Tetrasomy 18p syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • 18pテトラソミー
  • 等腕染色体18p症候群(Isochromosome 18p syndrome / i(18p) syndrome)
    • ※本症候群の最も一般的な原因が「等腕染色体」と呼ばれる特殊な染色体の形成であるため、この名称がよく使われます。
  • 18p重複症候群(重症型)

対象染色体領域

18番染色体 短腕(p)全体(計4コピー存在)

本症候群は、18番染色体の中心体(セントロメア)から先の短腕部分が、細胞内に通常の2本ではなく、合計4本存在することによって引き起こされます。

【ゲノム上の詳細と病態メカニズム】

通常、ヒトの染色体は父由来・母由来のペアで2本(ディプロイド)ですが、18pテトラソミーでは、通常の18番染色体2本に加え、「18番染色体の短腕2つが結合した余分な染色体(等腕染色体)」が1本存在します。

  • 遺伝子量効果: 18番染色体短腕には、脳の発達、筋肉のコントロール、成長に関連する多くの遺伝子が含まれています。これらが4コピー存在することで、タンパク質の産生バランスが著しく崩れ、多系統にわたる発達異常が生じます。
  • 微小重複との違い: 数メガベース程度の微小重複とは異なり、短腕全体(約15Mb)が過剰になるため、症状はより明確で、全身に影響が及びます。

発生頻度

出生児 140,000人 〜 180,000人に1人

  • 希少性: 極めて稀な染色体疾患です。世界中でこれまでに数百例程度の報告がありますが、診断技術の向上(マイクロアレイ検査の普及)により、以前より正確な頻度が把握されつつあります。
  • 性差: 男女での発生頻度に有意な差は認められておらず、どちらの性別でも発症します。
  • 母体年齢: 他の三体性(21トリソミーなど)と同様に、母親の出産年齢が高いほど発生リスクがわずかに上昇するという報告もありますが、多くは年齢に関わらず発生する突然変異です。

臨床的特徴(症状)

Tetrasomy 18p syndromeは、出生直後の筋緊張の異常から始まり、成長、知能、骨格など多岐にわたる症状を呈します。

1. 筋緊張の異常(もっとも顕著な特徴)

  • 乳児期の筋緊張低下(低緊張): 出生直後は「体が柔らかい(フロッピーインファント)」状態であり、首すわりや寝返りなどの運動発達が遅れます。
  • その後の筋緊張亢進(痙性): 成長とともに、逆に手足の筋肉が硬く突っ張る「痙性(けいせい)」に転じることが多く、特に下肢(足)の硬さが目立つようになります。これが歩行の困難さに繋がります。

2. 神経発達と知能

  • 知的障害: ほぼすべての症例で、軽度から重度の知的障害を伴います。
  • 言語発達の著しい遅れ: 運動発達以上に、言葉の獲得に時間がかかる傾向があります。
  • 発達遅滞: 独歩(一人歩き)ができるようになる時期が、平均して2歳半から3歳以降になることが多いです。

3. 特徴的な顔貌(Facial Features)

外見的な特徴は控えめですが、共通の所見が見られます。

  • 小顎症: あごが小さく、後ろに下がっている。
  • 耳の異常: 耳の位置が低い(低位付着耳)、耳介の形が独特、あるいは突出している。
  • 高い額: 額が広く、突き出している。
  • 短い鼻: 鼻が小さく、鼻根部が平坦。
  • 眼瞼下垂: まぶたが少し垂れ下がっていることがあります。

4. 成長と骨格

  • 低身長: 出生時は標準的でも、その後の成長スピードがゆっくりで、最終身長は低めになる傾向があります。
  • 側弯症・脊柱後弯: 筋肉の緊張バランスが悪いため、成長期に背骨が曲がりやすい性質があります。
  • 足の変形: 内反足や扁平足などが見られることがあります。

5. その他の合併症

  • 摂食障害: 乳児期の吸い込む力の弱さ(哺乳困難)や、胃食道逆流症(GERD)が多く見られます。
  • 便秘: 腸の動きに関わる筋肉の調節不全により、頑固な便秘を来しやすいです。
  • 停留精巣: 男児において精巣が陰嚢内に降りてこない状態。
  • 視覚・聴覚: 斜視や屈折異常、反復性の中耳炎。

原因

等腕染色体18p(i(18p))の形成(新生突然変異)

本症候群の原因のほとんど(約99%以上)は、両親から受け継いだものではなく、受精の過程で偶然に生じる「新生突然変異」です。

  1. 等腕染色体の形成:
    細胞分裂の際、18番染色体が本来の「縦方向」ではなく「横方向」に割れてしまい、短腕(p)だけを2つ持つ「等腕染色体18p」が作られます。これが通常の18番染色体ペアに加わることで、18pが計4本になります。
  2. モザイク型:
    稀に、18pテトラソミーの細胞と正常な細胞が混在する「モザイク型」の症例も存在します。この場合、症状は比較的マイルドになる傾向があります。

