Trisomy 17p syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • 17p重複症候群(17p duplication syndrome)
  • 17p部分トリソミー(Partial trisomy 17p)
  • 17番染色体短腕トリソミー
  • 関連疾患:ポトツキ・ルプスキ症候群 (Potocki-Lupski syndrome; PTLS)
    • ※17p11.2領域の微小重複に限定された疾患ですが、17pトリソミーの表現型の一部を構成します。
  • 関連疾患:シャルコー・マリー・トゥース病 1A型 (CMT1A)
    • ※17p12領域のPMP22遺伝子を含む微小重複により発症する末梢神経疾患です。

対象染色体領域

17番染色体 短腕(p)全体、または一部(17p11.2から末端領域まで)

本症候群は、17番染色体の短腕(p)領域が、細胞内に通常の2本ではなく、合計3本存在することによって発症します。

【ゲノム上の詳細と病態メカニズム】

17番染色体短腕は、神経系の発達、細胞分裂の制御、および末梢神経の維持に不可欠な遺伝子が密集している領域です。

  • 主要な責任領域: 17pトリソミーの典型的な症状には、17p11.2から17p12、および末端の17p13領域の重複が深く関与しています。
  • PMP22遺伝子 (17p12): 末梢神経の髄鞘(ミエリン)を作るタンパク質をコードしています。この遺伝子が3コピーになることで、末梢神経障害が生じます。
  • RAI1遺伝子 (11p11.2): 神経発達の司令塔的な役割を持ち、この重複が知的障害や自閉症的特性に寄与します。
  • 微小重複の蓄積: 17p全体が重複している状態は、これら複数の微小重複疾患(PTLSやCMT1A)の症状をすべて併せ持ち、さらに広範囲な遺伝子過剰による多系統の異常が加わった重症型であると解釈されます。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

  • 推定頻度: 正確な出生頻度は算出されていませんが、世界全体でも医学文献に報告されている症例は限られています。
  • 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも同等に発症します。
  • 診断の傾向: 多くの症例は、親の均衡型転座に由来する「不均衡転座」として診断されます。

臨床的特徴(症状)

Trisomy 17p syndromeの臨床像は、特徴的な顔貌、筋緊張の異常、重度の発達遅滞、そして末梢神経の障害によって構成されます。

1. 特徴的な顔貌(Facial Features)

診断の示唆となる共通の身体的特徴があります。

  • 丸い顔立ち: 幼児期において特に顔の輪郭が丸く、頬がふっくらしています。
  • 眼間開離: 両目の間隔が広く離れている(Hypertelorism)。
  • 眼瞼裂斜下: 目尻が下がっている(Antimongoloid slant)。
  • 短い鼻と平坦な鼻根部: 鼻が小さく、付け根が低い。
  • 小さな口と薄い上唇: 口の幅が狭く、上唇が薄い特徴があります。
  • 低位付着耳: 耳の位置が低く、耳介の形が単純化していることがあります。

2. 神経発達と知能

  • 重度の知的障害: ほぼすべての症例で中等度から重度の知的発達の遅れが認められます。
  • 筋緊張の異常: * 乳児期: 著しい筋緊張低下(低緊張)が見られ、「フロッピーインファント」の状態となります。
    • 成長期: 逆に筋肉が硬くなる「痙性(けいせい)」や、末梢神経障害による筋萎縮が混在することがあります。
  • 発達遅滞: 座る、歩く、言葉を発するといった発達のマイルストーンが大幅に遅れます。

3. 末梢神経障害(CMT様症状)

  • PMP22重複の影響: 17p12領域が含まれる場合、シャルコー・マリー・トゥース病と同様の末梢神経障害が現れます。
  • 筋萎縮: 足の遠位部(ふくらはぎから下)の筋肉が痩せ、凹足(土踏まずが異常に高い)や内反足の原因となります。
  • 感覚・運動障害: 手足のしびれや、力が入りにくいといった症状が成長とともに進行することがあります。

4. 内部奇形およびその他の身体的異常

  • 先天性心疾患: 約30〜50%の症例で心房中隔欠損(ASD)や心室中隔欠損(VSD)などの心奇形が見られます。
  • 成長障害: 胎内発育不全を伴うことが多く、出生後も身長・体重の伸びが不良です。
  • 骨格異常: 脊柱側弯症や、胸郭の変形が認められることがあります。
  • 小頭症: 脳の容積が相対的に小さく、頭囲が標準を下回ります。

原因

17p領域の重複(不均衡転座または新生突然変異)

17pトリソミーが生じるメカニズムは、以下の2つのパターンが主です。

1. 親の均衡型転座からの継承(約70〜80%)

  • メカニズム: 親のどちらかが「均衡型転座」の保因者である場合です。例えば、17番染色体の一部と他の染色体の一部が入れ替わっています。親本人は遺伝子量に過不足がないため健康ですが、減数分裂の際に、17pを余分に含む染色体が受精卵に受け継がれると、17pトリソミーとなります。
  • 併発する欠失: この場合、別の染色体の末端が「欠失」していることが多く、症状がさらに重篤化する要因となります。

2. 新生突然変異(De novo)

