Partial Trisomy 11q syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • 11q部分重複症候群(Partial duplication 11q syndrome)
  • 11q遠位部トリソミー(Distal trisomy 11q)
  • 11q23-qter重複症候群
  • 不均衡転座による11qトリソミー

対象染色体領域

11番染色体 長腕(q)の特定領域の重複

11q部分トリソミー症候群は、11番染色体の長腕の一部が3本存在する(通常は2本)ことで発症します。臨床的には、重複している領域の位置によって以下の2つに大別されますが、多くは「遠位部」の重複が問題となります。

  • 遠位部トリソミー(Distal 11q Trisomy):
    • 領域:11q23領域から末端(qter)までの重複。
    • 特徴:重篤な多発奇形、知的障害、特徴的な顔貌を伴う確立された臨床単位です。
  • 近位部・中間部トリソミー(Proximal/Interstitial 11q Trisomy):
    • 領域:11q11-q13あるいは11q14-q22などの重複。
    • 特徴:遠位部に比べると症状が比較的マイルドである場合がありますが、依然として発達遅滞や軽微な形態異常を伴います。

【ゲノム上の詳細と病態メカニズム】

11q遠位部には、脳、心臓、顔面、四肢の形成に関わる重要な遺伝子群が集中しています。

  • KMT2A (MLL1) 遺伝子 (11q23.3): エピジェネティクスの制御に重要で、この領域の重複は神経発達に大きな影響を与えます。
  • ETS1 遺伝子 (11q24.3): 血管や心臓の発達に関与します。
  • 遺伝子量効果: 染色体の微小な重複であっても、そこに含まれる遺伝子の産物(タンパク質)が1.5倍に増えることで、複雑なシグナル伝達のバランスが崩れ、多系統の形成異常が引き起こされます。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

  • 推定: 正確な出生頻度は統計的に算出されていませんが、世界的に見ても報告例は限られており、数万〜数十万人に1人程度の希少疾患と考えられています。
  • 診断の現状: 以前は核型分析(Gバンド法)で発見されていましたが、現在はマイクロアレイ検査の普及により、外見的な特徴が少ない軽症の微小重複例も診断されるようになっています。
  • 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも発症します。

原因

11q領域の重複(常染色体顕性遺伝形式に相当)

11q部分トリソミーが生じるメカニズムには、主に以下の2つのパターンがあります。

1. 親の均衡型転座からの継承(約70〜80%)

最も多いパターンです。親のどちらかが「11番染色体と他の染色体との均衡型転座(染色体の場所が入れ替わっているが、本人の遺伝子総量は過不足なく正常な状態)」の保因者である場合です。

  • 生殖細胞(精子や卵子)ができる際の減数分裂で、11番染色体の断片が余分に含まれた状態で受精すると、不均衡転座(Partial Trisomy)となります。
  • この場合、別の染色体の一部が欠失(モノソミー)していることも多く、症状がより複雑化する傾向があります。

2. 新生突然変異(De novo duplication)

親の染色体は正常であり、受精卵の形成過程で偶然に11qの一部が重複(微小重複など)したものです。この場合、次子への再発リスクは極めて低いです。

臨床的特徴(症状)

特に報告の多い「遠位部(11q23-qter)トリソミー」の症状を中心に解説します。

1. 特徴的な顔貌(Facial Dysmorphism)

診断の示唆となる特有の顔立ちがあります。

  • 短頭症・小頭症: 頭の前後径が短く、全体的に小さい。
  • 平坦な顔立ち: 顔の彫りが浅く、平面的に見える。
  • 眼間開離: 両目の間隔が広く離れている。
  • 眼瞼裂斜上: 目尻が上がっている。
  • 鼻: 鼻根部が平坦で、鼻先が短く上を向いている。
  • 口: 常に口を開けていることが多く、上唇が薄い、あるいは高口蓋・口蓋裂を伴う。
  • 小顎症: あごが小さく、後ろに下がっている。

2. 神経発達と知能

  • 重度の知的障害・発達遅滞: ほぼすべての症例で見られます。言葉の発達が著しく遅れることが一般的です。
  • 筋緊張低下(Hypotonia): 乳児期に体が柔らかく、首すわりやお座り、歩行などの運動発達が大幅に遅れます。
  • てんかん: 幼児期以降にけいれん発作を発症することがあります。

3. 先天性奇形(内部・肢体)

  • 先天性心疾患: 心室中隔欠損(VSD)、心房中隔欠損(ASD)、動脈管開存症(PDA)などの合併頻度が高いです。
  • 泌尿生殖器異常: 腎欠損、多嚢胞性腎、男児における停留精巣。
  • 骨格・四肢の異常: 指の重なり(overlapping fingers)、短指症、股関節脱臼、あるいは内反足。
  • 成長障害: 胎内から発育が不良で、出生後も身長・体重の増加がゆっくりです。

