Xp11.23 microdeletion syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • Xp11.23欠失症候群
  • HSD17B10関連精神遅滞
  • HUWE1関連知的障害(欠失型)
  • X連鎖知的障害(XLID)の特定のサブタイプ

対象染色体領域

X染色体 短腕(p)11.23領域の微小欠失

Xp11.23微小欠失症候群は、X染色体の短腕にある「11.23」という非常に限定された領域が、何らかの原因で失われる(微小欠失)ことで発症します。この領域には、脳の正常な発達やエネルギー代謝、細胞内のタンパク質分解を調節する極めて重要な遺伝子が密集しています。

【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】

欠失する範囲は症例により異なりますが、この領域に含まれる以下の遺伝子が、臨床症状の核心を担っていると考えられています。

  • HSD17B10遺伝子:
    • 役割:ミトコンドリア内での脂肪酸代謝やイソロイシンの分解、さらにRNAのプロセシングに関与する酵素をコードしています。
    • 影響:この遺伝子の機能不全は、脳内のエネルギー供給や代謝バランスを崩し、進行性の神経変性重度の知的障害運動機能の低下を招く主因となります。
  • HUWE1遺伝子:
    • 役割:ユビキチン・リガーゼをコードし、不要なタンパク質の分解をマークすることで、神経幹細胞の増殖やシナプスの可塑性を制御します。
    • 影響:脳の神経ネットワーク形成に不可欠であり、欠失(機能喪失)により知的障害自閉スペクトラム症(ASD)的特性小頭症が引き起こされます。
  • PHF8遺伝子:
    • 役割:ヒストン脱メチル化酵素であり、遺伝子の発現を調節するエピジェネティックな制御因子です。
    • 影響:欠失により、学習障害顔貌の軽微な異常口唇裂・口蓋裂に関連することが報告されています。

発生頻度

極めて稀(不明)

  • 正確な頻度: 全世界でも報告例が非常に限られている希少疾患です。正確な出生頻度は算出されていませんが、数十万人に1人、あるいはそれ以下の頻度と推測されます。
  • 診断の現状: 従来の染色体検査(Gバンド法)では検出できないほど小さな微小欠失であるため、マイクロアレイ染色体検査(CMA)が普及するまでは、原因不明の知的障害として扱われてきました。
  • 性差による影響: X染色体に関連する疾患であるため、男性(XY)では欠失の影響を補うためのもう1本のX染色体がないため、女性よりも症状が重篤化する傾向があります。一方で、女性(XX)でも「X染色体の不活性化(ライオニゼーション)」の偏りにより、重い症状を呈するケースが確認されています。

臨床的特徴(症状)

Xp11.23微小欠失症候群は、神経発達の遅滞を主軸とし、多様な身体的特徴を伴います。

1. 神経発達と知的機能

  • 知的障害(ID): ほぼすべての症例で認められます。男性では重度から最重度になることが多く、女性では軽度から中等度まで幅があります。
  • 言語発達の著しい遅れ: 言葉の発話(表出言語)が非常にゆっくりであるか、あるいは非言語的なコミュニケーションに留まる場合があります。
  • 運動発達遅滞: 首すわり、お座り、歩行などのマイルストーンが大幅に遅れます。一部の症例では、筋肉の緊張が低下(低緊張)するフロッピーインファントの状態で生まれることもあります。

2. 行動特性と精神医学的症状

  • 自閉スペクトラム症(ASD)的特性: 視線を合わせにくい、コミュニケーションの困難、特定のルーチンへの強いこだわりが見られます。
  • 注意欠如・多動症(ADHD): 多動性や衝動性、注意の持続の困難さが見られ、教育現場での支援を必要とします。
  • 感覚過敏: 特定の音や感触に対して過敏な反応を示すことがあります。

3. 身体的・顔貌的特徴

劇的な奇形は少ないものの、共通して見られる特徴が報告されています。

  • 小頭症(Microcephaly): 脳の容積が小さく、頭囲が標準を下回ります。
  • 顔貌的特徴:
    • 高い額(前頭部の突出)
    • 眼間開離(両目の間隔が広い)
    • 鼻根部の平坦化
    • 短い鼻、あるいは上向きの鼻孔
    • 耳の位置が低い(低位付着耳)
  • 成長不全: 出生時から小柄(胎内発育不全)であったり、出生後の身長・体重の伸びが緩やかであったりします。

4. その他の合併症

  • てんかん: 幼児期から学童期にかけてけいれん発作を発症することがあります。
  • 摂食嚥下障害: 食べ物の飲み込みが上手くいかず、誤嚥や低栄養のリスクが生じることがあります。
  • 眼科的異常: 斜視、屈折異常、または視神経の軽度な異常。

原因

Xp11.23領域の微小欠失(X連鎖遺伝形式)

本症候群は、X染色体上の重要な遺伝子群が失われること(遺伝子量効果の低下)によって引き起こされます。

  1. 新生突然変異(De novo deletion):
    多くの場合、両親の染色体構成は正常であり、受精の過程や初期胚の分裂時に偶然、微小欠失が生じます。
  2. 母親からの継承:
    症状が軽微、あるいは全く無症状の母親(X染色体の不活性化により、正常な方のX染色体が優先的に働いている場合)から息子へ、欠失したX染色体が受け継がれるケースです。
  3. ミトコンドリア代謝の機能不全:
    HSD17B10遺伝子が欠損することで、細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアの働きが阻害され、特にエネルギー消費の激しい脳細胞において変性や発達の停止が起こります。

