Xq21 microdeletion syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • Xq21隣接遺伝子欠失症候群(Xq21 Contiguous Gene Deletion Syndrome)
  • 無脈絡膜症・耳硬化症・知的障害症候群
  • Xq21.1-q21.31微小欠失症候群
  • CHM/POU3F4欠失症候群

対象染色体領域

X染色体 長腕(q)21領域の微小欠失

Xq21微小欠失症候群は、X染色体の長腕中央付近に位置する「21」領域において、数メガベース(Mb)にわたるゲノム配列が失われる(微小欠失)ことで発症します。この領域には、網膜の機能、内耳の形成、および脳の発達に不可欠な遺伝子が隣接して配置されています。

【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】

欠失の範囲には個人差がありますが、主に以下の遺伝子が失われることが臨床症状の核心となります。

  • CHM遺伝子 (Choroideremia):
    • 役割:細胞内の物質輸送を調節するRabエスコートタンパク質-1(REP-1)をコードします。
    • 影響:欠失により無脈絡膜症(進行性の視力喪失)を引き起こします。
  • POU3F4遺伝子:
    • 役割:内耳の発生を制御する転写因子をコードします。
    • 影響:**X連鎖性混合性難聴(DFNX2)**を引き起こします。これは内耳道と内耳の間の異常な交通(gusher phenomenon)を特徴とします。
  • RSM1 / ZNF711遺伝子群:
    • 役割:脳の発達および神経機能に関与します。
    • 影響:これらの領域を含む大きな欠失がある場合、知的障害発達遅滞が顕著になります。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

  • 正確な頻度: 正確な統計はありませんが、全世界でも報告例は非常に限られた希少疾患です。
  • 無脈絡膜症との関連: 単独の無脈絡膜症(CHM遺伝子のみの変異)は5万人に1人程度ですが、周囲の遺伝子まで巻き込む「Xq21微小欠失症候群」はその中でも数パーセント以下と推測されます。
  • 性差の影響: X連鎖(X-linked)の遺伝形式をとります。
    • 男性(XY): 1本しかないX染色体のXq21領域が欠失するため、重篤な多系統疾患が現れます。
    • 女性(XX): 通常は無症状の保因者となりますが、X染色体の不活性化の偏りにより、軽度の網膜変性や聴覚低下を呈することがあります。

臨床的特徴(症状)

Xq21微小欠失症候群は、視覚、聴覚、知能の3つの主要な領域において特徴的な症状を呈します。これらは「隣接遺伝子欠失」の範囲によって組み合わせが異なります。

1. 視覚障害(無脈絡膜症:CHM)

網膜と、その下にある脈絡膜(血管に富む層)が徐々に萎縮していく進行性の眼疾患です。

  • 夜盲(やもう): 幼児期から学童期にかけて、暗い場所で見えにくいという症状から始まります。
  • 視野狭窄: 周辺部から視野が欠けていき、最終的に「トンネル視(中心部しか見えない)」になります。
  • 視力喪失: 40代〜50代にかけて、中心視力も失われ、失明に至ることが多いです。

2. 聴覚障害(X連鎖性混合性難聴)

POU3F4遺伝子の欠失による、非常に特徴的な難聴です。

  • 混合性難聴: 音を伝える「伝音系」と、音を感じる「感音系」の両方に問題が生じる難聴です。
  • 内耳道(IAC)の拡大: 画像検査(CT/MRI)で、内耳道と内耳の間に異常な交通(あな)が見られます。これにより、耳の手術の際に髄液が噴き出す「スターペス・ガッシャー(アブミ骨噴出)」という現象が起こりやすく、注意が必要です。

3. 神経発達と知能

  • 知的障害: 欠失範囲が広い場合、軽度から中等度の知的障害を伴います。
  • 発達遅滞: 言葉の獲得や運動機能の発達に遅れが見られます。
  • 小頭症: 脳の容積がわずかに小さく、頭囲が標準を下回ることがあります。

4. 身体的・顔貌的特徴

劇的な奇形は少ないものの、微細な特徴が報告されています。

  • 顔貌: 広い額、平坦な鼻根部、耳の位置がわずかに低い(低位付着耳)などの非特異的な特徴。
  • 成長の遅れ: 骨年齢の遅れや、小柄な体格を呈することがあります。

原因

Xq21領域の微小欠失(隣接遺伝子欠失症候群)

本症候群は、染色体上のDNA配列が物理的に失われることによって発症します。

  1. 新生突然変異(De novo deletion):
    両親の染色体は正常であり、精子や卵子の形成過程で偶然に微小欠失が生じるケース。
  2. 母親からの継承:
    無症状の母親(保因者)から、欠失したX染色体が息子へ受け継がれるケース。この場合、母方の叔父などに視覚・聴覚障害者がいることがあります。
  3. 不均衡転座:
    親が持っている染色体の転座(入れ替わり)が不均衡に受け継がれることで、Xq21領域が欠失するケース。

