侵襲的出生前遺伝学的検査 (NIPT): 母親の血液から胎児のDNA断片を解析するスクリーニング検査。
    • コンバインド検査 / クアトロテスト: 超音波と血清マーカーによる確率検査。
    • 確定的検査: 羊水検査や絨毛検査による染色体核型分析。
  • 出生後診断:
    • 染色体核型分析(Gバンド分染法): 血液(リンパ球)を用いて染色体の数と形を直接確認します。
  • 合併症のスクリーニング:
    • 診断確定後、心エコー、腹部エコー、甲状腺機能検査、聴力・視力検査などが速やかに行われます。

治療方法・管理方針

染色体異常そのものを治療する方法はありません。現在の医療の主眼は、**「合併症の早期発見・早期治療」「発達支援によるQOLの最大化」**です。

1. 医療的介入

  • 外科的手術: 先天性心疾患や消化器閉鎖に対する手術は、現代の高度な外科技術により成功率が非常に高まっています。
  • 薬物療法: 甲状腺機能低下症に対するホルモン補充、感染症に対する迅速な抗生剤治療など。
  • 眼科・耳鼻科的処置: 眼鏡による矯正や、滲出性中耳炎に対するチューブ挿入など、感覚機能を守るための介入。

2. 発達支援・療育(ハビリテーション)

  • 理学療法(PT): 筋緊張低下を考慮した運動発達の促進。
  • 作業療法(OT): 日常生活動作の自立、手先の機能訓練。
  • 言語聴覚療法(ST): 構音訓練、あるいはサイン言語や絵カードを用いたコミュニケーション支援。

3. 教育と社会参加

  • 早期介入: 乳幼児期からの療育プログラムへの参加。
  • 特別支援教育: 個々の能力に合わせた教育環境(特別支援学校、支援学級、インクルーシブ教育など)の選択。
  • 就労支援: 成人後の就労継続支援やグループホームなどの福祉サービスの活用。

予後

ダウン症候群の予後は、医療の進歩により劇的に改善しました。

  • 平均寿命: 1960年頃は約10歳でしたが、現在は60歳を超えており、今後さらに伸びると予想されています。
  • 生活の質: 適切な教育と社会の理解により、多くの人が仕事を持ち、趣味を楽しみ、豊かな人生を送っています。

まとめ

Down syndrome(ダウン症候群)は、21番染色体が余分にあることで生じる、最も身近な遺伝子疾患の一つです。

特徴的な顔立ちや発達のゆっくりさという側面はありますが、それはその人の個性の一部に過ぎません。心疾患などの合併症はあっても、現代の医療でその多くが克服可能です。

ご家族や周囲の方に知っていただきたいのは、彼らは「ゆっくりだが確実に、一歩ずつ成長していく」ということです。早期からの療育と温かい社会のサポートがあれば、彼らは笑顔にあふれ、周囲を幸せにする力を持っています。染色体の数でその人の価値や未来が決まるわけではありません。共に歩む社会を作っていくことが、私たちに求められています。

参考文献

  • Down, J. L. H. (1866). Observations on an ethnic classification of idiots. London Hospital Reports.
    • (ジョン・ラングドン・ダウン博士による最初の臨床記述)
  • Lejeune, J., et al. (1959). Études des chromosomes somatiques de neuf enfants mongoliens. Comptes Rendus de l’Académie des Sciences.
    • (21トリソミーという原因を初めて解明した記念碑的論文)
  • Roizen, N. J., & Patterson, D. (2003). Down’s syndrome. The Lancet.
    • (臨床像、疫学、合併症に関する包括的な医学的レビュー)
  • Bull, M. J., et al. (2011). Health supervision for children with Down syndrome. Pediatrics.
    • (小児科学会による標準的な健康管理ガイドライン)
  • National Down Syndrome Society (NDSS): Guidebook for Families.
    • (家族向けの包括的な支援・情報ガイド)
  • GeneReviews® [Internet]: Trisomy 21 (Down Syndrome). (NCBI).
    • (最新の分子遺伝学、診断、管理に関する専門的データベース)
  • 日本ダウン症協会 (JDS): ダウン症のくらしと医療ガイド.
    • (日本国内における福祉、医療、教育の実情に即した情報源)

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