診断方法

臨床的な多発奇形や発達遅滞から本症候群を疑い、染色体・遺伝子検査で確定します。

  1. マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    確定診断のゴールドスタンダードです。11qのどの位置が、どの程度のサイズ(微小重複の範囲)で重複しているかを精密に特定できます。
  2. 染色体核型分析(Gバンド法):
    比較的大きな重複や、転座が関与している場合の全体像を確認するために行われます。
  3. FISH法:
    11q特異的なプローブを用いて、余分な染色体断片がどこに付着しているか、あるいは独立しているかを確認します。
  4. 親の染色体検査:
    お子様に転座由来のトリソミーが見つかった場合、親が転座保因者であるかを確認することは、将来の家族計画において必須です。
  5. 全身のスクリーニング:
    心エコー、腹部エコー、頭部MRIなどにより、内部奇形を検索します。

治療方法

現代の医学において、染色体の重複を修正する根本的な治療法はありません。治療は、合併症の管理と生活の質(QOL)向上を目指した**「多職種連携による対症療法」**が中心となります。

1. 外科的治療

  • 心臓手術: 先天性心疾患がある場合、乳幼児期に外科的な矯正手術を行います。
  • 形成外科: 口蓋裂や多指、あるいは重度の顔面形態異常に対する手術。
  • 整形外科: 股関節脱臼や内反足に対する装具療法、または手術。

2. 発達支援・療育(早期介入)

  • 理学療法(PT)および作業療法(OT): 筋緊張低下に対する運動発達支援や、日常生活動作(食事・着替えなど)の訓練。
  • 言語療法(ST): 言葉の遅れに対し、サインや絵カード、意思伝達装置などを用いたコミュニケーション支援。
  • 特別支援教育: 知的レベルや個々の特性に合わせた個別の教育支援。

3. 内科的管理

  • てんかんの治療: 抗てんかん薬による適切な発作コントロール。
  • 成長・栄養管理: 摂食障害がある場合の経管栄養検討や、小児内分泌科による成長モニタリング。

4. 家族への支援と遺伝カウンセリング

  • 希少疾患ゆえの情報不足や、将来への不安に対する精神的サポート。
  • 親が転座保因者である場合、次子の再発リスクについての詳細な説明。

予後

予後は、**「重複している領域のサイズ」および「心臓や腎臓などの重要臓器の奇形の重症度」**に大きく依存します。

  • 生存期間: 重篤な心疾患が適切に管理されれば、多くの方が成人期を迎えることができますが、重度の知的障害を伴うため、生涯にわたるサポートが必要となります。
  • 生活の質: 早期からの療育介入により、コミュニケーション能力や身の回りの動作の獲得において改善が期待できます。

まとめ

Partial Trisomy 11q syndrome(11q部分トリソミー症候群)は、11番染色体の一部の設計図(遺伝子)が、通常よりも多く存在することで、体の成長や脳の発達にさまざまな影響を及ぼす病気です。

特に11qの先端部分が重複するケースでは、心臓の病気や知的発達の遅れ、そして独特のチャーミングな顔立ちが見られることが特徴です。

親御さんから引き継がれた転座が原因であることも多いため、ご家族全体で専門医のカウンセリングを受け、正しい知識を持つことが第一歩となります。

「重い障害」という言葉に、告知直後は戸惑われるかもしれません。しかし、現在は心臓手術などの医療技術が進歩し、早期からのリハビリテーションによってお子様の可能性を広げることが可能です。専門医や福祉チームと共に、お子様の歩幅に合わせた成長を長く温かく支えていきましょう。

参考文献元

  • Turleau, C., et al. (1975). Partial trisomy 11q. A new clinical entity. Clinical Genetics.
    • (11q部分トリソミーを臨床的実体として確立した初期の重要論文。)
  • Pihko, H., et al. (1981). Partial trisomy 11q: report of two new cases and a few review.
    • (臨床像の整理と症例報告の蓄積に寄与した文献。)
  • Vorsanova, S. G., et al. (2016). Partial trisomy 11q: a rare chromosomal abnormality.
    • (最新の分子細胞遺伝学的手法を用いた診断と、希少性に関する考察。)
  • GeneReviews® [Internet]: Trisomy 11q (Partial). (NCBI).
    • (診断、管理、遺伝カウンセリングの標準的データベース。※11番染色体異常の総称セクション含む)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 11q duplications: Distal and Proximal. A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けのわかりやすいガイドブック。)
  • Orphanet: Trisomy 11q (ORPHA:96148).
    • (希少疾患の国際的なポータルサイトによる病態概要。)
  • Spathas, D. H., et al. (1982). The distal 11q trisomy syndrome.
    • (11q遠位部重複に特有の症候群的特徴を詳述した研究。)

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