Duchenne muscular dystrophy (DMD)

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • DMD
  • デュシェンヌ型ジストロフィー
  • Dystrophinopathy(ジストロフィノパチー)
    • ※ジストロフィン遺伝子の異常に起因する疾患群(DMD、ベッカー型筋ジストロフィー、拡張型心筋症など)の総称です。
  • 関連:Becker muscular dystrophy (BMD:ベッカー型筋ジストロフィー)
    • ※DMDと同じ遺伝子の異常ですが、ジストロフィンタンパク質が一部機能を持つ状態で産生されるため、DMDよりも症状が軽く、進行が緩やかなタイプです。

対象染色体領域

X番染色体 短腕(p)21.2領域

本疾患は、性染色体であるX染色体上にある、ヒト最大級の遺伝子である**DMD遺伝子(ジストロフィン遺伝子)**の変異によって引き起こされます。

【ゲノム上の詳細とジストロフィンタンパク質】

DMD遺伝子は79個のエクソン(タンパク質の設計図となる部分)からなる巨大な遺伝子です。

  • ジストロフィンタンパク質の役割: 筋肉の細胞膜の内側に存在し、細胞骨格と細胞外マトリックスを繋ぐ「アンカー」や「クッション」のような役割を果たします。これにより、筋肉が収縮・弛緩を繰り返す際の物理的な衝撃から細胞膜を守っています。
  • DMDにおける異常: DMDでは、遺伝子の欠失や重複、点変異により、タンパク質の設計図が途中で読めなくなる「フレームシフト(読み枠のずれ)」が起こります。その結果、ジストロフィンタンパク質が筋肉内に**「全く存在しない(あるいは極めて微量)」**状態となり、筋細胞が壊れやすくなります。

発生頻度

男児 3,500人 〜 5,000人に1人

  • 性差: X連鎖潜性(劣性)遺伝という形式をとるため、基本的には男児にのみ発症します。
  • 女性保因者: 女性はX染色体を2本持っているため、一方が変異していても発症しない「保因者」となりますが、稀に軽微な筋力低下や心筋症を呈する「発症保因者」となる場合があります。
  • 突然変異: 約3分の1の症例は、家族に病歴がない「新生突然変異(de novo)」によって発生します。

臨床的特徴(症状)

DMDは進行性の疾患であり、年齢とともに症状が変化していきます。筋肉の壊死と再生を繰り返した結果、最終的には筋肉組織が脂肪や線維に置き換わってしまいます。

1. 幼児期(発症〜5歳頃)

  • 発達の遅れ: 歩き始め(独歩獲得)が1歳6ヶ月以降と遅れることがあります。
  • 登攀性起立(Gowers’ sign:ガワーズ徴候): 床から立ち上がる際、筋力が弱いために自分の膝や太ももを手に伝って這い上がるようにして立ち上がります。
  • 動揺性歩行(アヒル歩行): 骨盤周りの筋力が弱いため、体を左右に揺らしながら歩きます。
  • 腓腹筋の仮性肥大: ふくらはぎの筋肉が太く見えますが、これは筋肉が増えたのではなく、脂肪や結合組織に置き換わっているためです。

2. 学童期(6歳〜12歳頃)

  • 歩行能力の低下: 階段の上り下りが困難になり、平地でも転倒しやすくなります。
  • 尖足(せんそく): アキレス腱が短縮し、かかとが地面につかずにつま先立ちで歩くようになります。
  • 歩行不能: 10歳〜12歳頃には自力歩行が困難になり、車椅子が必要になります。

3. 思春期〜青年期(13歳以降)

  • 上肢・体幹の筋力低下: 食事や着替えなどの日常生活動作(ADL)に介助が必要になります。
  • 脊柱側弯症: 体幹の筋力バランスが崩れ、背骨がS字に曲がります。これにより呼吸機能や内臓への圧迫が生じます。
  • 呼吸不全: 呼吸筋(横隔膜など)の低下により、自発呼吸が不十分になります。夜間の睡眠時無呼吸から始まり、やがて日中も人工呼吸器の補助が必要になります。
  • 心筋症: 心臓も筋肉であるため、10代後半から心機能の低下(拡張型心筋症)や不整脈が現れます。これが現在のDMDにおける主要な死因の一つです。

4. 知的・行動的特徴

  • DMDの患者さんの約30%に、軽度の知的障害や自閉スペクトラム症(ASD)、ADHD、学習障害などの神経発達症が合併することがあります。これは、ジストロフィンが脳内でも一部働いているためと考えられています。

原因

DMD遺伝子の変異によるジストロフィンの欠損

  • 欠失(約60-70%): 1つまたは複数のエクソンが抜け落ちる。
  • 重複(約5-10%): 特定のエクソンが繰り返される。
  • 微小変異(約20-30%): 1文字だけの書き換え(点変異)や小さな挿入・欠失。

