メビウス症候群とは?症状・原因・顔面神経麻痺を解説

Posted on 2026年 1月 22日

この記事でわかること

  • メビウス症候群(モビウス症候群)がどんな疾患で、なぜ表情が作りにくいのかがわかります
  • 顔面・眼・口まわりなど、あらわれやすい症状と頻度を整理して確認できます
  • PLXND1・REV3L遺伝子や血管障害説といった原因の考え方がわかります
  • 診断に使う検査、笑顔の手術をはじめとする治療、成長の見通しがわかります

メビウス症候群(モビウス症候群)は、生まれつき顔面神経と外転神経が十分に働かず、表情を作ることや目を外側に動かすことが難しくなる、まれな先天性疾患です。

「Möbius(メビウス/モビウス)」という表記のゆれはありますが、指している疾患は同じものです。知能は多くの方で正常に保たれ、心の中はほかの人と同じように豊かです。ここでは症状・原因・診断・治療の順に、ご家族が知っておきたいポイントを整理してお伝えします。本記事はヒロクリニック統括院長 岡 博史(医学博士)監修のもと、MedlinePlus・Nature Communications・Orphanet などの公的な医学情報をもとに作成しました。

メビウス症候群とは

赤ちゃんを優しく抱く親のイラスト

メビウス症候群は、脳から出る第6脳神経(外転神経)と第7脳神経(顔面神経)が生まれつき働きにくいために、顔の動きと目の動きに障害があらわれる疾患です。

顔面神経は表情を作る筋肉を、外転神経は眼球を外側へ動かす筋肉を担当します。この2つの神経がうまく育たないため、笑う・怒るといった表情や、横目で見る動きが出にくくなります。1888年にドイツの神経科医パウル・ユリウス・メビウスが詳しく報告し、その名が病名になりました。

別名・関連する呼び方

医療機関や文献では、次のような名前で呼ばれることがあります。呼び方は違っても、指している状態は共通しています。

  • モビウス症候群(Möbius syndrome):カタカナ表記のゆれで、同じ疾患です
  • 先天性顔面麻痺(Congenital facial diplegia)
  • 先天性眼球外転麻痺を伴う顔面神経麻痺
  • ポーランド・メビウス症候群:大胸筋の欠損を伴うポーランド症候群を合併するタイプ
  • Carey-Fineman-Ziter症候群:筋病変やピエール・ロバン・シーケンス様の症状を伴う関連疾患

発生頻度

出生数に対する頻度はおよそ5万人〜50万人に1人とされ、世界的にも非常にまれな疾患です。男女差はなく、どちらの性別でも同じように起こります。日本国内の正確な統計はありませんが、全国で数百人から千人程度の患者さんがいると推定されています。

私たちが外来でお会いする方の多くは、知能はしっかりと保たれています。表情が動きにくいことと、内面の豊かさは別のものと考えていただきたいところです。

メビウス症候群の主な症状

症状は「顔の動き」「目の動き」「哺乳・発音」「手足の形」という複数の面にあらわれ、どの神経がどの程度侵されるかで一人ひとり変わります。

あらわれやすい症状を、体の領域ごとに頻度の目安とあわせて整理しました。すべてが必ず起こるわけではなく、組み合わせは人によって異なります。

領域主な症状頻度の目安
顔面(第7脳神経)表情が作れない仮面様顔貌、寝ても目が閉じきらない、唇を閉じにくいほぼ全例
眼(第6脳神経)眼球を外側に動かせない外転麻痺、内側に寄る内斜視ほぼ全例
口腔・摂食乳児期の哺乳の弱さ、飲み込みにくさ、パ行・マ行など唇を使う音の不明瞭さ、高口蓋・小顎多くの例
手足・骨格棍棒足(内側にねじれる足)、合指症、短指症約30〜40%
全身・合併ポーランド症候群(片側の大胸筋欠損)の合併、乳児期の筋緊張低下一部
発達・知能知能は大半が正常。表情でのやりとりが難しいことによる対人面の困難や、ASD的傾向を伴う例あり知能は大半正常

