Triphalangeal thumb-polysyndactyly(TPT-PS) syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • TPTPS
  • 三節母指を伴う多合指症(Polysyndactyly with triphalangeal thumb)
  • Preaxial polydactyly type 2 (PPD2)(軸前性多指症 2型)
  • Werner mesomelic syndrome(ワーナー・メソメリック症候群:より重症な関連疾患)
  • 7q36.3微小重複症候群

対象染色体領域

7番染色体 長腕(q)36.3領域

TPT-PS症候群は、7番染色体の末端付近(7q36.3)に位置する、四肢形成において極めて重要な役割を果たす遺伝子制御領域の異常によって引き起こされます。

【ゲノム上の詳細と発症メカニズム】

本症候群の病態を理解する上で鍵となるのは、SHH(ソニック・ヘッジホッグ)遺伝子とその遠隔制御領域である ZRS(Zone of Polarizing Activity Regulatory Sequence) です。

  • SHH遺伝子: 胚発生期において、手足の「前後軸(親指側か小指側か)」を決定する重要なタンパク質を作ります。通常、SHHは将来の小指側(後軸側)でのみ働きます。
  • ZRSエンハンサー: SHH遺伝子から約1Mb(メガベース)離れた LMBR1 遺伝子の内部に存在し、SHHのスイッチを入れる役割を持っています。
  • 微小重複・変異の影響: 7q36.3領域の微小重複、あるいはZRS領域内の点変異が生じると、本来SHHが働いてはいけない「将来の親指側(前軸側)」でもSHHが過剰に発現してしまいます。
  • 異所性発現の結果: 本来は親指になるはずの場所が「人差し指」や「小指」のような性質を持って成長してしまい、節が増えたり(三節母指)、指が余分に作られたり(多指)する表現型が現れます。

発生頻度

出生児 25,000人 〜 50,000人に1人

  • 希少性: 孤発例(家族歴がないケース)もありますが、多くの場合は家系内で受け継がれる遺伝性疾患として報告されます。
  • 人種差: 特定の人種に偏ることなく、世界中で報告されています。
  • 診断の現状: 単純な多指症として見過ごされることもありますが、親指の形態を詳細に観察することで、本症候群としての診断がつくケースが増えています。

臨床的特徴(症状)

TPT-PS症候群の症状は、その名の通り「三節母指」「多指症」「合指症」の3つが複雑に組み合わさって現れます。

1. 三節母指(Triphalangeal Thumb: TPT)

通常、人間の親指は「基節骨」と「末節骨」の2つの骨で構成されていますが、本症候群ではその間に「中節骨」が存在し、他の指(人差し指など)と同様に3つの骨で構成されます。

  • 形態: 親指が他の指のように長く見えます。
  • 機能: 親指としての対向動作(他の指と向かい合わせる動き)がしにくくなることがあります。
  • 変形: 余分な骨が「楔状(くさび型)」である場合、親指が横に曲がってしまう「指曲がり」の原因となります。

2. 多指症(Polydactyly)

指の数が通常よりも多くなる症状です。

  • 軸前性多指症: 親指側に余分な指が作られます。これが三節母指と合体しているケースも多く見られます。
  • 鏡像手(Mirror Hand)様: 非常に重症なケースでは、親指が消失し、小指側のような指が左右対称に並ぶ、鏡像に近い形態を呈することもあります。

3. 合指症(Syndactyly)

隣り合う指同士が皮膚や骨で癒合(くっついている)している状態です。

  • 手だけでなく、足の指(特に第1趾〜第3趾付近)にも合指や多趾が見られることが一般的です。

4. 四肢末端以外の症状(非症候群性としての特徴)

多くの場合、知能や内臓への影響はない「非症候群性」の疾患です。

  • ワーナー症候群との関連: 重複範囲がより広い場合、前腕の骨(橈骨)の欠損や低形成を伴う「ワーナー・メソメリック症候群」として現れることがあり、注意深い全身評価が必要です。

原因

7q36.3領域のZRSエンハンサーの微小重複または点変異(常染色体顕性遺伝形式)

  • 遺伝形式:常染色体顕性(優性)遺伝 です。
    • 親のどちらかが変異を持っている場合、50%の確率でお子様に遺伝します。
  • 表現型の多様性:
    • 同じ家族内(同じ遺伝子異常)であっても、親は「親指が少し長いだけ」、子は「指が7本ある重度の多合指」といった具合に、症状の重さに大きな幅(表現度の差)があるのが特徴です。
  • 新生突然変異:
    • 家系内に誰も同じ症状がいない場合でも、受精の過程でZRS領域に偶然微小な重複や変異が生じることで発症します。

