Partial Monosomy 11q syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • ヤコブセン症候群 (Jacobsen syndrome; JBS)
    • ※1973年に本疾患を報告したデンマークの遺伝学者Petra Jacobsen博士にちなんで命名されました。現在、最も一般的な呼称です。
  • 11q欠失症候群 (11q deletion syndrome)
  • 11q末端欠失症候群 (11q terminal deletion syndrome)
  • 11q末端部分モノソミー
  • パリ・ルソー症候群 (Paris-Trousseau syndrome; PTS)
    • ※11q部分モノソミーに見られる特有の血小板異常(出血傾向)を指す病名です。

対象染色体領域

11番染色体 長腕(q)23.3領域から末端(telomere)にかけての微小欠失

本症候群は、11番染色体の一方の長腕末端部が失われること(微小欠失)によって発症します。失われる範囲の大きさ(数Mbから20Mb程度)により、症状の重症度や合併症の範囲が変動する「隣接遺伝子欠失症候群」です。

【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】

11q23.3から末端までの領域には、体の形成や機能維持に重要な多くの遺伝子が含まれています。

  1. FLI1遺伝子 (11q24.3):
    血小板の産生に関わる転写因子をコードしています。この遺伝子の欠失が「パリ・ルソー症候群」に見られる血小板減少と機能不全の直接的な原因となります。
  2. ETS1遺伝子:
    心臓血管系の発達や免疫機能、神経系の形成に関与しています。
  3. BARX2遺伝子:
    顔面の形成(口蓋や頭蓋骨)に関与しており、本症候群特有の顔貌に寄与しています。
  4. BSX, NRGN遺伝子:
    脳の発達と認知機能に関連し、知的障害や行動特性に影響を与えます。
  5. JAM3遺伝子:
    血管の形成や心臓の発育に関与し、先天性心疾患の発症に関係しています。

発生頻度

約100,000人に1人

  • 希少疾患: 世界全体で数百例以上の報告がありますが、軽症例や診断未確定例を含めると実際にはこれより多い可能性が指摘されています。
  • 性差: 女性の方が男性よりも多く発症すると報告されています(女性:男性 = 約2:1)。理由は完全には解明されていません。
  • 出生前診断: 近年、NIPT(非侵襲的出生前検査)やマイクロアレイ検査の普及により、胎児期に診断されるケースが増えています。

臨床的特徴(症状)

Partial Monosomy 11q syndromeの症状は多系統にわたり、身体的特徴、認知機能、そして生命に関わる内部合併症が含まれます。

1. 特徴的な顔貌(Facial Dysmorphism)

診断の重要な手がかりとなる共通の特徴があります。

  • 頭部: 三角頭蓋(Trigonocephaly)。前頭部が三角形に突き出した形状です。これは前頭縫合の早期閉鎖によるものです。
  • 目: 眼間開離(両目が離れている)、眼瞼下垂(まぶたが下がる)、内眼角贅皮、あるいはつり上がった目。
  • 耳: 低位付着耳(耳の位置が低い)、後方に回転した耳介。
  • 鼻: 鼻根部が平坦で、鼻先が短く上を向いている。
  • 口: 鯉のような形の口(下向きの口角)、薄い上唇、小顎症。

2. パリ・ルソー症候群(血液学的異常)

本症候群の約90%以上の症例に認められる、極めて特異的な症状です。

  • 血小板減少症: 生まれた時から血小板数が少なく、出血しやすい状態です。
  • 血小板の形態異常: 血液細胞の中に「巨大なα顆粒」を持つ未熟な血小板が混在し、止血機能が十分に働きません。
  • 症状: 鼻血、青あざ、抜歯や怪我の際の止血困難。重症例では脳内出血などのリスクがあります。

3. 先天性心疾患

約56%の患者に認められ、乳幼児期の生命予後を左右します。

  • 左心低形成症候群 (HLHS): 心臓の左側が極端に小さい重篤な奇形。
  • 心室中隔欠損 (VSD) / 心房中隔欠損 (ASD): 心臓の壁に穴が開いている。
  • ファロー四徴症、大動脈弓離断: 複雑な構造異常。

4. 神経発達と知能

  • 発達遅滞・知的障害: ほぼすべての症例で見られます。軽度から中等度が多いですが、個人差があります。
  • 筋緊張低下: 乳児期に「フロッピーインファント」として現れ、運動発達の遅れに繋がります。
  • 行動特性: 注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)的傾向、あるいはパニックを起こしやすいなどの感情調節の困難さが見られることがあります。

5. その他の合併症

  • 成長障害: 身長・体重ともに増加が不良です。
  • 泌尿生殖器異常: 腎欠損、停留精巣(男児)、水腎症など。
  • 感覚器: 斜視、遠視、視神経低形成による視力障害。難聴。
  • 免疫不全: 抗体産生が不十分で、中耳炎や肺炎などの感染症を繰り返しやすい。

原因

11q23.3以降の末端領域の微小欠失(常染色体顕性遺伝形式)