とくに特徴的なのは、泣いているときでも声は出るのに顔は動かない点です。舌を動かす第12脳神経(舌下神経)が侵されると、舌が小さく動きにくくなることもあります。

メビウス症候群の原因と関連遺伝子

メビウス症候群に関わる遺伝子を表すDNAと染色体のイラスト

原因はひとつに定まっておらず、特定の遺伝子変異と、胎児期の血流障害という2つの考え方が組み合わさっているとされています。

2015年にNature Communicationsで報告された研究では、PLXND1REV3L という遺伝子の新生突然変異(de novo)が、一部の症例で原因になることが示されました。これらの遺伝子は、胎児期の脳幹で脳神経が作られ、正しい場所へ伸びていく働きを支えています。関与が指摘される主な染色体領域を整理します。

染色体領域関連遺伝子働き・位置づけ
3番染色体(3q21-q22)PLXND1脳幹での神経の形成と伸長を制御
13番染色体(13q12-q13)REV3LDNAの修復に関わり、神経発生を支える
10番染色体(MBS1領域)候補領域過去に関与が報告された領域
1番染色体(MBS3領域)候補領域過去に関与が報告された領域

これらの神経核が形成されなかったり、神経が筋肉まで届かなかったりすると、信号が顔や目の筋肉に伝わらず麻痺が生じます。多くの場合は家族に同じ病気の人がいない、突然の変異として起こります。遺伝カウンセリングの場で、ご家族から「原因は自分にあるのか」と問われることがよくありますが、誰かの過ごし方が招いたものではありません。

もうひとつの有力な説が、胎児期の血管障害です。妊娠初期(およそ5〜8週)に脳幹の一部である橋(きょう)への血流が一時的に途絶え、神経核が育たなくなるという考え方で、特定の薬剤(ミソプロストールなど)の服用がリスクを高めるとの報告もあります。

当メディアでは、メビウス症候群の候補領域と重なる染色体で起こる、別の疾患についても解説しています。3番染色体では3q21重複症候群、13番染色体では13q12.3微小欠失症候群、10番染色体では10q26欠失症候群などが挙げられます。いずれもメビウス症候群とは別の疾患ですが、染色体を理解する手がかりになります。

メビウス症候群の診断方法

診断は主に症状の組み合わせで行い、生まれつきの顔面神経麻痺と外転神経麻痺の両方がそろうことが決め手になります。

多くは出生直後に、哺乳の弱さや、目・顔の動きの様子から疑われます。そのうえで画像検査や電気生理検査を組み合わせ、ほかの疾患と見分けていきます。主な検査は次のとおりです。

  • 身体診察:表情の欠如と、目の横方向の動きの欠如がそろっているかを確認します
  • 脳MRI検査:脳幹(橋)が平坦になっていないか、脳神経の核が欠けていないかを調べます
  • 筋電図検査:顔の筋肉に神経の信号が届いているかを確認します
  • 遺伝子検査:全エクソーム解析などで原因遺伝子を調べます。ただし全員で変異が見つかるわけではありません

メビウス症候群の治療(笑顔の手術など)

笑顔の子どもと向き合う医師による治療とケアのイラスト

神経そのものを元に戻す治療法はまだありませんが、手術やリハビリテーションで表情や機能を大きく改善できます。

なかでも注目されているのが、表情を取り戻す「笑顔の手術」です。治療は一人ひとりの症状に合わせて組み立てます。早い時期から専門チームがかかわることで、成長に合わせた選択がしやすくなります。

笑顔の手術(動的再建術)

太ももの筋肉(薄筋)を神経・血管ごと顔に移植し、噛むための咬筋神経につなぎ合わせます。奥歯を噛みしめる動きに合わせて口角が上がり、自分の意思で笑顔を作れるようになります。表情という壁を越える、大きな一歩。

眼科・口腔・整形外科の治療

  • 眼科:内斜視を整える斜視手術、目が閉じきらないことによる乾燥を防ぐ点眼や処置
  • 言語療法(ST):発音の訓練や、飲み込みの指導を行います
  • 歯科・矯正:あごの形や歯並びの異常に合わせた治療
  • 整形外科:棍棒足や合指症に対する矯正手術・装具療法

心理的・社会的な支援

表情が作れないと「冷たい」「怒っている」と誤解されやすいため、身振りや声のトーン、自分の症状を周囲に伝える工夫が力になります。同じ悩みを持つ患者会(ピアサポート)への参加も、ご本人とご家族の支えになります。

