別名・関連疾患名
- 6q部分重複症候群(Partial duplication 6q syndrome)
- 6q遠位部トリソミー(Distal trisomy 6q)
- 6q21-qter重複症候群
- 不均衡転座による6qトリソミー
- 6q末端トリソミー(6q terminal trisomy)
対象染色体領域
6番染色体 長腕(q)の特定領域の重複(特に6q21から末端にかけて)
6q部分トリソミー症候群は、6番染色体の長腕の一部が、通常の2本ではなく3本(あるいはそれ以上)存在することで発症します。臨床的には、特に「6q25」から末端(q-telomere)にかけての重複が、本症候群特有の重篤な症状を引き起こすと考えられています。
【ゲノム上の詳細と病態メカニズム】
6番染色体長腕の遠位部には、胚発生において多系統の臓器形成を司る重要な遺伝子が集積しています。
- PLAGL1遺伝子 (6q24.2): 成長抑制に関与し、この領域の重複は一過性新生児糖尿病や成長遅滞に関係する可能性があります。
- ARID1B遺伝子 (6q25.3): クロマチンリモデリングに関与し、この遺伝子の異常(欠失や重複)は知的障害や特徴的な顔貌、低身長を来す「コフィン・シリス症候群」様の症状を引き起こすことが知られています。
- ESR1遺伝子 (6q25.1): エストロゲン受容体をコードし、骨格の発育や神経保護に関与しています。
微小な領域の重複であっても、これらの「司令塔」となる遺伝子の産物が過剰になることで、細胞内のシグナル伝達バランスが崩れ、複雑な臨床像(隣接遺伝子重複症候群)を呈します。
発生頻度
極めて稀(Ultra-rare)
- 推定: 世界的に見ても報告例は100例程度に限られており、正確な出生頻度は算出されていません。数万〜十数万人に1人程度の希少疾患と考えられています。
- 性差: 報告例に顕著な男女差は認められず、男女ともに発症の可能性があります。
- 診断の現状: かつては顕微鏡による核型分析で見つかる大きな重複が主でしたが、現在はマイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及により、外見では判別しにくい微小重複の症例も診断されるようになっています。
臨床的特徴(症状)
Partial Trisomy 6q syndromeの臨床像は、重複の範囲によって異なりますが、遠位部(6q25-qter)が関与する場合、非常に特徴的な症状を呈します。
1. 特徴的な顔貌(Facial Dysmorphism)
診断の重要な手がかりとなる共通の特徴があります。
- 平坦な顔貌: 顔全体が平面的で、起伏が少ない。
- 眼間開離: 両目の間隔が広く離れている。
- 眼瞼裂斜下: 目尻が下がっている(タレ目様)。
- 眼瞼裂狭小: 目の横幅が短い。
- 鼻: 鼻根部が低く平坦で、鼻孔が前を向いている。
- 口: 常に口を開けていることが多く(open mouth)、弓状の唇や、高口蓋、口蓋裂を伴うことがあります。
- 耳: 低位付着耳(耳の位置が低い)、後方に回転した耳介、あるいは耳介の変形。
- 短頸: 首が短く、皮膚の余剰(翼状頸)が見られることもあります。
2. 知的障害および発達遅滞
- 重度の精神遅滞: ほとんどの症例で、中等度から重度の知的障害を伴います。
- 運動発達の遅れ: 筋緊張低下(乳児期の体の柔らかさ)により、首すわりやお座り、歩行の獲得が大幅に遅れます。
- 言語障害: 言葉の理解や表出において顕著な遅滞が見られます。
3. 関節拘縮および骨格異常
本症候群の大きな特徴の一つです。
- 先天性多発性関節拘縮: 生まれつき膝、肘、手首などの関節が一定の角度で固まっており、可動域が制限されている状態です。
- 内反足: 足の先が内側に曲がっている変形。
- 脊柱側彎症: 成長に伴い背骨が左右に曲がる症状。
- 指の変形: 指が細く、あるいは重なり合っている(overlapping fingers)。
4. 内部臓器の合併症
- 先天性心疾患: 心室中隔欠損(VSD)、心房中隔欠損(ASD)、ファロー四徴症などが報告されています。
- 泌尿生殖器異常: 腎欠損、腎形成不全、男児における停留精巣。
- 脳の構造異常: 脳梁欠損、脳室拡大、小脳低形成など。
5. 成長障害
- 胎内発育不全: 出生時から身長・体重が小さく、出生後も成長曲線の下限を辿ることが一般的です。
原因
6q領域の重複(常染色体顕性遺伝形式に相当)
本症候群が生じる原因には、主に2つのメカニズムがあります。
1. 親の均衡型転座からの継承(約75%)
最も一般的な原因です。親のどちらかが、6番染色体と他の染色体の間で「均衡型転座」の保因者である場合です。
- 親自身は遺伝子量の過不足がないため健康ですが、精子や卵子ができる際の「減数分裂」で、6番染色体の重複部分が不均衡に受け継がれると、お子様にトリソミーが生じます。
- この場合、別の染色体の一部が失われる(モノソミー)を伴うことが多く、症状はさらに多様化します。
2. 新生突然変異(De novo duplication)
親の染色体は正常であり、受精の過程で偶然に6qの微小重複が生じたものです。この場合、次子への再発リスクは極めて低い(1%未満)とされます。
診断方法
臨床的な特徴(顔貌、関節拘縮、発達遅滞)から本症候群を疑い、遺伝子検査によって確定します。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
確定診断の第一選択です。6qのどの領域がどの程度のサイズで重複しているか(微小重複の範囲)を精密に特定でき、予後予測に役立ちます。 - 染色体核型分析(Gバンド法):
