KBG syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • KBG症候群
  • ANKRD11関連症候群
  • 16q24.3微小欠失症候群(原因が欠失による場合)

対象染色体領域

16番染色体 長腕(q)24.3領域

KBG症候群は、16番染色体長腕の末端近くに位置する ANKRD11遺伝子 の変異、またはこの遺伝子を含む領域の微小な欠失によって引き起こされます。

【ゲノム上の詳細とANKRD11遺伝子の役割】

  • 責任遺伝子: ANKRD11 (Ankyrin Repeat Domain-Containing Protein 11)
  • 役割: ANKRD11遺伝子は、細胞の核内で働くタンパク質をコードしており、他のタンパク質(転写因子など)と結合して、脳の発達や骨の形成に関わる多くの遺伝子のスイッチをコントロールする「コ・レギュレーター(共調節因子)」として機能しています。
  • 病態メカニズム: この遺伝子の片方に変異が起き、正常なタンパク質の量が半分に減ってしまう「ハプロ不全」の状態になると、神経細胞の分化や骨芽細胞の成熟が適切に行われなくなり、KBG症候群特有の症状が現れると考えられています。

発生頻度

正確な頻度は不明(希少疾患)

  • 推定頻度: かつては極めて稀な疾患と考えられてきましたが、次世代シーケンサー(NGS)を用いた遺伝子検査が普及したことにより、診断される症例が急速に増えています。現在では、原因不明の知的障害や発達遅滞を持つ人々の中に、一定の割合で存在すると推測されています。
  • 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも発症します。ただし、男性の方が女性よりも臨床症状(特に歯の大きさや骨格異常)が顕著に現れやすいという傾向が指摘されています。

臨床的特徴(症状)

KBG症候群の症状は非常に多彩ですが、診断の鍵となる「主要な4つの特徴」があります。

1. 特徴的な歯科所見(Macrodontia)

  • 巨大中切歯: 上の永久歯の真ん中2本(中切歯)が非常に大きいことが最大の特徴です。これは患者の95%以上に見られます。
  • その他の歯科異常: 歯の欠損、エナメル質の低形成、歯並びの異常(叢生)などが頻繁に認められます。

2. 特徴的な顔貌(Facial Dysmorphism)

成長とともに変化することもありますが、共通した特徴があります。

  • 三角顔貌: 額が広く、あごが細い。
  • 眉の特徴: 眉毛が濃く、特に内側が太い、あるいは左右がつながっている(連眉)。
  • 目: 眼間開離(目が離れている)、あるいは大きな目が特徴的です。
  • 鼻: 鼻根部が低く、鼻先が丸い(球状の鼻)。
  • 人中(鼻の下の溝): 長く、平坦である。
  • 上唇: 非常に薄い。

3. 骨格および身体的特徴

  • 低身長: 多くの症例で、成長曲線の下限、あるいは標準を下回る低身長が見られます。骨年齢の遅延を伴うことが多いです。
  • 手の異常: 短指症(指が短い)、特に第5指(小指)の内湾や、手首の骨(手根骨)の骨化遅延。
  • 脊椎の異常: 脊椎の癒合、あるいは軽度の側弯症。

4. 神経発達と行動面

  • 発達遅滞・知的障害: 軽度から中等度の知的障害または学習障害が見られます。言葉の発達が特に遅れる傾向があります。
  • 行動特性: 注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)的な傾向、不安感、あるいは感情の起伏が激しい(易刺激性)といった特徴が見られることがあります。
  • てんかん: 約20〜50%の症例で、けいれん発作が認められます。多くは薬物療法でコントロール可能です。

5. その他の合併症

  • 難聴: 伝音性難聴(中耳炎の繰り返しによるもの)や感音性難聴。
  • 先天性心疾患: 心室中隔欠損症(VSD)などの軽度の心奇形(約10〜20%)。
  • 視覚異常: 斜視や遠視。
  • 潜伏精巣: 男児に見られることがあります。

原因

ANKRD11遺伝子の変異、または16q24.3微小欠失(常染色体顕性遺伝形式)

  • 遺伝形式:常染色体顕性(優性)遺伝 です。
    • 遺伝子の対のうち、片方に変異があるだけで発症します。
  • 新生変異と継承:
    • 新生変異: 家族に誰もいない状態で、受精卵の段階で突如として変異が生じるケースが最も多いです。
    • 親からの継承: 片方の親がKBG症候群である場合、50%の確率で子供に遺伝します。親が非常に軽症で、子供が診断されて初めて親もKBG症候群であったと判明するケース(表現型の多様性)も増えています。