診断方法

臨床的な筋緊張の推移から本症候群を疑い、染色体・ゲノム検査で確定します。

  1. 染色体核型分析(Gバンド法):
    顕微鏡で染色体の形を確認します。通常の染色体46本に加え、小さな余分な染色体(等腕染色体)が1本確認されることで診断されます。
  2. マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    18p領域のコピー数が増えていることを精密に特定します。微小な重複との鑑別や、モザイクの検出に極めて有用です。
  3. FISH法:
    18番染色体の中心体や短腕に特異的なプローブ(蛍光標識)を用いて、18pが4つ存在することを視覚的に証明します。
  4. 臨床評価:
    頭部MRIによる脳構造の確認、脊椎レントゲン、嚥下機能評価など。

治療方法

根本的な「過剰な染色体を減らす」治療法はありません。治療は、多系統の症状に対する**「多職種連携による対症療法」**と、機能の最大化を目指すハビリテーションが中心となります。

1. リハビリテーション(療育)

  • 理学療法(PT): 乳児期の低緊張に対するサポートから、その後の痙性(突っぱり)を和らげ、歩行機能を維持するためのリハビリを行います。
  • 作業療法(OT): 手先の器用さや、日常生活動作の訓練。
  • 言語療法(ST): 言語獲得の支援、および摂食嚥下訓練(飲み込みの訓練)。

2. 内科的・外科的治療

  • 痙性の管理: 筋肉の突っぱりが強い場合、リハビリに加え、筋弛緩薬の投与やボツリヌス療法などが検討されることがあります。
  • 胃食道逆流・便秘の管理: 適切な食事の形態調整や、薬物療法。
  • 整形外科手術: 側弯症が進行した場合の脊椎固定術や、足の変形に対する矯正手術。
  • 泌尿器科手術: 停留精巣に対する固定術(通常1歳頃)。

3. 教育・社会的支援

  • 知的発達段階に合わせた特別支援教育。
  • 言葉での意思疎通が難しい場合、サイン言語や絵カード、タブレット端末を活用した「代替コミュニケーション」の導入。

予後

  • 生存期間: 重篤な心疾患などの内部奇形を伴うことは比較的少なく、適切なケア(特に肺炎予防や便秘管理など)が行われれば、寿命そのものは一般の方と大きく変わらず、多くの方が成人期を迎えています。
  • 自立度: 生涯にわたる一定のサポートが必要になることが多いですが、継続的なリハビリにより、自立歩行を獲得し、社会資源を利用しながら穏やかな生活を送ることが可能です。
  • 加齢に伴う変化: 成人期以降、筋肉の緊張異常に伴う関節の痛みや、脊椎の変化が顕著になることがあるため、長期的な整形外科フォローアップが推奨されます。

まとめ

Tetrasomy 18p syndrome(18pテトラソミー症候群)は、18番染色体の短い方の腕が、通常より2つ分多く存在することで起こる、非常に希少な染色体異常です。

この病気の大きな特徴は、赤ちゃんの時は体が柔らかく、成長すると逆に手足が突っ張りやすくなるという「筋肉の性質の変化」にあります。また、発達がゆっくりであることも特徴の一つです。

「テトラソミー」という聞き慣れない言葉に、ご家族は不安を感じられることでしょう。しかし、この病気はマイクロアレイ検査などの進歩により、原因を正確に知ることができるようになりました。

根本的な治療法はありませんが、早くからリハビリテーションを始め、筋肉の突っぱりを和らげたり、言葉の練習をしたりすることで、お子様の持つ可能性を大きく広げることができます。専門医や療育チームと手を取り合い、お子様一人ひとりの歩幅に合わせた成長を温かく見守っていきましょう。

参考文献元

  • Callen, D. F., et al. (1990). Tetrasomy 18p: Confirmation by in situ hybridization. American Journal of Medical Genetics.
    • (18pテトラソミーを分子遺伝学的手法で初めて明確に証明した初期の重要論文。)
  • Seibold, C., et al. (2005). Tetrasomy 18p syndrome: Description of 11 new cases and review of the literature.
    • (11症例の詳細な臨床経過をまとめ、本症候群の典型的な特徴を定義した文献。)
  • GeneReviews® [Internet]: Tetrasomy 18p. (NCBI).
    • (最新の医学的知見、診断、管理指針が網羅されている世界的データベース。)
  • The Chromosome 18 Registry & Research Society: Tetrasomy 18p: A Guide for Families.
    • (18番染色体異常の専門支援団体による、ご家族向けの実践的かつ包括的なガイド資料。)
  • Orphanet: Tetrasomy 18p (ORPHA:3306).
    • (希少疾患の国際的なポータルサイトによる病態概要とリソース情報。)
  • Boyle, J., et al. (2001). Clinical spectrum of tetrasomy 18p.
    • (18pテトラソミーの臨床的スペクトラム、特に筋緊張の推移に焦点を当てた研究。)
  • Cody, J. D., et al. (2014). Growth hormone deficiency in children with 18p abnormalities.
    • (18番染色体異常に伴う成長ホルモン分泌への影響を調査した研究。)

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