比較的大きな重複や、染色体全体の構造変化(転座など)を確認するために行われます。 - FISH法:
特定のプローブを用いて、重複した断片がどこに存在するかを視覚的に確認します。 - 親の染色体検査:
お子様に転座由来のトリソミーが疑われる場合、親の保因状態を確認することは、家族計画上の遺伝カウンセリングにおいて極めて重要です。 - 画像診断(MRI / エコー):
脳、心臓、腎臓の合併症を検索するために必須です。
治療方法
根本的な「染色体の重複を治す」方法は存在しません。治療は、各症状に対する**「多職種連携による対症療法」**と、機能維持を目指す長期的なサポートが中心となります。
1. 外科的・整形外科的治療
- 整形外科的介入: 関節拘縮や内反足に対し、早期からのマッサージ、ギプス固定、あるいは外科的な腱延長術、関節授動術が行われます。
- 心臓手術: 先天性心疾患がある場合、循環器専門医による管理下で、適切な時期に矯正手術を行います。
- 形成外科: 口蓋裂がある場合の手術や、顔面形態に関する相談。
2. 発達支援・リハビリテーション
- 理学療法(PT): 関節拘縮の改善と、運動能力の獲得を目指した訓練。
- 作業療法(OT): 手先の機能や日常生活動作(ADL)の訓練。
- 言語療法(ST): 摂食嚥下障害(飲み込みの難しさ)の改善、およびコミュニケーション手段(代替コミュニケーション)の獲得。
3. 内科的管理
- 栄養管理: 吸い込む力が弱い、あるいは口蓋裂がある場合、経管栄養や特別な乳首の使用が必要になることがあります。
- てんかんの治療: 発症した場合は、抗てんかん薬によるコントロールを行います。
4. 家族へのサポート
- 希少疾患ゆえの情報不足に対する支援、心理的ケア、および地域の福祉サービス(療育センターなど)への橋渡し。
予後
予後は、**「重複している領域のサイズ」および「重要臓器(心臓、脳、腎臓)の合併症の重症度」**に大きく左右されます。
- 生存期間: 重篤な内部奇形が適切に管理されれば、多くの方が成人期を迎えることができます。
- 生活の質(QOL): 重度の知的障害を伴うため、生涯にわたる身の回りのサポートが必要となりますが、早期からの積極的なリハビリテーションと教育支援により、個々のペースで成長し、家族や周囲とのコミュニケーションを楽しむことが可能です。
まとめ
Partial Trisomy 6q syndrome(6q部分トリソミー症候群)は、6番染色体の長腕にある「体の設計図」が、一部だけ余分に存在することで、赤ちゃんの成長や発達にさまざまな影響を与える病気です。
この病気を持つお子様は、生まれつき関節が硬かったり(関節拘縮)、心臓に疾患があったり、知的発達がゆっくりであったりすることが多いという特徴があります。また、少しタレ目で平坦な、非常に穏やかで独特な顔立ちをしています。
「染色体の病気」と聞くと、ご家族は将来への大きな不安を抱かれることでしょう。しかし、現代の医療では、整形外科的なアプローチや心臓手術、そして早期からのリハビリテーションによって、お子様の抱える困難を軽減し、可能性を広げることができます。
情報の少ない希少な疾患ですが、専門医のチームと手を取り合い、お子様が持つ一つひとつの「できた」を大切にしながら、長く温かく支えていきましょう。
参考文献元
- Robertson, K. P., et al. (1975). Partial trisomy 6q: a clinically recognizable syndrome. Clinical Genetics.
- (6q部分トリソミーを臨床的な症候群として初めて体系化した重要な研究。)
- Tinkle, B. T., et al. (2003). Distal trisomy 6q phenotype-genotype correlations. American Journal of Medical Genetics.
- (重複領域と臨床症状の関係を詳細に分析した論文。)
- Engelen, J. J., et al. (1997). The critical region of the trisomy 6q syndrome.
- (6qトリソミーにおいて、どの領域が重篤な症状を引き起こす「責任領域」であるかを絞り込んだ研究。)
- GeneReviews® [Internet]: Trisomy 6q (Partial). (NCBI).
- (最新の医学的知見に基づく診断・管理・遺伝カウンセリングの標準的データベース。)
- Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 6q duplications: A guide for families.
- (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けの実践的かつ温かみのあるガイド資料。)
- Orphanet: Trisomy 6q (ORPHA:96144).
- (希少疾患の国際的なポータルサイトによる病態概要とリソース情報。)
- Zneimer, S. M., et al. (1998). Microduplication of 6q25-qter: array CGH and clinical report.
- (微小重複の診断におけるアレイCGHの有用性を示した症例報告。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