診断方法

臨床的な特徴のスコアリングと、遺伝子検査を組み合わせて診断を確定させます。

  • 臨床診断基準:
    • 巨大中切歯(永久歯)。
    • 特徴的な顔貌。
    • 手の異常(短指や小指の内湾)。
    • 神経発達の遅れ。
      これらが複数揃っている場合に疑われます。
  • 遺伝子検査(確定診断):
    • ANKRD11遺伝子のシーケンス解析: 遺伝子内の小さな変異(塩基の置換など)を見つけます。
    • マイクロアレイ検査 (CMA): 遺伝子を含む16q24.3領域の欠失を検出します。
  • 画像検査:
    • 手のレントゲン: 骨年齢や手根骨の異常を評価します。
    • 頭部MRI: 脳の構造を確認(多くは正常ですが、一部に脳梁の異常などが見られることがあります)。
  • 歯科パノラマレントゲン: 未萌出の永久歯の大きさを確認します。

治療方法

根本的な治療法(遺伝子修復など)はありませんが、各症状に対する**「多職種連携による対症療法」**が非常に有効です。

1. 教育・発達支援(早期介入)

  • リハビリテーション: 言葉の遅れに対する言語療法(ST)、運動面の遅れに対する理学療法(PT)や作業療法(OT)を早期から開始します。
  • 特別支援教育: 個々の知的レベルや行動特性に合わせた教育環境を整えます。

2. 歯科的管理

  • 矯正歯科: 歯のサイズが大きいため、深刻な叢生(ガタガタの歯並び)になりやすく、早期からの歯科矯正が必要です。
  • 定期検診: エナメル質の低形成がある場合、虫歯になりやすいため、予防歯科的な関わりが重要です。

3. 内科・内分泌的管理

  • 低身長への対応: 成長ホルモン分泌不全がある場合には、成長ホルモン療法が検討されます。KBG症候群の患者において、この治療により最終身長が改善したという報告が増えています。
  • てんかんの管理: 抗てんかん薬による適切なコントロール。

4. 感覚器のサポート

  • 耳鼻咽喉科: 難聴の有無を確認し、中耳炎の早期治療や必要に応じた補聴器の使用。
  • 眼科: 斜視や屈折異常の矯正。

5. 精神・行動面への介入

  • ADHDやASD的傾向、感情調節の困難さに対し、行動療法や、必要に応じた環境調整、薬物療法(注意力を高める薬など)を行います。

予後

  • 生存期間: 一般的な寿命に影響を与えるような致命的な合併症(重度の内臓奇形など)は稀であり、予後は一般に良好です。
  • 自立性: 知的障害の程度によりますが、適切な支援を受けることで、多くの患者が就労し、自立した生活を送っています。
  • 長期的な課題: 成人期においては、精神的な健康管理や、次世代への遺伝に関するカウンセリングが課題となります。

まとめ

KBG症候群は、大きな前歯、親しみやすい特徴的な顔立ち、そして発達のゆっくりさを持つ、遺伝的な体質の一つです。

以前は「非常に珍しい病気」とされてきましたが、遺伝子検査の進歩により、実は身近にある個性の一つであることがわかってきました。

「発達が遅い」「背が低い」「歯が並びきらない」といった個別の悩みはありますが、これらは現代の医療や療育によって、一つひとつサポートしていくことが可能です。

何よりも大切なのは、早期にこの特性を理解し、お子様の得意なことを伸ばし、苦手な部分を環境で補ってあげることです。KBG症候群の方は、明るく社交的な性格を持つことも多いと言われています。専門医や療育チームと協力しながら、その子らしい豊かな人生を支えていきましょう。


参考文献元

  • Herrmann, J., Pallister, P. D., Tiddy, W., & Opitz, J. M. (1975). The KBG syndrome-a syndrome of retinitis pigmentosa, mental retardation, skeletal anomalies, and characteristic facies. Birth Defects Original Article Series.
    • (KBG症候群が初めて医学界に報告された歴史的論文です。)
  • Sirmaci, A., et al. (2011). ANKRD11 mutations cause KBG syndrome. American Journal of Human Genetics.
    • (KBG症候群の原因遺伝子がANKRD11であることを世界で初めて特定した画期的な論文です。)
  • Ockeloen, C. W., et al. (2015). ANKRD11 variants: expanding the clinical and molecular spectrum of KBG syndrome. Genetics in Medicine.
    • (遺伝子変異の多様性と、それに対応する臨床症状(フェノタイプ)の広がりを詳細に分析した文献です。)
  • Skjei, K. L., et al. (2007). The KBG syndrome: an update of clinical features and molecular genetic analysis.
    • (臨床診断基準の確立に寄与した、包括的なレビュー文献です。)
  • GeneReviews® [Internet]: KBG Syndrome. (NCBI).
    • (最新の診断・管理・遺伝カウンセリングガイドラインを網羅した、世界で最も信頼されるデータベースです。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): KBG Syndrome: A guide for families and professionals.
    • (希少疾患支援団体による、ご家族向けの実践的なガイドブックです。)
  • OMIM (Online Mendelian Inheritance in Man): #148050 KBG SYNDROME.
    • (世界中の研究者が参照する、遺伝子疾患の学術的情報を集約したサイトです。)
  • Morel Swols, D., et al. (2017). Growth hormone therapy in KBG syndrome. American Journal of Medical Genetics.
    • (低身長に対する成長ホルモン療法の有効性について議論している専門論文です。)

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