診断方法

臨床症状(ガワーズ徴候など)から疑い、以下の検査で確定します。

  • 血液検査(CK値):
    • 血清クレアチンキナーゼ(CK/CPK)の著明な高値: 筋肉が壊れているため、正常の数十倍〜百倍以上の値(数千〜数万)を示します。スクリーニングに不可欠です。
  • 遺伝子検査:
    • MLPA法: 欠失や重複を調べる主要な検査です。
    • 次世代シーケンサー: MLPAで判明しない微小変異を特定します。
  • 筋生検(現在は減少傾向):
    • 筋肉の一部を採取し、ジストロフィン染色を行います。ジストロフィンが全く染まらないことを確認します。
  • 心機能検査・呼吸機能検査:
    • 合併症の評価のために定期的に行われます。

治療方法

現代の医学において、DMDを完全に治癒させる方法はまだありませんが、**「病気の進行を遅らせる治療」「合併症の管理」**は飛躍的に進歩しています。

1. 薬物療法

  • 副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン、デフラザコート):
    • 標準治療です。筋力の維持、歩行可能期間の延長(1〜2年以上)、呼吸・心機能の保護、脊柱側弯の抑制に効果があります。副作用(肥満、骨粗鬆症、低身長など)の管理が必要です。
  • 核酸医薬(エクソンスキップ療法):
    • **ビルトラルセン(ビルテプソ)**など。特定の欠失パターン(例:エクソン44, 45, 51, 53の欠失に対応)を持つ患者さんに対し、読み飛ばし(スキップ)を誘導して「ベッカー型」のような部分的に機能するジストロフィンを作らせる治療です。
  • 心保護薬:
    • エナラプリル(ACE阻害薬)やβ遮断薬などを、心機能が低下する前の早期から投与することが推奨されています。

2. リハビリテーション・装具

  • ストレッチ: 関節が固まる(拘縮)のを防ぐため、毎日のアキレス腱や関節のストレッチが不可欠です。
  • 夜間用装具: 寝ている間に足首が固まらないように固定する装具(長下肢装具など)を使用します。
  • 車椅子・福祉機器: QOL向上のため、電動車椅子や環境制御装置を導入します。

3. 呼吸管理

  • 非侵襲的陽圧換気(NPPV): 鼻マスクを用いて夜間の呼吸を助けます。これにより寿命が大幅に延びました。
  • 排痰補助装置(カフアシスト): 咳をする力が弱まった際に、機械的に痰を出すのを助けます。

4. 遺伝子治療(最新の展望)

  • マイクロ・ジストロフィン遺伝子治療:
    • 巨大なジストロフィン遺伝子を短縮し、ウイルスベクターを用いて全身の筋肉に届ける治療です。米国などで一部承認・実施が始まっており、日本でも治験が進んでいます。

予後

かつては20歳前後で亡くなることが多い疾患でしたが、ステロイド療法、心保護薬、呼吸管理(NPPV)の普及により、現在は30代〜40代まで存命するケースが増えています。社会人として活動したり、家庭を持ったりする患者さんもいらっしゃいます。

まとめ

Duchenne muscular dystrophy (DMD) は、筋肉を守る「ジストロフィン」というタンパク質が作られないことで、全身の筋肉が徐々に弱くなっていく遺伝性の病気です。

「筋肉が弱くなる」という現実に、ご本人やご家族は大きな不安を抱かれることでしょう。しかし、今の医療は「ただ見守る」だけの時代ではありません。ステロイド治療や新しい核酸医薬、そして進化し続ける呼吸・心臓の管理技術により、病気の進行を緩やかにし、自立した生活を長く送ることが可能になっています。

また、遺伝子治療という根本的な治療への扉も開きつつあります。

大切なのは、早期に専門医(神経内科・小児科)と繋がり、リハビリテーションや福祉サービスを最大限に活用しながら、その時々のベストな生活環境を整えていくことです。

DMDの子供たちは、体は不自由になっても、豊かな知性と心を持ち、社会の一員として輝く力を持っています。多職種の医療チームと手を取り合い、お子様の未来を共に支えていきましょう。

参考文献

  • Duchenne, G. B. (1868). Recherches sur le paralyse musculaire pseudohypertrophique ou paralyse myosclerosique. (DMDを初めて詳細に記述した歴史的文献)
  • Hoffman, E. P., et al. (1987). Dystrophin: the protein product of the Duchenne muscular dystrophy locus. Cell. (原因遺伝子の産物ジストロフィンを特定した記念碑的論文)
  • Birnkrant, D. J., et al. (2018). Diagnosis and management of Duchenne muscular dystrophy, part 1, 2, 3. The Lancet Neurology. (国際的な最新診療ガイドライン)
  • 日本神経学会 / 日本小児神経学会: 筋ジストロフィー診療ガイドライン 2024. (国内の標準的な診療指針)
  • Clemens, P. R., et al. (2020). Efficacy and Safety of Viltolarsen in Boys With Duchenne Muscular Dystrophy. JAMA Neurology. (核酸医薬の有効性に関する研究)
  • GeneReviews® [Internet]: Dystrophinopathies (DMD, BMD). (NCBI). (診断・管理・遺伝カウンセリングの最新データベース)
  • Muscle Study Group / TREAT-NMD: Standard of care for DMD. (世界的なケア基準)

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