別名・関連疾患名
- RSTS
- RTS
- 幅広母指・母趾症候群(Broad Thumb-Hallux Syndrome)
- 16p13.3微小欠失症候群(原因が16番染色体の欠失による場合)
- CREBBP関連ルビンスタイン・テイビ症候群(RSTS1)
- EP300関連ルビンスタイン・テイビ症候群(RSTS2)
対象染色体領域
16番染色体 短腕(p)13.3領域、または22番染色体 長腕(q)13.2領域
ルビンスタイン・テイビ症候群は、主に2つの原因遺伝子の異常によって引き起こされます。
- 16p13.3領域(RSTS1): 全症例の約50〜60%を占めます。この領域にある「CREBBP遺伝子」の変異、または領域全体の微小欠失が原因となります。
- 22q13.2領域(RSTS2): 全症例の約5〜8%を占めます。この領域にある「EP300遺伝子」の変異が原因となります。EP300変異によるタイプは、CREBBP変異体に比べて身体的特徴がマイルドで、知的障害も軽度である傾向が報告されています。
【病態メカニズム:エピジェネティクスの異常】
これらの遺伝子が作るタンパク質(CBPおよびp300)は、「ヒストンアセチル基転移酵素」としての働きを持ちます。これはDNAの「巻き付き」を緩め、多くの遺伝子が適切に読み取られるように調節する「マスター・スイッチ」のような役割を果たしています。このスイッチが故障することで、胎児期から出生後の発達に至るまで、全身の多様な遺伝子の働きに乱れが生じ、複雑な臨床像を呈することになります。
発生頻度
100,000人 〜 125,000人に1人
- 希少性: 非常に稀な疾患ですが、特徴的な身体所見(親指の幅広さなど)があるため、比較的診断がつきやすい疾患でもあります。
- 性差: 男女での発生頻度に有意な差はなく、人種を問わず世界中で報告されています。
- 日本での状況: 日本国内においても正確な統計はありませんが、指定難病(小児慢性特定疾病など)の対象となっており、専門外来での管理が行われています。
臨床的特徴(症状)
RSTSの症状は、顔貌、四肢の形態、成長、知的発達など全身に及びます。
1. 特徴的な顔貌(Facial Features)
成長とともに特徴がより明確になります。
- 濃い眉毛と長いまつ毛: 非常に印象的な目元になります。
- 眼瞼裂斜下: 目尻が下がっている(タレ目)。
- 内眥(ないし)贅皮: 目頭の皮膚が被さっている。
- 嘴状(くちばし状)の鼻: 鼻中隔(鼻の穴を隔てる壁)が下方に突出しています。
- 高口蓋・小さな下顎: 口の中の天井が高く、顎が小さいため、歯並びの混雑(叢生)がよく見られます。
- 独特な笑顔: 笑った時に目が細くなり、独特の愛嬌のある表情を見せます。
2. 手足の特徴(もっとも重要な診断基準)
- 幅広く平坦な親指・母趾(足の親指): 先端が太く、へらのような形をしています。
- 指の弯曲: 親指や母趾が外側または内側に曲がっている(橈側偏位)ことがあります。
- 末節骨の幅広さ: レントゲン検査で、指の先端の骨が幅広くなっているのが確認されます。
3. 知的障害および行動の特性
- 中等度〜重度の知的障害: IQは平均して30〜50程度が多いですが、個人差が非常に大きく、軽度から最重度まで幅があります。
- 言語発達の遅れ: 運動発達に比べても、言葉の表出(話すこと)に強い遅れが見られることが一般的です。
- 社交的な性格: 幼少期は非常に人懐っこく、社交的な性格であることが多いですが、思春期以降に不安感や気分の変動、強迫的な行動が見られることもあります。
4. 成長と全身の合併症
- 成長障害: 出生時は標準的でも、その後の身長・体重の増加がゆっくりであり、最終的な成人身長は低めになる傾向があります。
- 先天性心疾患(約30%): 心室中隔欠損症、動脈管開存症など。
- 眼科的異常: 斜視、屈折異常、白内障、鼻涙管閉塞(涙が出やすい)。
- 泌尿生殖器: 男児における停留精巣。
- 皮膚病変: ケロイド(傷跡が盛り上がりやすい)を作りやすい性質があります。
- 腫瘍のリスク: 非常に稀ですが、髄膜腫や白血病などの良性・悪性腫瘍の発生リスクが一般よりわずかに高い可能性が指摘されています。
原因
CREBBP遺伝子またはEP300遺伝子の異常(常染色体顕性遺伝形式)
- 新生突然変異(De novo mutation):約99%以上
ほとんどすべての症例において、両親の遺伝子は正常であり、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精の瞬間に偶然に遺伝子の変異、または微小欠失が生じたものです。これは「誰のせいでもない」偶然の出来事です。 - 常染色体顕性(優性)遺伝:
理論的には、RSTSを持つ方が子供を授かった場合、50%の確率で遺伝します。 - モザイク:
稀に親が自覚症状のない「モザイク保因者(体の一部にだけ変異細胞がある)」である場合があり、その場合は次子への再発リスクが1%程度存在します。
診断方法
臨床診断(身体的特徴による診断)が先行し、遺伝子検査で確定します。
- 臨床診断基準: 特徴的な顔貌、幅広の親指・母趾、知的障害の3つが揃う場合、強く疑われます。
- 遺伝子パネル検査 / 全外顕子解析(WES):
- CREBBP遺伝子およびEP300遺伝子の塩基配列の変化(点突然変異)を調べます。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
