Trichorhinophalangeal syndrome type 2(TRPS2)

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • Langer-Giedion syndrome (LGS)(ランガー・ギデオン症候群)
  • TRPS II
  • 8q24.1微小欠失症候群(8q24.1 microdeletion syndrome)
  • TRPS with Multiple Exostoses(多発性外骨腫を伴うTRPS)
  • Giedion-Langer syndrome

対象染色体領域

8番染色体 長腕(q)24.11-q24.13領域の微小欠失

TRPS2は、8番染色体の長腕にある「8q24.1」というバンド領域が、ごくわずかに失われる(微小欠失)ことで発症します。この疾患は、隣り合った複数の重要な遺伝子が一度に失われる「隣接遺伝子欠失症候群」です。

【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】

TRPS2の臨床像を決定づけるのは、主に以下の2つの遺伝子の同時欠失です。

  • TRPS1遺伝子:
    • 役割:軟骨細胞の増殖や分化、毛包の発達を制御する転写因子です。
    • 欠失の影響:TRPS特有の「毛髪の薄さ」「梨状の鼻」「指の関節の変形」を引き起こします。これのみが欠失した場合はTRPS1型となります。
  • EXT1遺伝子:
    • 役割:骨の成長板において、正常な軟骨形成を助ける酵素をコードしています。
    • 欠失の影響:全身の骨の表面に良性の腫瘍ができる「多発性外骨腫」を引き起こします。

TRPS2は、この2つの遺伝子(および周辺遺伝子)が同時に失われるため、1型(TRPS1)の症状に加えて、外骨腫や知的障害、発達遅滞などのより広範な症状が現れるのが特徴です。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

  • 推定頻度: 正確な統計はありませんが、世界的に見て非常に希少な疾患です。百万人に1人程度の頻度と推測されることもあります。
  • 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも同等に発症します。
  • 診断の現状: 特徴的な外見とレントゲン所見(外骨腫)の組み合わせにより、臨床的に疑われることが多いですが、最終確定にはマイクロアレイ検査による微小欠失の証明が必要です。

臨床的特徴(症状)

TRPS2は、疾患名が示す「毛髪(Tricho)」「鼻(Rhino)」「指節(Phalangeal)」の異常に加え、骨の腫瘍(外骨腫)と発達面の特徴を併せ持ちます。

1. 特徴的な顔貌(Facial Features)

診断の決め手となる非常に特異的な顔立ちが見られます。

  • 鼻: 梨状鼻(Pear-shaped nose)。鼻先がふっくらと丸く、鼻翼(小鼻)が横に広がった梨のような形をしています。
  • 人中: 鼻の下の溝(人中)が長く、平坦です。
  • 唇: 上唇が非常に薄く、口角が下がっていることがあります。
  • 耳: 大きく、突出した耳(立ち耳)が特徴的です。

2. 毛髪と皮膚の異常

  • 疎毛: 生まれた時から、あるいは乳児期から髪の毛が非常に細く、まばらで、成長が遅いです。頭頂部から薄くなる傾向があります。
  • 眉毛: 眉毛の外側(耳に近い方)が薄い、あるいは消失しています。
  • 皮膚: 幼少期に皮膚が弛緩(たるみ)していることがありますが、成長とともに改善することが多いです。また、大きな母斑(あざ)が見られることもあります。

3. 骨格および指の異常

  • 多発性外骨腫(Multiple Exostoses):
    TRPS2の最も重要な特徴の一つです。長管骨(腕や足の骨)の末端、肋骨、肩甲骨などの表面に良性の骨腫瘍が多発します。幼児期から出現し、関節の可動域制限や痛み、神経圧迫の原因となります。
  • 円錐形骨端(Cone-shaped epiphyses):
    指の関節のレントゲンを撮ると、成長板の部分が「アイスクリームのコーン」のような三角形を呈しています。これにより指が太く短く見えたり、曲がったり(指曲がり)します。
  • 低身長: 骨の成長異常により、多くの場合で最終身長が低くなります。
  • 翼状肩甲: 肩甲骨が後ろに突き出していることがあります。

4. 神経発達と知的機能

  • 知的障害: 軽度から中等度の知的障害を伴うことが一般的です。
  • 発達遅滞: 言語の発達や運動機能の獲得に遅れが見られます。
  • 性格: 一般的に社交的で人懐っこい性格の方が多いと報告されています。

5. その他の合併症

  • 関節の過伸展: 関節が通常より柔らかく、脱臼しやすいことがあります。
  • 聴覚異常: 慢性的な中耳炎による伝音難聴が見られることがあります。
  • 低血圧: 乳児期に筋緊張の低下が見られることがあります。

原因

8q24.11-q24.13領域の微小欠失(常染色体顕性遺伝形式)

  • 遺伝形式:常染色体顕性(優性)遺伝 です。
    • 片方の8番染色体でこの領域が欠けているだけで発症します。
  • 新生突然変異(De novo deletion):約95%以上
    ほとんどの症例において、両親の染色体は正常であり、受精の過程で偶然に微小欠失が生じたものです。したがって、次に生まれるお子様(きょうだい)への再発リスクは極めて低い(1%未満)です。
  • 稀な継承: 軽症の親から遺伝するケースも稀に報告されています。

