Potocki-Shaffer syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • PSS
  • 11p11.2微小欠失症候群(11p11.2 microdeletion syndrome)
  • 近位11p欠失症候群(Proximal 11p deletion syndrome)
  • DEFECT11症候群
    • ※本症候群で見られる主要な症状の頭文字(Discrete craniofacial anomalies, ErbB4 deficiency, Fenestrated calvaria, Exostoses, Cognitive retardation, Trigonocephaly)から名付けられた旧称です。

対象染色体領域

11番染色体 短腕(p)11.2領域の微小欠失

Potocki-Shaffer症候群は、11番染色体の短腕にある「11.2」というバンドを含む領域が、ごくわずかに失われる(微小欠失)ことで発症します。この疾患は、複数の重要な遺伝子が一度に失われる「隣接遺伝子欠失症候群」の典型例です。

【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】

欠失の範囲には個人差がありますが、以下の3つの主要遺伝子が失われることが、PSSの三徴を構成する原因となります。

  • EXT2遺伝子:
    • 役割:骨の成長を調節するタンパク質の合成に関与します。
    • 欠失の影響:多発性外骨腫(骨の表面に良性の腫瘍ができる状態)を引き起こします。
  • ALX4遺伝子:
    • 役割:頭蓋骨の形成に関わる転写因子をコードしています。
    • 欠失の影響:頭頂骨欠損(頭の骨が一部形成されない、あるいは穴が開いた状態)を引き起こします。
  • PHF21A遺伝子:
    • 役割:脳の発達や遺伝子発現の調節に関与しています。
    • 欠失の影響:知的障害、発達遅滞、および特徴的な顔貌の主な原因と考えられています。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

  • 正確な頻度: 正確な統計はありませんが、世界的に見ても報告例は100例程度に限られており、数十万人に1人、あるいはそれ以下の頻度と考えられています。
  • 過少診断の可能性: 以前は染色体検査の解像度が低く、この小さな微小欠失が見逃されていた可能性があります。現在、マイクロアレイ検査の普及により、診断数が増えつつあります。
  • 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも発症の可能性があります。

臨床的特徴(症状)

PSSは、骨格、顔貌、神経発達の3つの側面において顕著な特徴を示します。

1. 骨格系の三徴(主要症状)

PSSを定義づける極めて特徴的な症状です。

  • 多発性外骨腫(Multiple Exostoses):
    長管骨(手足の長い骨)の末端近くに、軟骨に覆われた良性の骨腫瘍が多発します。幼児期から学童期にかけて目立ち始め、関節の動きを制限したり、痛みを引き起こしたりすることがあります。
  • 頭頂骨欠損(Enlarged Parietal Foramina):
    頭のてっぺんの両側にある頭頂骨に、生まれつき穴が開いている(骨が形成されていない)状態です。触れると柔らかい部分として感知されます。

2. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)

PHF21A遺伝子の欠失などが関与し、共通した独特の顔立ちが見られます。

  • 短頭症: 頭の前後径が短い。
  • 広い額: 額が突き出しており、広く見える。
  • 眼間開離: 両目の間隔が広く離れている。
  • 眼瞼裂斜下: 目尻が下がっている(タレ目様)。
  • 鼻: 鼻根部が平坦で、鼻先が幅広く、鼻孔が前を向いている。
  • 口: 下唇が厚く、突き出している。

3. 神経発達と知能

  • 知的障害・発達遅滞: 軽度から中等度の知的障害が見られることが多いですが、欠失範囲により重症度は異なります。
  • 言語発達の遅れ: 運動発達に比べ、特に言葉の獲得に時間がかかる傾向があります。
  • 筋緊張低下: 乳児期に「体が柔らかい」状態が見られ、運動発達の遅れの原因となります。
  • 自閉スペクトラム症(ASD)的傾向: 社会性の困難や、こだわり、反復行動が見られることがあります。

4. その他の身体的合併症

  • 眼の異常: 斜視、遠視、あるいは一部で視神経の異常。
  • 泌尿生殖器異常: 腎欠損や男児における停留精巣。
  • 成長不全: 身長や体重の増加がゆっくりであることがあります。

原因

11p11.2領域の微小欠失(常染色体顕性遺伝形式)

PSSは、11番染色体の一方のペアにおいて、11p11.2領域が失われることで発症します。

  1. 新生突然変異(De novo deletion):約90%以上
    ほとんどの症例において、両親の染色体は正常であり、受精の過程、あるいは胚発生の初期段階で偶然に微小欠失が生じたものです。これは誰のせいでもなく、予防できるものではありません。この場合、次に生まれるお子様(きょうだい)への再発リスクは極めて低い(1%未満)です。
  2. 均衡型転座の継承:
    稀に、親のどちらかが「均衡型転座(染色体の一部が入れ替わっているが、量は正常なので本人は健康)」を持っている場合、次子に不均衡な形で受け継がれ、微小欠失が生じることがあります。
  3. 優性遺伝:
    PSSを持つ親から子へは、50%の確率で遺伝します。