16p13.3領域全体の微小欠失を検出します。大きな欠失がある場合は、より重篤な症状や難治性てんかんを伴うことがあります。 - FISH法: 16p13.3の欠失を確認するために用いられることもあります。
治療方法
現代の医学において、遺伝子そのものを修正する根本的な治療法はありません。治療は、多系統の合併症を管理し、生活の質を向上させる**「多職種連携による対症療法」**が中心となります。
1. 外科的・整形外科的介入
- 指の手術: 親指や母趾の弯曲が強く、物を掴むことや歩行に支障がある場合、位置を整える手術が行われます。
- 心臓手術: 重篤な先天性心疾患がある場合、乳幼児期に行われます。
- 鼻涙管開放術: 涙目がひどい場合、通り道を広げる処置を行います。
2. 発達支援・リハビリテーション
- 早期介入: 理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語療法(ST)を組み合わせ、運動・認知・コミュニケーション能力の発達を促します。
- コミュニケーション支援: 言葉の遅れに対し、サインや絵カード、タブレット端末などの代替手段を早期から導入します。
3. 内科的・眼科的管理
- 眼科定期受診: 斜視や視力低下、白内障の早期発見。
- 歯科管理: 歯並びが非常に乱れやすいため、早期からのブラッシング指導や矯正相談。
- ケロイド対策: 手術時や怪我の際、ケロイドができやすいため、皮膚科的な配慮が必要です。
4. 心理的・社会的支援
- 家族会(ルビンスタイン・テイビ症候群親の会など)への参加を通じた情報共有。
- 思春期以降のメンタルヘルス(不安や強迫症状)への精神医学的サポート。
予後
- 生存期間: 重篤な心疾患や悪性腫瘍の合併がなければ、寿命そのものは一般の方とほぼ同等であると考えられています。
- 自立度: 知的障害の程度によりますが、成人後は就労支援やグループホームなどの社会資源を利用しながら、豊かな社会生活を送ることが可能です。
- 加齢に伴う変化: 加齢とともに肥満になりやすい傾向があるため、成人期以降の食事管理と適度な運動が重要となります。
まとめ
Rubinstein-Taybi syndrome(ルビンスタイン・テイビ症候群)は、16番または22番染色体にある、多くの遺伝子の働きを調整する「マスター・スイッチ」のような役割を持つ遺伝子の変化によって起こる病気です。
「親指や足の指が幅広く、少し曲がっている」「とても印象的でチャーミングな目元」「発達がゆっくり」といった特徴があります。
この病気を持つお子様たちは、非常に社交的で笑顔が素敵なことが多く、周囲を和ませてくれる力を持っています。
診断がついた際、ご家族は将来への不安を感じられるかもしれませんが、現在は多くの専門医(小児科、整形外科、眼科、歯科、リハビリ科)が連携し、お子様一人ひとりに合わせたサポート体制を整えることができます。
特に言葉の遅れや身体的な合併症に対して、早期から適切な支援を始めることで、お子様の持つ可能性を大きく広げることができます。専門医のチームと共に、お子様の歩みを見守りながら、一つひとつの成長を大切に支えていきましょう。
参考文献元
- Rubinstein, J. H., & Taybi, H. (1963). Broad thumbs and toes and facial abnormalities: a possible mental retardation syndrome. American Journal of Diseases of Children.
- (本症候群を初めて定義した歴史的な原著論文です。)
- Petrij, F., et al. (1995). Rubinstein-Taybi syndrome caused by mutations in the transcriptional co-activator CBP. Nature.
- (原因遺伝子CREBBPが同定された際の記念碑的な研究。)
- Roelfsema, J. H., et al. (2005). Genetic heterogeneity in Rubinstein-Taybi syndrome: mutations in EP300 are a rare cause of RSTS.
- (第二の原因遺伝子EP300の関与を明らかにした研究。)
- GeneReviews® [Internet]: Rubinstein-Taybi Syndrome. (NCBI).
- (最新の医学的知見、診断、管理指針が網羅されている世界的データベース。)
- Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Rubinstein-Taybi syndrome: A guide for families.
- (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けの実践的かつ温かみのあるガイド資料。)
- 日本小児科学会 / 日本臨床遺伝学会: 小児慢性特定疾病 診療ガイドライン.
- (日本国内における最新の診療指針。)
- Stevens, C. A., et al. (1990). Rubinstein-Taybi syndrome: A natural history study.
- (本症候群の自然経過、加齢に伴う変化を詳細に調査した研究。)
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