診断方法

臨床的な外見的特徴とレントゲン所見に基づき、ゲノム検査で確定診断を行います。

  1. 臨床評価:
    梨状鼻、疎毛、外骨腫の三徴を確認します。
  2. 画像診断(X線検査):
    手の指の「円錐形骨端」および、全身の「多発性外骨腫」を確認します。これはTRPS2を強く示唆する所見です。
  3. マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    確定診断のゴールドスタンダードです。8q24.1領域の微小欠失の範囲を精密に特定し、TRPS1およびEXT1遺伝子の欠失を証明します。
  4. FISH法:
    特定のプローブを用いて、8q24.1領域の欠失を視覚的に確認します。

治療方法

現代の医学において、失われた遺伝子を修復する根本的な治療法はありません。治療は、各症状に対する**「多職種連携による対症療法」**とQOLの維持が中心となります。

1. 整形外科的介入(最重要)

  • 外骨腫の管理: 定期的なレントゲン検査で腫瘍の増大を監視します。痛み、関節可動域の制限、血管や神経の圧迫がある場合は、外科的な切除術を行います。
  • 変形矯正: 指や四肢の変形が著しい場合、機能維持を目的とした矯正手術が検討されます。
  • 注意点: 外骨腫は稀に悪性化する可能性があるため、成人期以降も長期的なフォローアップが必要です。

2. 教育・発達支援

  • 早期療育: 言語療法(ST)、作業療法(OT)、理学療法(PT)を組み合わせ、発達を促します。
  • 特別支援教育: 知的レベルや個々の特性に合わせた個別の支援計画に基づき、教育を提供します。

3. 外見への配慮とケア

  • 皮膚・毛髪ケア: 皮膚の弛緩や薄毛に対する適切なケア。薄毛が心理的影響を及ぼす場合は、ウィッグの活用なども選択肢となります。
  • 歯科管理: 歯並びの問題(不正咬合など)に対し、矯正歯科による管理を行います。

4. 聴覚・その他の管理

  • 耳鼻科的フォロー: 難聴の原因となる中耳炎の早期発見と治療。
  • 遺伝カウンセリング: 家族に対し、再発リスクや疾患の性質について正確な情報提供と心理的サポートを行います。

予後

  • 生存期間: 重篤な内部奇形を伴うことは少なく、適切な管理(特に外骨腫の合併症管理)が行われれば、寿命そのものは一般の方と大きく変わらないと考えられています。
  • 自立度: 知的障害の程度によりますが、適切な支援があれば、多くの患者が社会生活を送ることが可能です。
  • 成人期の課題: 成人後は、外骨腫による慢性的な痛みや関節症、および腫瘍の悪性化に対する継続的な監視がQOLを左右します。

まとめ

Trichorhinophalangeal syndrome type 2 (TRPS2) は、8番染色体の一部にある、骨や毛髪の成長を司る大切な設計図(遺伝子)が、ほんのわずかに失われる(微小欠失)ことで起こる病気です。

「梨のような形の丸いお鼻」や「薄くて細い髪の毛」、そして「骨の表面にできるコブ(外骨腫)」が大きな特徴です。これらは、お隣同士にある2つの遺伝子が一緒に欠けてしまうために起こります。

「骨にコブができる」と聞くと不安に思われるかもしれませんが、多くは良性のもので、痛みや動きにくさがある場合には整形外科の手術で対応することが可能です。

また、発達がゆっくりであることもありますが、TRPS2のお子様たちはとても人懐っこく、明るい性格の方が多いという素敵な一面も持っています。

早くから整形外科や療育の専門家とつながり、お子様が自分のペースで健やかに成長していけるよう、社会全体で温かく支えていきましょう。

参考文献元

  • Langer, L. O., Giedion, A., et al. (1984). Trichorhinophalangeal syndrome of the Giedion type (trichorhinophalangeal syndrome II; Langer-Giedion syndrome). American Journal of Medical Genetics.
    • (ランガー博士とギデオン博士による、本症候群を臨床的に定義した歴史的論文。)
  • Lüdecke, B., et al. (1995). Molecular dissection of submicroscopic deletions in 8q24.1 in patients with Langer-Giedion syndrome.
    • (8q24.1の微小欠失を分子レベルで解析し、隣接遺伝子欠失症候群であることを証明した文献。)
  • Momeni, P., et al. (2000). Mutations in TRPS1 were identified in patients with trichorhinophalangeal syndrome type I, II and III. Nature Genetics.
    • (TRPS1遺伝子の同定と、各タイプにおける役割を解明した重要研究。)
  • GeneReviews® [Internet]: Trichorhinophalangeal Syndrome. (NCBI).
    • (最新の医学的知見に基づく診断・管理・遺伝カウンセリングの世界的データベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 8q24.1 microdeletions (Langer-Giedion syndrome / TRPS II).
    • (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けのわかりやすいガイド資料。)
  • Orphanet: Langer-Giedion syndrome (ORPHA:250).
    • (希少疾患の国際的なポータルサイトによる病態概要とリソース情報。)

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