診断方法

視覚、聴覚、発達の3つの観点からの評価と、確定のためのゲノム解析が必要です。

  1. マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    確定診断のゴールドスタンダードです。Xq21領域のどの範囲が、どの遺伝子(CHM, POU3F4等)を巻き込んで欠失しているかを精密に特定します。
  2. 眼科的検査:
    眼底検査、自発蛍光検査、および網膜電図(ERG)により、網膜の変性状態を詳しく調べます。
  3. 聴力検査およびCT/MRI:
    難聴の程度を確認し、側頭骨CTで内耳道の拡大を確認します。これは手術の安全性を判断する上で極めて重要です。
  4. FISH法:
    特定のプローブを用いて、Xq21領域が欠損していることを視覚的に確認します。

治療方法

根本的に「欠失した遺伝子を戻す」治療法は現在研究段階にあります。治療は、QOL(生活の質)を維持するための**「多職種連携による対症療法」**となります。

1. 視覚支援

  • 低視力ケア(ロービジョンケア): 拡大鏡や遮光眼鏡の活用、点字の習得、視覚支援デバイスの導入。
  • 遺伝子治療の研究: 現在、単独の無脈絡膜症に対してはウイルスベクターを用いた遺伝子治療の治験が進んでおり、将来的には本症候群の患者にも応用される可能性があります。

2. 聴覚支援

  • 補聴器の活用: 伝音難聴成分があるため、適切なフィッティングによる補聴器が有効な場合があります。
  • 人工内耳の検討: 重度の難聴に対して検討されますが、内耳の構造異常があるため、手術には専門的な技術と準備が必要です(スターペス・ガッシャーへの対策)。

3. 発達支援・教育

  • 早期介入: 視覚障害と難聴を併せ持つ(盲ろう状態に近い)場合、特殊なコミュニケーション支援(触手話、サイン、触覚支援)を早期から導入します。
  • 特別支援教育: 知的レベルおよび感覚障害に合わせた個別の支援計画に基づき教育を行います。

予後

  • 生存期間: 一般の方と変わりません。重篤な内臓奇形を伴うことは稀です。
  • 生活の質: 視覚と聴覚の両方が進行性に低下する可能性があるため、早期からの環境調整と、将来を見据えたコミュニケーション手段の確保がQOLを左右します。
  • 自立度: 感覚障害と知的障害の程度によりますが、成人後は手厚い社会的サポートが必要になることが多いです。

まとめ

Xq21 microdeletion syndrome(Xq21微小欠失症候群)は、X染色体の一部にある「目(視覚)」「耳(聴覚)」「脳(知能)」の発達に関わる大切な設計図(遺伝子)が、まとめて失われてしまう(微小欠失)病気です。

「夜になると見えにくい」「音が聞こえにくい」「言葉の発達がゆっくり」といった、異なる感覚や機能の悩みが一度に現れます。

この病気は、特に内耳の形が特徴的なため、耳の手術を受ける際には特別な注意が必要になります。

根本的な治療法はまだありませんが、早期から目と耳のサポートを組み合わせ、お子様に合ったコミュニケーション方法(絵カードや触覚支援など)を見つけることで、豊かな生活を送るための基盤を作ることができます。眼科、耳鼻科、療育の専門家がチームとなり、お子様の歩幅に合わせた成長を、長く温かく支えていきましょう。

参考文献元

  • Merry, D. E., et al. (1992). Choroideremia and mixed deafness with stapes fixation associated with a submicroscopic deletion at Xq21. Nature Genetics.
    • (Xq21の欠失が無脈絡膜症と難聴を同時に引き起こすことを初めて明らかにした重要論文。)
  • Bach, I., et al. (1992). Microdeletions in patients with X-linked choroideremia, deafness, and mental retardation.
    • (Xq21領域の欠失範囲と症状の相関を分析した初期の研究。)
  • de Kok, Y. J., et al. (1995). Association between a POU domain gene and X-linked deafness (DFN3). Science.
    • (POU3F4遺伝子がX連鎖性難聴の原因であることを特定した文献。)
  • GeneReviews® [Internet]: Choroideremia. (NCBI).
    • (無脈絡膜症の診断と管理に関する世界的標準データベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Xq21 microdeletions: A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、家族向けの実践的かつ温かいガイド資料。)
  • Van Esch, H. (2012). The molecular genetics of X-linked intellectual disability.
    • (X連鎖知的障害におけるXq21の位置づけを論じたレビュー。)

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