診断方法

出生直後の身体診察および放射線検査によって臨床的に疑われ、遺伝子検査で確定します。

  • X線(レントゲン)検査:
    • 親指の骨の数を数え、中節骨の有無を確認します。また、多指の骨構造や合指の程度を詳細に評価します。
  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    • 7q36.3領域の微小重複を検出するために行われます。近年ではこれが確定診断の主流となっています。
  • 次世代シーケンサー(NGS)によるパネル解析:
    • 重複が見つからない場合、ZRS領域内のわずか1塩基の書き換え(点変異)を特定するために行われます。
  • 胎児診断:
    • 家族歴がある場合、妊娠中の超音波検査で指の数や形から疑われることがあります。

治療方法

治療の目的は「機能的な手の獲得」と「外見の整容」です。整形外科(手の手術専門医)による長期的な計画が必要です。

1. 外科的手術

手術の内容は個々の変形の度合いによって異なりますが、通常、1歳頃から就学前までに段階的に行われます。

  • 余剰指の切除術: 機能的に劣る方の指を切除し、残した指の軸を整えます。
  • 合指分離術: くっついている指を切り離し、指の間の水かき部分を形成します。
  • 三節母指の短縮・形成術: 余分な中節骨を取り除いたり、長すぎる親指を短くして、他の指と向かい合わせやすく(対向動作をしやすく)します。
  • 母指化手術: 親指の機能が著しく低い場合、人差し指を親指の位置へ移動させて、新しい親指を作る手術が行われることもあります。

2. リハビリテーション(作業療法)

  • 手術後、新しい指の形に合わせて、物を掴む、つまむ、書くといった動作を習得するための訓練(作業療法:OT)が行われます。

3. 心理的・社会的サポート

  • 手足の形は子供の自尊心に影響を与えることがあります。本人や家族が疾患を肯定的に捉えられるよう、心理的なサポートや、同じ悩みを持つ家族会との連携が推奨されます。

予後

  • 機能的予後: 現代の優れた外科手術とリハビリにより、ほとんどの患者が日常生活に支障のない手の機能を獲得できます。細かい作業を必要とする職業に就くことも十分に可能です。
  • 知的・全身予後: 知能や寿命には影響しません。
  • 次世代への影響: 顕性遺伝であるため、本人が将来子供を持つ際には、遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。

まとめ

Triphalangeal thumb-polysyndactyly (TPTPS) syndromeは、7番染色体にある「指の数と形を決めるスイッチ」が、胎児期に少しだけ過剰に働いてしまう(微小重複や変異)ことで起こる病気です。

「親指の骨が1つ多い」「指の数が多い」といった特徴がありますが、これはお子様が持つ「新しい個性」の一つです。

現在は整形外科の手術技術が非常に進歩しており、1歳を過ぎた頃から適切な治療を始めることで、日常生活で何不自由なく使える、整った形の手を獲得することができます。

知能や内臓への影響がないことが多いため、手術とリハビリを乗り越えれば、お子様は無限の可能性を持って成長していくことができます。専門医のチームと共に、お子様がその手で素晴らしい未来を掴み取れるよう、温かく支えていきましょう。

参考文献元

  • Lettice, L. A., et al. (2003). A long-range Shh enhancer regulates expression in the developing limb and sites of muscular dystrophy. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS).
    • (ZRSエンハンサーがSHH遺伝子を制御し、肢芽形成に関与することを解明した重要論文。)
  • VanderMeer, J. E., et al. (2012). Triphalangeal thumb-polysyndactyly syndrome and Werner mesomelic syndrome are caused by distinct genomic mechanisms affecting the same ZRS enhancer. American Journal of Human Genetics.
    • (TPT-PSとワーナー症候群が同じZRS領域の異なる異常で起こることを証明した論文。)
  • Sun, M., et al. (2002). A genome-wide scan in a large family with triphalangeal thumb-polysyndactyly syndrome maps the locus to chromosome 7q36.
    • (TPT-PSの家系解析から原因領域を7q36に特定した初期の研究。)
  • GeneReviews® [Internet]: SHH-Related Polydactyly. (NCBI).
    • (SHHおよびZRS関連の多指症に関する診断・管理の世界的データベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 7q36 microduplications including TPTPS.
    • (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けのわかりやすいガイドライン。)
  • Al-Qattan, M. M., et al. (2014). The triphalangeal thumb-polysyndactyly syndrome (TPTPS): Genetics and clinical phenotype.
    • (TPT-PSの遺伝学と臨床症状の相関に関する包括的レビュー。)

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