診断方法

外見からは他の知的障害を伴う症候群との区別が難しいため、確定診断にはゲノム解析が不可欠です。

  1. マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    確定診断のゴールドスタンダードです。11.23領域の微小な欠失を確実に検出し、どの遺伝子が失われているかを特定します。
  2. 次世代シーケンサー(NGS)による解析:
    全エクソーム解析(WES)などを用いて、欠失部位の境界や、隣接する遺伝子への影響を詳細に調べます。
  3. FISH法:
    特定のプローブを用いて、11.23領域が1本分欠損していることを視覚的に確認します。
  4. 代謝スクリーニング:
    HSD17B10遺伝子の影響を確認するため、尿有機酸分析などで代謝産物の異常をチェックすることがあります。

治療方法

現代の医学において、失われた遺伝子を補充・修復する根本的な治療法はありません。治療は、個々の症状に寄り添い、生活の質を高めるための**「包括的な対症療法」**が中心となります。

1. 発達支援・療育(早期介入)

  • 言語療法(ST): 早期からコミュニケーション能力の向上を図ります。必要に応じて絵カードや支援デバイス(AAC)を導入します。
  • 作業療法(OT): 日常生活動作の訓練や、手先の器用さを養います。感覚過敏がある場合は、感覚統合療法が行われます。
  • 理学療法(PT): 運動発達を促し、筋肉の緊張異常(低緊張)をカバーするための筋力維持を行います。

2. 医学的管理

  • てんかんの管理: 脳波検査に基づき、適切な抗てんかん薬を選択して発作をコントロールします。
  • 栄養サポート: 嚥下障害や成長不全がある場合、栄養士と連携した食事形態の工夫や、高カロリー食の提供。
  • 定期的な眼科・耳鼻科受診: 感覚器の異常を早期に発見し、適切に矯正・治療します。

3. 教育・心理的サポート

  • 知的発達段階に合わせた特別支援教育。
  • 自閉的特性や行動課題(パニックなど)に対し、応用行動分析(ABA)などの心理的介入。
  • 家族に対する遺伝カウンセリングと、レスパイトケア(一時預かり支援)による負担軽減。

予後

  • 生存期間: 重篤な内臓奇形は比較的少ないため、多くの場合で成人期を迎えることが可能です。ただし、HSD17B10遺伝子の影響が強い症例では、稀に神経症状が進行性を示すことがあるため、慎重なモニタリングが必要です。
  • 自立度: 欠失の範囲や早期介入の有無に左右されますが、生涯にわたり一定の社会的サポートと介護が必要となることが一般的です。
  • 社会参加: 適切な支援環境下において、福祉就労やデイサービスを通じた社会参加が行われています。

まとめ

Xp11.23 microdeletion syndrome(Xp11.23微小欠失症候群)は、女性の性染色体であるX染色体の一部が、ほんの少しだけ足りない(微小欠失)ことで起こる、非常に希少な病気です。

主な特徴として、言葉の育ちがゆっくりであること、知的発達の遅れ、そして頭囲が少し小さいといった点が挙げられます。これは、脳の成長や細胞のエネルギー代謝に欠かせない「設計図(遺伝子)」が一部失われてしまっているために起こります。

外見だけでは判断が難しいため、マイクロアレイ検査などで原因がわかることで、お子様が抱える困難の「正体」を正しく理解し、適切な療育や教育支援に繋げることができます。

根本的な治療法はありませんが、早期からリハビリやコミュニケーションの工夫を始めることで、お子様の持つ可能性を最大限に引き出すことができます。専門医や療育チームと共に、お子様が安心して自分らしく過ごせる環境を、長い目で育んでいきましょう。

参考文献元

  • VanderMeer, J. E., et al. (2012). HSD17B10 deficiency: An enzyme deficiency resulting in a progressive neurodegenerative phenotype.
    • (HSD17B10遺伝子欠乏が神経変性と知的障害に与える影響を詳述した論文。)
  • Moortgat, S., et al. (2018). HUWE1-associated intellectual disability: a series of individuals with a broad phenotypic spectrum.
    • (HUWE1遺伝子の異常が知的障害を引き起こすメカニズムと症例報告の集積。)
  • Fauchereau, F., et al. (2011). Molecular and clinical characterization of Xp11.23 microdeletions.
    • (Xp11.23領域の微小欠失における分子遺伝学的・臨床的特徴を定義した重要文献。)
  • GeneReviews® [Internet]: Xp11.23 Microdeletion Syndrome. (NCBI).
    • (診断基準、管理指針、遺伝カウンセリングに関する世界的標準データベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Xp11.23 microdeletions: A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、家族向けの実践的かつ温かいガイド資料。)
  • Deciphering Developmental Disorders (DDD) Study: Clinical report on Xp11.23 deletions.
    • (大規模ゲノム解析プロジェクトによる、最新の臨床統計データ。)

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