予後と日常生活・支援

呼吸や飲み込みに重い問題がなければ、寿命は一般の方と変わらず、通常の教育や就職、家庭を築くことも十分に可能です。

笑顔の手術や言語療法によって、生活の質は大きく向上します。乳児期は哺乳や体温・呼吸の管理に注意が必要ですが、成長とともに落ち着いていくお子さんが多くいます。気になる症状があるときは、小児科・小児神経科・形成外科・眼科などが連携するチーム医療のもとで、一つずつ対応していきます。周囲がこの疾患を正しく知ることが、ご本人が自分らしく生きるための土台になります。

メビウス症候群と遺伝子検査・遺伝カウンセリング

遺伝子検査で原因が見つかる例は一部にとどまるため、検査は「診断の補助」と位置づけて受けることが大切です。

メビウス症候群は、症状の組み合わせから臨床的に診断されるのが基本です。PLXND1REV3L の変異が全エクソーム解析で見つかることもありますが、多くの症例では原因遺伝子が特定できません。そのため、遺伝子検査の結果が陰性でも、症状がそろっていれば診断は変わりません。

検査を受けるかどうか迷ったときに頼りになるのが、遺伝カウンセリングです。次のお子さんへの再発の見通しや、検査でわかること・わからないことを、専門のスタッフと一緒に整理できます。ご家族が「知りたいこと」と「今は知らずにおきたいこと」を尊重しながら進めるのが、私たちの基本的な姿勢です。

よくある質問(FAQ)

メビウス症候群とはどんな病気ですか?

生まれつき第6脳神経(外転神経)と第7脳神経(顔面神経)が働きにくいために、表情を作ることや目を外側へ動かすことが難しくなる、まれな先天性疾患です。知能は多くの方で正常に保たれています。

モビウス症候群とメビウス症候群は違う病気ですか?

同じ疾患です。英語表記「Möbius」を日本語にする際のカタカナのゆれで、「メビウス症候群」とも「モビウス症候群」とも書かれます。指している病態や治療は変わりません。

メビウス症候群は遺伝しますか?

多くは、家族に同じ病気の人がいない新生突然変異(de novo)として起こります。ご両親の過ごし方が招いたものではありません。次のお子さんへの見通しが気になる場合は、遺伝カウンセリングで相談できます。

「笑顔の手術」とはどんな治療ですか?

太ももの薄筋という筋肉を神経・血管ごと顔に移植し、噛むための咬筋神経につなぐ手術です。奥歯を噛みしめる動きに合わせて口角が上がり、自分の意思で笑顔を作れるようになります。

メビウス症候群の知能や寿命はどうですか?

知能は大半の方で正常です。呼吸や飲み込みに重い問題がなければ寿命は一般の方と変わらず、通常の教育を受け、就職し、家庭を築いている方も多くいます。

まとめ

メビウス症候群(モビウス症候群)は、生まれつき顔面神経と外転神経が働きにくいために、表情や目の動きに障害があらわれる、まれな先天性疾患です。

「感情がない」と誤解されることもありますが、心の中はほかの人と同じように豊か。喜びも悲しみも、同じように感じています。ただ、それを顔で表すことが難しいだけなのです。笑顔の手術やリハビリ、そして周囲の理解があれば、メビウス症候群の方々は社会のなかで自分らしい人生を歩んでいけます。この病気を正しく知ることが、その第一歩になります。

参考文献

医師監修 監修日:2026年1月22日

岡 博史 (おか ひろし)

医師・医学博士 ヒロクリニック統括院長

YouTubeチャンネルなどを通じて、遺伝子やNIPT(新型出生前診断)についてわかりやすく発信しています。

略歴

  • 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
  • 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
  • 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
  • 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
  • 2009年 医療法人社団福美会 理事長
  • 2015年 医療法人社団福美会 理事

資格・所属

  • CAPラボディレクター
  • 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
  • 日本医師会 産業医
  • 東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、ヒロクリニック遺伝子検査の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

医師監修 監修日:2026年1月22日

堤 修一

医師・医学博士 ヒロクリニック博多駅前院 院長

資格・所属

  • 元・東京大学先端科学技術研究センター 准教授

この記事は、ヒロクリニック遺伝子検査の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。