別名・関連疾患名
- YUHAL症候群
- 17p12-p11.2重複症候群
- CMT1A / PTLS 隣接遺伝子重複症候群
- Potocki-Lupski syndrome with Charcot-Marie-Tooth disease type 1A
YUHALは、以下の2つの既知の疾患領域を同時に重複することで発症する複合的な症候群です。
- Charcot-Marie-Tooth disease type 1A (CMT1A): 末梢神経障害を主徴とする疾患。
- Potocki-Lupski syndrome (PTLS): 知的障害や自閉的傾向、多系統の先天異常を主徴とする疾患。
対象染色体領域
17番染色体 短腕(p)12領域から11.2領域にかけての微小重複
YUHAL症候群は、17番染色体の短腕にある「p12」から「p11.2」という、比較的近接した、あるいは連続した2つの領域が同時に重複(微小重複)することによって引き起こされます。
【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】
この領域には、神経発達および末梢神経の維持に不可欠な2つの「鍵」となる遺伝子が含まれています。
- PMP22遺伝子 (17p12領域):
- 役割: 末梢神経の髄鞘(ミエリン鞘)の構成成分である「末梢神経ミエリンタンパク質22」をコードします。
- 重複の影響: この遺伝子が1つ過剰になる(通常2つのところ3つになる)ことで、CMT1A(シャルコー・マリー・トゥース病1A型)を発症し、末梢神経伝達の遅延と筋肉の萎縮を招きます。
- RAI1遺伝子 (17p11.2領域):
- 役割: 転写因子として働き、脳の発達や概日リズム、社会行動に関わる多くの遺伝子の発現を調節します。
- 重複の影響: この遺伝子が過剰になることで、PTLS(ポツォッキ・ルプスキ症候群)を発症し、知的障害や発達遅滞、自閉スペクトラム症(ASD)的特性の原因となります。
YUHAL症候群の患者は、これら2つの領域(17p12および17p11.2)が、単一の大きな重複、あるいは独立した2つの重複として存在することで、双方の症状が重複して現れます。
発生頻度
極めて稀(正確な頻度は不明)
- 希少性: 2015年に初めて命名された比較的新しい疾患概念であり、全世界でも報告例は限られています。
- 背景: 単独のCMT1A(2,500人に1人)やPTLS(20,000人に1人)は比較的知られていますが、両方の領域を同時に重複するYUHALは、ゲノムの特殊な構造的再編が必要なため、極めて稀な現象です。
- 性差: 男女問わず発症しますが、新生突然変異(De novo)による発症が多いとされています。
臨床的特徴(症状)
YUHAL症候群の最大の特徴は、「末梢神経の障害」と「中枢神経・発達の障害」が混在することです。
1. 神経発達と知能(PTLS的側面)
- 知的障害・発達遅滞: ほぼすべての症例で認められます。特に言語発達の遅れが顕著です。
- 自閉スペクトラム症 (ASD): 社会的なコミュニケーションの困難さ、こだわり、感覚過敏などが見られます。
- 低緊張: 乳児期には「体が柔らかすぎる(フロッピーインファント)」状態が見られ、運動発達を遅らせる要因となります。
- 行動課題: 注意欠如・多動症(ADHD)や睡眠障害(概日リズムの乱れ)を伴うことがあります。
2. 末梢神経障害(CMT1A的側面)
- 遠位筋の萎縮と筋力低下: 学童期以降に、足先や手先の筋肉が徐々に痩せていく症状が現れます。
- 感覚障害: 手足のしびれや、痛み・温度に対する感覚の低下。
- 足の変形: 凹足(ハイアーチ)や内反足が見られ、歩行時のつまずきや不安定さの原因となります。
- 腱反射の消失: 膝蓋腱反射などの深部腱反射が消失または減弱します。
3. 特徴的な顔貌
劇的な奇形ではありませんが、共通した微細な特徴が報告されています。
- 広いおでこ(高前頭)
- 眼間開離: 両目の間隔がわずかに広い。
- 中顔面の平坦化: 顔の中央部がやや控えめな印象。
- 小さな顎(小顎症)
4. その他の身体的特徴
- 成長障害: 出生時より小柄である、あるいは成長のスピードが緩やかであることが多いです。
- 摂食嚥下障害: 筋肉の低緊張や調節不全により、食べ物の飲み込みが上手くいかないことがあります。
- 脊柱側弯症: 体幹の筋力不均衡により背骨が曲がることがあります。
原因
17p12-p11.2領域の隣接遺伝子重複(CNV:コピー数多型)
YUHAL症候群は、ゲノムの「構造異常」によって引き起こされます。
- 非対立遺伝子間相同組換え(NAHR):
17番染色体の短腕には、特定のDNA配列が繰り返されている箇所が多く、細胞分裂(減数分裂)の際に誤って隣り合う領域を一緒に取り込んでしまう「組み換えミス」が起きやすい構造になっています。 - 新生突然変異(De novo):
多くの場合、両親の染色体構成は正常であり、精子や卵子の形成過程で偶然に微小重複が生じます。 - 複雑なゲノム再編:
YUHALは単なる2つの疾患の合併ではなく、17p12からp11.2にわたる大きな連続した重複である場合が多く、これを「隣接遺伝子重複症候群」と呼びます。
診断方法
臨床症状(発達遅滞+手足の筋萎縮)から疑い、最新のゲノム解析技術によって確定します。
- マイクロアレイ染色体検査 (CMA):
確定診断の第一選択です。17p11.2と17p12の両方の領域が重複していることを、微小なレベルで正確に特定します。 - 神経伝導速度検査 (NCV):
末梢神経を電気で刺激し、伝わる速さを測定します。CMT1Aの要素がある場合、伝導速度が著しく低下(脱髄型)しているのが確認されます。 - FISH法:
特定のプローブ(PMP22やRAI1)を用いて、染色体上でシグナルが増えている(重複している)ことを視覚的に確認します。 - 臨床評価:
- 頭部MRI: 脳の構造を確認します。
- 発達検査: 知能指数(IQ)や社会性の発達段階を評価します。
治療方法
根本的に「重複した遺伝子を正常に戻す」治療法は存在しません。治療は、QOL(生活の質)の維持と能力の最大化を目指す**「多職種連携による包括的ケア」**が中心となります。
1. 発達・療育的支援
- 早期療育: 言語療法(ST)によるコミュニケーション支援、作業療法(OT)による微細運動の訓練、理学療法(PT)による粗大運動の支援を早期から開始します。
- 特別支援教育: 知的レベルやASD特性に合わせた、個別の学習支援環境を整えます。
2. 整形外科およびリハビリテーション
- 装具療法: 足の変形(凹足)に対して、歩行を安定させるための短下肢装具などを作成します。
- 筋力維持: 過度な負荷を避けつつ、適度な運動による筋力維持と関節拘縮の予防。
- 外科的手術: 足の変形や脊柱側弯症が進行した場合、矯正手術を検討することがあります。
3. 内科的・行動的サポート
- 睡眠管理: 睡眠リズムが乱れる場合、メラトニン受容体作動薬などの使用が検討されます。
- 栄養サポート: 嚥下障害がある場合、食事形態の工夫や栄養士による指導。
4. 注意すべき薬剤(CMT1Aに関連して)
- 末梢神経障害を悪化させる可能性のある薬剤: ヴィンクリスチン(抗がん剤)など、一部の薬剤はCMT1Aの症状を急激に悪化させることが知られているため、他疾患の治療の際には必ずYUHALであることを医師に伝える必要があります。
予後
- 生存期間: 一般の方と大きく変わらないと考えられています。生命を脅かすような重篤な内臓奇形は比較的少ないためです。
- 自立度: 中枢神経症状(知的障害)と末梢神経症状(歩行困難)の程度に左右されます。生涯を通じて一定の社会的サポートが必要となることが多いですが、適切な支援下で安定した生活を送ることは十分に可能です。
- 進行性: 末梢神経障害(CMT1A成分)は、成長とともに緩やかに進行する性質があるため、成人期以降も定期的なフォローアップが重要です。
まとめ
Yuan-Harel-Lupski syndrome(YUHAL/ユアン-ハレル-ルプスキ症候群)は、17番染色体の一部にある「脳の発達に関わる設計図」と「手足の神経を守る設計図」が、同時に2つずつではなく3つ存在してしまう(微小重複)ことで起こる病気です。
そのため、「言葉や知能の発達がゆっくりである」という特徴と、「手足の筋肉が痩せやすく、歩きにくさがある」という、2つの異なる性質の症状が重なり合って現れます。
診断には、マイクロアレイ検査などの精密な遺伝子検査が不可欠です。
根本的な治療法はまだありませんが、早期からリハビリテーションや療育、そして足の変形を防ぐ装具の活用などを組み合わせることで、お子様が持っている力を最大限に引き出し、健やかな毎日を送ることができます。神経内科、整形外科、療育センターなどの専門家がチームとなり、お子様の歩幅に合わせた成長を、長く温かく支えていきましょう。
参考文献元
- Yuan, B., Harel, T., Lupski, J. R., et al. (2015). Clinical Exome Sequencing Reveals Locus Heterogeneity and Physician Underdiagnosis of Pathogenic CNV Kits. Genetics in Medicine.
- (本症候群を初めて定義し、命名した記念碑的論文。)
- Lupski, J. R. (2015). Structural variation emerging from mechanisms of complex genomic rearrangements. Mutation Research.
- (YUHALの背景にある複雑なゲノム再編のメカニズムを解説。)
- Potocki, L., et al. (2007). Characterization of Potocki-Lupski syndrome (dup(17)(p11.2p11.2)) and delineation of a dosage-sensitive critical interval that can convey an autism phenotype.
- (YUHALの構成要素の一つであるPTLSの臨床像に関する基礎文献。)
- GeneReviews® [Internet]: PMP22-Related Hereditary Neuropathy. (NCBI).
- (CMT1A成分の診断と管理に関する世界的標準データベース。)
- Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 17p11.2p12 microduplications (YUHAL).
- (希少染色体異常支援団体による、家族向けの実践的かつ温かいガイド資料。)
- Harel, T., et al. (2016). CNV-mediated joint contiguous gene syndromes. Current Opinion in Genetics & Development.
- (隣接遺伝子症候群としてのYUHALの病態生理を論じたレビュー。)
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