  1. 新生突然変異 (De novo deletion): 約85%
    両親の染色体は正常であり、受精の過程で偶然に11qの微小欠失が生じたものです。再発リスクは極めて低いです。
  2. 均衡型転座の継承: 約15%
    親のどちらかが「均衡型転座」の保因者である場合です。この場合、次子への再発リスクが高まるため、遺伝カウンセリングと親の染色体検査が必須です。
  3. FRA11B(脆弱部位)の影響:
    11q23.3には「FRA11B」という壊れやすい場所があり、ここを起点に欠失が起こりやすいことが、本症候群の発生メカニズムに関与しています。

診断方法

臨床症状から本症候群を疑い、遺伝子検査によって確定されます。

  • マイクロアレイ染色体検査 (CMA):
    確定診断のゴールドスタンダードです。11q末端のどの領域がどの程度のサイズで欠けているかを精密に特定できます。
  • 血液学的検査:
    全血算(CBC)による血小板数の確認、および末梢血塗抹標本による巨大顆粒血小板の観察。
  • 画像診断:
    • 心エコー: 心奇形の検索。
    • 頭部MRI/CT: 三角頭蓋の評価や脳の構造異常の確認。
    • 腹部エコー: 腎奇形の検索。
  • FISH法:
    11q末端特異的なプローブを用いて、欠失の有無を視認します。

治療方法

根本的な「染色体の修復」は不可能です。治療は、生命に関わる合併症の管理を中心とした**「多職種連携による対症療法」**が基本となります。

1. 血液学的管理(最重要)

  • 出血管理: 出血傾向(パリ・ルソー症候群)があることを前提に生活環境を整えます。
  • 外科処置時の対応: 抜歯や手術の際は、事前に血小板輸血や止血剤の準備を行い、血液専門医の管理下で行います。
  • 薬剤の制限: 血小板機能をさらに抑制する薬剤(アスピリンや一部の解熱鎮痛剤)の使用を避けます。

2. 外科的治療

  • 心臓手術: 重篤な心奇形に対し、段階的な外科的矯正術を行います。
  • 頭蓋骨形成術: 三角頭蓋による脳への圧迫が強い場合、脳神経外科による手術が行われます。

3. 発達支援・療育

  • 早期介入: 理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語療法(ST)を早期に開始し、運動・知能・コミュニケーションの発達を促します。
  • 行動支援: ADHDや自閉的傾向に対し、療育や環境調整、必要に応じた投薬を行います。

4. 継続的なスクリーニング

  • 免疫・感染症: 定期的な抗体価の確認。
  • 眼科・耳鼻科: 視力・聴力の維持。

予後

  • 生存期間: かつては心疾患による乳幼児期の死亡が多かったですが、心臓外科技術の向上により、現在は多くの方が成人期を迎えています。
  • 生活の質 (QOL): 知的障害や出血管理といった課題はありますが、適切なサポートがあれば、学校生活や社会生活を送ることが可能です。
  • 成人のJBS患者: 世界的には多くの成人例があり、自立支援が進んでいます。

まとめ

Partial Monosomy 11q syndrome(11q部分モノソミー症候群)、あるいはヤコブセン症候群は、11番染色体の端にある大切な設計図が、ほんのわずかに失われる微小欠失によって起こる病気です。

この設計図には「心臓を作る」「血を止める」「脳を発達させる」といった重要な指令が含まれています。

特に「血が止まりにくい」という特徴があるため、怪我や手術の際には特別な注意が必要ですが、これは血液の専門家と連携することで適切にコントロールできます。

診断がついた際、ご家族は驚き、不安になられることでしょう。しかし、現在は多くの専門医がチームとなってお子様を支える体制が整っています。お子様はゆっくりですが、一歩ずつ自分の歩幅で成長していきます。その成長を、医療と福祉のチームと共に長く温かく支えていきましょう。

参考文献元

  • Jacobsen, P., et al. (1973). 11q23 deletion: a new human deletion syndrome. Journal of Medical Genetics, 10(3), 270-276.
    • (ヤコブセン博士らによる最初の症例報告と定義。)
  • Mattina, T., et al. (2009). Jacobsen syndrome: An update on clinical and genetic aspects. American Journal of Medical Genetics Part C, 151C(4), 313-328.
    • (臨床および遺伝学的側面の包括的なアップデート。)
  • Grossfeld, P. D., et al. (2004). The 11q terminal deletion disorder: a prospective study of 110 cases. American Journal of Medical Genetics Part A, 129A(1), 51-61.
    • (110例の前方視的研究に基づく臨床統計。)
  • Favier, R., et al. (2003). Paris-Trousseau syndrome: clinical, hematological, and genetic aspects. Annals of Hematology, 82(6), 329-334.
    • (パリ・ルソー症候群の血液学的解析に関する専門論文。)
  • GeneReviews® [Internet]: Jacobsen Syndrome. (NCBI).
    • (最新の医学的知見に基づく診断・管理・遺伝カウンセリングの標準的データベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Jacobsen Syndrome (11q deletion): A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けの実践的ガイド。)
  • Hage, R. E., et al. (2020). Spectrum of congenital heart defects in Jacobsen syndrome. * (JBSにおける先天性心疾患のスペクトラム解析。)

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