診断方法

臨床的な特徴(特に多発性外骨腫と頭頂骨欠損の組み合わせ)から本症候群を疑い、遺伝子検査によって確定します。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    確定診断のゴールドスタンダードです。11p11.2領域の微小欠失を精密に特定できます。
  • 画像診断:
    • 頭部レントゲン/CT: 頭頂骨欠損(骨の穴)の大きさと位置を確認します。
    • 全身骨レントゲン: 外骨腫の数、位置、および骨の変形度合いを評価します。
  • FISH法:
    特定のプローブを用いて、11p11.2領域の欠失を視覚的に確認します。親の転座の有無を確認する際にも有用です。
  • 専門医による臨床評価:
    小児科、臨床遺伝科、整形外科による多角的な身体診察。

治療方法

現代の医学において、失われた遺伝子を修復する根本的な治療法はありません。治療は、多系統の症状に対する**「多職種連携による対症療法」**と、安全管理が中心となります。

1. 整形外科的治療と管理

  • 外骨腫のモニタリング: 定期的なレントゲン検査で腫瘍の増大をチェックします。痛みや関節可動域の制限、神経圧迫がある場合には、外科的な切除術が行われます。
  • 注意点: 外骨腫は稀に悪性化(軟骨肉腫)する可能性があるため、成人期以降も長期的な経過観察が推奨されます。

2. 頭蓋骨の保護

  • 頭頂骨欠損への対応: 骨の穴が大きい場合、転倒や衝突による脳への直接的なダメージを防ぐ必要があります。
  • 保護用ヘルメット: 幼児期の活発な時期には、専用の保護ヘルメットの着用が推奨されることがあります。
  • 頭蓋形成術: 欠損範囲が非常に広い、あるいは安全上のリスクが高い場合、骨移植や人工骨を用いた閉鎖手術を検討することがあります。

3. 発達支援・療育

  • 早期介入: 理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語療法(ST)を組み合わせ、運動能力と言語能力の発達を促します。
  • 特別支援教育: 知的レベルや個々の特性に合わせた個別の支援計画に基づき、教育を提供します。

4. その他の管理

  • 眼科的治療: 斜視や視力障害に対する矯正。
  • 心理的サポート: 希少疾患ゆえの情報不足に対する不安を解消し、家族会やソーシャルワークを通じた支援を行います。

予後

  • 生存期間: 重篤な内臓合併症がなければ、寿命そのものは一般の方と大きく変わらないと考えられています。
  • 生活の質(QOL): 外骨腫に伴う痛みや運動制限の管理、および知的障害への適切な教育支援がQOLを左右します。
  • 長期的な監視: 骨腫瘍の変性や、成長に伴う骨格変形に対し、定期的な整形外科的フォローアップが生涯必要です。

まとめ(サイト掲載用)

Potocki-Shaffer syndrome(ポトツキ・シェーファー症候群)は、11番染色体の短腕にある、骨や脳の成長を司る大切な設計図(遺伝子)が、ほんのわずかに失われる微小欠失によって起こる病気です。

この病気には「手足の骨に小さなコブができる(多発性外骨腫)」「頭の骨に一部穴が開いている(頭頂骨欠損)」「発達がゆっくりである」という3つの大きな特徴があります。

これらはすべて、隣り合ったいくつかの遺伝子が一度に失われることで起こります。

診断がついた際、ご家族は驚かれるかもしれませんが、この病気はマイクロアレイ検査で正確に特定でき、原因がわかることで「これから何を注意すべきか」の見通しを立てることができます。

特に頭の保護や、骨のコブに対する定期的な整形外科チェック、そして早期からのリハビリテーションが、お子様の健やかな成長を支える鍵となります。専門医のチームと共に、お子様の歩幅に合わせた成長を長く温かく支えていきましょう。

参考文献元

  • Potocki, L., & Shaffer, L. G. (1996). Interstitial deletion of 11(p11.2p12): a newly recognized contiguous gene syndrome. American Journal of Human Genetics.
    • (ポトツキ博士とシェーファー博士による、本症候群を独立した疾患として確立した最重要論文。)
  • Swarr, D. T., et al. (2010). Potocki-Shaffer syndrome: Comprehensive clinical and molecular assessment.
    • (PSSの臨床像と原因遺伝子EXT2, ALX4, PHF21Aの役割を詳細に解説した文献。)
  • Kim, H. G., et al. (2012). PHF21A spans the critical region for intellectual disability and craniofacial anomalies in Potocki-Shaffer syndrome.
    • (知的障害と顔貌異常の責任遺伝子としてPHF21Aを特定した研究。)
  • GeneReviews® [Internet]: Potocki-Shaffer Syndrome / 11p11.2 Deletion. (NCBI).
    • (最新の医学的知見、診断基準、管理ガイドラインが網羅されている世界的データベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Potocki-Shaffer syndrome (11p11.2 deletion): A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けの実践的かつ温かみのあるガイド資料。)
  • Orphanet: Potocki-Shaffer syndrome (ORPHA:2912).
    • (希少疾患の国際的なポータルサイトによる病態概要とリソース情報。)

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