  • メカニズム: 両親の染色体は正常ですが、受精の過程で偶然に17pの重複が生じるケースです。
  • 等腕染色体17p: 17番染色体が中心体で横に割れ、短腕のみを2つ持つ「等腕染色体」が形成されるタイプなどが含まれます。
  • 微小重複の進展: 稀に、既存の微小重複が組換えエラーにより拡大するケースも想定されます。

診断方法

臨床的な多発奇形や発達遅滞から本症候群を疑い、染色体・ゲノム検査で確定します。

  • 染色体核型分析(Gバンド法):
    顕微鏡で染色体の数と形を調べ、17番染色体の短腕が長い、あるいは余分な断片があることを確認します。
  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    確定診断のゴールドスタンダードです。17p領域のどの範囲が、どの程度のサイズ(微小重複の範囲)で重複しているかを精密に特定します。これにより、CMT1A(PMP22)やPTLS(RAI1)の領域が含まれているかを判断できます。
  • FISH法:
    17p特異的なプローブを用いて、コピー数が3つ存在することを視覚的に証明します。
  • 画像・機能診断:
    • 心エコー: 先天性心疾患の検索。
    • 神経伝導速度検査: 末梢神経障害(CMT様症状)の程度を評価します。
    • 頭部MRI: 脳の構造異常を確認します。

治療方法

根本的な「過剰な遺伝子を正常化する」治療法はありません。治療は、多系統の合併症を管理し、QOL(生活の質)を向上させるための**「包括的なチーム医療」**となります。

1. リハビリテーション(早期介入)

  • 理学療法(PT): 低緊張や末梢神経障害に伴う筋力低下に対し、運動機能の維持と変形防止(装具の使用など)を行います。
  • 作業療法(OT): 手先の機能維持や日常生活動作の支援。
  • 言語療法(ST): 摂食嚥下訓練およびコミュニケーション支援。

2. 内科的・外科的治療

  • 心臓手術: 重篤な心奇形がある場合、適切な時期に外科的治療を行います。
  • 整形外科的介入: 脊柱側弯症や足の変形(内反足)に対する装具療法や手術。
  • 神経内科的管理: 末梢神経障害の進行をモニタリングし、痛みの管理やリハビリテーションの調整を行います。

3. 教育・発達支援

  • 知的発達段階に合わせた特別支援教育。
  • 言葉以外のコミュニケーション手段(絵カード、視覚支援、デバイス)の導入。

予後

  • 生存期間: 心疾患などの重要臓器の合併症の重症度に依存します。適切な医療ケアが行われれば、成人期を迎えることが可能ですが、呼吸器感染症などへの注意が継続的に必要です。
  • 生活の質: 重度の知的障害を伴うため、生涯にわたる手厚い介護と社会的サポートが必要です。末梢神経障害が進行する場合、移動能力の維持が成人期の課題となります。

まとめ

Trisomy 17p syndrome(17pトリソミー症候群)は、17番染色体の一部が通常より1つ分多く存在することで起こる、非常に希少な染色体異常です。

丸みを帯びた顔立ちや、発達のゆっくりさ、そして手足の筋肉や神経の弱さが主な特徴として挙げられます。

この病気は、複数の大切な遺伝子(神経を維持するPMP22や、発達を促すRAI1など)が過剰に働いてしまうことで、全身にさまざまな影響を及ぼします。

多くの場合、親御さんの染色体の構造変化がきっかけとなりますが、それは誰のせいでもありません。

根本的な治療法はありませんが、早くからリハビリテーションを始め、整形外科や循環器科などの専門医と連携することで、お子様の持つ可能性を最大限に引き出し、健やかな生活を支えることができます。専門医や療育チームと共に、お子様の歩幅に合わせた成長を長く温かく支えていきましょう。

参考文献元

  • Jin, W., et al. (2007). Complete trisomy 17p der(17)t(17;17)(p11.2;p11.2) diagnosed by FISH and array CGH.
    • (FISHとマイクロアレイCGHを用いて17p完全トリソミーを同定した症例報告。)
  • Schinzel, A. (2001). Catalogue of Unbalanced Chromosome Aberrations in Man. Walter de Gruyter.
    • (17pトリソミーを含む不均衡染色体異常の臨床的特徴を網羅した世界的文献。)
  • Potocki, L., et al. (2007). Characterization of Potocki-Lupski syndrome (dup(17)(p11.2p11.2)) and delineation of a dosage-sensitive critical interval.
    • (17p11.2重複の影響を解明し、17pトリソミーの神経学的症状の理解に寄与した論文。)
  • GeneReviews® [Internet]: PMP22-Related Hereditary Neuropathy. (NCBI).
    • (17p12領域の重複(CMT1A)に関する診断と管理の標準的リファレンス。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 17p duplications: A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けのわかりやすいガイド資料。)
  • Orphanet: Trisomy 17p (ORPHA:96152).
    • (希少疾患の国際的なポータルサイトによる病態概要とリソース情報。)
  • Lupski, J. R. (1991). DNA duplication associated with Charcot-Marie-Tooth disease type 1A.
    • (17pの重複が末梢神経疾患を引き起こすメカニズムを解明した歴史的論文。)

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